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モスクワ便り―ウクライナに関するプーチンの本音
ロシアのプーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
ロシアのプーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

習近平との面談後のプーチンに関して、クレムリンに近い「モスクワの友人」から非常に信頼のできる便りがあった。ウクライナへの武力侵攻の有無とともに、マクロンやバイデンに対するクレムリンの考え方をご紹介したい。

◆習近平とプーチンの蜜月関係

ロシアのプーチン大統領は、2月4日、習近平国家主席と会談して北京冬季五輪開幕式に出席するために北京を訪問した。

まず北京にある釣魚台迎賓館でプーチンと面談した習近平は、2014年にプーチンの招きでソチ冬季五輪開会式に出席するためにロシアに行ったと指摘した上で、8年ぶりに北京で再会したことを、「プーチンが冬季五輪の契りを守ってくれた証し」として感謝した。プーチンは、中露関係は未だかつてなく緊密だと讃えた上で、二人は互いに両国の結びつきの強さと蜜月ぶりを確認し合った。

面談が終わると、習近平はプーチンのためだけに用意した宴会にプーチン一行を招待し、春節の宴を共にすると同時に、多くの二国間プロジェクトに関して意見を交換した。

夜、北京冬季五輪開会式出席が終わると、長文の共同声明「中華人民共和国とロシア連邦による新時代国際関係とグローバル持続的発展に関する共同声明」協定締結が発表された。

共同声明では中露両国間の「民主観、発展観、安全観、秩序観」に関する共通の立場が述べられている。特に注目すべきは安全観(安全保障問題に関する見解)に関連した件(くだり)で、ここには以下のような項目がある。

  • 中露双方は互いの核心的利益、国家主権および領土保全をしっかりと支持し、両国の内政に対する外部干渉に反対する。
  • 中露双方は両国の共通の周辺地域の安全と安定を損なう外的圧力に反対し、いかなる口実で主権国の内政に干渉する外力に対しても反対し、「ビロード革命」に反対する。
  • 中露双方は、NATOの継続的な拡大に反対し、冷戦思想を放棄し(中略)、他国の歴史と文化を尊重し、他国の平和的発展を重視するようNATOに要請する。
  • 中露双方は、アジア太平洋地域における閉鎖的聯盟締結の形成と陣営対立の創出に反対し、米国が推進する「インド太平洋戦略」が当地域の平和と安定に対してもたらすマイナスの影響を警戒する。

すなわち中露両国は安全保障面においても完全に一致して臨むことを誓い合ったのである。米国を名指ししたことも注目に値する。

なおプーチンは、2月6日には南オセチア共和国のビビロフ大統領との電話会談が控えているだけでなくトルコのエルドアン大統領へのメッセージ送付もあり、2月7日にはフランスのマクロン大統領との対面会談もあるので、習近平は気を利かせて4日の内に宴会を開き、開会式参加後すぐにプーチンが帰国できるよう便宜を図ったのだった。

◆クレムリンのインサイダー情報

その後のプーチンとモスクワの情況に関して、モスクワにいる、クレムリンに近い友人を取材したところ、わざわざクレムリン関係者に接触してくれて、豊富な情報を提供してくれた。その中には、公けにしてはならないという情報も含まれていたので、それを除いたインサイダー情報を、可能な限りご紹介したい。

  1. 北京から帰国したプーチンは大変気分が高揚した様子で、かなり満足のいく北京訪問だったようです。
  2. フランスのマクロンとの面談は、ロシア側にとっては一定の意味があり、5時間にもわたって会談が成されました。大半の時間はプーチンによる情報分析、ロシアの立場のインプットであったようです。英米とは何を話しても、議論にすらならない低レベルの会談にしかならないので、知性エリートのマクロンとは会話が成立したとのことです。
  3. ロシアは、最早、米国との間では、いわゆる裏ルートとか秘密のホットラインが長年存在せず、本音で議論ができない相手と見做(みな)しており、この状況は誰が大統領になっても変わらないとの冷徹な見方の上に立って国際政治を考えているので、マクロンがここで登場してくれたのはありがたい話。もともと仏露は友好的な関係にありますし。マクロンに各種情報や分析をインプットすることによって、米国や欧州主要国へロシアの本音のようなものを伝えてくれる役割が期待できるのではないかと考えています。
  4. 英米とはこういう会話ができないし、裏ルートもない。一方、ドイツとフランスは長年培ったルートは残っており、ドイツに関してはノルド・ストリーム2を産業界は簡単に諦めることはないだろうから、まだ議論や交渉の余地はあるとロシアは考えています。
  5. バイデン政権はロシアにとっては、(トランプ政権に比べると)よりましな政権であり、彼(バイデン)のメンツを潰すことはロシアとしても考えてはいません。彼(バイデン)は、とにもかくにも、トランプ時代の末期のように対話もなしに制裁をしたり、協定を破棄したりということはなく、交渉にはならないことが多いが、少なくとも対話が可能であり、米国が何を考えているかは、(トランプ時代と比べると)より分かり易い。
  6. 米国の本質は大統領ではなく議会の力がより強いということだと、クレムリンは理解しています。トランプは、ロシアとはうまくやりたいと思っていたし、ロシアも交渉できる相手として期待したのですが、民主党を中心とする議会反露グループの圧力で何もできませんでした。曲がりなりにもバイデンは議会多数派を制していて、かつ、身内から足を引っ張られることもない。
  7. 米英がここまでウクライナにこだわるのは、ウクライナの現政権が米国の操り人形だからです。この、「完全に米国の操り人形として使える現政権」が倒れると、同国への影響力が大幅に低下するからに他ならないとクレムリンは見ています。米英には、「米英の軍事基地をウクライナに置く長期的な目標」があり、ここでコテンパンにロシア軍にやられてしまうと、あらゆる意味で今までの活動が水泡に帰しかねないので、米英が積極的に介入しようとしているわけです。特に米国にとっては、どこかで紛争があることは良いことで、そうでなかったら、軍産複合体の利益が損なわれますので、第二次世界大戦後を見てもわかるように、米国は必ず世界のどこかで戦争を仕掛けています。戦争がないと、米国は困るのです。
  8. なお、米国がウクライナに供与した武器、例えばジャベリンなどは、一時代前のもので、ロシアは戦車戦など考えていないので、ほとんど無意味でしょう。古い武器をウクライナに売却できて、米国は何も損していない。軍事産業が儲かれば、米国全体の経済が潤いますから

