8年間の交渉を経て、2020年11月15日午後、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)が正式に調印された。これは世界最大の自由貿易協定であり、しかも全面的、近代的、高品質で互恵的な自由貿易協定でもある。ここに至って、世界で人口が最も多く、メンバー構成が最も多様で、発展潜在力が最も大きな自由貿易圏が誕生したのだ。RCEPは物品貿易、サービス貿易、投資等の市場参入ばかりか、貿易円滑化、知的財産権、電子商取引、競争政策、政府調達等の大量のルール内容をも含み、貿易投資の自由化と円滑化のあらゆる面を網羅している。当該協定がカバーする地域の人口は23億人に達し、GDPの総和は25兆ドルを超え、貿易は全世界の25%を占め、中国の製造業優位性、日韓の技術優位性、ASEANの労働力優位性及び豪州NZの自然資源優位性によって域内により深いバンドル型協力を形成することになる。この事はまた、当該協定を目下世界最大の貿易協定たらしめる。RCEPの調印は高いデモンストレーション効果があり、或いはTPP及びTTIPの交渉を加速するかもしれない。
一、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)調印の意義
先ず、RCEPは一つのアジア経済実体の再循環戦略で、製造業をアジアに留め置くのと同時に、アジアの科学技術研究開発能力を向上させ、アジアを主とした産業チェーンを徐々に形成する。短期的にみれば、これはポストコロナ時代にアジアが率先して経済危機を抜け出す重大な契機であり、長期的にみれば、アジアの製造能力と経済の一体化水準を全体として向上させる。RCEPは欧州連合に次いで、世界でもう一つの地域統合の到達点である。RCEPの調印はメンバー国の国内で消費市場の選択肢を充実させ、企業の貿易コストを低減し、日本、韓国、中国台湾地区、並びにインド、ブラジル、南アフリカ等の新興経済実体の経験を手本にし、開放された経済実体に加わり、株式、債券、為替、不動産等の優れた資産価値が長期間支えられるようにするのに役立つ。
次に、RCEPは中国企業の発展空間を拡張する。調印国の日本、韓国及びオーストラリアは均しく中国の貿易相手国の中でトップ10であり、ASEANは全体として中国最大のパートナーである。従って、中国が世界最大の物品貿易国として、メンバー国との貿易関係をより一層強化することに役立ち、中国製品の海外市場拡大に役立つのだ。
第三に、RCEPは中国国内大循環の円滑化に役立つ。中国は世界最大の内需市場で、国内住民の高品質製品へのニーズが日増しに増加している為、国際企業が是非とも争奪すべき国際市場にもなっている。中国が2020年下半期に相次いで開催した北京国際サービス貿易交易会と上海国際輸入博覧会によって、世界の優良企業と良質廉価な商品が円滑に中国市場へ進出した。中国市場の内循環に役立つのである。国内企業が緊密な川上川下サプライチェーンを構築することに役立ち、中国経済の再生と健全発展の促進に役立つのだ。
第四に、RCEPは各国経済再生の後押しに役立つ。今回協定に調印した15ヶ国において、中国のGDPと輸出入額割合は何れもその半分に達し、同時に当該地域の半分を超える人口も擁し、市場潜在力が巨大である。そのほか、中国経済には更に巨大な発展空間があり、世界経済発展を牽引する役割がますます大きくなっている。RCEPの調印によって関係諸国は更に容易に中国市場に進出するチャンスを得ることができ、各国経済の再生を後押しする。
第五に、RCEPは更に経済以外の分野での手本と協力に役立つ。地政学の角度からみると、中国の発展の周辺環境が改善され得る。日・豪等の米国の同盟国の加入は、ますます多くの国が中国の対抗ではなく協力という理念に賛同していることを示している。調印国が全面協力するという政治的意志と政治的地位の強化と向上に役立ち、中国の防疫経験と中国ワクチンの交流と使用に役立つ。
二、RCEPと中国EU投資協定の調印は、デジタル人民元に如何なる影響を生じるか
