バイデン(Joe Biden)米国大統領は就任後、直ちに欧州歴訪を行うと共に、メディアに次の論文を投稿した。〈私の欧州訪問は、アメリカが世界中の民主主義諸国を結集させるためである〉(Joe Biden: My trip to Europe is about America rallying the world’s democracies)。この度の訪問は6月11日~13日の英国コーンウォールでの「主要7ヶ国首脳(G7)会議」に集約される。この間、ジョンソン(Boris Johnson)英国首相、エリザベス二世(Elizabeth II)英国女王と会談した。6月14日にはベルギーのブリュッセルにおいて、「米EU首脳会談」、「北大西洋条約機構(NATO)首脳会議」に参加、この間、ロシアの盟邦トルコのエルドアン(Tayyip Erdogan)大統領とも会談した。また6月16日には、スイス・ジュネーブにおいて「米ロ首脳会談」を開催、会談後の記者会見で、バイデン氏はロシアのプーチン(Vladimir Putin)大統領と並び立って、自身の初外遊の成果を米国民に誇ってみせた。
歴代の米国大統領は何れも外遊を好む。外遊すればマスコミによるしつこい追求や議会による監督から解放されるほか、更には大統領個人の外交手腕を見せつけることができるからだ。「ピュー・リサーチセンター ( Pew Research Center)」による米国トランプ大統領とバイデン大統領に対する各国の印象調査(America’s Image Abroad Rebounds With Transition From Trump to Biden)によれば、16ヶ国での民意調査研究において、60%を超える人がバイデン氏の方が国際問題で正しい事をやると考えてることが判った。2021年と2020年に調査を受けた12の国を比較すると、各国民衆がバイデン氏に対し信頼を示した中央値は75%に上った一方で、2020年のトランプ氏に対する信頼は17%だった。
80年間改正されていなかった「大西洋憲章」(Atlantic Charter) を更新して米国と英国の間の“特殊な関係”を強調したのみならず、バイデン氏とジョンソン氏の共同声明の中では、“我々は断乎として民主を護らねばならない。「自国から始める」(starting with our own)ことで、我々のこの時代の最重要課題を解決できる。” “我々は透明性を主導し、法治を護り、市民社会と独立メディアを支持する。我々は更に共同で不公正や不平等にも立ち向かい、あらゆる人の天与の尊厳と人権を衛る”と宣言した。
外遊前に、バイデン氏は米国が5億回分のcovid-19ワクチンを購入して世界と分かち合うと宣言し、民主党と共和党から一致して好評価を受けた。G7首脳会議では21世紀の世界が関心を寄せる事項、例えば気候変動、サイバー犯罪及び専制国家と民主国家との間の衝突を討議した。G7首脳会議で、バイデン氏は「全世界の法人税の最低税率」を15%にする協定を取りまとめ、税率の低い国による「底辺への競争」(race-to-the-bottom)という悪しき引き下げ競争政策を抑制するべく努力した。それから国際通貨基金(IMF)の準備金を1000億ドル増やし、これを用いて新型コロナウイルスのパンデミック下で、経済復興を渇望する国の需要を支えることとした。
バイデン氏は「より好い復興プラン」(Build Back Better Plan)も提示した。これは元々米国大統領選の時のバイデン陣営の重要政策だ。7億ドルに上る将来の経済及びインフラ計画で、インフラへの投資、1000万のクリーンエネルギー雇用枠の創出見込み、及び住宅、教育、経済の公平と医療保健の政府資金が含まれている。バイデン氏は全世界の民主国家がBBBに参加し、共に価値観に基づいた、高水準で透明性のあるインフラパートナーシップの計画を構築することを望んでいる。このほか、米国は中国と気候変動への取り組みで協力を望みつつも、中国による強制的な労働改造という邪悪な手法を非難した。
