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中国の宇宙開発に焦るアメリカ 日本が権力闘争と嘲笑った習近平の反腐敗がもたらしたハイテク化
中国の有人宇宙船「神舟」(写真:ロイター/アフロ)
中国の有人宇宙船「神舟」(写真:ロイター/アフロ)

5月30日、アメリカは「宇宙外交戦略」を公表し、中国への対抗を鮮明にした。その中国が宇宙開発ハイテク化のために腐敗撲滅をしていたのを、日本は国益を考えず、権力闘争として嘲笑った。その罪は重い。

◆アメリカが中露対抗のための「宇宙外交戦略」を発表

5月30日、ワシントンタイムズはState Dept.: Space diplomats to counter China, Russia with ‘diversity, equity and inclusion’ push(国務省:宇宙関係外交官らは「多様性、公平性、包括性」の推進により中露に対抗)という見出しで、アメリカが新しく「宇宙外交戦略」を発表したと報道した。
アメリカの国務省は、「中国とロシアは宇宙を軍事化し、軍隊を組織し、装備を整えて、アメリカの力を弱体化させようともくろんでいる」とした上で、その中露に対抗するために新しく「宇宙外交戦略」を発表したとしている。同盟国を中心に民主主義陣営の国々と協力して「宇宙分野でアメリカのリーダーシップを高める」と強調し、中露に対抗する姿勢を鮮明にした。
報道によれば、新しい「宇宙外交戦略」は、バイデン政権が推進する37ページにわたる枠組みで、大統領の指示によってハリス副大統領がホワイトハウス国家宇宙会議(White House National Space Council)の議長を務めている。

◆「中国製造2025」に驚き、「宇宙軍」を創設したトランプ元大統領

2018年、拙著『「中国製造2025」の衝撃』で詳述したように、習近平政権は2015年に中国のハイテク国家戦略である「中国製造2025」を発表した。その内容は主として半導体の自国産開発と宇宙開発が大きな柱だったが、トランプ政権は2017年になって「中国製造2025」の衝撃性(危険性?)に気づき、半導体に関しては徹底した制裁をファーウェイなどに科して中国の発展を抑え込むことに成功している。

宇宙に関しては2018年6月にトランプ元大統領が「宇宙軍」を創設するという大統領令を発布して、世界をアッと驚かせた。

それまでアメリカには「陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊(有事には海軍の指揮下に入る)」の5種類の軍種があったが、「宇宙軍」は6番目の軍種になる。軍隊に新たな部門を加えるためには、米議会で関連法を承認する必要がある。

2019年12月20日、トランプは、2020会計年度の国防予算の大枠を定めた国防権限法に署名し、宇宙軍を正式に発足させた。

国家宇宙会議は宇宙軍創設提唱と同時に復活し、当時のペンス副大統領が議長を務めた。今回もそれに倣ってハリス副大統領が議長を務めているわけだ。

国家宇宙会議はもともと1989年に当時のジョージ・ブッシュ大統領が創設し、やはり当時のクェール副大統領が議長を務めている。1993年に解散したのだが、トランプが2017年に復活させたことになる。

オバマ政権では国際宇宙ステーションの役割を重視せず、むしろ予算を削減していったので、アメリカが主導する国際宇宙ステーションは2024年に終了することになっていたが、トランプ政権で2030年まで延期された。

◆世界一を行く中国の宇宙開発

それに比べて、中国の宇宙開発は留まるところを知らない。

江沢民政権時代の激しい腐敗により、軍部に腐敗の巣窟が蔓延したため、ハイテク化が遅れた。しかし、習近平政権になってからは大々的な反腐敗運動によって軍部に巣くう腐敗の根城を徹底してやっつけたために、腐敗構造によって成り立っていたような軍部の弱体化が阻止され、一気にハイテク化に向かって進み始めた。

日本では、習近平の反腐敗運動を、「習近平は権力基盤が弱いから、政敵を打ち負かすために反腐敗運動を利用している」という論理がまかり通り、NHKなどでは「中国問題の専門家」と称する人に連日のように「権力闘争」、「権力闘争」と叫ばせたために、日本中がそれに倣(なら)って、権力闘争の大合唱となった。

