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中露首脳電話会談のロシア側発表から読み解くプーチンの思惑と現状
プーチン大統領(写真:代表撮影/AP/アフロ)
プーチン大統領(写真:代表撮影/AP/アフロ)

中露首脳電話会談を、ロシアが正式発表した内容から読み解き、プーチンの思惑と現状を、ロシアのエネルギー資源輸出に関するフィンランドの研究所のデータを参考にしながら考察してみたい。

◆6月15日の中露首脳電話会談に関するクレムリンの公式発表

6月15日に行われた習近平プーチン電話会談に関する中国側の公式発表に関しては、6月16日のコラム<習近平プーチン電話会談が暗示する習近平の恐るべきシナリオ>に書いたが、クレムリン発のロシア側発表は、中国外交部発表とかなり異なる。そこから見えてくるプーチンの思惑と現状を分析したい。

まずは6月15日にクレムリンのロシア大統領府が公式に発表した会談内容を見てみよう。全文を和訳してみたので、それを以下に記す。

―――

両首脳は、ロシアと中国の関係は空前無比の高レベルにあり、絶えず改善されていると言明した。彼らは、すべての分野で包括的なパートナーシップと戦略的協力を一貫して深めたいという彼らの願望を確認した。

両首脳は貿易と経済協力の現状と展望を詳細に検討し、この協力の量は2022年末までに記録的なレベルに達すると予測した。西側の非合法な制裁政策のために複雑化した世界経済の状況を考慮した上で、エネルギー、金融、産業、輸送、および 他の分野における努力を拡大していくことで合意した。両首脳はまた、軍事的および軍事技術的関係のさらなる発展の問題に関しても触れた。

国際舞台での状況を議論した際に、ロシアと中国は、以前と同様に、同じまたは非常に近い立場から行動し、国際法の基本原則を一貫して守り、真に多極的で公正な国際システムの構築に努めることを強調した。彼らは、調和を強化する互いの準備ができていることを確認し、国連を含む様々な多国間フォーマットにおける相互支援を確認した。 彼らは、上海協力機構(SCO)とBRICS内での共同作業の重要性、特に、中国が議長国として6月23〜24日に主催するBRICSサミットに関連して強調した。

ウラジミール・プーチンは、ウクライナの状況と特別軍事作戦中に解決された課題についての彼の原則的な所見に関して概説した。 中国の国家主席は、外力によって引き起こされた安全保障への挑戦に直面して、ロシアの基本的な国益を保護するためのロシアの行動の正当性を指摘した。

国家元首レベルおよび様々な行政省庁レベルの両方を通して二国間連絡を継続することが合意された。会話は伝統的に温かくフレンドリーな方法で行われた。

(引用ここまで)

 

◆中露で発表内容が異なる点

中露で発表内容が異なる点を見ることによって、中国は何を言いたくないか、何を言いたいのか、あるいは逆にロシアは何を言いたくなくて何を言いたいかが見えてくる。その差異によって、滅多に外には出てこないプーチンの思惑を浮かび上がらせようと思う。

A.中国側発表になくてロシア側発表にある文言

  1. 軍事的および軍事技術的関係のさらなる発展の問題に関しても触れた。
  2. 中国が議長国として6月23〜24日に主催するBRICSサミットに関連して強調した。
  3. ウラジミール・プーチンは、ウクライナの状況と特別軍事作戦中に解決された課題についての彼の原則的な所見に関して概説した。 中国の国家主席は、外力によって引き起こされた安全保障への挑戦に直面して、ロシアの基本的な国益を保護するためのロシアの行動の正当性を指摘した。
  4. 国家元首レベルおよび様々な行政省庁レベルの両方を通じて二国間連絡を継続することが合意された。会話は伝統的に温かくフレンドリーな方法で行われた。

B.ロシア側発表になくて中国側発表にあるもの

  1. 黒河-ブラゴヴェシチェンスク高速道路橋が開通し、両国間の往来の新しい道を切り拓くことができた。
  2. 習近平主席の強力なリーダーシップの下、中国は目覚ましい発展を遂げ、ロシア側は心からのお祝いを表明する。
  3. ロシア側は、中国側が提案した世界の安全保障イニシアチブを支持し、いかなる勢力が、いわゆる新疆、香港、台湾などの問題を口実に、中国の内政に干渉して来ようとも、それに反対する。
  4. 習近平は強調した:中国は常にウクライナ問題の歴史的経緯と理非曲直(りひきょくちょく。道理に合っていることと合っていないこと)からスタートし、独立して自主的な判断を下し、積極的に世界平和を促進し、グローバル経済の秩序と安定を促進する。すべての関係者は、責任ある方法でウクライナ危機の適切な解決を推進しなければならない。中国はそのため、引き続きそのあるべき役割を果たしていきたいと思っている。

