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ゼレンスキー大統領「中国の姿勢に満足」とダボス会議で
ダボス会議でリモート講演するゼレンスキー大統領(写真:ロイター/アフロ)
ダボス会議でリモート講演するゼレンスキー大統領(写真:ロイター/アフロ)

ゼレンスキー大統領は5月25日、ウクライナ戦争における中国の政策に満足していると、ダボス会議で述べた。中国の政策の何に満足しているのか、中国は実際どのような政策を実施しているんか。それは停戦後の世界動向に大きな影響を与えるので、現状と今後の可能性を考察する。

◆ゼレンスキー大統領「中国の姿勢に満足」

5月23日から26日までスイスのダボスで開催されたダボス会議にウクライナのゼレンスキー大統領がリモートで出席し、25日に講演を行った

この講演の前に「Davos Ukrainian Breakfast Discussion」という朝食会的イベントがあって、そこでゼレンスキーが中国に関して話している内容が、ウクライナ国営の報道機関である「ウクルインフォルム」に特記された。それによれば、ゼレンスキーは概ね以下のように言っている。

――中国はロシア・ウクライナ戦争から距離を置いた政策を選択しており、ウクライナは目下、中国のこの政策に満足している。いずれにせよ、ロシア連邦を助けるよりはましだ。そして私は、中国が別の政策を追求しないと信じたい。正直なところ、われわれはこの現状に満足している。ロシアとの戦争前、中国はウクライナの最大の貿易相手国だった。そして今のところ、中国の、ウクライナに対抗するような措置は見られない。もっとも、同時に、中国はウクライナを支援するための措置も取ってないのだが。しかし、ウクライナと中国の両国間には、かなり良好な長い歴史があり。したがってロシアと比較して、これら(ウクライナと中国)の両国関係において優位性を持ちたい。

◆ウクライナ戦争における中国の対ウクライナ政策

それならゼレンスキーが満足しているという、中国の対ウクライナ政策はどのようなものだろうか。

それはまさに拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』に書いた通り、中国の対ロシア戦略は【軍冷経熱】(軍事行動的にはロシアに賛同しないが、経済的には協力する)というものなので、これは「中国の対ウクライナ戦略」の裏返しとして解釈することができる。その視点から「中国の対ウクライナ戦略」を列挙するなら、以下のようになる。

  • ロシアによるウクライナへの軍事侵略には賛成しないので、ウクライナ攻撃のためのロシアへの軍事支援はしない。
  • ロシアとは「アメリカから虐められている」という共通項において経済的には協力し合うが、中国にとってウクライナは「一帯一路」の重要な拠点なので、中国とウクライナの経済協力関係は維持し、強化する。
  • ソ連崩壊後すぐに中国はウクライナと国交を樹立し、以来、ウクライナの武器製造関係の技術者を高給で中国に招き、ウクライナの技術者を「教授」と仰いで非常に友好的な関係を維持してきた。その関係を中国は絶対に崩さない。
  • 特に中欧投資協定が頓挫しているので、欧州とアジア・ユーラシア大陸との「つなぎ目」であるウクライナとは、良好な関係を保っていたい。
  • しかし、ロシア制裁への呼びかけに関しては応じない。

◆中国とロシアとの間の具体的な経済協力

では現在、中国はロシアとどのような経済協力をしているのか。

今年5月5日に、駐ロシア中国大使の張漢暉氏が、ロシアのタス通信による書面インタビューに書面で回答した。質問内容は多岐にわたり、中国とロシアの「エネルギー、軍事技術、宇宙協力、現地通貨決済」などに関して回答している。

質問も回答も非常に長いので全文を載せるのは適切でないが、5月時点で中国がロシアに対してどのような経済協力を実行しようとしているのかを知るのは今後の世界動向を知る上で不可欠だ。そこで、できる限り回答を拾ってご紹介したい。質問は省略して、回答の概要だけを以下に示す。

1.軍事技術協力は、中国とロシアの多くの協力分野の一つであり、二国間の戦略的協力パートナーシップを反映している。但し、中国とロシアの軍事・技術協力は、互いのコア利益に合致し相互利益の原則に基づいたもので、決して「第三者を標的としない」

2.中国とロシアは、石油・ガス分野における重要な戦略的パートナーであり、近年、両国の協力は新たな進展を遂げており、石油・ガスを中心としたエネルギー協力は、中露の実務協力において最も常用で大きな成果をあげている。現在ロシアは、中国の石油・天然ガスの主要な供給源の1つであり、中国はロシアにとって石油・天然ガス輸出の重要な市場だ。 中国のエネルギー市場は大きな可能性を秘めており、需要は増加の一途をたどっている。 双方は、相互利益とウィンウィンの状況を実現させる。

3.中国とロシアは最大の隣国であり、包括的な戦略的協力パートナーであり、経済・貿易協力は二国間関係の重要な要素をなす。昨年の二国間貿易は1,400億ドルを超え、両国の経済・貿易協力は大きな可能性を秘めている。 双方は、2024年までに2000億ドルの貿易目標を達成するため、両首脳が設定した目標に向けて協力している。

