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日本国民の血税で建設されたモンゴル鉄道が中露交易強化に貢献
ロシア・モンゴル首脳会談 2019年(写真:ロイター/アフロ)
ロシア・モンゴル首脳会談 2019年(写真:ロイター/アフロ)

モンゴルは鉄道建設により中露交易強化を目指しており、今年末までに3つの鉄道建設が完成するが、なんとそこには日本のODAが注がれていた。当初の目的と違い、中露繁栄のために貢献しているという皮肉な現実がある。

◆モンゴルは2022年に4つの鉄道建設プロジェクトを実施

2021年8月29日、中華人民共和国商務部は、そのウェブサイトに<モンゴルは2022年に4つの鉄道建設プロジェクトを実施 総投資額は約6‐7億ドル>と報道している。これはモンゴル政府の情報に基づいて書かれたものである。

それによれば、モンゴルのハレテル運輸開発相は、政府会議の決定を知らせ、過去2年間はモンゴルの鉄道建設の2年であり、2019年に着工したタワントルゴイ鉱山~ズーンバヤン方向416kmの鉄道建設は順調に進んでおり、完成間近だと述べた。タワントルゴイ鉱山~ガショーンソハイト 国境検問所方面の鉄道工事の完了を2022年7月1日までに完成するよう命じた。モンゴルの鉄道部門は、次の4つの鉄道建設プロジェクトを2022年中に実施するというのだ。その4つの路線を以下に示す。

  1. ズーンバヤン~ハンギ(国境検問所)~マンドラ口岸(満都拉口岸、中国側)までの鉄道を建設。
  2. 東にドルノド県チョイバルサン市~フート~ビチグト国境検問所に237kmの鉄道を建設。
  3. 西のアルツブール~シべーフレン方向に1,280キロメートルの垂直鉄道を建設。
  4. ボグドハーン鉄道(Rashaant駅~Maanit駅)の建設。

これら4つの鉄道路線を図示すると、以下のようになる(図1)。

グーグルマップに上記の路線を「1,2,3,4」と番号に合わせて作成したものである。

図1:2022年における4つの鉄道建設プロジェクト

グーグルマップを基に筆者作成

これは新たに今年中に完成する路線であって、それまでには日本の独立行政法人JICA(国際協力機構)の『モンゴル国 効率的な鉄道線路保守作業の 導入に係る案件化調査 業務完了報告書』(以下、JICA報告書)に描かれているような路線がある(図2)。

図2:2017年までに付設されていた鉄道

出典:JICA報告書の中のJICA調査団作成

出典:JICA報告書の中のJICA調査団作成

一つの地図の中で描けばいいのかもしれないが、正確に加筆していくには筆者の技術的能力欠如もあり相当な時間と労力を要するので、大変申し訳ないが、図1と図2を見比べながら、何が起きているかを、ざっくりと掌握していただきたい。

図2にあるUBTZはウランバートル鉄道会社(モンゴル50%+ロシア50%の合弁会社)で、MTZはモンゴル鉄道国営会社(モンゴル100%出資)のことである。その他の鉱物資源輸送鉄道、発電所専用線等があり、軌間はロシアと同じ 1520mmであると、JICAの報告書にはある。

問題は図1だ。「中露をつなぐ」形になっていることは一目瞭然。

事実、冒頭の商務部報道<モンゴルは2022年に4つの鉄道建設プロジェクトを実施 総投資額は約6―7億ドル>には、これらの鉄道で、ロシアからの鉱物資源やエネルギー資源を中国に運搬することが詳細に書いてある。

