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人民元・ルーブル取引が1067%増! アメリカの制裁により広がる非ドル経済圏
ロシアのルーブルと中国の人民元(写真:ロイター/アフロ)
ロシアのルーブルと中国の人民元(写真:ロイター/アフロ)

アメリカが中露、特にロシアに対して金融制裁を強化する中、中国の人民元とロシアのルーブルの取引が爆発的に増加している。特に人民元の成長が著しい。アメリカの大手メディア、ブルームバーグが報じた。

◆アメリカの制裁が人民元・ルーブル取引を1067%引き上げた

5月31日、アメリカの大手メディアであるブルームバーグが<ドルを回避する米国のライバルが人民元ルーブル取引を1067%引き上げた>と報道し、注目を浴びている。そこには「ロシアと中国の通貨間の取引高は40億ドル近くになった」とか「各国は米国の制裁から経済を守ろうとしている」といった小見出しがある。

報道には警戒すべき多くの最近の事象が書かれているが、その中からいくつかをピックアップしてご紹介したい。

  • 米国の覇権に対する最大の挑戦者である中国とロシアは、自国通貨間の直接取引を強化している。
  • 「ルーブル・人民元」ペアの月間取引高は、ウクライナでの戦争開始以来、1067%急増して約40億ドルに達しており、両国はドルへの依存を減らし、現在および潜在的な米国の制裁を克服するために二国間貿易を強化しようとしている。
  • この急上昇は、人民元に対するルーブルの5年ぶりの高値への上昇と一致している。これはロシア人が、ますます中国製品に目を向けている兆候だ。中国にとっては、人民元の国際化のための最新の後押しを生み出している。
  • これは、制裁の懸念と、二国間貿易における国内通貨の使用を奨励するロシアと中国の意図によるものだ。

このように説明した後で、ブルームバーグは、独自に統計を取った。

以下に示すのは、ブルームバーグの調査結果を、日本人に分かりやすいように、日本語表記に置き換えたグラフである。但し、エクセルデータがあるわけではないので、グラフにおける説明部分を日本語に訳しただけだ。

出典:ブルームバーグ

ブルームバーグの計算によると、5月のモスクワのスポット市場では、これまでに約259億1000万元(39億ドル)がルーブルと交換されており、これは、ロシアがウクライナを侵略した2月のほぼ12倍になっているとのこと。

香港のブルームバーグ・インテリジェンスの政策担当者は「人民元・ルーブル取引は人民元の国際化でさらに上昇させるはずであり、戦争はそれを加速させた。ロシアは人民元で、より多くの貿易を行い、より多くの人民元準備金を保有するだろう」と語ったという。

EUが石油や天然ガスの輸入禁止を強化する中、ロシアは中国の需要により、その損失を相殺し、それが人民元・ルーブル取引の追い風になっている。

◆ウクライナ戦争が中国経済を強大化させる

中露がドル以外の取引を進めることは、いくつかの新興市場の間で人気を集め、中露が進めるドル・リスク軽減戦略を有利にしている。

すでに拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で詳述したが、サウジアラビアは一部の石油契約を人民元で価格設定する計画だし、インドはルピー・ルーブルの支払い構造を模索している。IMF(国際通貨基金)によると、世界の中央銀行は準備金を多様化しており、2020年第4四半期には保有残高のドルシェアが59%に低下し、25年ぶりに最低となったと、ブルームバーグは報じている。

シンガポールのRBCキャピタルマーケッツのアジア通貨戦略責任者、アルビン・タン氏は「ロシアは国内製造業が非常に弱い。したがって、制裁は必然的に機械や消費財を中国にもっと頼らなければならないことを意味する。同時に、中国のバイヤーはロシアの商品輸出の割引に魅了されている」と語っている。

中露両国が、現在および(中国にとっては将来的に強化されるであろう)潜在的なアメリカによる制裁を克服するために、ドルへの依存を減らし、二国間貿易を促進しようとしているため、ウクライナでの戦争の開始以来、ルーブル・人民元取引の急上昇を招いている。

◆中国側の発表とロシアの主要貿易相手国

一方、今年5月18日の中華人民共和国税関総署は、<2022年4月の輸出入商品国別(地域)総額表(米ドル)>を発表している。

それによれば、2022年1-4月、中露の貿易額は510.9億ドルで25.9%増、うち輸出は202.4億ドルで11.3%増、輸入は308.5億ドルで37.8%増だ。

2020年の統計なので、ウクライナ戦争で大きく変化していくとは思うが、念のためロシアの貿易相手国の割合を示しておこう。

出典:OEC

ウクライナ戦争前からロシアにとって中国は最大貿易相手国ではあるが、イギリスが多いのは、2020年に金価格の上昇もあり、LME(London Metal Exchange)倉庫がイギリスにある関係上、「金の現物」を大量に運んだという背景からのようだ。他にも非鉄原料、製品の現物が納入されたということであって、決してイギリスとの実際の貿易が増えている訳ではない。

ウクライナ戦争後は、イギリスは対露制裁を強化しているので、おそらく同倉庫へのロシアからの納入は止まっているだろうから、現時点ではイギリスがロシアの貿易主要国として出てくることはないだろう。実際、イギリス内で消費されるロシアからの輸出品としては石炭が多かったので、禁輸を早々に決定したイギリスとしては英露貿易の大幅縮小が見込まれる。

オランダとの取引が多いように見えるのは、原油や石油製品の取引中継点としてのロッテルダムの存在があったためで、実際の貿易は多くなく、せいぜいオランダからの輸出で目を引くのはチューリップ等の花のロシア向け輸出だ。しかしこれも今後は欧州との関係悪化により、南米からの買いを増やすと見込まれる。

モスクワの友人は、「もしロシア経済が本当に弱小ならば、花という贅沢品を輸入する国をわざわざ変えてまで貴重な外貨を使って花を買うということはないだろう」と語っていた。

さらに新しい全体のデータがまだないので、何とも言えないが、ブルームバーグや中国税関総署のデータなどから見る限り、今後は中国の割合がとてつもなく膨らんでいくことが考えられる。

それは新興国や発展途上国に影響を与え、日本が見ている西側情報からの楽観論ではない、もう一つの現実が待っているように懸念される。

日本の最大貿易国は中国で、岸田首相は中国との経済交流を強化していきたいと述べている。そこから、どのような未来が連鎖的に展望されるのだろうか。暗澹たる思いを打ち消すことができない。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(7月初旬出版予定、実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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