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なぜ国民党の朱立倫党首が総統選に立候補しなかったのか? 国民党は最初から「藍白合作」を狙っていた
国民党から台湾総統選に出馬した侯友宜氏(写真:ロイター/アフロ
国民党から台湾総統選に出馬した侯友宜氏(写真:ロイター/アフロ

本来なら政党の党首が総統選に立候補するはずだ。しかし朱立倫党首が立候補せず、新北市市長ではあるものの国民党の一党員で党幹部ではない侯友宜氏が立候補したのはなぜなのか?その疑問を解くと、国民党が最初から「藍白合作」を狙っていたことが浮かび上がってくる。

◆朱立倫党首は「外省人」

まず最大の理由は、朱立倫氏が「外省人」だということだ。

外省人とは1949年、国共内戦で敗北し台湾に移ってきた蒋介石率いる国民党やその家族およびその子孫たちのことである。1945年8月の日本敗戦により、台湾が「中華民国」に返還された後に、「中華民国」の大陸から台湾に入って来た人々も含める。もともと台湾に住んでいた人々およびその子孫を「本省人」と呼んで区別している。

国民党は李登輝が現れるまでは、1949年に国会議員(立法院委員)だった人たちが、選挙を経ることもなく議員でい続けるという「万年国会」を存続させてきた。もちろん、全て「外省人」だ。

しかし蒋介石の息子・蒋経国総統が1987年に戒厳令を解除し、李登輝が蔣経国の遺言を受け継いで総統に就任した1988年から静かに民主化が始まり「万年国会」に終止符が打たれた。1996年に李登輝が初の総統直接選挙に当選して、最終的には国民党から脱退すると(2000年)、国民党内は、外省人か本省人かで大紛争が起きるようになった。

それは馬英九(外省人)が総統に当選した2008年から少し落ち着きを見せたものの、2016年に民進党の蔡英文総統(本省人)の登場によって再び怪しくなってきた。

◆侯友宜は「本省人」で「緑(民進党)」と「藍(国民党)」の両色を持つ

そこで、今般の総統選候補者指名において、朱立倫にするか新北市の侯友宜市長にするかに関して国民党内で激しい論議が展開された。

侯友宜は1957 年に台湾の嘉義で生まれた「本省人」だ。

父親は台湾で生まれ育ち、日本統治時代に中学校を卒業した後、飛行機修理のために日本に徴兵され、日本軍の技術兵士として日本で働いていた。日本敗戦後にGHQの勧告により李登輝らとともに台湾に帰国。同じ頃、外省人が台湾入りして、蒋介石率いる「中華民国」の国民党軍が徴兵制を開始したため、国民党軍の海軍に徴兵され、中国大陸の東北海軍青島陸軍士官学校に訓練兵として送られた。国共内戦後に台湾に戻ったので、純粋な「本省人」に当たる。むしろ、戦前の日本に所縁(ゆかり)のある人物だ。

侯友宜は長じて刑事法を学び博士の学位を取得して行政院内政部警政署署長(日本語で言うなら警察庁長官に相当)に就任したり、中央警察大学校長など警察官僚の要職を経て、朱立倫が新北市の市長を務めていた時に副市長に任命された。「藍」色で政界に少しだけ足を踏み入れた。

しかし2006年に侯友宜を警察庁長官に抜擢したのは民進党の陳水扁総統だった。侯友宜は先ず「緑」色に染まっていたのだ。2008年の馬英九政権のときに警察大学校校長に任命されているので、この辺からは「藍」色になり始め、2018年末に朱立倫の二選任期満了に伴い後継候補として市長選挙に出馬し、当選した。

ここで完全に「藍」陣営の政治家になった。

◆総統選立候補者は、なぜ党首ではなく侯友宜になったのか?

今では国民党内には「外省藍」と「本省(本土)藍」の二種類があり、選挙民にどちらが受けるかということが問題になる。当然、「外省」が嫌われる。

もっとも、2022年11月における台湾統一地方選挙では民進党が惨敗している。国民党の圧勝だった。本来ならその勢いで2024年総統選の立候補者指名に出ればよかったのに、国民党の指名は遅々として進まず、民進党が早々に頼清徳・民進党主席(党首)を指名して総統選が民進党に有利に動いていった。

その原因の一つは「外省藍」と「本省藍」の間の調整にあり、かつ侯友宜が新北市の市長に再選されたばかりなので、それを捨てて総統選に出るようなことはしたくないと逡巡(しゅんじゅん)していたからだ。

なぜ素直に国民党の党首で朱立倫にしなかったかと言うと、実は統一地方選挙で圧勝したことが逆に足かせとなったようだ。

なぜ民進党が惨敗したのか、台湾の大学の教授になっている昔の教え子に電話してみた。すると「若者が民進党を見限ったのですよ」という、思いもかけない回答が戻ってきた。蔡英文に期待し、民進党を押し上げてきたのは若者だったが、その蔡英文政権は二期目に入ると汚職がはびこり、若者の声を聴かなくなったので、若者が見限ったというのである。

ならば国民党に期待しているのかと言うと、必ずしもそうではない。第三政党が活躍してくれるのを期待して、民進党に投票するという、投票行動自体を放棄したのだという。その電話は昨年末のことだった。

今年の3月に入って、民進党の頼清徳が早々に2024年総統選に立候補すると名乗りを上げたが、その少し前に国民党関係の仕事をしている昔の教え子に電話して聞いてみた。

すると案の定、「藍白合作を模索している」と言うではないか(白:最近誕生した第三政党である台湾民衆党のシンボルカラー)。

朱立倫では選挙民に嫌われる。なぜなら彼は「外省藍」だからだ。

そこで、少し「緑」色がかった要素もある「本省藍」の侯友宜なら、「藍白合作」が不可能ではないということになる。

その後、さらに何度も教え子に連絡したのだが、「朱立倫は2016年の総統選に立候補していたが、大差で民進党の蔡英文氏に敗けた過去がある。そうでなくとも出遅れている国民党で朱立倫が立候補したら、又もや惨敗するだろうという意見が多く、逡巡する新北市の市長である侯友宜に立候補してもらうことになった」と教えてくれた。

◆「藍白合作」は2020年からあった

実は「藍白合作」という戦略は2020年からあり、柯文哲氏が創立させた台湾民衆党が「野党大連盟」を結成しようではないかという形で言い出したものだ。民衆党の提案である「野党大連盟」を国民党は肯定的に受け止め、少数野党の時代力量は「国民党とは党是が異なる」と言って拒否したので、「藍白合作」となった。

台湾民衆党は2019年8月に結成されたばかりなので、どこかの野党と連携しないと、おぼつかないと思ったのかもしれない。その後、民衆党の柯文哲党首の人気が若者の間で上昇してきたことから、今度は国民党の方が「藍白合作」を柯文哲に求めるようになったと考えるのが妥当だろう。

朱立倫は、24日の締め切り日の最後の1秒まで、いや半秒(0.5秒)まで、まだ可能性はあると悲痛な声を上げている。

野党連携をしなければ、確実に与党民進党の頼清徳氏が総統に当選する。

連携しなければ野党候補は誰も当選しないのだ。

すなわち「自分が総統になるんだ」という主張をすれば、必ず落選する。

それが分かっていながら、まだ討議している「藍」と「白」。

あと一日。

明日には結果が出る。

それにより、台湾有事が起きる可能性が高くなるか低くなるかという未来をも同時に引き連れてくるので、日本人にとっても他人(ひと)ごとではない。

明日が待たれる。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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