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米中激突:ウイルス発生源「武漢研究所説」めぐり
2020年5月7日
新型ウイルス肺炎が世界で流行 米大統領とアイオワ州知事が会談
新型ウイルス肺炎が世界で流行 米大統領とアイオワ州知事が会談(提供:AP/アフロ)

トランプが「証拠を見た」として中国の責任を追及し中国が猛反発している中、CNNは「米同盟国諜報もトランプ説を否定」と報道し、BBCは武漢研究所へのアメリカの過去の資金提供を暴露した。米中激論のゆくえは?

◆危ない賭けに出たトランプとポンペオ

アメリカのコロナ感染者数の爆発的な増加は目を覆うばかりだ。感染者数は122万人を超え(アメリカ東部時間5月6日時点で122万3419人)、死者数も7万2千人を超えている。心が痛むのはその増加率(増え方)が未だに大きいことだ(参照:外務省データ)。

1月31日のコラム<習近平とWHO事務局長の「仲」が人類に危機をもたらす>に書いたように、人類を破滅の危機に追いやっているのが習近平(国家主席)であり習近平に忖度をしたWHO事務局長のテドロスであることは論を俟(ま)たない。1月23日にWHOは習近平のために緊急事態宣言を延期し、1月30日になってようやく発布しても肝心の「中国への渡航と貿易を禁止する」という条件を付けないとして緊急事態宣言を骨抜きにした。その結果、ウイルスを持った中国人が全世界に散らばっていったのだから、その罪は償えないほどに重い。コロナが一段落したら、人類の全てが習近平の責任を問わなければならないのは明らかである。

この理由だけで十分なのに、トランプ(大統領)はウイルスの発生源が「武漢ウイルス研究所だ」と言い出し、ポンペオ(国務長官)も5月3日にテレビで「膨大な証拠がある」と断言したため、トランプもまた「証拠を見た」「証拠はたくさんある」と言ってしまった。

これだけの犠牲者を出せば、そう言いたくなる気持ちは分かる。人類すべてが怒っていると言っても過言ではない。

しかしそれでも中国の責任を追及するに当たり、ウイルスの発生源を持ち出してしまうのは危険だ。万一にも科学的に否定されてしまったらトランプ政権の敗けになる危険性を孕んでいる。アフターコロナでの米中のパワーバランスに影響をもたらすので、慎重に発言してほしかったと個人的には思う。

◆トランプ説を否定する論拠を披露したCNN

懸念はつぎつぎと現実になりつつある。

5月4日、アメリカのCNNは“Intel shared among US allies indicates virus outbreak more likely came from market, not a Chinese lab”というタイトルの記事を発表した。日本語で書けば「アメリカの同盟国(ファイブアイズ)は、ウイルスのアウトブレーク(爆発的流行)は中国の研究室からではなく、市場(いちば)から来た可能性が高いという認識を共有した」となる。 

ファイブアイズというのは「アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド」の5ヵ国による連盟で、高度の諜報(インテリジェンス)を秘密裏に共有している。そのファイブアイズのインテリジェンスが、「ウイルスの発生源は武漢ウイルス研究所ではなく、自然発生的に動物から(何らかの形で)人に感染するという経路をたどっている可能性が高い」と表明したのだから、トランプにとって有利なはずがない。

CNNの報道では、アメリカのコロナに関する免疫学の権威で、トランプのアドバイザーになっているファウチ博士も「ウイルスが研究室から発生したとは信じていない」と述べているという。

◆BBCが武漢研究所へのアメリカの資金支援を暴露

一方、イギリスのBBCは4月29日、<アメリカはコロナウイルス研究資金援助を中止した このプロジェクトはこれまで武漢ウイルス研究所と協力していた>と報道している。

BBCニュースによれば、ニューヨークにあるEcoHealth Alliance(エコ・ヘルス連盟)は過去20年間に渡り、25ヶ国とウイルスに関する共同研究をしてきたが、2015年からは研究経費を「オバマ政権時代の国際医療研究協力の一環」として位置づけ、アメリカ政府が国立衛生研究所経由で370万ドルを支払ってきた。共同研究の相手には、なんと武漢ウイルス研究所も含まれており、研究テーマはこれもまた、なんと、「コロナウイルス」である。

つまり、武漢ウイルス研究所のコロナウイルス研究に関する資金の一部は、アメリカ政府から出ていたことになる。おまけに「アメリカとの共同研究」だ。

ポンペオが「膨大な証拠がある」と言うのも「むべなるかな」。

あれだけオバマ政権の施策を批判してきたトランプだが、これもまた、なんと、トランプ政権になってからもこの科研費を支払い続けており、最後の支払いは2019年7月となっている。

