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北京コロナ第二波はなぜ起きたのか?
新型コロナ感染症 北京の食品市場を封鎖(提供:ロイター/アフロ)
新型コロナ感染症 北京の食品市場を封鎖(提供:ロイター/アフロ)

約2ヵ月間コロナ感染者が出なかった北京で、6月16日までに106人の感染者が確認された。なぜ第二波が起きたのかに関して、中国の専門家は「ヨーロッパなどの感染流行地からの輸入品が原因である可能性が高い」と分析している。

◆北京市「非常時」宣言

約2ヵ月間も、ただの一人の新型コロナウイルス肺炎(以下、コロナ)新規感染者も出さず、これで大丈夫と胸を張って5月下旬には両会(全人代と全国政治協商会議)を人民大会堂で実際に人が集まって開催した北京は今、恐怖のどん底にいる。

6月11日に57日ぶりに新たなコロナ感染者が1人出ると、12日には6人、13日に36人、そして14日に36人となって15日までに計79人が確認されたことになる。

いま(16日)原稿を書いている真っ最中にもさらに27人の新規感染者が出たとCCTV(中央テレビ局)は声を張り詰めている。5日間で106人を記録したことになる。

集団発生したのは北京市の南西方向にある豊台区の「北京新発地農産物卸売市場」だ。ここは1988年に建てられた北京市最大の卸売市場で、北京市の野菜や果物あるいは肉類や海鮮類の80%の流通を担っている「北京の胃袋」である。一日に野菜1.8万トン、果物2万トン、生きている豚3000頭分、海鮮類1,800トンを呑み込む。

そこがやられたのでは、北京市民の生活は成り立たない。

6月15日、国家衛生健康委員会の警告を受けて、北京市政府は北京が「非常時に入った」と宣言した。

6月7日、中国の国務院新聞弁公室は「新型コロナウイルス肺炎疾病を乗り越えた中国の行動」という白書を出したばかりだ。まるで正式の勝利宣言を紙ベースで行ったかのような行動を中国政府が表明したというのに、その4日後には又もや武漢と同じく海鮮を含めた卸売市場での集団発生。中国政府のメンツが丸つぶれになってしまっただけでなく、北京市民は武漢の再現かと恐怖におののいている。

◆なぜ北京に第二波が来たのか?――冷凍食品の可能性あり

それに呼応してか、CCTVは引っ切りなしに特集番組を組み、「なぜ北京に第二波が来たのか?」「今後どうなっていくのか」「どうのようにして感染拡大を防ぐことができるのか」・・・などに関する分析を、専門家を交えて行っている。

どの番組でも、聞く方のキャスターは異なるが、回答するのは概ね中国疾病センター流行病学主席専門家・呉尊友氏であることが多い。

各番組で重複した質問が多いので、呉尊友氏の回答をまとめてみよう。

 ●北京ではほぼ60日間にわたり、本土から発生した新規感染者は出ていない(海外から戻ってきた中国人が飛行場で検査隔離されて、そこで陽性と判明した場合はある)。したがって北京の現地で自然発生したということはまず考えられない。

 ●だとすると、感染ルートには2種類考えられる。1つはコロナ感染した「物」が北京に持ち込まれたということで、もう一つは感染した人が北京に入り込んでしまったということだ。

 ●冷凍された「物」に付着したウイルスは長く生き続ける。研究のためにウイルスのサンプルを保存したり運んだりするときには、低温であればあるほど生きている時間は長い。その意味で、市場で扱う冷凍食品がもし汚染していたとするなら(冷凍食品にコロナウイルスが付着していたとするなら)、このウイルスは2~3ヵ月は生き続けると考えていい。

 ●今のところまだ完全に食品から感染したのだと確定しているわけではないが、しかし食品汚染の可能性が最も高いだろうと疑われている。まだ研究を進めないと決定的なことはなにもいえないが、しかし一つだけ注意しておきたいことがある。

