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EU・中国首脳会談――習近平は一刻も早い停戦をプーチンに迫れ!
EU・中国首脳会議(写真:Abaca/アフロ)
EU・中国首脳会議(写真:Abaca/アフロ)

4月1日、EU代表は習近平にウクライナの停戦に向かって行動するよう迫ったが、中欧が接近するとアメリカが邪魔立てするので、習近平はEUにアメリカから独立せよと示唆した。習近平のやるべきことは一つ。緊密な関係にあるプーチンに停戦を迫ることだ。

◆中欧投資協定がうまく行きそうになると、必ずアメリカが阻止する

習近平国家主席は、政権が発足するとすぐに、2013年から中欧投資協定を進めるため力を投入してきた。中国経済がやがてアメリカ経済を追い抜きそうになると、アメリカが必ず中国潰しにかかってくるだろうことが予測できたので、「アメリカに制裁されても、欧州があるから大丈夫」という計算があったからだ。

念願かなって2020年12月末にようやく中欧投資協定の包括的合意に達し、あともう一歩で調印という時になって、2021年1月19日、トランプ政権時代のポンペオ国務長官がウイグルの人権問題に関して「あれはジェノサイドだ!」と宣言した。翌日にはバイデン政権が誕生する、トランプ政権最後の日だった。

すると2021年3月22日、人権問題に厳しいEU(欧州連合)主要機関の一つである「欧州議会」は、中国のウイグル人権弾圧に対して制裁を科すことを議決した。これに対して中国は同日、直ちに厳しい報復制裁をしたものだから、2021年5月20日、欧州議会は中欧投資協定の凍結を決議した(詳細は2021年7月15日のコラム<習近平最大の痛手は中欧投資協定の凍結――欧州議会は北京冬季五輪ボイコットを決議>)。

今般、ウクライナへの軍事侵攻でロシアが制裁を受けると、エネルギー資源の多くをロシアから輸入しロシアとの貿易が盛んだったEUは、ウイグル問題への厳しいしい批判のトーンをやや緩めていた。プーチンのあまりの残虐性に激怒していたため、ウイグル人権問題の影が、やや薄くなっていたという側面もあったかもしれない。

中国も3月1日には王毅外相がウクライナのクレバ外相と会談して「話し合いによる解決をすべきだ」と表明したり、3月14日には駐ウクライナの中国大使がリヴィウで地方政府高官と会い、「ウクライナは永遠に中国の友人だ」と讃えたりなどして、EUにウクライナとの友好をアピールしたりなどした(つながりにくいが、こちらでも報道)。EUと中国双方は歩み寄りを見せ、4月1日にEUと中国の首脳によるビデオ会談が設定された。

中国としては何としても中欧投資協定の凍結を解除したいという一心だった。

すると今度もまた、EUと中国の接近に危機感を覚えたのか、アメリカのバイデン大統領は、ポーランドを訪問する前に、ベルギーの首都ブリュッセルで3月24日に行われるNATO、G7およびEU首脳会議に出席し、EU主要国と会談した。

案の定、EU・中国首脳会議の蓋を開けてみると、EUはバイデンの思惑通りに中国を強く批判した。

◆EU側の報道―心は「中欧投資協定の凍結を解除したければ一刻も早く停戦を!」

4月1日、習近平や李克強らとビデオ会談したEU理事会のミシェル議長や欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関して、制裁逃れにつながるようなロシアへの支援を行わないよう中国側に求めた。

EU側の発表<EU・中国首脳会談:ウクライナの平和と安定の回復は共通の責任>

によれば、EU側は概ね以下のように述べたという(概要)。

  • 世界の主要大国として、EUと中国は、ウクライナにおけるロシアの戦争をできるだけ早く止めるために協力しなければならない。劇的な人道危機に対処するため、中国の支援を期待する。
  • ロシアのウクライナ侵攻は、我々の大陸にとって決定的な瞬間であるだけでなく、世界の他の国々との関係にとっても決定的な瞬間である。中国は国連安全保障理事会の常任理事国として、特別な責任を負っている。
  • 中国はロシアと独自の緊密関係にあるのだから、ウクライナにおける流血の即時終結をもたらすための努力を中国に要請する。
  • 経済制裁の抜け道などロシアに提供される支援は、流血を長引かせ、民間人の命のさらなる損失と経済的混乱につながる。中国はそのような試みを止めなければならない。
  • EUは、ウイグルなど少数民族や人権擁護活動家の処遇を含む中国の人権状況、ならびに香港における「一国二制度」の崩壊に関する懸念を改めて表明する。EUは、両岸(台湾海峡)の緊張の高まりに対する懸念を提起しながら、一つの中国政策へのコミットメントを再確認した。
  • その上でEUは、貿易と経済のバランスのとれた関係を確保するために、中国の市場アクセスと投資環境に関連する長年の懸念に対処する必要性を指摘した。EU・中国双方の首脳は、ハイレベルの貿易経済対話に関し、夏までに何らかの具体的な進展を図り、近い将来に、EU・中国協定を拡大することに合意した。                           (概要引用ここまで)