何をしでかすか予測不能だったトランプ大統領と違い、バイデン氏の初外遊の行程と収穫は、現職米国大統領の影響力を示したのみならず、「米国が帰ってきた」(America Is Back)と世の人を驚かせた。バイデン氏が米国を再び世界に関わらせると約束したことは、各国首脳達の好感を勝ち取った。ピューの民意調査によると、米国政府が世界保健機関(WHO)に再加盟する決定に対し各国で大きな支持(中央値は89%)を獲得した。ほかにパリ協定への再加盟(85%)、民主国サミットの組織(85%)及び国境を跨ぐ難民の受け入れ(76%)であった。
バイデン氏がトランプ氏に替わって米国大統領になった後も、中国への態度は依然として非常に強硬だ。多くのトランプ氏に対して友好的な台湾の各層はこれを非常に不思議に感じている。ただ米国の外交文化や歴史に詳しい人に言わせると、バイデン氏は米国の外交的伝統の常軌に立ち戻っただけだ。
1918年にウィルソン大統領は「14ヶ条の平和原則」を提起して民族自決を強く主張した。大部分の米国人は、国際問題に関与するのは、(1)米国の民主自由の政治制度が全世界で最良のものだから、(2)米国が全世界で最も力のある国だから、(3)米国には世界秩序を構築しこれを維持して、全世界の人類が米国式の自由、民主及び繁栄を享受できるようにする義務があるから、と常に考えてきた。
米国は英国と親しい。ただ英国の世故に長けた態度は嫌悪しており、19世紀の英国パーマストン首相(Palmerston)の「大英帝国に永遠の友はない。ただ永遠の国益あるのみ」との名言には同意しない。基本的に、米国の外交政策は「利他主義」(Altruism)と「理想主義」(Idealism)の2つの価値の上に成り立っている。例えば、米国が2度の世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラン・イラク戦争に参加したのは、当初はいずれも自国の利益の為ではなく、ある種の理想の為、あるいは国際秩序を護る為であった。
たとえウォール街の財閥、軍需産業集団、政治家達が、米国が海外での戦争に参加することを裏で煽る黒幕であり、最大の利得者であったとしても、米国の民衆は決してそのように考えない。米国の民衆が立ち上がって政府の出兵を支持するのは、通常はある種の理想の為である。例えば、ルーズベルト大統領(Franklin Delano Roosevelt, Jr.)が、アジアの中国と欧州の英国を援けようと米国人の説得を試みたが、彼の訴えは道徳と理想であり、全世界の弱小国家が強国の侵略に抵抗するのを支持しようと米国の民衆に訴えたのであって、国益に基づくものではなかった。
ただ、米国の外交政策も嘗て国益と国際勢力の均衡を追求したことがあった。例えば、1968年のニクソン(Richard Nixon)大統領の時代にベトナム戦争で散々な目に遭った為、米国人に(1)米国は道徳的に批判に耐えられるのだろうか?(2)米国は本当に到る所で国際問題に介入できるほど強大なのだろうか?(3)米国がこれまで強く推し出してきた国際秩序はまだ通用するのだろうか?との疑いを懐かせ始めた。
ニクソン大統領は外交的大策士のキッシンジャー氏(Henry Kissinger)を重用し、国益の追求を始め、中国と共同してソ連を牽制し始め、国際勢力の均衡を追求し始めた。しかし20年後、1989年にベルリンの壁が崩壊し、1991年にソ連が解体、米国は再び自信を取り戻し、またもや米国の自由、民主及び人権をあちこちで宣揚し始めた。たとえ中国共産党の如き権威主義者であっても、米国は友好的な態度でこれを説得し、中国が世界の経済貿易システムに参加し、ドイツ、日本、台湾、韓国と同様に、民主自由の国家に発展することを望んだ。
