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米シンクタンク「中国が台湾武力攻撃したら中国が負ける」に潜む罠
中国軍の上陸想定 台湾軍軍事演習(写真:ロイター/アフロ)
中国軍の上陸想定 台湾軍軍事演習(写真:ロイター/アフロ)

米国の戦略国際問題研究所は1月9日、中国が台湾を武力攻撃したら中国が負けるという結果を発表した。それに対して台湾は「負ける方向に強引にシミュレーションを持って行っている」と報道。そこに潜む罠とは?

◆戦略研究所のシュレーション「台湾を武力攻撃すれば中国が負ける」

2023年1月9日、米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies=CSIS)」は<中国が2026年に台湾を武力攻撃した際のウォーゲーム(机上演習)の結果>(以下、シミュレーション)を公表した。詳細はこのページの「リポートをダウンロード」をクリックすると見ることができる。リポートは160ページに及ぶ長文なので詳細は省くが、どうやら「米軍が参戦した場合、中国は早期の台湾制圧に失敗するが、在日米軍や自衛隊の基地が攻撃され、日米も多数の艦船や航空機を失うことになる。したがって、日本が中立を保って米軍基地使用を認めなければ、台湾側が中国に敗れるということになる」ということが言いたいようだ。

シミュレーションの冒頭には以下のようことが書いてある。

  1. CSISはシミュレーションを24回実行した。ほとんどのシナリオで、米国/台湾/日本は中国による従来の水陸両用侵攻を打ち負かし、台湾の自治を維持した。
  2. しかし、この防御には高いコストがかかる。
  3. 勝利だけでは十分ではなく、アメリカは直ちに抑止力を強化する必要がある。

シミュレーションはさらに、「ウクライナ戦争では、米国とNATOは直接戦闘に部隊を派遣していないが、大量の装備と物資をウクライナに送っている。ロシアはこの流れを阻止することができなかった。しかし、台湾では中国が阻止するので、ウクライナ・モデルを再現することはできない。台湾は必要なものをすべて予め保持して戦争を始めなければならない」としており、加えて「米国は、日本国内の基地を戦闘行為に使用できるようにしなければならない。勝敗は日本が要(かなめ)となる。在日米軍基地の使用なしには、米国の戦闘機・攻撃機は効果的に戦争に参加することはできない」としている。

要は「台湾は米国から武器を沢山購入なさいね」と言っているのであり、日本にも「米国の戦闘機・攻撃機を大量に購入すべし」と言っていることが分かる。

◆中国(大陸)の反応

このシミュレーションに対して、環球時報は1月12日、台湾メディアを引用して<米シンクタンクがウォーゲームで戦争を誘う 海峡両岸は騙されない>という報道をしている。引用しているのは1月10日の台湾中時新聞網。環球時報は以下のように述べている。

――このたび米国戦略国際問題研究所は、米国の軍事的圧力の結果を発表した。2026 年の人民解放軍による台湾への攻撃は「失敗に終わる」と想定しているが、そのためには「台湾軍は発生源を攻撃する能力を持っている」、「米国は直ちに介入しなければならない」、「米軍が多数の対艦ミサイルの配備を完了している」、「日本のすべての基地を使用できる」という4つの前提条件を満たしていなければならないとしている。しかし、これらの前提をすべて満たすことは困難で、依然として「台湾への武器売却」と切り離すことはできず、「日本を直接戦争に引きずり込むこと」とも切り離すことができない。

米国が台湾に武器を提供したとしても、台湾の人々はそれを支払う必要がある。日本はかつて中国を侵略し台湾を植民地化したが、日本が介入すれば、中国人の新旧の憎しみと、戦争への怒りを呼び起こすだろう。

蔡英文と民進党当局は、本土(大陸)が現状を変えていると主張しているが、実際に現状を変えているのは彼らだ。海峡両岸は一つの中国の原則の下、半世紀にわたって平和を維持してきた。しかし、民進党政権は「台湾独立」路線をとり、若い世代に中国本土を憎むように扇動し、台湾の歴史を歪曲し、日本の植民地主義を美化している。米国は戦争へと仕向けるためのプロパガンダをやっているに過ぎない。われわれは騙されない。

◆台湾の反応

このシミュレーションに関して、台湾では多くの番組が特集を組んでいる。その中の一つで、1月11日に報道された番組をご紹介しよう。国民党的色彩を帯びているテレビ局ではあるが、番組のコメンテーターは以下のようなことを語っている。

