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中露「無制限」の相互支援の「現実」
Russian President Vladimir Putin speaks about Russia's military operation in Ukraine, in Moscow, Russia on Feruary 24, 2022. (提供:Kremlin Press Office/Abaca/アフロ)
Russian President Vladimir Putin speaks about Russia's military operation in Ukraine, in Moscow, Russia on Feruary 24, 2022. (提供:Kremlin Press Office/Abaca/アフロ)

親友

「人を理解するためには、友人を見よ」とはよく言われることだ。だとするとプーチン大統領を親友だと主張する習近平はどうなのだろうか。両首脳はこれまで40回近く会談しているが、いつも親密な姿をみせている。二人の独裁者は、米国とその同盟国は衰退し、未来は自分たちのものであると信じて一致団結しているのだ。しかし、それを駆り立てているのは将来の前向きなビジョンではなく、他者への批判、不公平に対する現実的または想像上の不満、他者からの脅威といったものである。両首脳は民主主義や人権を必死に主張するあまり、それら用語の意味を歪めて、彼らの世界観の中ではもはや何の意味も持たなくしているのだ。

つい数週間前、冬季オリンピックの開幕式で、そのことは十分に見て取れた。プーチンにとってはパンデミック後初の海外訪問となり、主要国の首脳として唯一、大会の開会式に出席した。首脳会談では、5,000語に及ぶ「無制限」の友好関係を打ち出した共同宣言が発表された。ロシアは、多極体制に基づく国際秩序についての中国のビジョンを全面的に支持することに合意した。ロシアは、中国に比べて経済規模が小さく、人口も少ないため、通常はこのユーラシア大陸の二国同盟の中においてはジュニアパートナーと考えられており、当然、ロシアが中国のように台頭してくる国であるとは誰も思っていない。しかし、両首脳を見ると、習近平の方がはるかにプーチンに惚れ込んでいるように見える。中国のインターネットやメディアから、女々しい男性アイドルやモデルを一掃するよう命令を出した習近平は、プーチンのマッチョなイメージに畏怖の念を抱いているようだ。習近平は柔道家でもなく、上半身裸で馬に乗っているところを写真に撮られるようなこともない。それどころか、習近平は「クマのプーさん」に例えられ、プーチンといえば、まるでロシアのギャングだ。

プーチンが北京を離れるやいなや、中国指導部はロシアによるウクライナ侵攻への警戒感の高まりにどう対応すべきかを考えるべく、視界から消えてしまった。懸念されたロシアの地政学的な問題だけでなく、15歳のロシア人スケート選手、カミラ・ワリエワをめぐる騒動が最も話題になったのも、運命的な出来事と言えるだろう。この出来事はこれから起こることを予感させるものであった。

プーチンのサプライズ

ロシアによる主権国家ウクライナへの理不尽な侵攻は衝撃的だが、驚きとは言えない。少なくとも、米国とNATOは数週間前から軍備増強を警告しており、プーチン自身の演説や言葉も数カ月前からこの方向に向かっていたのだ。しかし、ヨーロッパの国境が武力で変えられる時代は終わったと、世界中の多くの人が思っていたのだから、やはり驚きである。ニューヨーク・タイムズ紙は、米国当局が中国側と何度も会合を持ち、侵略の可能性について情報を共有し、ロシアに撤退を迫るよう中国の協力を望んでいると報じた。中国の反応といえば、否認と敵対心の間を行き来するもので、米国の努力は無駄に終わった。

侵攻以来、中国外交部は言葉巧みにロシアの行動を容認も非難もしない道を探った。ロシアによる主権国家への違法な侵略を、中国が明確に非難しなかったことは、世界中で見過ごされることはなく、オーストラリアなどは中国の日和見を批判した。対照的に、台湾の蔡英文総統は、ロシアの行動を「侵略」と呼ぶ明確な声明を出したが、一方中国はロシアによる表現で「特別軍事作戦」という呼び方を繰り返している。

そこで疑問なのは、プーチンは習近平に侵攻すると言ったのであろうか、ということだ。もしそう言ったとしたら、習近平はどう反応したのだろうか?反対しただろうか?支持したのだろうか?習近平はそれを内閣に伝えたのだろうか?興味深いこれらの疑問は、すぐに答えが出るものではないだろう。

中国の支持

2014年、ロシアがクリミア半島を不法に併合し、ウクライナ東部の反政府勢力を支援したとき、米国と欧州はロシア経済に制裁を課したが、それはロシア経済が中国とより深く結びつくことを後押ししただけであった。習近平とプーチンの強い個人的なつながりによって、こうした経済関係は確かに強化されるが、多くの国々と同様にロシア自身も中国市場に参入したいと考えている。中国はロシアに目を向け、経済成長に拍車をかけるために中国が必要とする多くの商品を保有する国であると見ている。経済関係の緊密化は、制裁がなくてもほぼ間違いなく起こっていただろう。しかし、制裁はロシアの発展が、米国や欧州との関係にではなく、中国とだけにあることを意味していた。

