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中国ネットで炎上 米ジャーナリストの「ノルドストリーム爆破の犯人はバイデン大統領」
ロシアと欧州の経済をつないでいたノルドストリーム(写真:ロイター/アフロ)
ロシアと欧州の経済をつないでいたノルドストリーム(写真:ロイター/アフロ)

米ジャーナリストによる「ノルドストリーム海底パイプラインを爆破させたのはバイデン大統領」というスクープが中国で大炎上している。対米感情の悪化も手伝っているが、習近平は今もなおプーチンとの仲を重んじている証拠だ。

◆米ジャーナリストが「ノルドストリーム爆破事件の犯人はバイデン大統領」とスクープ

2月8日、アメリカの著名なジャーナリストでピューリッツァー賞を受賞したこともあるシーモア・ハーシュ(Seymour Hersh)氏(85歳)が<アメリカは如何にしてノルドストリームのパイプラインを破壊したか>というブログを発表した。ノルドストリーム海底パイプラインとはロシアとドイツが長年をかけて築いてきたLNG(液化天然ガス)の海底パイプラインで、2022年9月26日、何者かによって爆破されてしまった。そのときバイデンは「誰がやったのかを徹底して調査し、責任を取らせなければならない」と言っている。

ところが爆破を画策し断行した犯人は、バイデン大統領その人だったということをハーシュは暴いて見せたのである。その内容は非常に衝撃的なもので、命を懸けたような気迫に満ちている。すでに多くの報道がなされているが、念のため要点のみをピックアップする。

  • ノルドストリーム海底パイプラインの爆破は、アメリカがLNGに関するヨーロッパのロシア依存を阻止するために実行した秘密作戦だった。計画は2021年後半から2022年の最初の数か月にわたって練り上げられた。
  • バイデン大統領は、ジェイク・サリバン(国家安全保障補佐官)、国務長官のトニー・ブリンケン(国務長官)およびビクトリア・ヌーランド(政策担当国務次官)等を含めた外交政策チームを立ち上げ、秘密裏にノルドストリームの爆破計画を画策していた。(筆者注:ここにあるヌーランドは筆者が2022年5月1日のコラム<2014年、ウクライナにアメリカの傀儡政権を樹立させたバイデンと「クッキーを配るヌーランド」>で書いた、あのヌーランドで、2014年当時バイデンとヌーランドは組んでウクライナの親露政権を転覆させるマイダン革命を起こさせ、親米政権樹立に奔走した。それが現在のウクライナ戦争を招く遠因になっている)。
  • 2022年3月、爆破計画チームの一部はノルウェーに行き、ノルウェー海軍と協議して、最適な爆破地点としてデンマークのボーンホルム島沖を選んだ。NATOが6月に行う軍事演習BALTOPSの際にアメリカ海軍のダイバーがパイプラインにC4爆薬を取り付け、指定時間に爆破させる方法を用いた。高度なスキルを持つ深海ダイバーは、米海軍が何十年にもわたり特訓しているパナマ・シティにあるダイビング&サルベージセンターで養成されており、C4爆薬を使用する技術に長けている。
  • こうして9月26日、ノルウェー海軍機が日常の監視飛行の振りをして、空からソノブイ(sonobuoy=水中音響信号を受信して電波で送信する航空機投下式のブイ)を投下して爆破させた。(爆破のプロセスに関しての概略引用はここまで)

ハーシュ氏はホワイトハウスが否定するだろうことを見込んでか、以下のような傍証を付け加えている。

二人とも、軽率というか無分別というか、言わずにはいられないのだろうが、今にしてみれば、良い傍証になっていると判断される。だからハーシュはわざわざ付言しているのだろう。

◆米ジャーナリストのデューガンは匿名の内部告発の手紙を受け取った

一方2月16日、別の米ジャーナリストのジョン・デューガン(John Dugan)氏は、ノルドストリーム爆破作業に従事するダイバーの動きを目撃したらしい人物から匿名の手紙を2022年10月2日に受け取ったと、News in Franceが伝えている。そこには概ね、以下のようなことが書いてある。

  • NATOの夏の軍事演習Baltops-2022には、深海設備を備えたアメリカ人の深海ダイバーが参加した。匿名の人物はこの演習に参加しており、2022年6月15日、通常の服を着たアメリカ人のグループが、演習が行われていた地域に連れて行かれたのを目撃した。 
  • 深海用の設備は、深海ダイビング用の酸素とヘリウムの混合物を備えたMK-29呼吸装置だった。ダイバーたちは、表向きは「特定の地域で地雷を一掃する」ことになったとしていたが、そのために必要な設備は持っていなかった。ダイバーたちは6時間以上不在だったが、戻ってきたとき、彼らが最初に持っていた小さな箱はもうそこになく、その後、彼らはヘリコプターで連れて行かれた。
  • デューガンは、匿名の人物が添えてきた演習の写真などから見ても、この手紙(内部告発文)は信頼に値すると書いている。(デューガンの引用はここまで)

