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バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?
バイデン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
バイデン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

23日、バイデン大統領はアメリカに台湾防衛義務があるような発言をしたがホワイトハウスは直ぐに「変化なし」と否定。失言取り消しはこれで3回目だ。ミリー統合参謀本部議長も米議会で否定している。しかし―。

◆記者会見でのバイデン大統領の発言

23日、バイデン大統領は岸田首相との首脳会談の後の記者会見で記者の質問に答えて「台湾防衛に関してアメリカが関与する」という趣旨の回答をした。できるだけ正確に読み解くために、二次情報ではなく、ホワイトハウスのウェブサイトを見てみると、当該部分は以下のようになっている。

記者:簡単にお聞きします。明らかな理由により、あなたはウクライナの紛争に軍事的に関与したくなかった。もし台湾で同じような状況が起きたら、あなたは台湾を守るために軍事的に関与する用意がありますか?

バイデン:はい。

記者:本当ですか?

バイデン:それが私たちのコミットメント(約束)ですから。えー、実はこういう状況があります。つまり、私たちは一つの中国原則に賛同しました。私たちはそれにサインし、すべての付随する合意は、そこから出発しています。しかし、それが力によって実現されるのは適切ではありません。それは地域全体を混乱させ、ウクライナで起きたことと類似の、もう一つの行動になるでしょう。ですから、(アメリカには)さらに強い負担となるのです。

これは今までアメリカが台湾に関して取ってきた「戦略的曖昧さ」と相反するものだとして、日本のメディアは大きく報道した。

その日の夜7時のNHKにニュースでは、「失言でしょう」と小さく扱ったが、夜9時のニュースでは「大統領が言った言葉なので重い」という趣旨の解説に変えていたように思う(録画しているわけではないので、そういうイメージを受けたという意味だ)。

ことほど左様に、日本のメディアだけでなく、欧米メディアも、また中国メディアでさえ、外交部の激しい批難を伝えながらも、「又しても失言なのか、それとも本気なのか」といったタイトルの報道が目立つ。

というのも、バイデンは2021年8月と10月にも、米国には台湾防衛義務があるという趣旨の見解を述べたことがあるからだ。しかし、そのたびにホワイトハウスの広報担当者らは「火消し」に追われ、「アメリカの台湾政策に変更はない。台湾が自衛力を維持できるように支援するだけだ」と軌道修正した経緯があるからだ。

◆ミリー参謀本部議長が米議会で「台湾人による代理戦争」を示唆

全世界が今般のバイデン発言を重く受け止めると同時に、「あれは失言だ」という報道が、それ以上に多いのは、バイデンに2回も「前科」があり、今回は「3回目になる」からだけではない。

実は今年4月7日、ミリー統合参謀本部議長は米議会公聴会で長時間にわたる回答をしており、その中で以下のようなことを述べている(要点のみ列挙)。

  1. 台湾の最善の防衛は、台湾人自身が行うことだ。
  2. アメリカは、今般ウクライナを助けるとの同じ方法で台湾を助けることができる。
  3. 台湾は島国であり台湾海峡があるので、防御可能な島だ。
  4. アメリカは台湾人が防御できるように台湾を支援する必要がある。
  5. それが最善の抑止力で、中国に台湾攻略が極めて困難であることを認識させる。(要点はここまで)

以上、「1」と「2」から、アメリカ軍部は台湾が中国大陸から武力攻撃された場合は、ウクライナと同じように「台湾人に戦ってもらう」という、ウクライナと同じ「代理戦争」を考えていることが読み取れる。

バイデンが言っていたように「ウクライナはNATOに加盟していない(ウクライナとアメリカの間には軍事同盟がない)ので、アメリカにはウクライナに米軍を派遣して戦う義務はない」のと同じように、台湾とアメリカとの間にも軍事同盟はない。

またバイデンが「ウクライナ戦争にアメリカが参戦すれば、ロシアはアメリカ同様に核を持っているので、核戦争の危険性があり、したがってアメリカは参戦しない」と言っていたが、これも「ロシア」を「中国大陸」に置き換えれば同じ理屈が成り立つ。

すなわち、中国には「核」があるので、アメリカは直接アメリカ軍を台湾に派遣して台湾のために戦うことはしない、ということである。しかし「3」に書いてあるように、武器の売却などを通して台湾が戦えるように「軍事支援」する。

これも、ウクライナにおける「人間の盾」と全く同じで、ウクライナ人に戦ってもらっているように、「台湾国民に戦ってもらう」という構図ができている。

◆台湾関係法には、どのように書いてあるのか?