ロシアがウクライナ侵攻でさらなる制裁を受けても、中露間の貿易関係の強化と中国の台頭を背景に、中国との関係を頼りにするか、少なくとも中国との関係をさらに発展させれば痛みを和らげることができる、というのがプーチンの計算の一部であったであろう。もしプーチンがそう思い込んでいたのなら、ひどく誤解しているか、思い違いをしていることになる。中国は、プーチンの行動がもたらす経済的な影響からロシアを救済することはできないし、するつもりもなく、またロシアをそれらから守ることもできない。最近の国連安全保障理事会の侵攻非難決議では、11カ国が賛成、ロシアが反対と拒否権の行使、中国、インド、UAEの3カ国が棄権している。棄権は「無制限」の友好の証とは言えないであろう。では、中国に何ができるのか?ロシア側に投票するわけにはいかないのは確かである。中国は、「主権と領土の相互尊重、相互不侵略、相互内政不干渉、平等互恵、平和共存」の「平和五原則」を重要視している。ところがプーチンの侵略は、その一つひとつを破っている。このコラムでも以前紹介したが、40年にわたる経済成長で多くの国々や近隣諸国が恩恵を受けたにもかかわらず、中国は他国と良好な友好関係を築けていない。ロシアといった友好国の選択が、依然として問題の原因になっているようだ。中国の評論家には、中国がプーチンを支持することで、次に中国が台湾に侵入する際に支持を受けることができる、と指摘する者もいる。しかし、それはこの戦争が終わってもプーチンが政権を維持することが前提になっている。プーチンの常軌を逸した言動は、プーチンを排除しようと目論む一部の部下を勢いづかせるかもしれない。彼らは皆、プーチンに服従と忠誠を誓っているが、プーチンの選んだ道は彼ら全員を国際社会からのけ者にすることにつながっている。

中国が外交面で直接支援できないとしたら、米国、EU、英国などが提案・制定した最悪の制裁を回避したり、鈍らせたりするために、中国がロシアを支援する可能性はどの位あるのだろうか?これまでのところ、制裁の範囲は終わりを見せず、銀行に対する制限やロシア政府高官、富裕層の個人に対する資産凍結にまで拡大されている。銀行をSWIFTから切り離す、いわゆる金融面の「核オプション」が検討されているが、ドイツは炭化水素への依存度が高いため、炭化水素の供給をターゲットにすることに反対を続けている。

その上で、中国がこれらの分野でどのような支援を行えるかを問うことは意義がある。銀行の資産凍結については、率直に言って、中国にできることは何もない。制裁は事実上、対象となるロシアの銀行業務を停止させ、凍結された口座に資金が出入りすることはできない。米国で凍結された資金が、中国によって北京の口座で補償されることもない。また、中国の銀行は、制裁を受けた特定の事業体に対する決裁を円滑化することもない。すでに中国の銀行2行はロシアの商品に対する融資を制限すると発表した。金融制裁の実施には確立された枠組みがあり、どのグローバルバンクも米ドルの決済システムから切り離されることを非常に恐れて重要視している。資産を差し押さえられた個人に対しても、中国は何ら補償するつもりはない。今後数カ月の間に起こりそうなこととして、ロンドンの不動産、豪華ヨット、フランスの別荘で大金を使い、隠しているプーチンのオリガルヒの実物資産が、差し押さえられ凍結される可能性は十分にある。5,000万ポンドのケンジントンの邸宅と交換するために、中国に何ができだろうか?あるいはフランスの大邸宅はどうであろう?英国のフットボールクラブ、チェルシーFCは、プーチンとの関係があるとされるロマン・アブラモヴィッチによって所有されており、フットボールクラブの所有権が英国政府によって差し押さえられる、ということはあり得ないことではない。

SWIFTについては、中国と直接の関係があるため、一言触れておきたい。SWIFTとは、簡単に言えば、銀行や金融機関のためのメッセージングシステムである。お金や証券を移動させる指示を送る場合、銀行は安全で信頼できるネットワークを持っていることが重要だ。SWIFTでは、銀行内の端末へのアクセスは高度に制御されており、銀行はSWIFTの指示に基づいて行動するため、誰でも銀行から銀行へSWIFT指示を送ることができるわけではない。銀行間の送金では、SWIFTの指示により、適切な口座に資金が送金される。ほとんどすべての銀行、特にグローバル通貨を扱う銀行や国境を越えた取引を行う銀行はすべて、SWIFTとつながっている。SWIFTの魅力は、利用範囲が広いことや、安全で標準化されたフレームワークにある。中国はSWIFTに対抗するため、CIPSという独自のプラットフォームを開発しようとしたが、世界的な普及は非常に遅れている。多くの国では国内システムもローカライズしているが、CIPSでさえ国際送金はSWIFTに依存しているので、ここでも中国の支援はせいぜい部分的なものである。中国はロシアの石油、ガス、その他の商品を買い続けるだろうし、一帯一路(BRI)の活動も増やそうとするだろう。しかし、中国は、たとえどうあがいても、ロシアとプーチン、そしてオリガルヒを制裁から守ることはできない。中国はロシアにとって経済的に重要だが、中国とEUや米国との貿易に比べれば、ささいな存在である。また、忘れてはならないのは、現在中国は債務まみれであり、異常に膨れ上がった債務を克服しようとしている状況にある、ということだ。多くの国有企業や地域が財政難に陥っているところで、単純に中国にはロシアを救済する資金がない。

