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中露首脳の「安倍氏訃報」への反応と取材から見える日本の立ち位置
安倍元首相の逝去に対し、海外でも哀悼の意(写真:ロイター/アフロ)
安倍元首相の逝去に対し、海外でも哀悼の意(写真:ロイター/アフロ)

安倍元首相の訃報を受け、習近平国家主席や李克強首相あるいはプーチン大統領などがそれぞれ弔電を送っている。取材による生の声を含め、そこから見える今後の日本の立ち位置を考察する。

◆習近平国家主席からの弔電

7月9日、習近平国家主席は岸田首相宛に弔電を送った。弔電の内容に関して中国外交部は以下のように報道している。

――2022年7月9日、習近平国家主席は安倍晋三元首相の逝去にあたり、日本の岸田首相宛に弔電を送った。習近平は中国政府と中国人民および(習近平)個人の名において、安倍晋三元首相が襲撃に遭い、不幸にも逝去したことに心からの深い哀悼の念を表すとともに、安倍晋三元首相のご家族に心からの弔問を表したい。

習近平は「安倍晋三元首相は、その任期の間、中日関係を改善するために絶え間なく努力し、大きな貢献を果たした。私はかつて彼と新時代の求めに応じた中日関係を築き上げていこうという、重要な共通認識を持つに至った。彼が突然逝去したことが惜しまれてならない。私は(岸田)首相とも同じように、中日間の四つの政治文書によって確立した各種の原則に基づいて、中日隣国友好協力関係を継続的に発展させていくことを望む」と述べた。

同日、習近平主席と彭麗媛夫人は、安倍晋三元首相の安倍昭惠夫人に対しても哀悼と弔問の意を表した弔電を送った。

◆李克強首相からの弔電

これに関しては新華網の日本語ウェブサイトが7月10日に<李克強総理、日本の岸田首相に弔電 安倍元首相の死去受け>というタイトルで報道しているので、それをそのまま書き写す。

――中国の李克強(り・こくきょう)国務院総理は9日、日本の安倍晋三元首相の死去を受け、岸田文雄首相に弔電を送り、深い哀悼の意を表した。

李克強氏は弔電で次のように述べた。安倍晋三元首相はかつて中日関係の改善と発展の推進に積極的に貢献した。安倍氏とは何度も会談し、両国関係の促進について有益な交流を行った。岸田首相との意思疎通と対話を強化し、中日関係の持続的かつ健全で安定した発展を推進していきたい。(引用ここまで)

習近平が9日の12時頃にに弔電を送ったので、李克強は一歩下がって同日の20時頃に送るという細かい心遣い(党内序列によるルール)がそこにはある。

二人とも岸田首相の下で、「中日関係の持続的な発展を推進していきたい」と最後に述べていることに、注目したい。それはある意味、アメリカとともに対中包囲網を築くため、NATO首脳会談にまで出席した岸田首相への牽制(けんせい)であると解釈した方がいいだろう。

◆プーチン大統領からの弔電

プーチン大統領による弔電に関しては原文がロシア語しかないが、友人にお願いして和訳してもらったところ、以下のような内容だった。

===

安部洋子さん

安部昭恵さん

ご子息でありご主人である安倍晋三氏のご逝去に、深くお悔やみ申し上げます。日本政府を長く率い、(日露)両国の善隣関係の発展に尽くした偉大な政治家が、犯罪者の手によって殺されてしまった。私たちはShinzoと定期的に連絡を取り合い、彼の優れた人間性とプロフェッショナルな資質が十分に発揮されていることを確認した。この偉大な人物に対する祝福された記憶は、彼を知るすべての人々の心の中に永遠に残ることでしょう。

このかけがえのない、大きな喪失に直面したとき、あなたとあなたのご家族が不屈の精神と勇気を発揮されることを祈ってやみません。

===

非常に顕著に習近平や李克強と異なるのは、岸田首相宛には出してないということだ。安倍元首相のご母堂および夫人にのみ出しているのは、二つの意味があるだろう。

一つは「プーチン・安倍会談」は27回にもわたって行われているので個人的に非常に親しいということで、もうひとつには、岸田首相はバイデン大統領の尻馬に乗って対露制裁をするだけでなくNATO首脳会談にまで出席し、ロシアに対する徹底した批判を強化しているので、そのような人物は認めないという強烈なシグナルの発信であると解釈できることだ。

◆中国政府元高官の生の声

すでに高齢の中国政府元高官を取材した。このたびの訃報を受けて、どう思うかを聞いたところ、以下のような回答が戻ってきた(中国の習慣で、一般に名前に敬称を付けず、習近平に対しても「習近平」としか言わないので、安倍氏にも敬称を付けずに回答したが、ここでは、こちらで「氏」を付けて以下に記す)。

