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河野太郎に好意的な中国――なぜなら「河野談話」否定せず
2021自民党総裁選に出馬表明した河野太郎氏(写真:アフロ)
2021自民党総裁選に出馬表明した河野太郎氏(写真:アフロ)

河野太郎氏は女系天皇や原発で「豹変」したと日本では報道されているが、中国では「河野談話」を否定しなかったことに注目し、非常に好意的だ。その実態と、日本に及ぼす影響に関して考察する。

◆日本の報道:脱原発と女系天皇容認を封印

自民党の河野太郎氏(行政・規制改革大臣)が9月10日、自民党総裁選への立候補を正式に表明した。

9年前から自身のブログで訴えてきた「脱原発」エネルギー政策については、持論を封印して、原発再稼働を当面容認する考えを示し、「安全が確認された原発を当面は再稼働していくことが現実的だ」と述べた。

また河野氏はこれまで、母方で天皇家と血のつながる「女系天皇」を容認する考えを示してきたが、これも「「(政府の)有識者会議の結果を尊重していくということに私として全く異論はございません」と述べて、世間を驚かせた。

いずれも総裁の玉座を手にするためには、政権与党内の空気や安倍前首相の顔色を窺い、政治信念まで曲げるのかと、日本のメディアの批判と国民の声は厳しい。

たとえば9月10日の毎日新聞<皇位継承、原発で河野氏「持論封印」 保守系への配慮、もろ刃の剣か>や9月11日の時事通信社<河野氏、懸念払拭へ持論封印 脱原発、女系天皇 支持拡大狙い、ジレンマも>およびそのコメント、あるいは激しいところでは、同じく9月11日の日刊ゲンダイ<河野太郎氏「総裁選」出馬会見で手柄自慢も発言ブレブレ…ゴマカしとスリ寄りで評判散々>など枚挙にいとまがない。中には河野氏のパワハラ怒声録音を暴露した文春オンライン報道などもあるが、全般的に見て、日本の報道として特徴的なのは、「脱原発」と「女系天皇」問題に焦点が当たっている。

◆中国の報道:「親中派」と「河野談話」に焦点

ところが中国の報道は、河野氏がこれまで「親中派」であっただけでなく(参照:9月9日のコラム<日本の自民党次期総裁候補を中国はどう見ているか?>)、今般の出馬表明で河野氏が「河野談話」を否定しなかったことに焦点を当てている。

同じ人物に関して、日本と中国では、「見えている景色」が全く違うのだ。

たとえば9月11日の中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」電子版「環球網は<河野太郎氏が自民党総裁選への出馬を表明、日本のメディアは4ヶ月連続で世論をリードしていると報道>という見出しで、河野氏を絶賛している。

そもそも河野氏を紹介する見出しに「4ヶ月連続で世論をリードしている」という言葉を使うことからして、「応援ムード」にスイッチが入っていることをうかがわせる。

なぜなのかは、その記事が何に焦点を当てているかを見れば一目瞭然だ。

そこには以下のようなことが書いてある。

――注目すべきは、河野太郎氏の父親である河野洋平氏(元内閣官房長官)は、有名な「河野談話」の中で、第二次世界大戦中に日本軍が慰安所を設置し、他国の女性を「慰安婦」として強制的に働かせていたことに日本軍が直接関与していたことを認めていることだ。 河野太郎氏は10日(の記者会見で)、「河野談話」に代わる新たな「談話」を作るつもりがあるか否かという質問に対して、「自民党政権から引き継がれてきた歴史認識を引き継ぐ」と答えた。 (引用ここまで)

つまり、河野氏は「自民党政権から引き継がれてきた歴史認識を引き継ぐ」と言っただけで、「いえ、河野談話は引き継ぎません」とは言わなかったことに中国は注目しているのである。

何と言っても河野洋平氏は6月27日のコラム<河野太郎の父・河野洋平等が建党百年に祝電――中国共産党万歳!>に書いたように、中国共産党建党百周年記念に向けて祝電を送ったことで有名だ。中国はこのことを非常に喜んでいる。

だからこそ、環球網は河野太郎の現状を知らせるに当たり、「日本の産経新聞社と日本のフジテレビ・ニュース社が共同で実施した世論調査では、河野太郎氏が4ヶ月連続で次期首相候補のトップになっている。読売新聞が6日に発表した世論調査によると、太郎氏は18歳から29歳の間で32%の支持を得て、他の候補者よりも圧倒的に優位に立っています」と応援歌丸出しなのである。