会談後、フォンデアライエン委員長は記者会見で、「もし中国がロシアを支援すれば、中国の欧州における名声を大いに損なうとけん制した」と述べている。しかし会談では「もし中欧投資協定の凍結を解除させたければ、プーチンと良好な関係を持っている習近平こそが、プーチンに向かって一刻も早い停戦を呼びかけろ!」というEU側の本心が滲み出ている。

◆中国側の報道―EUはアメリカから独立して自主性を!

中国側の報道によれば、習近平は以下のような主張をしている。( )は筆者。

  • 中国とEUは8年前から幅広い共通の利益と深い協力基盤を有しており、中国の対EU政策は首尾一貫している。EUが中国に対して(アメリカから)独立した自主的な認識を形成し、中国との自主的な政策を追求することを期待している。
  • 中国は対立的思考の復活と「新しい冷戦」の作成に反対し、世界の平和と安定を維持するために、「陣営」を形成しないよう共に協力したい。
  • 中国とEUは共通の発展を促進する2つの市場だ。中国は、欧州企業が中国に投資し繁栄することを歓迎し、欧州が中国企業の欧州投資開発のための公正で透明で非差別的な環境を提供することを期待する。
  • 習近平はウクライナに関して、こんにちのような状況に至っていることを非常に残念に思い、中国はウクライナの平和を願う側に立っており、国際法や国連憲章に基づいて話し合いによって解決すべきだ。これ以上大規模な非人道的状況が出現するのを何としても防がなければならない。中国はこれまでも、ウクライナの避難民を受け入れている欧州諸国に物資を提供してきた。中国側は、大規模な人道的危機を共同で防ぐために、欧州側とのコミュニケーションを継続していく用意がある。
  • 現在の世界経済構造は、世界各国の長期的な努力によって形成された枠組みであり、一つの有機体だ。現在の状況が何十年にもわたる国際経済協力の成果を破壊するかもしれない。状況が悪化し続けると、その後回復するまでに数年、十数年、さらには数十年かかると推定される。中国とEUは、危機の波及を防ぐことに尽力する必要がある。(概要引用ここまで)

◆習近平はプーチンに一刻も早い停戦を迫れ!

これに対して4月6日になって、ボレルEU外交代表が、<中国の選択と責任について>というタイトルで、4月1日のEU・中国首脳会談における習近平の‘follow the US blindly’(EUはアメリカに盲従している)と示唆したのは不当だと不快感を表明している。

前述したように、EU側および中国側の正式発表によれば、習近平は決して「アメリカから」という言葉をストレートに使ってないのだが、筆者自身が「アメリカから」を括弧書きで添えたように、誰がどう見ても「アメリカら独立して」としか読み取れない文脈で話している。

したがってボレル氏の指摘は正しいのだが、それを不快に思うというのであれば、習近平にとっては喜ばしいはずだ。EUはアメリカの言う通りには動かないということになるのだから。

EU・中国双方の主張を、やや長めにご紹介したのは、「ならば、習近平は一刻も早くプーチンに直ちに停戦するよう迫るべきだ」という結論しか出てこないからだ。

習近平が取るべき行動はプーチンを説得すること以外にない。

ロシア軍のあまりの蛮行は、全世界の心ある人々から激しい批難を受け、制裁も強化されてプーチンはますます孤立し、経済的にも窮地に追いやられて習近平を頼るしかなくなっている。

それを見越してEUは「中欧投資協定」を餌として習近平を動かそうとしている節がある。ウクライナ戦争の余波はEU経済を直撃している。

中欧投資協定凍結を解除してほしいのなら、習近平は一刻も早くプーチンの蛮行を止めるべく行動すべきだ。

プーチンと緊密な関係にある習近平のやるべきことは一つしかない。

すぐにもプーチンと連絡して、「停戦してくれ」と迫ることだけだ。

中露は経済的には連携を維持しているのだから、ロシアに対する制裁への抜け道を与え、その分だけ戦争を長引かせていることを自覚し、習近平は責任を果たすべきだ。それを実行しない限り、世界は中国を受け入れないだろう。

日本もEUと同じように、習近平の責任を問わなければならない。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(4月16日出版予定、PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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