10月30日に米「タイム」誌がゼレンスキー大統領とその周辺の関係者を追跡取材して「私のように我々の勝利を信じている者は誰もいない。一人もだ」という表紙の見出しでゼレンスキーの孤独と政権関係者のゼレンスキーへの不信を暴いた。
それに関して中国メディアは大いに燃え上がったが、中でも中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」の電子版が大きく取り上げているので、中国ネットにおける声も拾ってご紹介する。
◆環球網がゼレンスキーの「西側に裏切られた」という不満を報道
10月31日の環球時報の電子版「環球網」は<米メディア:ウクライナ大統領の側近が、ゼレンスキーが西側同盟国に裏切られたと感じていることを明らかにした>
という見出しで、米「タイム」誌の衝撃的な単独取材を報道している。
環球網がどの点に焦点を当てたかを見ることによって、この件に対する中国の視点が見えてくるので、環球網に書いてある内容のいくつかをピックアップしてみたい。
●今年9月にゼレンスキーが訪米したが、それまでと違って、ワシントンはゼレンスキーを歓迎していなかった。ゼレンスキーの側近は訪米を取りやめた方が良いと忠告したが、彼は何としてもアメリカの支援をつなぎ留めておきたかったので、側近のアドバイスを聞かなかった。
●しかし結果は惨憺たるもので、訪米後の「タイム」誌のインタビューで、「私ほど我々が勝利すると信じている者は誰もいない」と述べた。
●6月で65%のアメリカ人がウクライナへの武器供与の拡大を望んでいたが、現在では41%しか望んでおらず、ウクライナ支援に対する急降下が歴然としている。「勝利は目の前に迫っている」とゼレンスキーは焦って宣伝しているが、そうではないことを世界は知るようになった。特にイスラエルとパレスチナの紛争が勃発すると、世界の注目はウクライナから中東に移っていった。
●加えて、ウクライナ政権の内部腐敗には目に余るものがあり、支援をする西側の熱意を薄め、兵士の戦意を削(そ)いでいる。
●ここのところウクライナ軍が戦場で挫折を経験しているにもかかわらず、ゼレンスキーは戦いを放棄するつもりも、いかなる形の平和を模索するつもりもない。それどころか、ウクライナが最終的にはロシアに勝利するという信念がさらに強まり、政権や軍部の認識と乖離している。
●ガザでの問題が発生したとき、ゼレンスキーはイスラエルを支援するために同国を訪問する許可を要請したが、イスラエル政府は「まだ機は熟していない」と、歓迎しないことをほのめかした。つまり、拒絶したということだ。
◆中国のネット上での声
このテーマに関しては、非常に多くの中国のウェブサイトがさまざまな視点から記事を書きまくっているし、それに対するネットユーザーのコメントも数多く溢れている。それら複数のウェブサイトにおけるコメントや微博(ウェイボー)でのコメントなどを集めてみた。複雑なので、リンク先は省略する。
●裏切りだって? アメリカは最初からウクライナを消耗品としてしか扱ってないんだよ。全てはゼレンスキーの希望的観測に過ぎない。
●バイデンにとってウクライナはただのチェスの駒であり、チェスのゲームが終わろうとしており、チェスの駒の価値はなくなっただけさ。
●ゼレンスキーよ、あなたのその頑固さが、ウクライナの国民の命をより多く奪っていることに気がついてください。
●戦争が終わったら、ゼレンスキーは「英雄」から「罪人」になるかもしれない。最近では支持率が急落しているため、戦争が終わったら裁かれることを怖れて、何が何でも停戦してはならないと言っているのではないのか。平和交渉を叫んだ人は捕まってしまうようだ。
●戦争の継続だけが自分の政治的立場を維持できることに気づいたんじゃないのか?
●もうみんな、彼の「番組」を見るのにうんざりしているんだよ。脚本家も、もう脚本が書けなくなったんじゃないのかい?
●大統領になる前にコメディアンなんかやってないで、三国志演義や孫子の兵法でも学んでいたら、こんな悲惨なことにはならなかっただろうね。
●もしかしたら、欧米パパは、最初からあなたに勝たせようとは思っていなかったかもね。
●ゼレンスキーは西側に裏切られ、イスラエルに拒絶され、世界から忘れ去られる。
●そもそも威勢よく「イスラエル支持」を表明したけど、イスラエルがガザでやってることって、ロシアがウクライナでやってることよりも残酷じゃない?イスラエルの行動を支持するんなら、ロシアを非難できなくなるでしょ?そのダブルスタンダード、どうするんだい?おまけにイスラエルに「来るな」って言われて、メンツなくして「欧米に裏切られた」って、矛盾してるよね。
●裏切られたんじゃなくって、捨てられたのさ。
◆ウクライナはやがてバイデンを恨むようになる
ウクライナ戦争が始まった2ヵ月後の2022年4月16日に出版した拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』において、筆者は第五章で【バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛】という見出しで書いた。その章では、どれだけバイデンが卑怯な動きをしたかを、年表を作成して考察した。
ウクライナ戦争が始まった翌日の2022年2月25日にもコラム<バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛>という同じ見出しで、一部だけ触れている。
当時は、ゼレンスキーは英雄のように語られていたので、筆者はかなりバッシングを受けたが、今ならば、もしかしたら少なからぬ読者が共鳴して下さるかもしれない。
あのとき、米「タイム」誌の単独取材が描いた世界と同じ視点を持つことができたのは、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で年表を作成したからではないかと思う。
ファクトを時系列的に分析していくと、必ずそこから、ある真実が浮かび上がってくる。理論物理の統計物理学で「時系列分析」というのがあるが、その手法を常に国際政治分析に関しても使うようにしている。
予測が当たったのは、実は哀しいことだ。
こんな哀れな現状に、私たちは直面しているのだから。
ウクライナの国民は、やがてバイデンをそしてNATOをさえ恨むようになるかもしれない。
この時系列分析に従えば、今年出版した本『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に書いたように、アメリカが次に狙っているのは台湾だ。ウクライナに対してやってきたことと同じことをバイデンは今、台湾に対してやり始めている。
まだ懲りないのか。
参考までにBBCの<アメリカが静かに台湾を徹底武装させていく>を最後にご紹介したい。これに関しては追ってまた分析するつもりだ。
ゼレンスキーの嘆きは他人(ひと)ごとではない。
明日はわが身かと、日本人も心して考察すべきだろう。
この論考はYahooから転載しました。
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