特に衝撃的なのは、「これらの鉄道建設プロジェクトは、ロシア、日本政府からの融資と、国内資金から調達されている」と書いてあることだ。

日本政府ということは、「日本国民の血税によって建設されている」ことを意味する。

◆日本国民の血税が中露貿易強大化のために注がれている

もともと日本がODA予算を用いてモンゴルの鉄道分野への支援を始めたのは1990年代のことで、JICA報告書には以下のようなことが書いてある。

  • モンゴル産の石炭の仕向先は約70%が輸出用であり国内用は約30%程度である。輸出用石炭は全量が原料炭であり、陸路トラックで中国に輸出されている。国内向けは発電燃料用の一般炭が主となっており、ほぼ全量を鉄道で輸送している。
  • 我が国 ODA による鉄道分野への支援としては、1990年代に無償資金協力による「ザミンウード駅貨物積替施設整備計画」、有償資金協力による「鉄道輸送力整備計画」が実施された。また2000 年代には無償資金協力による「鉄道線路基盤改修計画」、技術協力による「鉄道マスタープラン作成支援」が実施された。
  • UBTZに対する他ドナーの援助実績はないとのことであるが、これは50%がロシア資本であることの影響が考えられる。(引用ここまで)

具体的には、たとえば2003年(平成15年)6月23日の外務省ウェブサイトには<モンゴルの「第二次鉄道線路基盤改修計画」ほか1件に対する無償資金協力について>という見出しの報道があり、総額7億2,600万円を限度とする無償資金協力が提携されたことが書かれている。

そこには「内陸国であるモンゴルでは、鉄道が長距離国内輸送および国際輸送について重要な役割を果たしている。特に南北を縦貫しロシアと中国を結ぶスフバートルからザミンウードに至る幹線は、道路網整備が遅れていることもあり、モンゴルにおける幹線輸送機関としての役割を果たしている」という文言があり、中露を結ぶ役割を果たしていることを日本は認識していることが窺(うかが)われる。

このとき同時に「ほか1件」として「人材育成奨学計画」を策定しているが、筆者自身はモンゴルの国費留学生を受け入れるために努力した経緯もあり、一層切実に受け止められる。

一方、2011年7月21日の日経新聞には<モンゴル鉄道、日本に出資要請 ロシア経由で石炭輸出>というタイトルで非常に興味深い情報が載っている。サブタイトルに「運輸担当相が会見、中国向け偏重見直し」とあるが、まさに中国偏重を是正するために、日本は新たにモンゴルにインフラ投資をして、モンゴルの石炭を中国ばかりにではなく、日本に輸出させるためにロシア鉄道を経由させようとしていたのだ。そこには以下のようなことが書いてある。

  • 来日中のモンゴルのバトトルガ道路・運輸・建設・都市計画相は20日、同国南部のタバントルゴイ炭鉱とロシアを鉄道で結ぶ計画を明らかにし、鉄道を建設・運営する国営企業への出資を日本企業に求めた。
  • 石炭の大半が中国に輸出されている現状を見直すため、日本などの資金で輸送インフラを整え、ロシア経由で日本などに輸出する(シベリア鉄道を用いてウラジオストック経由で日本へ)。
  • オーストラリアからの石炭に頼る日本にとっても、モンゴルからの輸入で調達先を多角化できる利点がある。(引用ここまで)

かくして日本のモンゴルへのODA支援は延々と続くのだが、なんと昨年(2021年)7月21日~25日まで、東京五輪開幕式参加のためにモンゴルのオユン=エルデネ・ルヴサンナムスライ首相が訪日し、当時の菅義偉首相と会談したと、モンゴルの国営メディアが伝えている

それによれば菅首相のほかに経済再生と環太平洋パートナーシップ担当大臣の西村康敏とも会談しており、会談を通して以下のことに合意したと書いている。

  • モンゴルの第三の隣国である日本との戦略的パートナーシップと協力をあらゆる分野で発展させる。
  • 日本とモンゴルは「経済・貿易・投資協力を次の段階に引き上げる必要性に合意」し、モンゴルの新国際ウランバートル空港、ウランバートル周辺の高速道路プロジェクト、ボグドカーン鉄道プロジェクト等、具体的な経済協力プロジェクトについて議論した。(引用ここまで)

