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トランプの対米デモ「武力鎮圧」発言に習近平「高笑い」
2020年6月4日
白人警官に押さえつけられ黒人男性死亡 セレブ達も抗議に参加(写真:Splash/アフロ)
白人警官に押さえつけられ黒人男性死亡 セレブ達も抗議に参加(提供:Splash/アフロ)

白人警官による黒人男性の死に抗議して全米にデモが拡大した。トランプ大統領の「暴徒化すれば軍を出動させる」発言に習近平国家主席は大喜びだ。天安門事件31周年を前に、トランプは香港問題で習近平を制裁しないと宣言した。

◆群衆に寄り添わなかったトランプ大統領

アメリカのミネアポリスで、無防備な黒人男性が白人警官に窒息死させられてしまった事件は、胸が痛む残忍な動画が流れたこともあって、世界に衝撃を与えた。

アメリカにおける人種差別には根深いものがあるが、トランプ政権になってからは白人至上主義が加速し、きつい仕事に従事しているためコロナ感染者の多くは黒人によって占められ、死者の割合に至っては白人の倍以上に上る。

そのことへの鬱積した怒りが爆発した側面もあったのだろう。

平等と正義を求めたデモが全米を覆った。それを鎮圧する米警察のどう猛さは、香港デモの際の香港警察の比ではない。

トランプがこの事態に対してどのような発信をするかが注目されたが、彼は5月31日、「猛々しい犬(警察犬)と武器」で暴徒と化したデモ隊を追い払えと言ったのだ。しかもこのデモは反ファシズム集団や極左集団が扇動しているのだから、「アメリカ国民を守るために」武力で鎮圧するという。

5月28日に中国の全人代で決議された香港「国家安全法」導入の決定には、「敵対的外国勢力の干渉を許さない」という文言があり、中国は「香港デモは海外勢力(=アメリカ)が煽っている」と非難してきた。

トランプが言った、この「極左集団」の中には在米の中国人が含まれているという。民主党を指すと同時に中国が煽っていると示唆したことになる。

なぜトランプはひとことでいいので、「不当に殺された黒人に同情する。警察という権力に代わって大統領として謝罪する」というメッセージを出せなかったのだろう。そうすれば、犠牲者だけでなく抗議デモ参加者の心は、どれだけ救われたかしれない。

コロナで分断されていたアメリカ社会はトランプのそのひとことで一つにつながる方向に、いくらかでも向かうことができたかもしれないし、そうしてこそ世界のリーダーとしての信頼を得ることができるはずだ。

しかし、トランプにはそれができなかった。

◆喜ぶ中国――天安門事件と同じ構図

おまけに「自国民を守るために自国民に武力を使う」という論理は、まさに天安門事件と同じ構図だ。香港デモにおいても「善良な香港市民を(同じ香港市民である)暴徒から守るために警察権力を使う」という香港政府(=北京中央)と同じ論理である。

中国は狂喜した。

連日連夜、1時間ごとに大きくアメリカにおける抗議デモを報道し、トランプのメッセージに関しては解説委員付きの特集番組を何度も報道。世界で最も大きく報道し続けているのは中国だろう。

切り口は偏っているものの、詳細に事態の動向を知ろうと思えば中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVを観るに限る。

「ほら見ろ、トランプには香港問題に口を挟む資格などない!」と言わんばかりの解説が続く。

実際、アメリカのメディアがスクープしたものだが、トランプは1989年6月4日の天安門事件が起きた時、「武力鎮圧したのは素晴らしい!」と中国の武力弾圧を礼賛していたとのこと。

◆トランプ、香港問題で「習近平制裁をやめた」――笑いが止まらない習近平

時事通信社(ワシントン時事)によると、トランプは3日、保守系テレビ「ニュースマックス」のインタビューで、「香港問題をめぐって、習近平に制裁を科すつもりはない」との認識を明らかにしたようだ

全人代で中国が香港への「国家安全法」導入の方針を決めたことに対して中国に制裁を加えるために、トランプはこれまで香港に認めてきた優遇措置を撤廃すると言ったり、中国当局者個人に制裁を科すと強く言ってきたが、少なくとも「習近平個人に対しての制裁はしない」ということだ。

自らが暴君となり、習近平と同じことをやっているので、中国に譲歩したことになる。

身から出た錆で、自分で転んでいるのだから、習近平としては笑いが止まらないだろう。

◆救われた跪(ひざまず)く米警官の姿

救われたのはデモ参加者に向かって賛同の意を表すために「跪いた米警官の姿」だ。

「私たちはあなたたちと共にあります。気持ちを一つにします」と権力側の警官がデモ参加者に向かって跪いた。

なんという神々しいまでに気高い姿だろう。

思わず涙が出そうになった。

中国と何が違うかと言えば、この姿だろう。中国には絶対にあり得ない光景だ。

ここには民主と平等の理念が根付いている。

アメリカにはまだ救いがあると思った瞬間だ。

民が政権を選択することが許されているのが民主主義国家の根幹にある。

どんなに言論弾圧をされようと、どんなに不平等が横たわっていようと、民主主義国家である以上、私たちには自分の国のリーダーを正しく選ぶ権利がある。

◆コロナが新しい「社会」を創っていく

コロナにより全人類は孤立を余儀なくされた。

しかし、リモート生活を強いられたことにより、そこには、だからこそ発信できる「個人の思い」と「個人の決断」があるように思う。

日本ではその発信によって黒川前検事長を辞職に追いやったし、安倍内閣に検察官の定年を延長する「検察庁法改正案」を諦めさせた。それは一本のハッシュタグ〈#検察庁法改正案の強行採決に反対します〉から始まった。

アメリカにおける抗議デモは実際にリアル空間に人々が出て「自らの意思」を表明したが、媒体はいろいろあっても、コロナは「個々人の思いを発信することによって社会を変えていく力」を、人類に与えてくれたように思う。

安倍内閣はトランプの「豹変」にいち早く気づき、「強い者には跪く」という「浅ましいまでの姿勢」で、ここに来て習近平国賓招聘をまだ諦めていない姿勢を再び表明し始めた。あとは日程調整の問題だけだとしている。

600万以上に及ぶ人類がコロナに感染し、10万人以上の感染者が尊い命を落とされた。

犠牲者は数ではない。どの一人にも尊厳があり、無念の思いがあったはずだ。

このような災禍をもたらした国の指導者を国賓として「ありがたく」招き、天皇陛下にも拝謁する。返礼として天皇陛下の訪中が強制されるのである。

強い者に跪く安倍内閣の浅ましさよ――!

安倍内閣は敏感に「ご主人様」の変化を感じ取って強い者に跪くのである。

どのようなことがあっても、せめて習近平国賓招聘のような事態は阻止したい。

トランプの強権的な武力鎮圧方針表明は、私たち日本人と無関係ではない。

このコラムを読んで下さった皆様お一人お一人の発信に期待したい。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.