環球網は9月10日の19:13時点での速報でも<河野太郎が日本の自民党総裁選へ立候補を表明  日本のメディアの世論調査で最有力候補>と、わざわざ「世論調査でトップ」ということを見出しで強調している。

◆中国の他の報道も「慰安婦問題」に注目

9月10日の「北京日報」は<日本の「ワクチン大臣」河野太郎が首相選に参戦、父親は慰安婦問題を承認>というタイトルで河野氏の総裁選立候補表明を報道している。

タイトルそのものに「慰安婦問題」とあるので、当然のことながら、「河野談話」が強調されていることがわかる。

そこには以下のように書かれている。

――記者から河野太郎の歴史問題に対する立場を聞かれ、彼は「自民党の一貫した立場に従う」と答えた。 河野太郎の父である河野洋平が内閣官房長官だった1993年に発表した「河野談話」は、「慰安婦問題」に関する調査結果に関して発表した談話で、朝鮮半島や中国などに「慰安所」を設置し、現地の女性を集めて強制的に「慰安婦」として充当したことに日本軍が直接関与したことを認め、そのことに対して謝罪と深い反省を示したものだ。「河野談話」は、「慰安婦問題」に関する日本政府の公式見解となった。(引用ここまで)

「河野談話」に関しては、事前に韓国とすり合わせていたといった情報があり、少なからぬ異論が出たものの、情けないことに歴代内閣は(渋々ながらも)「河野談話」を継承するとの立場を示してきている。

実は慰安婦問題に関しては『父の謝罪碑を撤去します 慰安婦問題の原点「吉田清治」長男の独白』(産経新聞出版)などにあるように、証言者の信憑性そのものが崩れているが、アメリカ政府からの圧力があり、日本の歴代内閣も「河野談話」を継承せざるを得ないところに追い込まれてという現状ある。アメリカ政府に力を及ぼしたのは在米コーリアンたちだ。しかし日本はアメリカに言われると弱い。安倍政権でさえ、結局のところ屈した。

したがって河野太郎氏が「自民党政権から引き継がれてきた歴史認識を引き継ぐ」と言ったということは「河野談話」を継承すると言ったのに等しいことになってしまう。日本でも政治ジャーナリストの安積明子氏が9月11日<“河野談話”を踏襲した河野太郎は、「日本を前に進める」ことができるのか>と疑念を発した情報も中には見られる。しかし日本は得てして、この問題にあまり注目はしていない。

ところで北京日報の報道は、もともと新華社報道に基づいたものだったが、新華社報道の見出しには「慰安婦問題」という言葉がなく、おとなしいものだった。しかし北京日報が見出しに「慰安婦問題」と付け加えたものだから、中国での他のメディアも一斉に「慰安婦問題」を見出しに入れて転載を始めた。

したがって中国では「河野太郎出馬」=「河野談話継承」=「慰安婦問題承認」のようになっており、河野太郎なら中国に有利だろうというムードが醸し出されている。

◆日本にとっての影響

いま行われようとしているのは、あくまでも「自民党総裁選」であって、投票行動に国民の意思が反映されるものではないが、しかし立候補者は「国民の人気度」を気にしており、それが総裁選後の衆院選に影響していくのはまちがいないだろう。

中国が河野氏へのエールを送っているということは即ち、河野氏は中国にとって「都合がいい」ことになり、それは有形無形の影響を日本に及ぼす。

たとえば天安門事件後の対中封鎖に関しても、中国政府はすぐさま日本政府要人と経済界の要人にコンタクトを持ち、強烈な接近を図ってきた。

中国のシャープパワーには、益々磨きがかかっており、日本の大手メディアさえ、その範疇にある。

日本の政財界への水面下における働きかけは、われわれ国民には止めようがないが、しかし政府要人は投票行動のために「国民の声」を気にしている。

中国は盛んに、河野太郎は若者の間で絶大な人気を博しており、SNSのフォロワー数において群を抜いていると高く評価している。若者は「河野談話」の何たるかを知らない人が多いかもしれない。

中国に気に入られているということは、中国の思うままに動かせるということだ。

中国が言論弾圧をする一党独裁の国であることを忘れてはならない。

この事実が若者に届くよう、読者の方々のお力添えを願うばかりだ。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.