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日本はロシア軍を応援している可能性――DJIドローンには日本製パーツ
中国の民生用ドローン製造企業DJI(写真:角倉武/アフロ)
中国の民生用ドローン製造企業DJI(写真:角倉武/アフロ)

ウクライナの副首相が中国のドローン企業DJIにウクライナ人を殺すロシアのドローンをブロックせよと要求した。DJIドローンのパーツには多くの日本製品が使われている。日本はウクライナ人殺りくに加担していることになるのか、岸田内閣は早急に審議すべき。

◆ウクライナ人がツイッターでDJIドローンに苦情

3月11日、あるウクライナ人がツイッターで、「(最近のウクライナ報道によると)ウクライナ軍が使っているDJIドローンのエアロスコープがうまく機能していない」と書いた。「この原因が、DJIがロシアを応援している証拠なのか、それとも単純に技術的な問題なのかを説明してほしい」という趣旨のことが書かれている。

DJIというのは中国広東省深圳市にある「大疆創新科技有限公司」のことで、英文ではDa-Jiang Innovations Science and Technologyと書くことからDJIと略称されている。民生用ドローンやその関連機器を製造している。

2006年に香港科技大学の卒業生が創設したがうまく行かず、恩師の力を借りて2012年頃からようやく本格的なドローン製造を始めた。今では世界の民生用ドローンの70%を手掛けている。

エアロスコープ(AeroScope)というのは、「ドローン検知システム」のことで、一定の範囲におけるドローンの電気信号を分析・監視し重要な情報を入手することにより現在市販されているほとんどの機種のドローンの特定が可能だ。人口密度の高い地域や原発がある地域など、飛行に注意が必要な環境の保全性を確保するためにある。DJIエアロスコープは、基本的に10kmの範囲内でDJIドローンの動きを追跡することができるが、DJI製のアンテナを追加することで、最大50kmまで範囲を拡大することができる。

さて、このツイートは以下のような主張をしている。

  • ウクライナの最近の報道によると、中国のドローン製造会社DJIは、ウクライナ軍に「エアロスコープ」技術の機能を制限し、ロシアの侵略者に重要な航空偵察の優位性を与えているとのことです。
  • ウクライナ軍では、偵察活動に様々な機種のDJIドローンを使用しており、ロシアもDJIドローンのエアロスコープを使用しているが、彼らはロケット砲撃の目標を定めるために、ドローン操縦者の位置を追跡する技術を使用している。すなわち、ロシア軍はDJIの技術をウクライナのドローン操縦士を殺すために使っている。
  • ウクライナ軍からの最新の報告によると、ウクライナのDJIドローン操縦者にとってエアロスコープの技術は事実上オフになっているそうだ。
  • これは、中国のドローン製造最大手が、ウクライナにおけるロシア軍の行動を密かに支援していることを意味する。(引用ここまで)

◆DJIアメリカの首席スポークスマンが返信

すると、即座に(同日)、DJIアメリカ支店の首席スポークスマン(Adam Lisberg)が以下のように返信した

――はっきり言いますが、(ウクライナの)これらの報道は間違っています。ウクライナにあるいくつかのエアロスコープが機能していないのは認識していますが、これはおそらく、長時間に及ぶ電力やインターネットの接続不良が起こした機能不全だと思われる。エアロスコープ機能をその地域だけダウングレードするための意図的なアクションは一切ありません。(引用ここまで)

◆ウクライナ副首相がDJIに「ロシアのエアロスコープ機能を遮断せよ」という公開書簡

それに対して3月16日、ウクライナのデジタル大臣でもあるフェドロフ副首相がDJI宛に以下のような書簡をネットで公開したとツイートした

ウクライナのフェドロフ副首相の公開書簡1枚目

ウクライナのフェドロフ副首相の公開書簡2枚目

ウクライナ副首相の書簡の要点だけをざっとかいつまんでまとめると以下のようになる。()内は筆者の説明。

  • ウクライナ人がDJIのドローンを使ってロシア軍の動きを偵察しているが、ロシア軍がエアロスコープ機能でこれらのドローンを逆探知して、操縦者を殺している(ウクライナではドローン監視センターを設置して民間人にもロシア軍の偵察を依頼しているため、子供を含む民間人が犠牲になっている。
  • DJIはロシア軍による殺人者の仲間になりたいのか?
  • 殺人者の仲間になりたくなければ、ウクライナで用いているDJIエアロスコープ機能のためのスイッチをオンにせよ。
  • ウクライナが購入し、ウクライナが使用しているDJIドローン以外のドローン機能を全てすべてブロックせよ(=ロシア、シリア、レバノンなどで購入およびアクティベートされたすべてのDJI製品をブロックせよ)。
  • ウクライナで機能しているDJI製品の数、ID、購入およびアクティベーションされた場所と時期をウクライナに知らせよ。ウクライナで機能しているDJl製品の地図も全てウクライナ政府に知らせよ(=ロシア軍の情況をウクライナ政府に報告せよ)。
  • 今や全人類は、ウクライナ人の英雄的行動を称賛し、世界中のさまざまな産業の多数の企業が、ウクライナを支援するために、ロシアへの抗議行動に参加している。だからDJIもロシア軍の側に立たず、ウクライナのために協力せよ。