先ず、RCEPは米ドルの主導的地位の低下を促し、人民元の地位が相対的に上昇する。
幾度もの量的緩和を経て、米国債の規模は既に28兆を超えている。しかも米国債の最大債権者は日本と中国である。信用危機に見舞われた米ドルに比し、現在人民元はより各国の人気の的である。疫病情況の推移に伴い、中国は既に目下世界で最も安全な地域となり、投資家達は将来の中国経済の安定性を好感し、人民元の価値が徐々に上昇中である。世界第二の経済実体である中国は、経済の強靭性が明らかに優れ、加えて自国の疫病が既にコントロールされ、しかも人民元が既に世界で少なくとも35ヶ国が承認した決済通貨となっている。イランは既に人民元を主要外為通貨の一つにし、米ドルの位置に取って代わり、サウジとロシアの石油は何れも人民元で決済する傾向があり、人民元が多くの国で外貨備蓄されている。
第二に、デジタル通貨の推進加速に役立ち、世界各国での脱米ドル化プロセスの加速に役立つ。
米国が他国の利益を顧みず債務危機に転嫁すれば、各国の奮起反撃に遭い、米国債の持分を減らし、金の備蓄を増やす等の手法で流動性リスクが回避される。これまで、世界各国は米ドルによる抑圧からの脱却を諦めたことはなく、米ドル覇権への挑戦を諦めたこともなく、RCEPの通貨スワップ及び輸出入メカニズムの建設を通じて、発展中のデジタル人民元を利用することで、徐々に一部米ドル市場を置き換えることができ、それによって人民元国際化の歩みが大々的に加速され、アジアが金融危機に立ち向かう能力を一層拡大する。ユーロの安定に役立ち、日本円、韓国ウォン等アジア通貨ないし経済の安定に役立つ。
三、中国のサプライチェーンにおける位置に如何なる影響を生じるか
RCEPと中国EU投資協定の調印は、東アジア地域の経済活力と成長潜在力を一層開放し、地域の発展繁栄の促進に新たなエネルギーを添え、中国・EUの協力に布石を置くものだ。RCEPは日・韓・豪・NZ等の発展段階の高い諸国のみならず、経済成長の勢いが最も好い中国と広大なASEANをも含む。しかも、当該地域には比較的成熟した国際製造業分業ネットワークがあり、経済の相補性が高い。統一した経済貿易ルールと円滑な多国籍経営環境が、域内各国のサプライチェーン産業チェーンの深い統合を促し、それによってアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)プロセスを推進するのは間違いない。
先ず、中国の産業チェーン構造グレードアップのテンポに従って、中国のローエンド産業は必然的に一線都市から外部移転し、主に中国内地の三~四線都市や、更には東南アジアへと流出する。RCEPの調印は、東南アジア及び“一帯一路”諸国への流れを促すのだ。中国はRCEP地域バリューチェーンを通じて新技術・新市場を育成し、製造業の川上へと移ることができるのである。RCEPの力を借りて、中国は近場で周辺諸国と共に商機を見出し、アジア太平洋地域内の統一した貿易ルール体系を構築することができる。長期的にみて、ASEANメンバー国の人口ボーナスと安定した国内環境も中国のローエンド産業チェーンを承け継ぐのに有利で、中国がハイエンド産業チェーンへの飛躍を実現する助けとなり、中国が優位性を具えるコンシューマーエレクトロニクス、家電、通信設備及びその他ハイエンド製造業に利益をもたらし、同時に、中国の食品や金属加工業の部分移転もより安いコストによって利益を得る。
次に、アジア地域バリューチェーンを再構築し、世界貿易体系を再構築する。RCEPにより中国は対米・欧市場への依存を徐々に減らし、日韓との経済協力を増強し得る。しかも地域に基づき共通の原産地ルールを制定し、アジア地域統合の方式で世界貿易体系に加われば、中国が他のマイナス貿易ルールを回避する助けとなる。協定発効後、RCEPの助けを借りて、中国企業がより円滑に国際産業チェーンに加わり、製品を輸入するコストがより安くなり、輸入貿易規模が拡大し、産業の外部移転傾向が加速状態を呈する可能性がある。長期的な視点から言うと、全産業チェーンが網羅する中国企業に、国内の大規模化市場の優位性が加わり、RCEP調印後、中国は多くの分野で徐々に産業チェーンの川上に進出するだろう。同時に、輸入と越境ECにより好い発展のチャンスがもたらされるだろう。
