1. ポストコロナの雇用市場における構造的変化
中国の国家統計局が7月17日に発表した最新の失業者数から、若者(16~24歳)の失業率が3カ月連続で過去最高の水準に達したことがわかった。失業率は4月の20.4%から5月に20.8%、6月にはさらに21.3%にまで上昇した。
雇用環境は5月以降、厳しさを増している。積極的に求職活動を行っている3300万人強のうち、就職できたのは2600万人前後で、残りの600万人ほどは依然求職中だ。近年の新卒者の多くがパンデミックの収束まで積極的な就職活動を控えざるを得なかった。ところが、ポストコロナ期に入ると中国の雇用市場では構造的変化が生じた。
6月に若者の失業者数が特に急増した背景には、大学を卒業した1158万人が新たに雇用市場に加わったことがある。過去のデータを見る限りでは、若者の失業率は8月まで高水準で推移することが予想されるが、その後、若干低下する可能性がある。
本稿では自分に適した仕事探しで新卒者が直面する課題に焦点を当て、若者の失業率が3カ月連続で上昇した背景を分析する。中国当局は、ハイテク職に適した人材を見つけることが難しいことを挙げ、現在の失業問題が主として本質的に構造上のものであると強調し、景気低迷・悪化に対する懸念を払拭しようとした。
一方、中国の失業者数の公式な集計方法は、国際的な基準と異なっている。中国では1週間に1時間を超えて働く人は、失業者とみなされない。さらに無給休暇中や工場が閉鎖中の人、自主退職し、求職活動を開始していない人も失業者には分類されない。
ポストコロナ期に入って以降、中国では新卒者が就職難に直面している。それを受けて、中国ではここ数年、飲食店のフードデリバリー事業向けのメニュー開発・価格設定・パッケージングアシスタントなど、74種もの新たな職業が生まれている。
2.政府の施策とその効果
失業率の上昇に対処するため、27省が公共サービスセクターの大幅な拡大を図った。拡大率は甘粛省で80%に上ったほか、同様の伸びを示す省が半数を超える。これに加え、主要な大学と研究機関では入学定員を増やした。全国の864研究機関に入学した学生は約76万名で、昨年から1万人強増えている。同時に、研究機関の入学志願者数は過去最高の474万人に上り、昨年より17万人多い。
新卒者はこれまで、正式な採用面接を受けるまでの間、学習塾の講師などのアルバイトを簡単に見つけることができた。だが、子供と保護者の学習・教育負担を軽減する目的で2021年7月に「双減」政策が導入されて以降、K9(小学校から中学校までの義務教育)の英語指導セクターを中心に、こうした機会がなくなった。
中国政府は若者に対して、現実を見据え、失業問題の影響を受け入れるよう求めている。これは、国家と人民が最も自分を必要としているところで働くことを奨励するもので、現代の「上山下郷」プログラムと言える。『人民日報』のコラムでは、自分の強みと社会的ニーズの合致点を探し、謙虚さを忘れず、自分の資質を客観的に評価し、現実的な観点で進路を選択することを新卒者に促している。
中国当局は、プライドを一旦捨てて、失業問題の影響に真正面から向き合うよう若者に呼びかけている。このコラムで紹介しているのは、西部地域への大卒ボランティアサービス計画(Western Region University Volunteer Service Plan)や「三支一扶」計画など、貧困軽減と農村開発に寄与するプロジェクトに充実感を見いだした若者の事例だ。
とはいえ、政府の「上山下郷」の取り組みだけでは失業問題に十分に対処することができない。中国経済のゆるやかな回復や消費者マインドの持ち直し、民間企業や国有企業の見通しの好転により、若者の失業危機はいずれ解消されるかもしれない。一方、ネット市民の間では自分に適した仕事探しで若い新卒者が直面する課題に政府は十分に対処していないと感じる向きが多く、こうした施策の評判は芳しくない。
3.新卒者のキャリア志向の変化