――あれだけ治安の良い日本で、こんな事件が起きるなんて考えられないことだ。安倍氏以上に力のある政治家は今の日本にはいないので、あまりに惜しい。彼は中日友好にも貢献しているので、残念でならない。

しかし、一方では安倍氏は憲法改正に力を入れていたから、今回の事件が憲法改正の方向に動いて、3分の2以上の国会議員が賛同するというところに選挙が動いていくかもしれないと懸念される。

昔の日本はアジアで最も経済的に繁栄していた国だから精神的にゆとりがあったが、経済が衰退し始めてからは反中精神が強まっている。アメリカも中国に追い越されてはならないとして台湾問題を煽り、なんとか中国を怒らせようとしている。つまりウクライナと同じで、なんとか戦争に持っていこうとしているのだ。それに乗っかって、日本では「台湾有事は日本有事」と言うようになり、国防予算を増やそうとしているが、それって、日本国民のためになると思うのだろうか?

なぜ、日本国民の日常生活を豊かにすることに重点を置かないのだろう?

日本国民の幸せは、戦場に行くことではなく、経済的に豊かになることではないのか?

どんなに国防費を増やしても、アメリカは中国に上陸して戦うわけではないから、戦うのは日本人だということになる。日本人は死にたいのか?国のために命を捧げる勇気を本当に持っている日本人がどれだけいるだろう?

しかし、今回のような事件が起きると、日本人は選挙行動で、憲法改正や国防費増大を掲げる政党に、より多く投票するようになるかもしれない。

安倍氏の逝去は、残念でならないが、このような事件で亡くなったことによって、日本全体が、日本国民に幸せをもたらす道ではない方向に進みはしないか、それが心配でならない。(回答、ここまで。)

◆「モスクワの友人」などからの生の声

今般の不幸に関して「モスクワの友人」や、筆者が所属するシンクタンク・中国問題グローバル研究所のロシア関係研究員などを取材した。その結果、以下のような生の声を得ることができた。

――ちょうど、イギリスのジョンソン退陣と同じタイミングでしたので、非常に好対照でした。安倍さんの功績や、信念ある政治家で愛国者だと讃える人、あるいは世界のどのリーダーとも渡り合える人脈を持っていた人物だったと、安倍さんに対する評価は極めて好意的で、逝去を惜しむ声が多いです。

日露首脳会談は何度もありましたが、最も印象的だったのは2014年のソチ・オリンピック開会式出席で、G7リーダーがみな欠席する中、「北方領土の日」の式典に出席し、その足でギリギリ、ソチの開会式に間に合いました。実は、習近平は先乗りしていたのですが、習近平のための宴会はなく、安倍さんには翌日プーチンの別荘で昼食会が開催されました。今では考えられない「ロシアから見る日本と中国の格」の違いで、ベテラン政治家安倍さんの面目躍如のシーンでした。

ほかにもクリミア併合以後、オバマが制止しても、安倍さんは果敢にロシアを訪問しプーチンと会いました。そのためロシアでは「勇気ある政治家」との印象が強いです。それだけに、彼に代わる優れた政治家は、もう日本にはいないのではないかという疑問を多くのロシア人が抱いており、安倍さんを慕う気持ちと同時に、安倍さんの逝去に対して深く哀しみ、日本に失望している人が多いです。(回答ここまで)

シンクタンク関係者からは以下のような通知もあった。

  • ペスコフ大統領報道官は「今回の事件を強烈に非難する。安倍氏は日本国の国益は守ったが、しかしプーチン氏との交渉を好んだ。プーチン氏とは、とても良好で建設的な関係を築いた」と評価している。
  • ラブロフ外相はインドネシアで開催されたG20外相会合で会議中に安倍氏の襲撃事件を知り、日本の外相に遺憾の意を表明した。
  • ロシアのザハロワ報道官は「安倍氏は、あらゆる分野でロ露関係の発展に計り知れない貢献をしてきた」と評価している。(通知、ここまで)

ワシントンやニューヨークにいるアメリカの研究者からは、「日本は核装備をすべきだ」という意見が多かった。

中共中央が管轄する中央テレビ局CCTVは、7月9日、安倍元首相の訃報に関する特別番組を組んで、長時間にわたって、あらゆる角度から分析し報道した(接続が不安定なためにリンク先の列挙は控える)。

筆者が接触した少なからぬ海外の元要人や研究者の中で、ロシア以上に「熱い思い」で安倍元首相を慕い、痛恨の極みを以てその逝去を悲しんでいる国はなかったという印象を持った。

これらの事実をどのように活かしていくかは、岸田政権次第だろう。

安倍元首相のご冥福を、心から祈る。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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