この件に関してトランプは今年4月17日の記者会見で質問されたが、その日の内にアメリカ国立衛生研究所がEcoHealth Allianceに連絡し、さらに4月24日になってアメリカ国立衛生研究所がEcoHealth Allianceに「武漢ウイルス研究所への資金提供を中止する」という指示を出した次第だ。

これら一連の経緯は、BBC中文サイト以外では英文版“Why The U.S. Government Stopped Funding A Research Project On Bats And Coronaviruses”でも報道されている。たとえBBCでも中文サイトでは信用できないと思われるかもしれない方のために、念のためご紹介しておこう。

◆米情報機関が新型コロナ「人工的ではない」

4月30日にアメリカの情報機関を統括する国家情報長官室は新型コロナウイルスについて「人工のものでも、遺伝子組み換えされたものでもないという、幅広く科学的に認められている見方に同意する」という声明を出した。発生源については「感染拡大がウイルスに感染した動物との接触から起きたのか、武漢の研究所での事故が原因なのか判断するため、今後も情報を精査していく」としている。

これに関しては日本の多くのメディアが報道しているが、興味のある方は英語の原文情報をご覧いただきたい。 

◆中国の激しい抗議

中国共産党系および中国政府系メディアは、連日、激しい抗議の声を上げ続けている。中央テレビ局CCTVでは毎日トランプとポンペオの発言に関する特集番組を組んで報道しているし、また中国共産党の機関誌「人民日報」は5月1日から毎日連続のシリーズで抗議論評を発表し続けている。

などである。

これを1時間に1回ずつくらい、CCTVで「さあ、仇を取ってやるぞ!」という顔つきと声の張りで「キリッ!」と叫び続ける。

おまけにフランスでの最初の感染者は昨年12月で、この患者にはコロナ流行地域への渡航歴がないことが5月5日にわかった

中国の、このニュースへの飛びつきようは尋常ではなく、鬼の首でも取ったような勢いだ。

◆スペイン風邪の発生源は今でも決着していない

1918年1月から1920年12月まで全世界を巻き込んで猛威を振るったスペイン風邪はインフルエンザによるパンデミックで、約5億人(当時の世界人口の4分の1)が感染し、死者数は1,700万人から5000万人との推計が多く、1億人に達した可能性も指摘されている。

その発生源に至っては、アメリカ説が最も多いが、フランス説や中国説などもあり、100年経った今でも、まだ解明されていない。

だからウイルス発生源で勝負しようと思ってはいけない。トランプの大統領再選にも影響するし、アフターコロナの米中パワーバランスにも悪影響を与える。

◆表現を譲歩し始めたトランプ

案の定、トランプは自説である「武漢研究所説」の表現を微妙に変え始めた。

5月5日のニューヨークポストは“Trump blames China for coronavirus spread but says ‘they didn’t do it on purpose’”(トランプははコロナウイルスの蔓延を中国のせいにしているが、「わざとではない」と言っている)というタイトルの報道をしている。トランプは中国攻撃のトーンをすっかり弱めているのだ。

ニューヨークポストのインタビューにトランプは「武漢からウイルスが出たということを明らかにしただけで、研究所を特定しているわけではない」とさえ言っている(Trump clarified that he meant the virus “got out” of Wuhan, not the lab specifically.)。

トランプとポンペオは最初のころは明確に「ウイルスは武漢の研究室(実験室)から出た。それに関するレポートも出す。膨大な証拠がある」と言っていた。ブルームバーグザ・ガーディアンが伝えている。

◆アフターコロナの米中パワーバランスに影響

またトランプは中国に対する報復措置として、「新しい関税を徴収する」とも明言している。

ところが次の日になると、大統領副補佐官(安全保障担当)のMatthew Pottingerが「アメリカは報復措置を求めていない。あくまでも中国に第一段階の貿易協議を遵守させるのが目的だ」と言い出している。

アメリカ統合参謀本部長Mark Milleyも「コロナウイルスは人工的ではない」と発言。Matthew Pottingerはかなりの対中鷹派なので、ホワイトハウス全体が口裏を合わせてトーンを変え始めたという印象を与える。

5月7日になるとCNNが<コロナ発生源、武漢研究所の「確信ない」 ポンペオ米国務長官>と伝えた。

こうなると「譲歩の連続」であり、ウイルス発生源論争に関するアメリカの敗北を招く。

これを最も恐れていたので、トランプ政権のウイルス発生源「武漢研究所説」に関しては動静を静かに見守りながら、筆者自身の発信は控えていた。

しかし事態は「愉快でない方向」に動き始めた。

これはアフターコロナの米中パワーバランスを決める大きな要因の一つになるので、確かでない噂に乗っかって煽らないようにしなければならないだろう。さもないと、中国に有利に働く危険性を孕んでいる。

トランプが言う通り、責任は習近平にある。その線は譲ってはならない。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.