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中国はなぜ国外産ワクチンを使用しないのか?
コロナ・ワクチン(写真:ロイター/アフロ)

中国がコロナ・ワクチンに関して国内産しか使わず国外産を購入しないのは、習近平の独裁やメンツのためだという批判が多い。しかし中国がもし国外産のワクチンを購入したら、中国の国家財政は短期間で破綻する。

◆中国国内産のワクチンの価格

ワクチンの価格は一般にあまり公開しないが、コロナが伝染し始めた2020年12月19日の北京日報のWechat公衆号の記事によれば、中国国産ワクチンの1回当たりの経費は200元(現在のレートで3890円)だった。

中国のワクチンは基本的にウイルスを無毒化した「不活化ワクチン」で、製造会社は、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)、中国医薬集団(シノファーム)、康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)(ウイルスベクター型)の3社が中心となっている。

2022年4月2日の報道 によると、その後、生産能力の向上や需給のバランスなどにより、価格を引き下げることに成功し、1回の不活化ワクチン接種に要する費用は90人民元(1700日本円)→40人民元(756日本円)→20人民元(378日本円)と廉価になっていったという。

2022年3月31日までのデータで、延べ32.7億回の接種が行われているが、その経費は約1200億人民元(2.27兆日本円)で、いずれも国(医療保険基金と財政部)が負担している。1回の接種経費は、これまでの価格を平均しても、36.7人民元(694日本円)程度になる。 

◆国外産のワクチンを購入した場合の価格

一方、国外産のワクチンを中国が輸入した場合に、接種1回につき、いくらになるかを計算してみたい。現在のところ(一部の例外を除くと)、中国はまだ国外産のワクチンを輸入していないので、E Uやアメリカ政府に対する販売価格から推測する以外にない。そこで、価格市場レポートなどを出している36氪研究院に書いてあるデータを参照したい。

それによれば、国外産は基本的に(特定のウイルスに対する抗原を含む様々なタンパク質を発現する)メッセンジャーRNA(mRNA)で、大きく分けてファイザーやモデルナなどがあり、ワクチン接種1回につき販売する価格は、

     ファイザー:19.5ユーロ(約2700円)(対EU)

          :30.50ドル(約4000円)(対米)

     モデルナ:21.5ユーロ(約3000円)(対EU)

となっている。

但し、2022年10月27日の環球時報の報道によれば、アメリカのファイザー社は先週、米国政府の調達計画が期限切れになったあと、ファイザーのワクチン価格を「1回の接種につき、110ドル(14600日本円)~130ドル(17200日本円)に値上げする」と発表したとのこと。これは現在の価格のおよそ「4倍」になるという。

この値から逆算すると、現時点でアメリカ政府への販売価格は「110ドル~130ドルの1/4」=「27.5ドル(3700日本円)~32.5ドル(4300日本円)」前後であるということになる。

このようにEUやアメリカ政府に対して販売する時の価格を算出したところで、もしも「中国に輸出する」となると、事情は変わってくる可能性がある。

事実、台湾に対して販売する時には5351万回分の(複数国で共同購入し、公平に分配するための国際的な枠組みCOVAXファシリティを通して購入した)ワクチンに対して、70億台湾ドル(300億日本円)も欧米より高く売られている(1回接種につき、563円もボラれたという計算になる)。

したがって中国大陸への販売価格は欧米より、さらに高くなる可能性も十分にあるわけだ。仮に4000円だとしても、中国国産の20元(378円)に比べて、10倍以上の価格になる。今後、ファイザーなどの価格が4倍に跳ね上がる見込みだとアメリカは発表しているので、国外ワクチン価格は国内産ワクチンと比べて40倍以上に高騰するという可能性がある。

おまけに、ワクチンはただそれを購入すればいいというものではなく、超低温を保ったまま運搬するという運搬費用も計算の中に入れておかなければならない。この経費を積み重ねると、国産ワクチンと比較して国外産ワクチンは50倍以上の費用が掛かることになるだろう。