就職難に新卒者の急増が重なり、まともな雇用機会を見つけることがますます難しくなってきた。そうしたなか、新卒者はどのような職業に就くことを望んでいるのだろうか。
Weibo(微博)が7月14日に発表したインタビュー調査の結果によると、対象となった新卒者1万人弱のうち、60%余りが選択肢となりうる職業に「ネットインフルエンサー」と「ライブ配信者」を入れた。中国ではネットパフォーマンス業界が活況を呈しており、およそ1億人分の雇用機会を創出すると推計される。
だが、95%強のネットインフルエンサーの平均月収は5000人民元に満たず、北京や上海、広州などの主要都市で家賃や基礎生活費をまかなうことが難しい。露店営業を奨励、保護する李克強前首相の取り組みをよそに、「露店経済」は各地の都市部で密かに繁栄を続けてきた。
都会に暮らす新卒者の多くは、家庭内労働に目を向け、家事手伝いをしたり、「フルタイムの孝子」と自らを称したり、あるいは、都会で就職できる見込みがないため、故郷に帰って肉体労働に従事せざるをえない。大都会で自分に適した仕事を見つけることができず、自分の才能を十分に活用できていないと感じる農村部出身の大卒者もいる。
中国では深刻な人材ミスマッチが、高等教育投資に重大な歪みとアンバランスさをもたらすとともに、若い世代の自信と希望の喪失を招いている。
バタフライ効果(バタフライエフェクト)のように、16歳から24歳の年齢層の間で失業問題に火が付いたことをきっかけとして、25歳から35歳の年齢層の間でパニックが起きた。著名な大学(211大学または985大学)を卒業した優れた学歴の新卒者でも低賃金を受け入れる意向の者は多い。そのため、給与が高いにもかかわらず、一般的なスキルしかない労働者を雇用する必要性を企業が感じず、給与が高いのに優位性の低いスキルしか持たない中高年労働者の多くが突然解雇されるかもしれないとの見方が広まったのだ。
4.教育と雇用のミスマッチの軽減
世界各地で歴代最高気温を更新する酷暑のなか、中国では新卒者の雇用市場が厳寒期に突入したようだ。政府が推し進める農村部での雇用促進策だけに頼っていては、この問題に十分に対処できない。中国の若い世代の失業危機を解消できる可能性があるのは、国内経済の緩やかな回復と個人消費の持ち直し、市場の見通しに対する民間企業や国有企業の信頼の回復だけだ。
人材ミスマッチを軽減するためには、包括的な戦略を策定する必要がある。この戦略には教育とスキル育成への重点的な投資が求められる。つまり雇用市場と個人、両方のニーズに焦点をあてた施策だ。教育側と雇用側の連携を促すことで、新卒者は適したスキルと適応能力を身につけ、社会人になる準備をしっかりと整えることができるようになる。
若い新卒者のための持続可能で、インクルーシブな雇用市場を創出するには、政府と教育機関、民間セクターとの間の連携を伴う、より包括的な長期的アプローチが必要となる。適したスキルを身につけさせ、適した雇用機会を提供し、自分の能力を十分に発揮できるようにさせることで中国は若手人材の明るい未来を築き、また国全体の経済的成長と安定を確保できる。
若者の失業問題に対処するうえでの主要なポイントの1つに、雇用市場のニーズへの教育機関による対応があげられる。業界と緊密に連携して学生に実践的なスキルと知識を身につけさせるような、現状に即したカリキュラムを設計することが大学には求められる。インターンシップや実習など実践的に学ぶ機会を設けることで、教室で教わる理論と実際に仕事で求められるもののギャップを埋めることが可能なのだ。
起業の奨励とスタートアップの支援もまた、若い新卒者が能力を十分に発揮できる環境づくりに欠かせない。政府は、良好なビジネス環境を整え、金銭的インセンティブ策を講じ、事業を立ち上げるにあたっての煩雑な手続きを簡素化する政策を打ち出すことができる。スタートアップの強固なエコシステムの構築により、雇用創出を活性化し、イノベーションを推進し、優秀な人材を誘致することができる。それが、求職活動をする新卒者の増加を吸収する一助となる。