 中国とロシアの現地通貨決済は長年行われており、人民元は2014年の3.1%から2020年には17.5%に上昇した。 支払い手段としての現地通貨の役割は徐々に強化され、企業の為替レートリスクを効果的に低減し、為替レートコストを節約している。現地通貨決済は、中国とロシアの二国間貿易において明確な利点を有し、両国の企業による現地通貨決済の需要は増加の一途をたどっている。

 現在、アメリカと西側諸国のロシアに対する制裁は、中露の実務協力に一定の悪影響を与えている。しかし両国は、貿易決済や物流などの分野で、制裁がもたらした困難を協調的に解決するためにコミュニケーションを強化する。 中国は、二国間貿易、投資、信用における現地通貨建て決済の更なる拡大を引き続き支援し、ロシアにおける人民元業務清算銀行を含む両国のインフラ組織及び金融機関の役割を十分に果たし、二国間貿易の着実な発展を保証する。

4.中露二国間貿易において、両国は米ドルやユーロの決済方法を放棄していな

い。

5.SWIFT制裁を受けた場合の人民元決済方法に関して長く述べている。これに関しては『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第二章の四(【経熱】――対露SWIFT制裁は脱ドルとデジタル人民元を促進する)で詳述したので、興味にある方はそちらを参照して頂きたい。駐露中国大使は、ほぼ同じ内容の回答をしている。

6.CR929長距離ワイドボディ旅客機プロジェクに関して回答している。省略する。

7.アメリカの対露制裁により、ロシアの「金星-D」プロジェクトへの参加が除外されたため、ロシアは中国と協力してプロジェクトの完成を達成するようにした。これに関する中国の現状と中国の宇宙開発に関して詳述している。詳細は省略するが、「宇宙協力は中露の新時代における戦略的協力パートナーシップの重要な構成要素だ」と大使は述べている。

8.対露制裁が強化される中、「中国はロシアへのハイテク製品の供給を増やすことを意図しているか」また「欧米IT企業がロシア市場を去る中、中国はそれを埋める合わせるつもりはあるか」などの質問に対して回答している。

回答:中露間のイテク製品貿易は、中露科学技術イノベーション協力の巨大な可能性と広い見通しを証明している。特に2020年から2021年における「中露科学技術イノベーション年」を契機に、両国の科学技術協力は実りある成果をあげた。中露の科学技術分野における協力は、他の要因によって妨げられず、独立して行われる。 双方は、相互利益とウィンウィンの精神に基づき、この分野における協力を引き続き推進する。

9.自動車市場に関する話なので省略する。

◆ゼレンスキー発言の狙いと今後の可能性

このように、中国の対露戦略を見ると、ウクライナ戦争における軍事的な対露支援はしないものの、経済面では相当に強い結びつきを示している。駐露中国大使の書面回答は、ゼレンスキーも承知しているはずだ。

それなのになぜゼレンスキーがダボス会議で、わざわざ中国のことに触れ、しかも「満足している」と言ったのか、その狙いと今後の可能性を考えてみたい。

まず考えられるのは停戦だ。

停戦交渉をしてくれと最初にプーチンに言ったのは習近平である。

2月24日にプーチンがウクライナへ軍事侵攻を始めて、その翌日の25日に習近平はプーチンに電話し、「話し合いによって解決すべきだ」と明言した。プーチンも「話し合いによって解決する」と回答している。

3日後の28日から停戦交渉が始まった。

したがって最終的に停戦に向かう時に、プーチンに進言する力を持っている数少ない国家のリーダーである習近平に、何らかの形で協力を頼むつもりではないかと推測される。

だからこそ、ダボス会議における正式のスピーチでは、世界中のすべての企業がロシアから撤退すべきだとまで言っているのに、中露の経済関係を敢えて認めて、「いざという時にプーチンにものが言える人」を確保しておきたいための思惑であると思われる。だとすればゼレンスキーは相当に戦略的だ。

次に待っているのは停戦が成立したあとの大規模な復興事業だ。

これに関しては中国の王毅外相とウクライナのクレバ外相との間で協力関係を確認し合っているし、また駐ウクライナ中国大使の範先栄氏もリヴィウの政府高官と「中国は永遠にウクライナの友人だ」として、非常に友好的で建設的な方向で話し合っている。

こういった思惑がゼレンスキーにはあったのではないかということが推測されるのである。ゼレンスキーのダボス会議におけるスピーチは、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で書いた分析が基本的に正しかったことを裏付けてくれており、非常にありがたい。

なお、一つ、お詫びしなければならないことがある。 『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』に書いた駐ウクライナ中国大使の名前を、ウクライナ大使館のウェブサイトに書いてあった中文のまま書いてしまったが、それは間違いで、「範先栄」が正しい。大使館のホームページも、のちに修正している。(お詫びして訂正します。皆様、大変申し訳ありませんでした。)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(7月初旬出版予定、実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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