◆中国で爆発的に広がる「犯人はバイデン大統領!」

ハーシュのスクープが報じられた翌日の2月9日、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」が<ノルドストリーム事件に関して、ワシントンは世界に説明する義務がある>という社評を載せた。社評にはハーシュのスクープの内容とともに、以下のことが書いてある。

  • ワシントンは即座にこのスクープを否定し「フェイクだ」と言ったのみだ。
  • ノルドストリームはこれまで西欧とロシアをつなぐ巨大なエネルギーの大動脈となり、共通の利益を拡大して経済繁栄に貢献してきた。それはむしろ安全保障問題を安定させる役割を果たしていた。
  • しかしアメリカはロシアや西欧が仲良く繁栄していくことが我慢ならなかった。だから民間の生活の軸になっているインフラを爆破によって破壊した。これはテロリストの行為そのもので、国際社会はこれを重視し、国際的調査を徹底しなければならない。(以上、環球時報「社評」)

同じく2月9日、中央テレビ局CCTV【24時間】という番組は<米ジャーナリストが「アメリカがノルドストリームを爆破した」と主張 ハーシュはかつて米政府の複数のスキャンダルを暴露している>というタイトルで特集報道をしている。

同じく2月9日、中国政府の通信社である「新華通信」の電子版「新華網」が「観天下」欄で<ノルドストリーム疑惑 著名なジャーナリストが「アメリカが計画し爆破した」と暴露>と報道。その中で、「ノルドストリームの海底パイプラインが爆破された時、国際調査団を組むべきだとするロシアの主張に、アメリカは『ロシアを排除して調査すべき』と主張した」、「アメリカは真相がばれるのを恐れたのだ」と書いている。

同様に2月9日、<著名な米記者が「ノルドストリーム事件は米政府によって計画された」と暴露 ロシアは「事件はなかったものとしたい西側」と非難>と報道し、2月10日には<ノルドストリーム事件の真相暴露に対して、西側はなぜダンマリを決めているのか>と、休むことなく報道が溢れた。

枚挙にいとまがないが、2月10日の中国外交部の定例記者会見でも、多くの記者からハーシュのスクープに関する質問が出ている。西側が、この大きなスクープに関して「聞いていない」ような振りをして無視しているが、そのことをどう思うかといった質問が目立つ。

これは中国のネット界における疑問と非難に共通しており、10億人もいる中国のネットユーザーたちは同様に炎上した。若者が多いためか新華網は、イラスト付きでノルドストリーム爆破全過程を報道した。その中で「アメリカのLNG輸出は1年前の154%増に至っている」と解説している。末尾にはヌーランドの発言があるが、その「生の声」は、この動画で聞くことができる(0:55辺り)。米議会公聴会でヌーランドは“Like you, I am, and I think the administration is, very gratified to know that Nord Stream 2 is now, as you like to say, a hunk of metal at the bottom of the sea.”(ノルド ストリーム 2 が今、海の底に沈む金属の塊になってしまったことを知って、私同様、行政は非常に満足していると思います)と語っている。

◆中国のロシアに対する姿勢が見えてくる

これらのことから何が見えてくるかというと、中国のロシアに対する姿勢だ。習近平のプーチンに対する思惑は、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で書いた「軍冷経熱」という姿勢とまったく変わっていない。自国にも少数民族がいるので、それを理由に他国に侵略するという軍事行動には賛同できないが、ともにアメリカによって潰されようとしている国同士という意味においては、プーチンに頑張ってほしいと習近平は思っている。

昨年9月の中央アジアにおける上海協力機構会議での習近平のプーチンに対する態度が冷淡だったと日本の一般メディアでは言われているが、拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第七章 習近平外交とロシア・リスク】で書いたように、あれは二人が一芝居を打ったに過ぎない。会議後の懇談会に二人とも欠席し、こっそり二人で密会していた。

このことは2月20日公開の週刊『エコノミスト』オンラインの<習主席は台湾の“和平統一”のために停戦調停へ乗り出すか>でも書いた通りだ。

習近平がプーチンに対してどう動くか、今後も注視したい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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