12月7日からサウジを訪問した習近平は湾岸協力会議やアラブ諸国首脳との会議に出席し、人民元決済に意欲を示した。これで習近平は上海協力機構、BRICS、ASEANやアフリカだけでなく中東をも引き寄せたことになる。
◆サウジアラビア、習近平への破格の歓迎
12月7日、習近平が乗った専用機がサウジアラビア(以下、サウジ)の領空に突入すると、サウジ空軍の戦闘機4機が護衛のため離陸した。 専用機がサウジの首都リヤド上空に入った瞬間、今度は6機の「サウジ・イーグル」護衛機が習近平の専用機に同行した。
習近平がリヤドのキング・ハーリド空港に到着すると、空港では 21 発の敬礼が鳴り響き、サウジ護衛機が空中に中国国旗を象徴する赤と黄色の帯模様を描いた。習近平がタラップを降りると、紫色の絨毯の両側に儀礼の兵士が並び、中国とサウジの国旗をはためかせた。リヤド州知事、ファイサル外務大臣、中国担当大臣、その他の王室の主要メンバーと政府高官が出迎えた。
護衛機の模様は、こちらの動画で見ることができる。
今年7月にバイデン大統領がサウジに着いた時は、駐米サウジ大使や州知事だけでタラップを降りた後も閑散としていたことと比較して、台湾のネットテレビは「大笑い」している。特にカービー報道官が記者団に対して、「中国は国際的なルールに基づく秩序の維持に資しない方法で中東における影響力のレベルを深めようとしている」=「中国は中東に影響力を与えることによって国際秩序を乱している」と述べたとして、番組では「アメリカの利益を損ねただけで、別に国際秩序を乱してはないんじゃないか」と皮肉っている。
バイデンはサウジに石油の増産を頼んだが、サウジは逆に激しい減産を決定したので、アメリカの影響力が損なわれていることへの苛立ちはあるだろう。
◆中国・サウジ間の包括的戦略パートナーシップ
8日はサルマン国王と会い、両国間における包括的戦略パートナーシップ協定への署名を行い、2年ごとに首脳会談を実施することで合意した。その後、習近平はムハンマド皇太子とともに、12件の2国間協定・覚書の締結に立ち会った。主な内容には以下のようなものがある。
- サウジアラビアの「ビジョン2030」と中国の「一帯一路」構想との協調計画。
- 両国間の民事、商業、司法支援に関する協定や直接投資奨励の覚書。
- 中国語教育への協力に関する覚書。
その他、Saudi Press Agencyの報道によると、サウジと中国の会社は34の投資協定にサインしている。デジタル経済や情報通信技術分野を含み、ファーウェイ製品を使うことも約束されている。
◆石油人民元決済の展望
9日、習近平はリヤドで、湾岸協力会議首脳やアラブ諸国首脳との会議に出席した。中国と湾岸諸国やアラブ諸国とのサミットは初開催だ。
湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council=GCC)とは、1981年に設立された中東・アラビア湾沿岸地域における地域協力機構で、加盟国は「バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、およびアラブ首長国連邦(UAE)」の産油6カ国である。
アラブ諸国とは、イスラム教の聖典に基づきアラビア語を話す人々が住む国々のことで、アラビア半島全域(サウジアラビア、UAE、カタール、オマーン、イエメン・・・)とイラク、シリア、レバノン、パレスチナ、ヨルダン、エジプト、スーダン、リビア、アルジェリア、チュニジア、モロッコ、モーリタニア・・・などが含まれている。区域は重なっているが、これら一帯の国々だ。
注目すべきは、習近平がそれらを代表する国々の首脳との会談で、「中国は今後 3 年から5 年で、湾岸諸国と次の重要な協力分野で努力する意向がある」と前置きして、「上海石油ガス貿易センターのプラットフォームなども十分に活用しながら、石油や天然ガス貿易の人民元決済を展開したい」と述べたことである。すなわち、中国がエネルギーを輸入する際に人民元建ての取引を広げたいとの意欲を表明し、参加者の賛同を得たのだ。
サウジとは個別に中国浙江省義烏市との間で初の「クロスボーダー人民元決済」業務が完了している。
2021年末までのデータで、中国人民銀行は40ヵ国や地域と通貨スワップ協議をサインしており、25ヵ国や地域で27の海外人民元清算銀行を設立している。拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で詳細に論じた事実も踏まえ、新たなニュースも加味した上で、中国との間で「人民元決済」を進めている主たる国々や対象などを列挙すると、以下のようになる。
図表:人民元決済の情況
◆世界を引き寄せる習近平
拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第七章 習近平外交とロシア・リスク】で詳述したように、習近平はウクライナ戦争後、ロシアのウクライナ侵略を快く思っていない中央アジア諸国の集まりである上海協力機構会議で習近平を中心に動くことに成功し、その後のBRICS拡大会議では、BRICS共同宣言において、プーチンが核を使えないように足枷(あしかせ)を嵌(は)めた。
だからこそ、ドイツのショルツ首相が11月4日に訪中して習近平に会い、11月14日にシンガポールに行ってリー・シェンロン首相と会った後に、記者会見で「中国経済をディカップリングすべてきではない」と宣言したのである。この時点ですでに、習近平念願の「中欧投資協定」への復帰が予測されていたが、12月1日に欧州議会のミッシェル大統領が訪中して、「中欧投資協定」交渉再開への鐘を鳴らした。ウクライナ侵略を始めたプーチンへの制裁が、欧州諸国に跳ね返り、欧州経済を危機に追いやっていることも、習近平には利している。
11月14日から19日まで出席したインドネシアのバリ島におけるG20やタイのバンコクで開催されたAPEC首脳会談においては、まるで習近平に対する朝貢外交のような、各国首脳との会談が展開された。
中国がアフリカと深くつながっているのは、周知の事実だ。
特にトランプ政権において激しく露呈した黒人への人種差別により、アフリカ諸国は習近平政権に、これまで以上に接近した。
そこに、今般の湾岸諸国やアラブ諸国との戦略的パートナーシップが加わり、習近平外交は、ウクライナ戦争により、したたかさを一層発揮している。
そこでバイデンは習近平に対抗すべく、12月13日からワシントンで「米アフリカ首脳会議」を開催する。アメリカは今後3年間で総額550億ドル(7兆5700億円)の支援をアフリカにするそうだが、さて、お金でアフリカの人々の自尊心を「買う」ことができるのか。
米中の覇権争いは続くだろうが、「漁夫の利」の間で動く国々はまだいいとして、日本のように、実際に戦争に巻き込まれるのだけはごめんだ。
いったい誰が戦争をさせたがっているのか、真相を見る確かな目を、日本人は持たなくてはならないだろう。
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