そこで、バイデン大統領の3度にわたる「アメリカには台湾を防衛する義務がある」という趣旨に近い「台湾防衛義務」発言が、単なる失言なのか、それとも何かしらのシグナルを発しているのかに関して考察するために、台湾関係法を詳細に見てみよう。

台湾関係法のSec. 3301. Congressional findings and declaration of policy( 議会の調査結果と政策宣言)の(b) Policy(政策)の(3)~(5)には、以下のような文言がある。 

(3)中華人民共和国との外交関係を樹立するという米国の決定は、台湾の将来が平和的な手段によって決定されるという期待に基づいていることを明確にすること。

(4)ボイコットや禁輸、西太平洋地域の平和と安全への脅威、米国への重大な懸念など、平和的手段以外の手段で台湾の将来を決定するためのあらゆる努力を検討すること。

(5)台湾に防御的性格の武器を提供すること。

(6)台湾の人々の安全、社会的または経済的システムを危険にさらすような強制またはその他の形態の強制に抵抗するためのアメリカの能力を維持すること。

また台湾関係法のSec. 3302. Implementation of United States policy with regard to Taiwan(台湾に関する米国の政策の実施)の(c)United States response to threats to Taiwan or dangers to United States interests(台湾への脅威または米国の利益への危険に対する米国の対応)には、以下のような文言がある。

――大統領は、台湾の人々の安全または社会的または経済的システムへの脅威と、それから生じる米国の利益への危険(があった場合は、それ)を直ちに議会に通知すること。 大統領と議会は、憲法の手続きに従って、そのような危険に対応するための米国による適切な行動を決定するものとする。(引用ここまで)

これらから考えると、中国大陸が武力的手段で台湾統一を行なおうとすれば、アメリカはそれ相応の手段を取ると政策的に位置づけられていることが分かる。

となれば、バイデンの発言は失言ではなく、意図的なものであることが読み取れる。

◆中国が武力攻撃するのは「台湾政府が独立を宣言した時」のみ

では、中国大陸が武力的手段で台湾統一を行なおうとするのは、どういう時かというと、「台湾政府が独立を宣言した時」である。それをすれば、2005年に制定された「反国家分裂法」が作動する。

それを知り尽くしているバイデン大統領は、武力攻撃をしそうにない中国大陸(北京政府)を怒らせるために、アメリカ政府ウェブサイトの台湾関連事項から「台湾は中国の一部」という言葉と「アメリカは台湾の独立を支持しない」という言葉を、ひっそりと削除した(詳細は5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?―米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>。また、なぜ習近平は台湾政府が独立宣言でもしない限り台湾を武力攻撃しないかに関しては、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で詳述した)。

こうして、中国を刺激して、何としてでも戦争を起こさせ、戦争ビジネスを通してアメリカが世界一である座を永続させようというのが、ジョー・バイデンが練り続けてきた世界制覇の戦略なのだとしか、言いようがない。

◆中国の反応は?

肝心の中国は、台湾に関するバイデン発言に、どう反応しているかを少しだけご紹介したい。

冒頭に書いたように、中国外交部は激しいバイデン批判を発表し、また中国共産党および中国政府系メディアも強い批判を展開はしているものの、基本的に「中国はアメリカの、その手には乗らない」といった、割合に冷めた論評も多く、中国全土が激怒しているというような状況にはない。

むしろ「台湾が政府として独立を宣言」したら、それこそが「最も大きな現状変更」で、中国にとっては「宣戦布告」に相当すると位置付けている。

だから台湾関係法にあるように「平和的手段」ではなく「武力的手段」で中国が台湾統一を成し遂げる方向に中国を持っていくには、「台湾の独立を煽る」のが最も早い近道であるとバイデンが考えていると、中国はバイデンの言動を判断しているのである。

つまり、「どうすれば中国を最も怒らせることができるか」、「どうすれば中国に武力行使を先にさせるか」と、バイデンは考えているということだ。  

だから中国の主張には、「バイデンの手には乗るな。中国はロシアではない」というのが数多く見られる。

と同時に、バイデンの言動と、アメリカ政府のウェブサイトから「台湾の独立を支持しない」を削除するといった一連の行動を危険視し、「台湾を独立させようとしているのはアメリカだ」と激しく批難している。

しかし、そもそも中国(=中華人民共和国)を国連に加盟させ、「中華人民共和国」を「唯一の中国」として認め、「中華民国」(台湾)を国連から追い出したのはアメリカではないか。

ニクソンの大統領再選のために、キッシンジャーを遣って忍者外交をさせ、ソ連を追い落とそうとした。今度はバイデンの大統領再選のためにロシアを追い落とし、全世界に災禍を与えている。 

まんまとバイデンの罠に嵌ったプーチンは、「愚か」であり「敗北者でしかない」のだが、「バイデンの仕掛けた罠」を正視してはならない同調圧力が日本にはある。犠牲になるのはやがて日本だということに気が付いてほしいと切に望むばかりだ。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(7月初旬出版予定、実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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