◆DJIからウクライナ政府への回答

これに対してDJI側がが3月17日、ウクライナのフェドロフ副首相に、以下のような返信を出し、公開した

  • DJI製品はすべて民生用に設計されており、軍用仕様には適合しない。
  • DJIエアロスコープは、すべてのDJIドローンに組み込まれており、飛行中のドローンに関する情報をエアロスコープのレシーバーに伝えるようになっている。誰が使おうと、この機能をオフにすることはできない。
  • DJIはウクライナにおいてエアロスコープの機能を一切変更しておらず、多くのウクライナのエアロスコープは現在も機能している。DJIのウクライナにおける販売とサービスは一貫しており、変更されていない。
  • DJIは、ユーザーが積極的に提出しない限り、ユーザー情報や飛行データを取得することはできない。また、ユーザーの位置情報を特定・確認する能力もないため、ご要望のデータは保有していない(ので提供が不可能)。
  • それでもロシア軍のエアロスコープ情報をブロックせよということであれば、ウクライナではDJIのドローンを、誰も一切使わないという選択しかない。

◆DJIドローンのパーツの多くは日本製

DJI製ドローンのパーツの多くは日本製であることは、広く知られている事実だ。

たとえばドローンスクールナビのウェブサイトには<存在感を増すドローン部品メーカー、実は日本が強かった>という見出しで、「DJIが開発している産業用ドローンの部品のうち、実に5割を超える部分で日本の部品が採用されていることをご存知でしょうか?」という情報を発信している。

一方、電子機器の調査会社である(株)フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズは、DJI製品のMavic Air 2という機種のレポートを発行しており(一般公開はしてない)、取得した情報に基づいて、日本製パーツだけを拾い上げると、以下のようになっている。

出典:(株)フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズが出しているレポートのデータを筆者が編集して作成

筆者が参照したこのレポートは最も新しい機種であるDJIドローンのMavic Air 2に関して分解し検出されたデータが書いてあるが、他の機種のドローンに関してもDJI製のものの多くが日本製部品を使っていることは確かだ。もちろんアメリカや韓国など他の国の部品も使ってはいるが、日本のパーツのシェアがどれくらいかで検討するのではなく、少なくとも日本製のパーツがなければ、DJIドローンは完成しないということに着目すべきだろう。

◆日本はロシア軍を助ける行動を続けていいのか?

ウクライナ副首相の書簡が正しい現状を反映しているのだとすれば、日本はDJI同様に、ロシア軍による殺人の仲間になっているとうことになる。

ウクライナ副首相の書簡が公開されると、ドイツ最大のECサイトMediaMarktがDJIドローンの販売を中止した。中国のウェブサイトの一つである「観察者網」がDJIを取材した際にわかったと伝えている。

日本はいま国会で経済安全保障法案に関して審議していると思うが、日本の技術が中国に利用されることに関して論議する際、こういった民間企業の民生用ドローンに関しても、それが国際社会における「経済安全保障」に与える影響を分析し審議しなければならないのではないだろうか。

岸田首相は盛んにロシアへの制裁を徹底して厳しくすると言い、G7と足並みを揃えていることを誇っているようだが、国会議員はロシア軍がウクライナ人を殺すために使っているDJIドローンに関しても徹底して調査し審議するように望む。

追記:これをきっかけとして考えるべきは「中国の軍民融合戦略」で、日本が中国のハイテク産業にパーツを提供することは、中国の軍事力強化にも貢献していることにつながる。経済安全保障という観点から、大きな連鎖があることに目を向け、日本は国家として中国のハイテク産業へのパーツの提供を考え直すべきだということでもある。そのことは1月24日のコラム<ハイテク北京冬季五輪と中国の民間企業ハイテク産業競争力>に書いた通りだ。

追記2(4月1日):3月30日、南ドイツ新聞の報道によると、ドイツ政府がウクライナに対して3億ユーロ相当の武器を提供する予定で、中には偵察用ドローン18機が含まれているとのこと。また3月31日には、オーストラリア政府がウクライナに対して2500万ドルの軍事追加支援を提供すると発表。その中には(軍事用)無人機も含まれている。これらの新しい動きは、本コラムで書いた一連のDJIドローン騒動を受けて、ウクライナ政府は「交通安全のために自動探知システムを備えた民生用DJIドローン」を今後は使わない方向に動いていることを示唆している。そうなればウクライナ空域でのDJIドローンを全て禁止することができ、ロシア軍が使うDJIドローンはウクライナ空域に入ることは出来なくなる。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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