◆「モスクワの友人」の私見

「モスクワの友人」は、このたびわざわざクレムリン関係者と接触して下さった結果引き出した情報以外に、日ごろから培ってきた知見により、以下のような情報を「個人の見解」として提供してくれた。

 (1)ロシアはウクライナ側からの攻撃がない限り、武力侵攻することはないと思っています。で、そのウクライナ側からの攻撃もゼレンスキーがそこまでバカではないと思うので、英米にそそのかされても攻撃はしないだろうと思います。クレムリン筋も戦争の可能性はほぼ否定していましたが、もちろん、ウクライナの対応如何でもあると言っていました

 (2)ウクライナ危機を煽っているのは明らかに米国ですが、本来の調停者であった独仏がミンスク合意(*注)の履行をウクライナ政府に迫っておらず、ウクライナ政府がこの履行に全く真剣に取り組まなかったことが原因です。だというのに、調停者でもない米国が中心になって武器供与を進めている、ということ自体がおかしいのです。

 (3)独仏の本音は、「ずいぶんウクライナ問題では米国にかき回された。そろそろ本件の主導権を米国から欧州側に戻してもらおう」というところだと思っています。

 (4)ノルド・ストリーム2に関してですが、ロシアとしては、現在、このパイプラインが稼働しないことによって、ガスの高値が維持できていて経済的デメリットはまだ大きく出ていない。それどころか、米国もこの1ヶ月はアジア向けより欧州向けの方が市場価格が高いので、欧州にLNG(液化天然ガス)を9割ほど向けています。結果、欧州のユーザーや消費者は、ウクライナ問題のために、高額の出費を強いられているという状態です。

 (5)最後になりますが、ロシアとて一応法治国家ではあるので、今、ドンバス(ウクライナ東南部にある地方)に最新鋭兵器を供与するかどうかの議案が議会で審議されるほどで、ウクライナへの侵攻を大統領が決断できるのは何らかの攻撃、安全保障上の重大な危機が生まれた時ということになります。あの国際法違反が濃厚なクリミア侵攻の際も、ウクライナに軍を動かすに当たって、議会の承認を取り付けて行動しています。ロシアにとって、今現在は武力侵攻せねばならない危機ではなく、ふらふら状態のゼレンスキー政権などと戦争してもメリットはほとんど見当たりません。英米が騒いでくれている状態が、ロシアにとっては国際政治上、かつ、エネルギー価格の暴騰でメリットもよりあるように見えます。

*注【ミンスク合意】:2014年9月5日にウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が調印した、ドバンス地域における戦闘の停止について合意した「ミンスク議定書」と、2015年2月11日に欧州安全保障協力機構(OSCE)の監督の下、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツが署名した、東部ウクライナにおける紛争(ドンバス戦争)の停戦を意図した「ミンスク2」協定を指す。

取材の結果は概ね以上だ。

「モスクワの友人」は、米国が創り出した「煽り情報」に日本の大手メディアやいわゆる「専門家」までがそのまま乗っかり、ウクライナとロシアの真相を突き止めようとしないのは残念でならないと嘆いていた。アフガニスタンで失敗した「狼少年」の正体を見極めないのは世界の消耗であり損失であるとも指摘する。

日本のロシア問題研究者の、高い知性に基づく真剣勝負的健闘を期待したい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(4月16日出版予定、PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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