それによって、まるで「煙幕」を張ったように真実が見えなくなり、その間に中国は軍事においても宇宙開発においても、誰からも邪魔されることなく、一気に成長していったのである。

軍事に関しては、軍部の腐敗の巣窟がおおかた片付いたころの2015年末に軍事大改革を行って、ロケット軍を創設し、宇宙軍と空軍を兼ね備えるような軍種を創設した。このことは前掲の『「中国製造2025」の衝撃』で詳述した。

同時に、習近平は2015年から軍民融合を本格的に断行し、国を挙げて宇宙開発に力を注ぎ、飛躍的な成長を見せている。

拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第四章 決戦場は宇宙に――中国宇宙ステーション稼働】のp.176-177に掲載してある「宇宙開発に関係する組織図」を以下に転載する。

『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』より

『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』より

 

中国はかつて何度も国際宇宙ステーションへの加盟を申請したが、アメリカが絶対に許可せず、やむなく中国は独自の宇宙ステーション「天宮」を開発したので、それが2022年11月から稼働し始めている。

国際宇宙ステーションは複数の国から構成されているが、中国独自の宇宙ステーション「天宮」は、中国人によって構成されているので、国際宇宙ステーションのように、有人飛行に強いロシアが抜けると弱体化するといった難点はない。協力関係においてはすでに多くの国とのプロジェクトが進行しているので、中国はその点が強いと中国の中央テレビ局CCTVは解説していた。

今年5月30日には中国宇宙ステーションが完成してから初の有人飛行、神舟16号の発射に成功した

報道によれば、5月30日、酒泉衛星発射センターからの「長征2号F」ロケットの打ち上げを実施した。搭載されていた宇宙船「神舟16号」は予定されていた軌道へ無事投入され、発射から7時間後には中国宇宙ステーション「天宮」へのドッキングにも成功したとのこと。搭乗していたクルーは2022年11月に打ち上げられた「神舟15号」のクルーと合流を果たしている。3名のクルーは中国宇宙ステーションに半年間ほど滞在し、船外活動を含むさまざまな作業に従事する。 また、神舟15号のクルー3名は16号のクルーと約5日間の共同作業を行った後に、半年間のミッションを終えて地球に帰還する予定だ。

この有人飛行の成功により、現在、宇宙空間にいる中国人の数は6人になり、アメリカ人5人を超えている。現在、宇宙空間には17人の「地球人」がいることになり、これは歴史上、初めてのことだ。

中国の宇宙開発が本格化している最大の証拠は、今回の有人飛行のメンバーには「ペイロード」専門家がいるということである

「ペイロード」には「貨物、乗客、乗組員、弾薬、科学機器や実験装置、その他の機器」などがあり、余分な燃料についても、オプションで搭載されている場合は積載物の一部とみなす。「ペイ」は英語のpayで、対価の支払いのことを指し、「ロード」は英語のloadで、「荷」という意味だ。つまり「ペイロード」は日本語では「有償荷重」と訳されることが多く、「対価(運賃)を取る荷物」のことである。

これは拙著『「中国製造2025」の衝撃』で詳述し、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』でも触れたように、中国は月に宇宙基地を作ろうとしているので、その準備をしていると考えていいだろう。

宇宙基地を作る目的は、月面に多いヘリウム3を回収して、プラズマ核融合反応による発電を成功させたいという、中国の長年の願望を実現させるためだ。人類に無限に害を与え続ける原発による放射性廃棄物がゼロである核融合発電を、中国は早くから目指してきた。

そのため2030年までに月への有人飛行を実現すると中国は発表した

習近平が政敵を倒すために反腐敗運動を利用して権力闘争をしていると叫び続けた日本の中国問題研究者や大手メディアよ。もっと日本の国益に適う視点を持てと言いたい。さもなければ、宇宙も中国によって支配される。

それに抵抗するのは軍事力ではない。

人間の英知だ。

 

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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