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中国は朝露蜜月をどう見ているか――中国政府元高官を取材
9月13日、金正恩総書記とプーチン大統領が会談(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
9月13日、金正恩総書記とプーチン大統領が会談(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

日本のメディアでは盛んに「金正恩にまですがる哀れなプーチン」とか「朝露接近は中国に脅威」など、プーチンや習近平を侮蔑しさえすれば日本が強くなれるかのごとき錯覚を抱かす報道が目立つ。中国は朝露の軍事的接近をどのように受け止めているのか、高齢の中国政府元高官を取材した。意外な回答が戻ってきた。

◆中国政府元高官:軍事同盟は中朝間のみ、朝露の軍事的接近は非常に助かる

        :ウクライナ戦争が中露朝の結束を強化した

9月13日、金正恩・朝鮮労働党総書記はロシアのアムール州にあるボストチヌイ宇宙基地でプーチン大統領と会談し宇宙ロケット基地を視察した。その後、ハバロフスク州にある戦闘機製造工場など数多くの宇宙関係や軍事関連の製造工場を視察し、16日にはウラジオストクでロシアのショイグ国防相ら軍高官とともに戦略原子力潜水艦などが配備されているロシア太平洋艦隊の基地も訪問した。両国の国防分野での協力・交流強化に向けて意見を交わしたという。

ロシアに対して北朝鮮は戦車用の砲弾など弾薬を提供はするようだが、むしろロシアから大陸間弾道ミサイル級の人工衛星や原子力潜水艦開発技術や戦闘機の支援などを受けるようで、プーチンが弾薬不足で金正恩に縋(すが)ったというのではなく、金正恩が日米韓の包囲に対する後ろ盾を軍事大国ロシアに求めたという傾向が強いように思われる。

しかし日本のメディアは冒頭に述べたように「哀れなプーチン」や「習近平には脅威」などの報道が目立つので、中国は、本当は朝露の軍事的接近をどう受け止めているのか、高齢の中国政府元高官を取材した。

以下Qは筆者、Aは高齢の中国政府元高官である。

Q:北朝鮮の金正恩がロシアを訪問してプーチンに会ったり、軍事関連の基地や工場を視察したりしていますが、中国はこの事を、どう思っていますか?

A:もちろん、実に素晴らしいことだと思ってるさ!

Q:なぜですが?

A:なぜって、決まってるじゃないか。中国と北朝鮮との間には「軍事同盟」がある。北朝鮮と軍事同盟を結んでいるのは中国だけだということを知っているだろう?

Q:もちろんですとも。ソ連崩壊前はソ連と北朝鮮の間にも軍事同盟がありましたが、崩壊後は普通の朝露友好善隣協力条約といった、仲良しさんであるというだけで、軍事関係は抜きになりましたからね。

A:その通り。だから北朝鮮が何か挑発的なことをして西側と軍事衝突でも起こしたら、中国だけがその尻拭いをしなければならなくなるので、困るんだよね。でも、今回、軍事同盟とまではいかないにせよ、ともかくロシアの軍事的後ろ盾が出来たことは、中国にとっては、こんなにありがたいことはない。大歓迎さ。

岸田がバイデンの命令に対しては絶対服従で、自国の拉致問題など軽視して韓国接近を優先しているだろ?日米韓が、かつてないほど安全保障上の防衛線を張って、北朝鮮や中国を封じ込めようとしているんだから、金正恩がロシアに後ろ盾を求めるのは、中国にとっても非常に良いことに決まっている。

Q:ということは、金正恩の方からプーチンに軍事連携を求めようとしたとお考えですか?

A:当たり前だろ?北朝鮮とロシアの軍事力を比較したら、圧倒的にロシアの軍事力の方が強大だ。もし日米韓が連携して北朝鮮を攻撃するようなことがあった時に、中国だけでなく、ロシアが背後にいれば、日米韓は誰も北朝鮮に手出しをできない。ロシアはアメリカよりも強烈な核を持っている。ロシアが背後にいたら、核戦争になって、まさに第三次世界大戦になるから、さすがの日米韓も、絶対に手出しできないだろう。

Q:なるほど。中国はロシアとは軍事同盟を絶対に結びませんね?

A:そりゃそうさ。北朝鮮との軍事同盟だって、何も中国が好んで結んだわけじゃない。1961年に北朝鮮にむりやり頼まれて結んだだけだ。でも一旦結んだからには、それを解除するというのは両国関係にヒビが入るから好ましくないんだよね。

中国は平和裏に台湾を統一したいと望んでいるから、好戦的にはなりたくない。

ウクライナ危機に関しても「中国の立場」という12項目の和平案を提示している通り、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻には賛同していない。あくまでも話し合いによる解決をするべきだという、中立の立場を貫いている。

Q:つまり、たとえロシアと北朝鮮が軍事同盟に近い関係になっても、中国はロシアとは軍事同盟を結ぶ関係にはならないということですね?

