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ポンペオ猛攻―同盟国に香港犯罪人引渡し条約の停止要求か
2020年7月23日
ポンペオ米国務長官が訪英(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
ポンペオ米国務長官が訪英(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

21日のポンペオ訪英に合わせてイギリスは香港との犯罪人引渡し条約を暫時停止した。香港国安法は逃亡犯条例改正案を完遂してしまったからだ。アメリカはまずファイブアイズ系列から切り崩していくつもりだろう。

◆ポンペオ訪英とイギリスの香港との犯罪人引渡し条約暫時停止宣言

7月21日、訪英したアメリカのポンペオ国務長官は、ジョンソン首相等と対談し、香港問題を巡っ中国への対応などを協議した。ポンペオは「中国共産党に対抗するため、すべての国々と一致協力したい」と述べ、国際的な連携の必要性を強調した。

同時にイギリスは香港との間で交わされている犯罪人引渡し条約を停止したと発表した。

これに対して中国外交部の汪文斌報道官は定例記者会見で「中国はイギリスの誤った行動に強力な対抗措置を取る」、「中国はイギリスに対し、今後も香港に旧宗主国としての影響力を維持する幻想を捨て、直ちに誤りを正すよう求める」などと述べた。

中国側の抗議は激しく、「イギリスは独自の道を歩むべきで、アメリカ追随主義は止めろ!」と激怒している。

今年4月22日の時点で、香港との間で犯罪人引渡し条約を結んでいる国は19カ国ある。

香港政府のこのリストをご覧いただければわかるように、香港が中国に返還された1997年7月1日以降すぐに(1998年などに)条約を締結した国は「アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド」など、主としてファイブアイズの構成国が多い。

ファイブアイズは第二次世界大戦でドイツの暗号エニグマを解読しようとしたイギリスが、かつてのイギリス帝国の植民地を発祥とするアングロサクソン系の国々に呼びかけたもので、安全保障上の機密情報ネットワークだ。リストの中の早期に締結した国々は、かつてのコモンウェルス(イギリス連邦)構成国が多い(インド、シンガポール・・・など)。

これは何を意味しているかというと、香港が中国に返還されるときに、法体系をどうするかという議論があった。

香港の国際金融センターとしての地位を揺るがせないためには、当時香港で使われていたコモンロー(英米法)を引き続き使用することを中国は認め、イギリスは「司法に関してもコモンローに従うこと」を協議の中で「勝ち取った」のである。

当時、これは「イギリス側の勝利」と受け止められていたので、コモンローを用いている国家は一斉に香港と喜んで「犯罪人引渡し条約」を結んだのだった。

◆逃亡犯条例改正案は香港国安法で「完成」されていた

ところが今般の香港国安法(香港国家安全維持法)制定により、事実上、昨年の抗議デモで廃案となった「逃亡犯条例改正案」は「完成」されてしまった。

国安法第14条には香港に「香港特別行政区国家安全維持委員会」を設置することと、その職責に関して書いてあるが、それによれば、「香港特別行政区国家安全維持委員会の業務は香港特別行政区の他のいかなる機構、組織及び個人の干渉も受けず、業務情報はこれを公開しない。香港特別行政区国家安全維持委員会が行った決定は司法審査を受けない」となっている。

また国安法第55条では「次の各号の一つに該当するときには、香港特別行政区政府または駐香港特別行政区国家安全維持公署が申し立て、かつ中央人民政府の承認を受けて、駐香港特別行政区国家安全維持公署がこの法律に定める、国家の安全を害する犯罪事案に対し管轄権を行使する」と規定してあり、かつ第56条では「第55条の規定に基づいて国家の安全を害する犯罪事案を管轄する際は、駐香港特別行政区国家安全維持公署が立件・捜査を担当し、最高人民検察院が関係検察機関を指定して検察権を行使し、最高人民法院が関係法院を指定して裁判権を行使する。」とある。

頭に入りやすい平易な言葉に言い換えると、昨年、あんなにまで激しく燃え上がって廃案にまで持ち込んだ逃亡犯条例改正案だったが、結局、「北京」(=中国政府=中国共産党)に対して抗議運動を引き起こしたり参加したりした香港人はみな「国家安全法」に抵触するとして「北京」が管轄する裁判権の下で裁判を受けるということになったということなのである。

これは逃亡犯条例改正案を、最悪の形で「北京」は完遂したことを意味している。

目的は全て、司法における「コモンロー体系からの脱却」である。

そのことは7月7日付のコラム「習近平はなぜ香港国家安全維持法を急いだのか?」で詳述した通りだ。

中国に、これを覆せなどと言っても100%「絶対に!」覆さないので、西側諸国に出来ることは、ポンペオが訪英の際に言った通り、西側諸国の価値観を持った国々が意思統一をして連携し中国に対抗していく以外にない。

◆日本は何をすべきなのか?

アメリカの説得があったのだろう。

7月3日にはカナダが、7月9日にはオーストラリアが、それぞれ香港との犯罪人引渡し条約を停止すると表明している。

まず同盟国に次々に意思表示をさせて、「大御所」であるアメリカは最後に何かしら大きな交換条件でも出してきて「さあ、アメリカも犯罪人引渡し条約を停止するぞ」と、中国に付きつけるつもりだろう。

当該条約破棄とは別に、アメリカは7月22日、テキサス州ヒューストンにある中国領事館の閉鎖を言い渡した。中国はこれに対して、必ず対抗措置を取ると激しい抗議を表明していたが、今このコラムを書いている時点では、どうやら四川省成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖するらしい。

翻ってわが日本国は、いったい何をしているのか?

安倍政権は、習近平を国賓として招聘するのをコロナで「延期した」だけであって、まだ「中止した」とは言っていない。安倍首相は「問題があるからこそ、会って話し合う必要がある」などと詭弁を弄しているが、「会って解決する問題」など存在しない。

中国はむしろ、「安倍が会いたがっている」というのを良いことに、「今なら文句言えまい」として尖閣諸島の接続水域を中国の公船が100日連続で侵犯しているのである。

海上保安庁のホームページにある「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」をご覧いただければ一目瞭然。中国の公船等の侵犯は、2008年から始まっている。これは日中首脳会談(胡錦涛vs.福田康夫)が行われた年で、東シナ海を「平和の海」などと提唱した時である。

だから「日本側は文句を言わないでしょ?」というのが、中国のやり方だ。

安倍政権は一刻も早く習近平の国賓招聘を「中止する」と宣言すべきである。

そうすれば中国は突如、アメリカの存在を恐れ始める。中国の軍事力は現段階ではまだアメリカに勝てないのだから。

安倍政権は選挙の票欲しさに北京の顔色を伺い、中国経済に依存するのを見直すべきではないだろうか。

このままでは民主主義が泣く。

死んだのは香港の民主ではなく、それもあるが、日本の民主ではないかと憂う。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.