すなわち、昨年7月末の議論を経て、8月11日にモンゴル政府が鉄道プロジェクトに関して発表し、それを受けて8月29日に冒頭に書いた中国商務部の報道に至ったと解釈するのが妥当だろう。

◆「ロシア・モンゴル・中国・インド」非ドル経済圏の誕生

拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で詳述したように、ウクライナ戦争におけるバイデン政権による激しい対ロシア制裁およびトランプ政権から始まっている対中国制裁によって、中国はロシアやインドと共に非ドル圏による「アジア・ユーラシア経済圏」を形成しようとしている。

ロシアもインドも普通選挙を行う国家ではあるが、専制主義的であることにおいては中国と大きくは変わらない。

モンゴル国も普通選挙を行う国家体制で動いてはいるものの、何しろロシアと中国に挟まれた国。語弊があるかもしれないが、ほぼロシアの属国になりかけており、「中国のために奉仕する」ことによって生き延びているとも言える。したがって鉄道建設には中国の投資は行われてないのに、もっぱら中国に貢献するために日本やロシアからの支援を取り付けているのだ。

この視点から考えても、過去に欧米型の侵略国家が一世を風靡した海洋型国家の時代は影を潜め始め、陸続きの「大陸型アジア・ユーラシア経済圏」が幅を利かせようとしている。

そのときに注目しなければならない国の一つが「モンゴル」なのだ。

モンゴルはロシアの資源を効率よく中国に運ぶことによってロシアに喜ばれ、中国に歓迎されている。やがてGDPで世界一になるであろう中国に忠誠を尽くす「民主主義国家」が、また一つ大きく浮上してきた。

◆日本はこれでいいのか?

中国の知識人がよく閲覧する観察者網は、5月31日、<米メディア:モンゴルの主要鉄道プロジェクトが完成間近、中露を後押しする>というタイトルで、5月29日にアメリカのニュース誌Foreign Policy(フォーリン・ポリシー)に掲載された<モンゴルは鉄道でロシアと中国に燃料を供給しようとしているようだ>という論考を紹介している。この論考では以下のような懸念が述べられている。

  • 中国への貨物輸送を拡大することによる潜在的な安全保障上の影響をめぐって、激動の10年間にわたる論争の後、モンゴルは今年末までに3つの重要な鉄道路線を完成することが見込まれる。
  • これらの進展は一次産品市場に大きな影響を与え、中国とロシアは内陸部、特に石炭や金属などの貿易に目を向けることができ、両国のエネルギーの安全性を高め、制裁の圧力を受けにくくさせる。
  • モンゴルのオユン・エルデネ・ルブサンナムスライ首相が2月に北京を訪問した際、両国政府は、モンゴルの鉱物が豊富な南ゴビから中国までの3つの主要な鉄道プロジェクトの完成を約束した。(引用ここまで)

このように米中ともにモンゴルの鉄道建設に注目している中、日本の岸田首相は「日本・モンゴル外交関係樹立50周年」に際してのビデオメッセージを2月24日に発表している。メッセージでは日本とモンゴルとの経済・投資分野の協力が着実に進んでいることを祝い、「昨年夏に開港したチンギスハーン国際空港は、日本とモンゴルの協力の新たな象徴です。建設には、日本のODA(政府開発援助)が活用され、運営には、日本企業が参画しています。今年、2022年は、更なる高みを目指して両国で紡ぐ、次の50年の物語の始まりの年です。この新しい物語を私は皆さんと共に作っていきたいと思います。」と喜びに満ちているのだ。

今年5月1日には林芳正外務大臣がモンゴルを訪問したようだが、バトツェツェグ・モンゴル外務大臣との間で日・モンゴル外相会談及び無償資金協力「人材育成奨学計画」に関する交換公文の署名を行ったとのこと。

鉄道建設プロジェクトに関して外務省の発表では何も触れてないが、どこに落ち着くつもりだろうか。本コラムで述べたような状況を十分に勘案し、日本には世界情勢を俯瞰した堅実な分析と戦略を求めたい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(7月初旬出版予定、実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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