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イスラエル首相が来月訪中か 加速化する習近平の多極化戦略
2017年に訪中したイスラエルのネタニヤフ首相と習近平国家主席
2017年に訪中したイスラエルのネタニヤフ首相と習近平国家主席

イスラエルのネタニヤフ首相が来月訪中すると、イスラエルのメディアが報道した。中東で弱体化するアメリカを尻目に、中東和解外交をバネにして、習近平は一気に「米一極から多極化へ」の地殻変動を起こそうと狙っている。

◆ネタニヤフ首相訪中を中国の「環球時報」が速報

6月27日の環球時報は<イスラエルメディア:ネタニヤフ首相が来月中国を訪問 これはワシントンにますます我慢ならない証拠>というタイトルで速報を発信した。

それによれば「イスラエル・タイムズ」が6月26日、「イスラエルのネタニヤフ首相が来月中国を訪問する。この訪問はバイデン大統領を苛立(いらだ)たせるだろう」という見出しで、報道したとのこと。以下、環球時報が紹介している「イスラエル・タイムズ」の概要を記す。

――(アメリカの大統領)バイデンは、これまでネタニヤフ首相を短期内にはアメリカに招待しないと明言しており、ネタニヤフの日程を見ると同氏がワシントンに対してますます我慢ならないと思っていることがわかる。

イスラエル国内で政府の司法改革計画に対する抗議活動が勃発したとき、バイデンは今年3月、イスラエルのネタニヤフ首相を短期内にホワイトハウスに招待するつもりはないと述べ、かつ、イスラエルはこのような反対運動があるような司法改革を進めるべきではないと警告した。イスラエル側関係者は、「ネタニヤフの中国訪問計画は、ネタニヤフが他の外交のチャンスをも追求していることをワシントンに知らせるためのシグナルである」と述べた。「ネタニヤフ首相は、いつまでも来ないホワイトハウスからの招待状を、ただ待っているようなことはしない」と、関係者は「イスラエル・タイムズ」に語った。同関係者はまた、「中国の中東への関与が最近急速に増大しているのだから、ネタニヤフがイスラエルの利益のために中国を訪問するのは、当然のなりゆきだ」とも述べた。

しかしネタニヤフ訪中に関して、イスラエル政府はまだ正式なコメントは避けている。 

今年3月10日、サウジアラビアとイランは7年間の国交断絶を経て、中国の仲介により国交を回復し、大使館を再開することで合意した。ネタニヤフ首相は中国の助けを得てサウジアラビアとの関係を進展させるつもりのようだ。しかし、この動きはワシントンに激しい不満を抱かせるだろう。なぜならアメリカこそが、サウジアラビアとイスラエル両国の和解を仲介しようとしてきたからだ。

イスラエル側のハイレベルの関係者は、ネタニヤフ首相の中国訪問の旅は「これまでの枠組みを破壊する力を持っている」と表現している。なぜなら、アメリカは長期にわたって中東で重要な地位を占めてきたし、特にイスラエルはこの地域におけるアメリカの最も重要な同盟国の一つだからである。(以上、環球時報より)

◆もし習近平がパレスチナ問題を解決できたら

6月16日のコラム<習近平はパレスチナとイスラエルを和解させることができるか?>で、パレスチナのアッバス議長が訪中し、6月14日に習近平国家主席と会談したと書いた。

そのコラムでも書いたように、習近平はパレスチナ問題を解決すべく、パレスチナとイスラエルの両国に声を掛けてきたし、イスラエルとも非常に友好的な関係を結んできたが、アッバス議長と交わした条件では、イスラエルが呑みにくいだろうことは容易に想像がつく。

しかしイスラエルのネタニヤフ首相が訪中するとなれば、パレスチナに多少譲歩してもらってでも、この積年の問題であるパレスチナ問題を、ひょっとしたら習近平が解決することになるかもしれない。

そうなると中東におけるアメリカの居場所はなくなるだけでなく、習近平が狙う「米一極から多極化へ」の地殻変動は一気に加速し、世界はアメリカを中心としてではなく、中露印を中心として構築される「新秩序」へと転換していく可能性が大きくなる。