  1. シミュレーションは24回行っており、そのうち19回は「米日台」側が負けているのに、なぜか平均して「米日台」側が勝ったことになっている。
  2. 私の2人の友達がウォーゲームに参加したが、彼らがこれは「結論ありきのシミュレーションで、その結論に誘導するようにしている」と言った。それが嫌になってチームから抜けた。
  3. そもそもシミュレーションの前提条件が間違っている。第一の前提条件は日米の軍隊が戦争勃発後すぐ介入するように設定しているが、日米ともに参戦するには国会・米議会の承認が必要で、即時参戦は不可能だ。
  4. さらに、日米介入の理由を作る目的で、中国が台湾攻撃のために先ず沖縄やグアムの米軍基地へ先制攻撃をするように設定しているが、中国は日米参戦の口実を与えないことを大前提に動くので、この前提条件も現実的でない。
  5. そもそも中国が軍事攻撃をする場合、実際に発生する可能性が最も高いのは、中国人民解放軍による台湾封鎖だ。それなのにシミュレーションは、この実現可能性が最も高い「台湾封鎖」を想定していないので、非現実的だ。
  6. 第二の前提条件として、アメリカが十分のLRASM(長距離対艦ミサイル)を配備することを想定している。しかしアメリカのLRASMは主として航空機から発射するもので、もし中国が沖縄やグアム島の米軍基地を先制攻撃して大量の航空機を破壊しているのだとしたら、発射できないことにつながるので、前提条件が矛盾していて、強引だ。
  7. シミュレーションでは中国が米軍空母2隻を破壊する結果になっているが、空母1隻に5000人の乗員がいるので、米軍の総死亡者が、たったの3200人という結果と矛盾している。
  8. 第三の前提条件は、台湾軍が解放軍の上陸作戦を阻止することができるとなっている。その際、なぜ台湾兵士は3500人しか死亡(シミュレーションでは犠牲)していないのか?解放軍が上陸作戦して、橋頭堡を確保することができず、そのまま戦争が終わるとなっているが、そのようなことはあり得ない。
  9. 解放軍は東部戦区のみ参戦し、米日台連軍と戦闘して、1万人の死者を出して戦争はそのまま終わるとなっているが、中国のことを何も理解していない。朝鮮戦争では諸説あるものの20万人が戦死している。1万人の死亡など、始まりに過ぎない。
  10. アメリカがLRASMで東部戦区の138隻の揚陸艦や駆逐艦を全部撃沈したので、上陸した解放軍に補給できず解放軍は敗戦したとある。中国の命運をかける戦争に、東部戦区だけが参戦して、北部戦区と南部戦区が支援しないということなどあり得ない。北部戦区や南部戦区を外したのはなぜか?
  11. このシミュレーションは第1回の攻撃しか想定していないが、台湾の漢光シミュレーションでは、中国の軍隊が少なくも9回の攻撃をしてくると想定している。
  12. なぜロシアや北朝鮮の介入を全く考えないのか?
  13. 中国の解放軍が台湾を包囲封鎖したら、12日間経過後には台湾は停電しはじめる(筆者注:台湾のエネルギー資源のほとんどは輸入に依存しているから)。となると、世界経済に大きなダメージを与えることになる、関係国は中国と交渉したいと言い出すだろう。そもそも海上封鎖は日米軍事に介入の口実を与えない。(筆者注:ペロシ元下院議長の台湾訪問の時のように中国が台湾を包囲封鎖する状況を指している。)

◆シミュレーションは米軍兵器を購入させるための罠か?

これまでアメリカはランド研究所などを中心に台湾有事のシミュレーションを行ってきたが、何れも米軍が敗北するという結果が出ていた。

このたびのCSISのシミュレーションが2023年1月9日に公開されたところを見ると、これは「日米2+2」や「岸田首相のG7メンバー国歴訪」に向けて発表されたことは明らかだろう。特に日本では安保3文書が閣議決定されたし、防衛費増額も喫緊の課題となっている。

そこで、「アメリカは何とかギリギリ勝利できるが、しかし勝利のためには、日本は米国との軍事協力を深め、米軍の対艦ミサイルなどの購入を加速し、防衛費を増強する必要がある」ということを日本に迫る材料とするために、このようなシミュレーション結果を強引に引き出したものと判断される。

日本が独自の軍事力を高めることは悪いことではないが、しかし、戦争に引き込まれることを前提としたアメリカの誘導には警戒すべきではないだろうか?

失うのは日本国民の命であることに注目したい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(2022年12月中旬発売。PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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