構造的な失業問題に対処し雇用創出を促進するため、中国政府は中小企業の支援に特に力を入れており、7月19日には民間企業の発展支援に向けた31項目の方針を発表した。これは、民間企業の成長を支援・促進し、起業とイノベーションに資する環境を整えることを目的としたものだ。中小企業は多くの国・地域で雇用に大きく貢献しており、中国の経済活動でも不可欠な役割を果たしている。的を絞った資金援助と事務上の手間の軽減、リソースへのアクセスの容易化によって中小企業は好業績を収めることができるようになり、それが雇用市場の多様化と弾力化につながる。
さらに、テクノロジーとデジタルトランスフォーメーションを活用することで、新たな雇用機会を創出できる。ハイテク産業とデジタルプラットフォーム、eコマースの振興を促せば、ITからマーケティングや物流まで、さまざまな分野で新卒者が働く門戸を開くことができる。
5. 結論
厳しい雇用環境下にあるにもかかわらず、意義ある仕事を見つけるという夢を諦めきれない若い新卒者は多い。たとえ困難に直面することになるとしても、自分のスキルや興味に合致する仕事に就きたいと願っているのだ。だが、現在の雇用市場では必ずしも自分の望む雇用機会に巡り合えるとは限らない。
中国では現在、デフレリスクが強まっており、若者の失業問題への対処の必要性が一段と高まっている。「上山下郷」プログラムのような政府の施策は一時的な解決策となるかもしれないが、今の複雑な雇用状況には十分に対処できない。
失業問題の影響を受け入れ、国家のニーズに資することができるところで雇用機会を探すよう若者に求める中国政府の姿勢は、現状に対処する当局の尽力を反映している。だが、このアプローチを個人の希望や才能を重視するものではなく、政府が必要とする職に新卒者を就かせる手段に過ぎないと考えるネット市民は多い。
中国経済が厳しい時期を乗り越えようとする今、若い人材が持つポテンシャルを未来の成長とイノベーションの原動力と認識することが不可欠だ。若者のポテンシャルを引き出し、経済的繁栄を実現させるうえで、優秀な人材の育成、起業の奨励、スキル育成を促進する環境の整備が欠かせない。
中国政府は今こそ、若者の失業問題に対処するには包括的かつ長期的なアプローチが必要であることを認識すべきだ。継続的な研修プログラムやリスキリングプログラムを導入すれば、若い新卒者のエンプロイアビリティ(就業能力)を高めることができる。また、専門能力の育成コースや認証制度の整備は、新卒者が雇用市場の需要の変化に対応し、競争優位性を獲得する一助となる。
同時に、生涯学習の文化を推進し、個人が職業人生を通じて自らのスキルと知識を高め続けることを奨励することも非常に大切だ。継続的学習に力を入れることで、対応力と適応力が高く、新たなチャレンジにいつでも挑むことができる人材を生み出せる。
最後に、若者の失業問題への対処では政府と民間セクター、教育機関、そして社会全体が協調して取り組むことが不可欠となる。力を合わせることで、ステークホルダーはチャンスを見極め、雇用市場をよりインクルーシブで持続可能なものにし、市場の活況をもたらす包括的な戦略を打ち出すことができる。
結論として、次のようなことが言える。中国では若者の失業者が急増し、革新的かつ包括的な解決策が必要であることが浮き彫りとなった。この問題に対処するには、教育改革や起業支援から、ダイナミックな雇用市場の醸成や継続的学習の推進まで、幅広く多面的なアプローチが必要だ。適したスキルを身につけさせ、適した雇用機会とリソースを提供し、新卒者が自分の能力を十分に発揮できるようにさせることで、中国は若者のポテンシャルを引き出し、より明るい経済の未来を切り拓くことができる。
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