ワクチン接種にかかる経費はもちろん国が負担する。

2022年の中国の国家予算は総額で約400兆日本円なので、ワクチンを数回打つうちに、国家財政が破綻することにもなり兼ねない。

◆国内外産ワクチンの価格と国家財政に占める割合

そこで必然的に計算しなければならないのは、中国にとっての国内外産ワクチンの経費と、それが国家財政の中で占めるパーセンテージである。それらを下記の図表を作成してお示しする。馴染みやすいよう、すべて日本円に換算した。

図表:中国産ワクチンと国外産ワクチンの価格比較表

筆者作成

ワクチンは1回接種すればいいわけでなく、数回の接種が必要となる。

そこで一応、1~3回接種の場合を個別に計算して示してみた。

「黄色が1回」、「ピンクが2回」、「ブルーが3回」だが、コロナ感染が消えるまでには4回、5回・・・と回数を重ねていかなければならない。値上げ後のファイザーワクチンを想定した場合、3回接種しただけで国家予算の18.16%を占め、これにさらに保存するための超低温設備設置やその運搬経費などを加算すると、3回接種だけで国家予算の25%(4分の1)くらいを占めることになる。

それだけではない。

たとえば日本の国外ワクチン購入価格2700円を例に取ってみるならば、実際は2700円(ワクチン購入価格)+3700円(配送保存接種の人件費など)=6400円(ワクチン接種1回に日本政府が支払った費用)もかかると、日本の財務省は説明している。購入価格の約2.4倍だ。これを中国でファイザーを3回接種した場合に置き換えて計算すると、膨大な経費になることは容易に想像がつく。

特に中国に対しては、さらなる高価格でしか売らないだろうことを考えると、4回か5回接種しただけで国家財政はゼロになり、国家は破綻する。

◆習近平がメンツのために国外ワクチンを購入しないと燥(はしゃ)ぐ日本メディア

このような事実も知らずに、中国問題の「専門家」と自称する人たちや「評論家」は、中国が国外産のワクチンを購入しないのは「習近平がメンツを重んじて、独裁を強化するためだ」と大合唱だ。

ほんのわずかでも頭を使って、ワクチン価格を計算し、中国の真相に迫ろうとする者は一人もいないと言っても過言ではないだろう。

中国が国外産ワクチンを購入しないのは「習近平の独裁を保つため」で、「メンツを重んじた習近平が国外産ワクチンを購入しないために自滅する」と声高に批判して、それがまた日本人に受ける。

日本のメディアは「日本人に受ける報道」しかしないので、こうして「日本人のための、日本人が喜ぶ中国論」が、日本という閉じた空間の中でのみ通用し、世界を見る目を自ら奪っているのである。

「習近平のメンツ」という言葉を発するのには、いかなる努力も要らない。

頭を使う必要もない。

真相を究めるための、この膨大な時間と精神力も必要としないので、安穏(あんのん)と暮らしていることができるだろう。

しかし、真に頭脳を使おうとする人なら、ここで、ある疑念が湧き上がるはずだ。

あれ?

待てよ―――。

ならば日本は国産ワクチンさえ生産してないのではないのか?

なぜだ?

この疑念が湧いてこそ、真に日本の国民に利する思考へと、われわれを誘(いざな)っていく。

こういった姿勢に立って執筆したのが『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』だ。どんなことがあっても真相を見極めてやるという根性からファクトに迫っていったので、習近平が中国をどのような方向に持って行こうとしているか、党幹部人事の舞台裏を含めて理解できるはずだ。

1回のコラムで何もかも書くのは不可能なので、今回は中国のワクチンに関して、一応ここまでに留める。中国のワクチン接種率や中国が世界で初めて「吸入するワクチン開発に成功した」ことや「独自にmRNAワクチンを製造した」ことなどに関しては、別の機会に考察したい。

なお、中国がゼロコロナ政策を「解除」したら、数百万人を下らない死者(3ヵ月で160万人)が出ることに関しては、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の第五章で詳述した。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(2022年12月中旬発売。PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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