 それは「できるだけ輸入した農産物や冷凍食品を買わないようにした方がいい」ということである。買ったとすれば、必ず煮てから食べること。絶対に生のまま食べてはならない。

 ●野菜類に関しては国産(中国産)なので汚染されている心配はあまりする必要はないが、それでも、それを扱う手の衛生は留意した方がいい。

 ●感染した人が北京に入ってきてしまった場合を考えると、おそらく風邪程度の非常に軽度の症状しかないか、あるいは無症状感染者である場合が多い。

 ●感染第二波を招いたのが「人」であった場合は、5月末頃に感染していたものとみなすことができる。

 ●われわれ研究者が感染者の体内から分離したウイルスと、北京新発地卸売市場の「物」の表面から採取したウイルスは、完全に一致している。

 ●中国でこれまで(武漢などで)流行してきたウイルス株と、世界各地で今現在流行しているウイルス株を比較すると、今般の北京で発見されたウイルスは、ヨーロッパで流行している主要なウイルス株である可能性が高いことを発見した。

 但し、ヨーロッパで流行しているウイルス株は必ずしもヨーロッパから来ているとは限らない。たとえばアメリカで流行しているウイルス株のほとんどは、ヨーロッパから来ているが、しかし「どの国から来たウイルス株である」というのは非常に特定しにくい。

 ●いま北京では、たとえば家庭内の集団感染とか病院内の集団感染といった現象は見られないので、北京政府が直ちに「非常時」宣言をするなど応急措置を取っているので、大きな流行の爆発にはならないだろうと期待している。

 ●今後3日間の変動で、北京がどうなっていくのか、おおよその予測が出来るようになる。

◆武漢のウイルスより感染力が高い?

一方、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は6月15日に「武漢のウイルス専門家:北京のコロナ感染力は武漢よりも高い しかし中国の防疫経験は既に豊富だ」という見出しで、武漢大学医学部ウイルス研究所の楊占秋氏の見解を披露している。

それによれば、「武漢華南海鮮市場では昨年12月末から今年1月17日までに62人の感染者が出たのに対して、今般の北京新発地市場では4日間で79人の感染者が出ているので、北京の市場で見つかったウイルスは武漢の市場で見つかったウイルスに比べて感染力が高い」とのこと。

また、北京の場合、冷凍食品自身がウイルスを宿すことはあり得ないので、冷凍食品などを扱う「人」がコロナに罹っており、その人が食品を扱ったことによって食品の表面にウイルスが付着していたという可能性が高いとも解説している。

したがって、輸入先がコロナ感染地域であるか否かを確認しなければならないともいう。

さらに環球時報は北京市疾病センター新型肺炎防疫専門チームのメンバーである楊鵬が、「このウイルスはヨーロッパから来ており、輸入品と関係すると見られる」と話していることも報道している。

◆一党支配体制を維持するために

中国は民主主義国家と違い、選挙によって政権与党が選ばれるわけではない。

ひとたびコロナ防疫に失敗しようものなら、中国共産党による一党支配体制が揺らぐ。特に首都北京だけは守ってきたのに、その北京が発生源となって第二波が襲ってきたら、一党支配体制も危うくなる。

だからその戒厳態勢ぶりは尋常ではない。市場に行った可能性のある者すべてにPCR検査を行い、豊台区に隣接する街道すべての地区の危険レベルを上げ、市場の責任者は紀律検査委員会によって更迭された。

ポストコロナの世界覇権に関してアメリカと張り合っている中国としては、何としてもコロナ感染の再爆発を食い止めなければならないという焦りがある。

もっとも、日本にとっても「まだ感染が収まってない国からの輸入品に関しても十分な留意が必要である」ことを北京の第二波は教えてくれているとも言える。中国の専門家の分析がどれくらい妥当であるかはさておき、少なくとも日本国民を守るためには、あらゆる側面からの警戒は怠らない方がいいだろう。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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