A:当然だ。絶対に軍事同盟は結ばない。しかし、アメリカがロシアや北朝鮮や中国に対して一方的に制裁をかけてくるので、制裁を受ける方は団結するしかないところに追い込まれるのもまた当然だろう。イランなど、中東諸国も同じ思いでいるから、アメリカに対して自国を守り、自国を守るためにアメリカに虐められている国同士が団結していくというのも自然の流れではないだろうか。

Q:イランはこの夏、中露を中心に動いている上海協力機構にもBRICSにも正式加盟しましたね。サウジをはじめとした多くの中東諸国もBRICSに加盟しましたが、その最大のきっかけは何だと思いますか?

A:当然、ウクライナ危機さ。もちろんロシアの軍事侵攻は「中国が見たいものではない」。しかし、プーチンがそうせざるを得ないところに持って行ったのはアメリカだということは明白だろう?NATOの東方拡大をあれだけしないと誓っておきながら、アメリカはその約束を破った。ウクライナの選挙で正当に選ばれた親露派の大統領を、アメリカが介入して親米派の民主化運動を焚きつけ、クーデターを起こさせて親露派政権を転覆させたのだから、プーチンが怒るのは当然だ。中東が中露側に付き始めたのも、アメリカの全米民主主義基金が起こしてきた顔色(カラー)革命があったからさ。もう、みんなコリゴリなんだよ。

ウクライナ戦争が中露朝3ヵ国の連携を強化しただけでなく、かつて欧米の植民地として屈辱の歴史を抱えているグローバルサウスが一つにまとまり始めたってことさ。アメリカが自ら作った世界情勢で、この流れは変わらないと思うよ。トランプでもまた出てくれば、話は別だけど・・・。

と、高齢の中国政府元高官は豪快に高笑いをした。

◆習近平が狙う「米一極から多極化へ」の地殻変動は、露朝接近によって実現性を高めている

筆者が尊敬する在米の日本人国際政治学者・伊藤貫氏は、<大手メディアでは報道されない米露関係の今【混乱する国際政治と日本①】>で、「ウクライナ戦争で最も得をしているのは中国だ」と断言している。

もちろん伊藤貫氏が仰っていることが全て正しいとは言わないが、しかし筆者自身も『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の帯で「笑う習近平」と書いたように、ウクライナ戦争で得をしているのが習近平であることは確かだろう。もっとも、「日本がやがて中国の属国になる」という伊藤貫氏の発想には少々首をかしげるが。

さらに言うならば、伊藤貫氏の主張は、基本的に拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』とほぼ一致しているのに、何とももどかしい点が一つある。

それは、伊藤貫氏はなぜか「第二のCIA」である「NED(National Endowment Democracy、全米民主主義基金)」の名前を出さないことだ。伊藤貫氏の動画の8分くらいの所に、Democratic peace(民主的な平和)という言葉があるが、これこそは正に「民主を世界に輸出する」ことを名目に(アメリカが気に入らない)他国の政権を転覆させ、あたかも市民運動による民主化革命が起きたかのような体裁を取りながら、戦争を撒き散らしていくという手法を採るNED以外の何ものでもない。

NEDはレーガン政権時代の1983年に「他国の民主化を支援する」名目で、公式には「民間非営利」として設立された基金だが、実際に出資しているのはアメリカ議会なので、会計報告を公開しなければならない。そこで筆者はNEDのウェブサイトから、可能な限りNEDの活動歴を拾い上げ、拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に一覧表としてまとめあげた。

以下に示すのは当該書のp.253に掲載した図表6-8である。

なぜ「第二のCIA」と呼ぶかというと、1991年にNEDの共同創設者の一人であるアレン・ワインスタイン氏がワシントンポストの取材を受けた時に「私たち(NED)が現在行っていることの多くは、CIAが25年前から秘密裡に行ってきたことと同じだ」と言ったことからNEDに対して「第二のCIA」という名称が付くようになった(当該書p.241)。

CIAがあるのに、なぜ改めてNEDを設立しなければならなかったかというと、CIAは政府組織なので、政府組織は他国の政府転覆に関与してはならないという法律がアメリカにあるからだ。これ以上、「秘密裡に」他国の政府転覆をしたり戦争を吹っ掛けたりするのが困難になったので、「民間非営利団体」としてNEDを設立したが、NEDの資金はアメリカ議会が出しているので、実際上は変わらない。

出典:『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』

出典:『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』

 

この図表から明らかなように、2004年のウクライナのオレンジ革命や2014年のマイダン革命は言うに及ばず、香港や台湾のデモを含めて、世界で起きてきた、いわゆる「民主化運動」はほぼ全てNEDが焚きつけて起こしていたのであり、「民主の輸出」を名目に「民主の武器化」を実行している。

その意味で、伊藤貫氏の主張と筆者の本の内容は、ほぼ完全に一致している。

まったく無関係の者同士が、異なるアプローチでたどり着いた結論が一致しているということは、それが真実であることの何よりの証拠ではないかと思うが、如何だろうか?

追記:個人的なことで誠に申し訳ありませんが、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の序章の文末に書いたように、長年可愛がり信じてきた元中国人留学生の裏切りに遭い、あまりのショックで免疫が激減し加療を必要とする状況になりましたので、執筆を暫時休みます。読者の皆様、何卒お許しください。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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