AとBの違いから以下のようなことが見えてくる。

  • Aの1と3から見えるもの:習近平は「軍事」に関してはプーチンと距離を置きたいので中国側発表には書いてないが、プーチンはNATO防衛関係大臣会議が同時期に開催され、ロシアに軍事的圧力を掛けてくると思っているので、中国と軍事的にも結び付いているように見せたい。
  • Bの1から見えるもの:習近平はロシアからの天然ガスのパイプラインなど、経済的結びつきと成果を強調したい。
  • Bの4から見えるもの:習近平はウクライナに関して「中立」の立場を堅持したいが、プーチンにとっては「不愉快な」立ち位置となっているので、中国の「弁明」には触れたくないという気持ちがうかがえる。

とは言え、両者が共通して強調しているのは中露間の経済貿易が「ウクライナ侵略」と関係なく進んでいることで、場合によっては、これまでよりもさらに緊密化しているケースもあり、また「国連」におけるポジションに関して、互いに支え合っていこうという姿勢であることも見えてくる。

◆ウクライナ戦争後のロシアのエネルギー資源貿易に関する衝撃的なデータ

アメリカをはじめとする西側諸国から厳しい経済制裁を受ける中、ロシアの経済貿易は壊滅的打撃を受けているだろうと思う(期待する)人は多いだろうが、実は少しも衰えてないどころか、戦争前よりもロシアが儲かっているようなデータが出ている。

これまでは中国側から見た経済貿易に関するデータから分析してきたが、本稿ではロシア側のデータから見える関連国の動向を考察してみたい。

6月12日、フィンランドの環境団体である「エネルギーとクリーンエア研究センター」が明らかにしたところによれば、ウクライナ戦争が始まってから100日間におけるロシアの化石燃料の輸出総額は「13兆円」ほどに上るという。

まず図1をご覧いただきたい。

これはウクライナ侵略が始まる、今年1月からのロシアの化石燃料輸出による収入の変化を示したものである。

図1

フィンランドの研究所のデータを基に筆者作成

最後の100日平均は、ウクライナ侵略前の1月よりも増えていて、研究所のデータによれば「930億ユーロ(約13兆円)」になっている。ウクライナ侵略によってアメリカを中心とした西側諸国から制裁を受け、ロシアは輸出できなくなって困っているだろうと期待すると、結果は逆になっているという現実をグラフは突きつけてくる。

化石燃料の高騰により、ロシアはかえって儲かっているという皮肉な現実がそこにはある。

では、いったいどの国がより多く輸入しているのかを図2に示そう。

図2

フィンランドの研究所のデータを基に筆者作成

やはり中国だ。

中国がダントツで、次がドイツ。パイプラインによる輸入に関しては、ドイツが世界で最も多い。

ならば化石燃料の種類別ではどうなっているのかを図3に示してみた。

図3

フィンランドの研究所のデータを基に筆者作成

衝撃的なのは「石炭」だ。

なんと、日本が世界で最も多くロシアから石炭を輸入しているという現実が如実にデータに表れている。

岸田首相がどんなに「最も厳しいロシア制裁を!」などと声高に叫んでも、数値は現実を裏切らない。

データというのは、なんと雄弁なことか!

16日、ドイツとフランスとイタリアの首脳がウクライナのキーウを訪れたが、LNGとパイプラインのデータをご覧いただきたい。ウクライナを訪問して「弁明」しなければならない理由が、みごとにデータ化されているではないか。

フランスのマクロン大統領が「停戦後のプーチンの顔も立てておいてあげないと」という趣旨のことを言ったのも、このデータに原因があるとみなしていいだろう。終戦後は、ロシアとよりを戻したい欧州の国々は少なくないことを物語っているのかもしれない。

これ以上戦争が長引くと欧州の人々の生活は困窮する。欧州だけでなく全世界の人々の食糧事情が追い詰められてくる。

ウクライナの人々の心の栄光を重んじたい気持ちは多くの人々が共有していると思うが、戦争が長引いて困るのは、案外に「ロシアではない」という現実を、データが雄弁に物語っているのは、なんと恐ろしいことだろう。

西側諸国の情報から見れば、プーチンがよほど追いつめられているだろうと考えてしまうが、プーチンがその割に強気なのは、データが示す、こういう現実が横たわっているからかもしれない。

この、あってはならない戦争を終わらせるにはどうすればいいのか、改めて難問が突きつけられている。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(7月初旬出版予定、実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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