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ローテク日本が休校・休業コロナ対策を困難に
2020年5月5日
都内の象牙印鑑工場(写真:ロイター/アフロ)
都内の象牙印鑑工場(提供:ロイター/アフロ)

IT先進国であるはずの日本の日常は、実はローテクに満ちている。休校時のオンライン授業やオンライン医療の立ち遅れだけでなく、ハンコ文化がテレワークを阻んでいる。米メディアの報道を引用しながら考察する。

◆ロサンゼルス・タイムズがlow-tech Japanを批判

4月26日のロサンゼルス・タイムズは“In low-tech Japan, working from home amid coronavirus outbreak is a challenge”(コロナ真っ只中の在宅勤務は、ローテク日本にとってチャレンジだ)という論評を掲載した。チャレンジという言葉を使ってはいるが、これは「日本は努力しなければならないこと」というニュアンスを込めた「日本批判」。よく言えば日本への警鐘といったところか。情報源はアメリカのAP通信(Associated Press)だ。

それによれば日本企業は一見、超近代的な印象を与えるが、実際はその逆で、企業の中では前近代的なローテクがはびこっていると指摘。その最たるものがhanko(ハンコ)文化だという。

記事はイギリスのマーケット調査などグローバルなデータ収集と分析の専門会社であるYouGoV社の調査結果を以下のように引用している。

――日本人のわずか18%しか遠距離による作業(授業や企業業務)を遂行することができない。それでいて日本人の80%がコロナ感染を恐れている。インドでは70%が遠隔作業をこなし、アメリカでは30%が実施している。(ここまで引用。)

アメリカが30%というのは、遠隔作業ができないのではなく、外出禁止など無視して平気で外に出るからだろう。

記事はまた、役員研修やカバナンス研修&コンサルティングを行う会社役員育成機構の代表理事であるNicholas Benes(ニコラス・ベネシュ)氏の「私はずっと日本のテレワークに関して助言を行ってきたが、日本人の関心は驚くほどに低い」というコメントを紹介している。ベネシュ氏は続けて以下のように述べているという。

――日本が最新のITシステムに欠けているということは、日本が柔軟性のある業務や遠隔業務の育成において世界から落後していくことを意味している。テレワークは管理者がより多くの決定権を従業員に与えなければならない。しかし日本はface to faceという、実際に対面して「空気を読む」という文化から抜け出すことができない。また結果だけではなく、その結果に至ったプロセスを(人事などにおける)評価対象としている。これでは労働効率を低めるばかりだ。実際の「執務室」のない「オフィス」は、日本では非常に少ないのである。(ここまで引用。)

私事で恐縮だが、中国問題グローバル研究所はまさに執務室のないシンクタンクで、ネットとメールによって関係各国のトップクラスの研究者とつながり中国問題を多角的に研究しているプラットホームだ。その意味では、ベネシュ氏の日本への要望に合致しているのかもしれない。

◆日本は遠隔教育(オンライン授業)後進国:コロナ休校の教育欠落と9月入学

2月27日、安倍首相は何の前触れもなく突如、全国すべての小中高、特別支援学校を対象に3月2日から春休みまで臨時休校を行うよう要請した。それは「ヒステリックなほどの突然」で、日本国中がパニックに陥ったことは記憶に新しい。

あまりに不評だったので、今度は一転「専門家の意見に従い」という理由を付けて「臨時休校解除」を3月20日に宣言した。

一般に「3月の3連休期間(3月20日~22日)があったために全国の1日当たりの新規感染者数が3・5倍に急増した」として、感染者急増を「3月連休のせい」にする傾向にあるが、果たしてそうだろうか?

3月20日に安倍首相が突然「臨時休校は解除します!」と言ったわけだから、休校で緊張していた親子が一斉に「コロナから解放されたぞ――!」という解放感に押されて外に飛び出していったせいではないのか?