当然RCEPの調印には課題が無い訳ではない。機械製造、光電子製造等のミドル~ハイエンド産業は短期的に一定の打撃を受ける可能性がある。既に農業を工業化しているオーストラリアでは農業の規模化生産後、生産コストが極めて低いが、まだ工業化していないミャンマーやタイは自ら為替レートを下げて、農産品を大量輸出できるようにするだろう。RCEP条項中には農産品の輸出補助を取り消す規定があるので、中国農産品の米、小麦、豚肉牛肉、乳製品及び砂糖の5品目重要農産品は輸出補助を失い、これが中国農民の主食栽培と家畜養殖の積極性に影響するだろう。
四、中国と西側がデカップリングしたら、経済圏を構築するのにどれぐらい時間が必要か
先ず私個人は次のように考える。各国ともに左派、中道、右派及びその代弁者が居るが、国家の根本利益を決定するのはこれら代弁者ではなく、更に彼らのある種の過激な言論でもなく、双方利益の最大化という総合的考慮である。米中は世界最大の2つの経済実体として、両国間の経済関係は双方の経済構造の相補性と世界経済の開放性によって決まるものである。徹底的なデカップリングは非現実的であり、双方の根本利益からみれば、協力こそウインウインであり、デカップリングは共倒れであって、どちらにも好いところがない。中欧双方が既に投資協定に調印したことは、双方が協力中であって、デカップリング中ではないことを示している。日韓と中国の経済は切っても切れない関係で、デカップリングのしようがない。大国間競争において、闘いは必然であるが、闘いは和の為である。戦争がたとえ勝ち負けを分けるものであっても、最終的にはやはり和の為である。従って闘いの中に和があるのも必然である。よって中国と西側との完全デカップリングは一種の仮説であって、限りあるデカップリングこそ却って現実的である。現実のデカップリングは単に政治的スローガン上、経済制裁のある種の領域における、臨時的な外交辞令及び相互対等制裁措置の面でのある種のパフォーマンスに過ぎず、本当のデカップリングはあり得ない。具体的には、世界最大の生産能力は世界市場に頼って消化されなければならないのだ。米国にとっても同様で、世界最大量の資本は世界最大の生産能力を見つけて通貨発行の基礎としなければならない。お金は現物に代わるもので、中国という生産能力センターがなく、原材料と技術を現実の製品やサービスに転化しなければ、発行した米ドルが還流するのは難しく、米ドルに“滞り”が生じれば、世界金融の崩潰を招き得る。米中両国が互いに必要とし合っていることこそ問題の本質であり、よって完全デカップリングなどあり得ないのだ。
一万歩譲って、農耕社会に戻るとしても、中国には自らの独立した経済圏がある。古代中国経済は基本的に内循環に依存するものだった。古代中国は単に一方的に域外へ茶葉、陶磁器、シルク等物品を輸出していたに過ぎない。少量の奢侈品を除いて、域外から生活必需品を輸入する必要はなかった。当然中国は今は開放時代で、内外両経済圏の構築を望むが、内循環の経済圏を内部需要に依存しながら構築することは全く可能である。外循環の経済圏に至っては、上で述べた如く、中国と世界各国の共同需要に依存しているので、障害はあれども、やはり稼働中である。外循環経済圏の構築時間の速い遅いと、その基準の高い低いについては、別紙で議論しようと思う。私個人は次のような考えを固持する。中国の経済圏は歴史的に構築され、現在も時代と共に進化しながら稼働している。中国政府の対内改革、対外開放の決心に基づけば、将来の中国の内外両経済圏は必ずますます大きく、ますます好くなり、良性循環を形成するであろう。
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