◆原因はNED(全米民主主義基金)が起こしたカラー革命

なぜ、このようなことになったかというと、最大の原因はNED(全米民主主義基金)が世界各地で起こしてきたカラー革命だ。

中東では「アラブの春」と呼ばれ、それまで長年にわたって続いてきた中東諸国の政権を転覆させ、紛争と混乱と無秩序を招いた。政権に不満を持った市民がいると、その市民団体に資金を提供して政府転覆のためのデモを起こさせ、親米的な政権を樹立させることが目的だ。戦争にもなるので、アメリカの戦争ビジネスが繁昌するという仕組みになっている。

無残な戦争で命を落とし、絶望的な貧困の中に追い込まれた少なからぬ中東諸国は、アメリカの、「民主」の名の下における他国への内政干渉と、転覆されなかった政権に対する過酷な経済制裁などに、もう嫌気がさしたのである。

中露が中心になって進めてきた上海協力機構には「他国の内政干渉をしてはならない」という条項があるため、習近平は他国への内政干渉はしない。中東地域特有の宗教とも関係ないので、経済的結びつきのみで関係を深めていくことができる。

冒頭で引用した「イスラエル・タイムズ」が触れている「抗議活動」も、6月16日のコラム<習近平はパレスチナとイスラエルを和解させることができるか?>に書いたように、NEDが市民を焚きつけたものだ。そのことをネタニヤフ首相の息子(ヤイール・ネタニヤフ)が糾弾している。

現在進行中のウクライナ戦争も、元はと言えばNEDが2004年に起こしたオレンジ革命と2014年に起こしたマイダン革命に最大の原因がある。

詳細は拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』のp.257に書いたが、NEDのウェブサイトにある会計報告に、2004年のオレンジ革命に関して、NEDは6500万ドルを提供し、ウクライナ市民が親露派のヤヌコーヴィチ大統領を下野させるよう抗議活動を支援したとある。ヤヌコーヴィチは一度下野したものの、2010年の選挙で再び大統領に当選したので、今度こそは親露派大統領を徹底して痛めつけようと画策したのが当時の副大統領だったバイデンだ。バイデンは根っからのネオコン(新保守主義者)で、NEDはネオコンの根城のようなものだ。NEDはもともと、何としても「反ロシア政権」を誕生させて、プーチンを下野させたいという強烈な目標を持っている。

バイデン大統領は2022年3月26日のワルシャワでの演説で、プーチン大統領に関して「この男は権力の座に留まってはならない」と明言して、プーチン政権を転覆させる狙いを示唆している。

何が何でもプーチン政権を転覆させたいのである。

プーチンのウクライナ侵攻は肯定しないものの、アメリカのその目的を、対露制裁に加わっていない人類の「85%」は知っている。

事実、2022年10月には、トランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官だったジョン・ボルトン氏は、「ロシア内部に働きかけてプーチン政権を打倒せよ」という趣旨の論考を発表している。すなわち、「NEDがロシア市民に働きかけて(資金を提供し)政府転覆を謀れ」ということである。NEDは必ず市民団体に資金を提供する形で政府転覆を支援する。そうでないと、法に触れるからだ。

こうして、アメリカはNEDを使って、アメリカの気に入らない既存政権を転覆させることしか考えていない。転覆しなければ徹底した制裁を加える。これが、アメリカのやり方である(トランプ政権だけが例外だった)。

言論弾圧をする中国が構築する世界新秩序の中で生きていくのは嫌だが、戦争に巻き込まれるのは、もっと避けたい。

しかし、アメリカの次のターゲットは中国。NEDを使って台湾有事を何としても作り出そうとしている。そのときに命を落とすのは、ウクライナ同様、台湾人と日本人だ。

戦争は起きてからでは遅い。

戦争に巻き込まれる前の今だからこそ、人類の「85%」には見えていて、日本人には見えていない現実を直視してほしいと、心から願う。

イスラエルのネタニヤフ首相が訪中する情報に接した時などでも、私たちはこういう視点で世界が見えるようになりたいものだと思うのである。

 

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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