怒れるロシア

侵攻して2日目にして、プーチンがストレスを抱えていたのは明らかだ。軍事作戦は期待したほど順調に進んでいないのが見受けられた。プーチンは怒りに満ちた、死んだ目をしてテレビに登場し、ウクライナの指導者を麻薬中毒者やネオナチと呼び、とりとめのない奇妙な演説をした。親友の習近平はそれを観ていたのであろうか?中国国務院はどうであろうか?中国国内ではすでに習近平の権力拡大が懸念されているが、プーチンの狂気の沙汰を見るにつけ、習近平自身の友人選びの判断や戦略的思考に疑問符が付くに違いない。習近平が共産党のトップであり続けるためには、今年は極めて重要な年であり、これ以上地政学的な緊張が高まることは、習近平にとって最も避けなければならないことである。ウクライナ問題以外にも、かねてから習近平がコントロールしなければならないとしていた新型コロナウイルス感染症の流行を香港政府が抑えられなくなった。困難な10年の中で、今年もまた中国にとって困難な年になる。

欧州は、気が付かないうちにこの危機に陥ってしまった。ロシアに過度に依存することの危険性を欧州は認識していなかったが、ようやくその危険性に目覚めたのである。ロシアへの依存と中国への依存の類似性は多くの目に留まるところだが、政策の再調整とロシアへの関与は、間違いなく中国との関係に影響を与えるであろう。そのため、中国が歩む道はより一層困難なものとなるが、中国はロシアとの良好な関係を維持しようとするであろうし、結局のところ、石油と地政学的な支援が必要なのである。そこで中国がどのように対応するかによって、他の国々が責任あるグローバル大国として中国をどう見るかが変わってくる。危機はまだ終わっておらず、依然として制裁措置による効果も見られないが、長期的な影響は甚大なものになるであろう。中国の外交政策は、何十年もの間、どちらか一方の側につくことを避け、なおかつ自国の発展のためにすべての国と関わりを持とうとしてきた。それはおおむね功を奏し、多くの国々は、発展途上の大国である中国が好ましくないパートナーと関係を築くことを大目に見てきた。この1週間で世界は大きく変わった。中国の古い戦略は、新たな現実には到底そぐわないものに見えるのである。

フレイザー・ハウイー(Howie, Fraser)|アナリスト。ケンブリッジ大学で物理を専攻し、北京語言文化大学で中国語を学んだのち、20年以上にわたりアジア株を中心に取引と分析、執筆活動を行う。この間、香港、北京、シンガポールでベアリングス銀行、バンカース・トラスト、モルガン・スタンレー、中国国際金融(CICC)に勤務。2003年から2012年まではフランス系証券会社のCLSAアジア・パシフィック・マーケッツ(シンガポール)で上場派生商品と疑似ストックオプション担当の代表取締役を務めた。「エコノミスト」誌2011年ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞し、ブルームバーグのビジネス書トップ10に選ばれた“Red Capitalism : The Fragile Financial Foundations of China's Extraordinary Rise”(赤い資本主義:中国の並外れた成長と脆弱な金融基盤)をはじめ、3冊の共著書がある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「フォーリン・ポリシー」、「チャイナ・エコノミック・クォータリー」、「日経アジアレビュー」に定期的に寄稿するほか、CNBC、ブルームバーグ、BBCにコメンテーターとして頻繫に登場している。 // Fraser Howie is co-author of three books on the Chinese financial system, Red Capitalism: The Fragile Financial Foundations of China’s Extraordinary Rise (named a Book of the Year 2011 by The Economist magazine and one of the top ten business books of the year by Bloomberg), Privatizing China: Inside China’s Stock Markets and “To Get Rich is Glorious” China’s Stock Market in the ‘80s and ‘90s. He studied Natural Sciences (Physics) at Cambridge University and Chinese at Beijing Language and Culture University and for over twenty years has been trading, analyzing and writing about Asian stock markets. During that time he has worked in Hong Kong Beijing and Singapore. He has worked for Baring Securities, Bankers Trust, Morgan Stanley, CICC and from 2003 to 2012 he worked at CLSA as a Managing Director in the Listed Derivatives and Synthetic Equity department. His work has been published in the Wall Street Journal, Foreign Policy, China Economic Quarterly and the Nikkei Asian Review, and is a regular commentator on CNBC, Bloomberg and the BBC.