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習近平がアメリカを名指し批判して示す、中国経済の新しい方向性
全国政治協商会議における習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)
全国政治協商会議における習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

3月6日、習近平は全方位から中国を打倒しようとするアメリカとその同盟国を批判し、民間企業を中心に断固経済発展させる決意を示した。事実、デジタル産業を支えるハイテク分野で中国は世界のトップを行っている。

◆アメリカとその同盟国を名指し批判して、習近平が指示した中国経済の方向性

習近平は3月6日、現在開催中の<全国政治協商会議(全国政協)に参加している「民建、工商聯」界委員の意見を聴取し、「民間企業のハイレベル発展を目指すべきだ」と強調した>。「民建」というのは八大民主党派の一つで全称は「中国民主建国会」。主として経済界の主要人物によって組織された党派だ。全国政協の構成メンバーだ。「工商聯」の全称は「中華全国工商業界聯合会」で、中国の工商業界が組織した民間団体の一つである。統一戦線の一部分も担い、全国政協に参加する多くの民間団体の一つでもある。

意見聴取をした後に、習近平が述べた主要点をピックアップして示す。

  • アメリカを中心とする西側諸国は、中国に対して全面的な封じ込め・抑圧を強化しており、わが国の経済発展を阻止するために、あらゆる妨害を試みている。
  • そうでなくとも、度重なる新型コロナウイルスの流行により経済の下押し圧力の高まりなど、わが国は複数の困難に直面しているが、困難に立ち向かい、冷静に対処し、悪意に満ちた圧力を恐れず、人民が一致団結しなければならない。
  • 民間経済はわが党が長期にわたって全国人民の団結とともに目指してきた「2つの100年」奮闘目標を達成するための非常に重要な力だ。これなくして中華民族の偉大な復興という「中国の夢」を実現することはできない。民間企業の財産権と起業家の権利と利益を保護し、その要件を強化していく。
  • 能力と条件を備えた民間企業は独立したイノベーションを強化し、科学技術の自立自強と科学技術の成果を産業化していく上で、さらに大きな役割を果たしていかなければならない。

◆民間企業に強い次期国務院総理・李強

日本のメディアでは必死になって経済に強かった李克強が退任するので、中国経済は成長を見込めないという論調が多いが、新チャイナ・セブンの党内序列2位の李強は、実は民間企業に強い。

浙江省、江蘇省、上海市というのは、中国で名だたる三大ビジネス・エリアだが、拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の第一章で書いたように、李強はこの三大ビジネス・エリアを軸に動いてきた男だ。

李克強は河南省や遼寧省といったやや北部に偏った地方政府の省長や書記を歴任したあと、2007年にチャイナ・ナイン(胡錦涛政権の中共中央政治局常務委員9人)入りをした。河南には「南」という文字が付いているので南方への赴任かというとそうでもなく、エイズ村の後始末をさせるために江沢民が押し付けた場所で、遼寧省は石油などの国有企業の根拠地である。

したがって李克強は国有企業には強いかもしれないが、民間企業には弱い。

それに比べて李強は、古来より温州商人として知られる浙江省を地盤として力を蓄え、その後、やはり民間企業やイノベーションに長けた江蘇省の書記や中国一の商人の街・上海市の書記を務めている。上海市ではイーロン・マスクを呼び込み、テスラのEV生産の50%近くを上海工場が担うという外資導入にも力を発揮した。

習近平が李強を新チャイナ・セブン入りさせたのは、李強の民間企業に強い側面を評価したこともあるにちがいない。

全人代では、今年はGDP成長率5%を目指すと発表しているが、その多くは民間企業の活性化に負うところが大きい。今後もその傾向は強くなるだろう。

拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』のp.175に掲載した【図4‐2 中国企業別有効特許の構成】にあるように、特許の79.5%は民間企業によって占められている。国有企業はわずか5.7%だ。その図表を、念のために下記に転載する。

『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の図表4-2から転載

習近平政権が国有企業を重視して民間企業を軽視しているという日本のメディアの大合唱とは真逆の現実が中国にはある。

基礎研究の約80%を民間企業が占めていることを頭に入れた上で、以下の調査結果をご覧いただきたい。

◆重要なテクノロジーのグローバル・レースにおける中国の世界ランキング

オーストラリアのAustralian Strategic Policy Institute(ASPI)(オーストラリア戦略政策研究所)は、今年3月2日に<重要なテクノロジーの追跡 ―未来の力をめぐるグローバル・レース>という調査結果を発表した。そこでは、経済や安全保障などの基盤を形成する重要な技術の国別競争力のランキングを図表を使って示している。調査項目は44項目にわたり、そのうち37項目に関して中国が世界1位となっている。

以下、ASPIの結果を日本語に翻訳して紹介したい。

一番右側の列にある数字は見えにくいと思われるので、少しだけ説明すると、たとえば最初の行「ナノスケール材料と製造」の右端にある「10/10」は、「上位10ヵ国の内、1位の国が占める割合」を示している。これはすなわち、「上位10ヵ国の内、1から10位までが、すべて中国である」ことを意味している。

次にある数値「8.67」は「1位の国と2位の国の割合」を示しており、この場合は「中国が58.35%であるのに対してアメリカが6.73%でしかないので、中国がアメリカより8.67倍強い」という数値を意味している。

最右端の列にある「high, medium, low」は、「1位の国の全世界に対する独占率」が「高い、中くらい、低い」の3種類を示している。

それでは順次掲載しよう。

以上すべてASPIのデータを筆者が和訳して再作成

冒頭に書いたように、中国はアメリカにより全方位的に封じ込めを受け、ハイテクに関して次から次へと激しい制裁を受けているが、それでもここまで凄まじい競争力を持っている理由は、拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の第三章で考察した通りだ。特にp.126にある【制裁を受けても「製造大国」になった中国のからくり】に詳述した。p.120に書いた【アメリカの制裁で沈没した日本の半導体】とあわせてご覧いただくと、日本の戦略のなさとアメリカ崇拝と絶対服従がもたらした日本国民への不利益が浮き彫りになると思う。

中国を考察することにより、日本国民のために、日本政府のあるべき姿を読者とともに考えていきたい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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