休校指示も休校解除も、右往左往しながら全く無計画に動いているのが安倍政権だが、もっと無計画なのは「休校期間に学校教育をどうするか」に関する指示も政策もないということで、これは医療崩壊同様、絶望的な日本の現状というほかない。

緊急事態宣言で休校を余儀なくされた教育現場は、いっそのこと「9月入学」への切り替えを模索しているが、その間の授業の欠落をどうするのか。

中国では1月23日の武漢封鎖と同時にオンライン授業に切り替えている。日本は9月入学論まで出ているのに、オンライン授業に対する安倍内閣の指示は全くない。

OECD(経済協力開発機構)の調査によれば、学校教育現場でのICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)機器活用に関して、日本はほぼOECD加盟国の中で最下位に属するくらいに遅れている。オンライン授業実現に関して激しいまでの後進国なのである。

以下に示すのはOECD生徒の学習到達度調査(PISA=Programme for International Student Assessment)の2018年調査補足資料「生徒の学校・学校外におけるICT利用」の調査結果だ。PISAは参加国が共同で国際的に開発し、15歳児を対象としている。

リンク先をご覧いただければ見ることができるのだが、何枚かの注目すべき図表を選んで貼り付ける。図の番号はリンク先の番号のままとする。「国語、数学、理科、外国語、美術」を選んでみた。他にもオンライン授業化に困難をきたす保健体育や音楽などがあるが、何れも日本は最下位。保健体育や音楽などの図表に関してはページを取り過ぎるので省略した。

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図表をご覧いただければ、一目瞭然。説明は要らないだろう。

日本はどの分野においても、ほぼ最下位なのである。

◆遠隔医療、日本の普及率は1%

遠隔医療に関しては素人の領域なので、他の方が分析なさった情報を見てみると、たとえば「地方の医者不足を補うオンライン診療、普及率がわずか1%!」というのがあったり、アメリカ・EUの状況を紹介した情報や、「日本、中国、アメリカ、イギリスの比較から見る医療ICT化の将来像―遠隔医療を中心に―」という本格的な分析もある。興味のある方はご覧いただきたい。

◆なぜ安倍政権では「ハンコ議連」会長がICT担当大臣に?

冒頭のロサンゼルス・タイムズの報道にもあったように、日本はハンコを捺すためにのみ出勤しているという会社は少なくない。デジタル化が最も進んでいるはずのIT大手企業の幹部も例外ではないというブラック・ジョークのような実態を同紙は皮肉っている。事実日本でいま最も混んでいるのは役所窓口や銀行で、ハンコがなければ一切手続きができないので、「三密」以上の状態が続いている。それも全て「ハンコ文化」のせいだ。

一方、第4次安倍第2次改造内閣で2019年9月11日から情報通信技術(ICT)政策担当大臣に就任しているのは自民党所属の衆議院議員、竹本直一(なおかず)氏。1940年生まれなので、ご高齢なのによく頑張っておられるとは思うが、何を隠そう、竹本氏はハンコ議連(日本の印章制度・文化を守る議員連盟)の会長なのである。

何としても古き良き「ハンコ文化」を守ろうという気概に満ちた人物を、国際社会で最も先端を行かなければならないICT大臣に指名したというのは、どういうことなのか?

まるで安倍内閣の矛盾を象徴していると言っていいだろう。

ICTには「通信」も含まれるが、日本は携帯電話においても3Gまでは良かったが、4Gですでに出遅れ、5Gなど論外と言っても過言ではない。

台湾ではデジタル担当政務委員(大臣)に「インターネットの神童」「パソコンの天才」と呼ばれた奇才、唐鳳(オードリー・タン)(35歳)が起用された。コロナ対応においてマスクの在庫が一目でわかるアプリのプログラムを開発して社会の混乱を防ぎ、世界的に名を馳せた。

安倍首相は「人との接触を80%は減らすように」と国民に懇願しながら、テレワークができない文化を保ち続けている。

教育現場でのオンライン授業やハンコ文化を抜本的に見直さない限り、日本国民は懇願だけされて、それと抱き合わせでは補償も改善もしていない安倍政権のやり方に、どこまで我慢を続けることができるのだろう。

このままでは日本は教育においても経済においても国際社会から置き去りにされていくばかりだ。猛省を求める。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.