米国は中国が米国主導の国際秩序に参加するのを心から希望した。例えば2000年に中国はWTOに加盟し、米中関係は一時期、非常に密接且つ友好的であった。然るに中国経済の擡頭を受けて、たとえ中国は「平和的擡頭」だと不断に宣伝しても、米国が築いてきた世界秩序を脅かし又は破壊する能力を中国は持ち始めた。米国人は忍耐力をなくし、トランプ氏のような予測不能な狂人を大統領に選んだ。トランプ氏は理想主義を語らず、国際秩序も語らず、米国の外交的伝統に完全に背いた。科学技術の制裁から米中貿易関税戦争まで、中国の対外経済貿易は極めて大きな打撃に直面した。トランプ氏が退任し、バイデン氏が跡を継いだ後、米国は伝統的な外交政策の常軌に戻ったが、米国と中国との関係は既に全面的に悪化しており、再び元に戻すことはできない。
投稿の最後に、バイデン氏は現在の死活的に重要な2つの問題を提起している。即ち、国際情勢が風雲急を告げる中で、民主政府間の同盟が人々の為に好い成果をもたらすことが出来るのか?ということと、過去1世紀を経て拡張を続けてきた民主国家の同盟と組織が、現代社会の脅威と競争相手に対抗する能力があるのか?ということだ。理想にあふれるバイデン氏は、イエス、我々にはチャンスがある、と堅く信じる。
但し、若しも中国共産党の観点に立てば、あるいは目下の民族主義が昂まる中国人民の視点から見れば、現実の条件、結果、そして未来の想像は逆にそうはなっていない。中国は既に列強の中国に対する不平等条約を排除しており、中国人民は立ち上がった。新時代の中国青年は中華民族の偉大なる復興の実現を以て自己の任務とする。絶対多数の中国民衆、又は共産党青年団の若い世代も、もしかすると理想主義者で、弱者を助け、天下の公道を望んでいるのかも知れない。
しかし「我々(中国)は“教師づら”してアゴで指図するような説教は決して受け容れない!中国共産党と中国人民は自ら選択した道を胸を張って進んで行く。中国の発展進歩の運命は自らの手中にしっかりと掌握しているのだ!」7月1日の中国共産党百周年式典において、中共国家主席、総書記の習近平氏によるこの演説は、それでも外国人が西側民主主義を唱えるのなら、それには下心があるのであり、中国内部又は党内の人間が民主化を唱えるなら、それは反党、陰謀分子であることを意味する。中国の未来は、一点の疑いもなく習近平同志を核心とする党中央が中国の特色ある社会主義の発展路線を堅持し発展させるものだ。
中国人は米国が現在やっていることは全て中国の擡頭に対する阻止と包囲であり、最終目的は制度、科学技術、経済、軍事力、そして米ドルの各種ヘゲモニーを含む米国の覇権を維持する為であると感じている。習近平氏は次のようにほのめかした。「中国人民はこれまで他国民をいじめ、圧迫し、奴隷にしたことはない。過去にも、現在にも、将来にもあり得ない。同時に、中国人民はどんな外来勢力が我々をいじめ、圧迫し、奴隷にするのも決して許さない。そのようなことを妄想する者は、必ず14億超の中国人民が血肉を以て築いた鋼鉄の長城に頭を打ちつけて血を流すだろう!」
「バイデン主義」(Biden Doctrine)とは一体何だろうか?誰もが知りたがるが、確定的に言えることはバイデン大統領が「利他主義」と「理想主義」に従い、民主と価値を強調し、同盟諸国との共有協力を願っていることだ。それに較べて、中国が中国内部に対して絶えず民族主義的情緒に訴えているのは、「習近平同志を核心とする」ことを宣伝しているのであり、決して西側のいう「独裁」ではない。米中両国は図らずも同じくこの瞬間に、情感や煽動性のある「理想主義」の外交政策を訴えている。
バイデン氏の訪欧時の公開演説から、米国と中国の競争が、21世紀の民主と独裁の全面的競争の一部分に過ぎないことが判る。歴史は既に一つの転換点に差し掛かった。未来の歴史学者達は、我々のこの時代を研究する時に、バイデン主義の中の民主的価値が勝ったのか?それとも「習近平同志を核心とする」中共的価値が勝ったのか?を評価判断するだろう。
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