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ウイルス発生源、欧米学者が突然変異説:武漢発生源という証拠なし?
2020年4月15日
新型コロナウイルスの顕微鏡画像
新型コロナウイルスの透過型電子顕微鏡画像(提供:Science Source/アフロ)

欧米学者が米学術誌に新型コロナウイルスのルーツに関するゲノム分析結果を発表した。最初のウイルスA型は米国に多く、武漢はB型でA型からの突然変異とのこと。米国と発生源の責任を争っている中国は狂喜か?

◆新型コロナウイルスは突然変異を通して三つのパターンを形成

イギリスのケンブリッジ大学のピーター・フォースター(Peter Forster)博士を筆頭とする欧米の研究者グループが、2020年4月8日にアメリカの学術誌PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America=米国科学アカデミー紀要)に“Phylogenetic network analysis of SARS-CoV-2 genomes”(新型コロナウイルス・ゲノムの系統発生学的ネットワーク分析)というタイトルの論文(以後、ピーター論文)を発表した。専門用語を使うと何のことだか分からなくなるので、一応丹念に読解し、消化した上で、平易な言葉に置き換えて以下に概要をご紹介する。筆者の説明も加える。

1. 世界各地から集めたヒト新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)の全ゲノム160個の系統ネットワーク解析をコンピュータ・シミレーションで行ったところ、アミノ酸の変化によって区別される3つの中心的な突然変異体があることが分かった。

使用したサンプルは国別に以下のようになっている。

これは鳥インフルエンザ・データ共有グローバル・イニシアティブ(GISAID)(ドイツがホスト)のサイト https://www.gisaid.org/epiflu-applications/next-hcov-19-app/ に集められているデータを基にしている。

2. ピーター論文に掲載されている新型コロナウイルス起源と突然変異マップを以下に示す。

いずれもコウモリに宿るウイルス(右下の黒丸)から発生し、ヒトを宿主とし始めたものだが、その最初のウイルスはA型で、A型は突然変異してB型に、そしてB型がさらに突然変異してC型になった。

マップの真ん中に黄色(中国)とオレンジ色(東アジア)の大きな円があるが、これは武漢を中心としたB型で、東アジア地域に多く見られる。円の右上にBという文字がある通り、大きな円を中心とした周辺は「B型グループ」である。

ではB型の「親」であるA型はどのようにしてヒトに宿ったのかというと、これは3月10日付けコラム「新型コロナ日本感染ルーツとウイルスの種類:中国のゲノム分析から」で述べたように、コウモリから正体不明の動物(センザンコウと言われている)を介してヒトに宿ったと考えられている。

論文では、ウイルスには宿主を選ぶ傾向があり、A型はもともと雲南省にいたらしいを起源とするウイルス(BAT)が何らかの形で武漢に移動し「ヒト」に宿ってそこで繁殖していったのだが、どうやらアジア人には(古い流れにおける免疫環境など複雑な話があり)感染しない。欧米系のヒトを宿主とすることを好むらしい。だから、武漢にいたアメリカ人に感染し、そのアメリカ人は他国を経由しながらアメリカに戻り、アメリカで感染拡大を起こしていったとしている。

武漢では、「A型のままでは快適な宿主がいないので」、「B型に突然変異」して「快適な宿主である武漢人の間で肺炎として爆発的に感染を拡大」していった。

A型をアメリカに持ち帰ったアメリカ人により、A型ウイルスはアメリカで快適な繁殖環境を得て、新型コロナウイルスA型の肺炎を爆発的に拡大していった。

B型はヨーロッパ方面に移る時に、ヨーロッパ人に適応したC型に突然変異し、ヨーロッパで猛威を振るっている。A型とC型は互いに行き来し、宿主の相性が良く、アメリカ人はヨーロッパのC型をも受け入れている。(筆者注:論文には書いてないが、その結果、アメリカでの感染爆発がより激しくなったという要素もあるように感ぜられる。あくまでも素人の推測だが、専門家には是非とも解明して頂きたい。)

互いに複雑な相関があり、きっちり分けるわけにはいかないが、大きな傾向として、A型とC型は東アジア以外の地域、つまり欧米人にかなりの割合で見られ、B型は中国など東アジアで最も多く見られる。日本もB型だ。

3. A型を持ったアメリカ人

武漢で爆発的に感染拡大した時に、武漢にはA型肺炎患者はほぼ見られず、むしろ武漢滞在歴のあるアメリカ人がA型ウイルスを所有し、アメリカで感染拡大させている。これは3月10日付けコラム「新型コロナ日本感染ルーツとウイルスの種類:中国のゲノム分析から」で触れた例と類似している。おそらく同一人物に関する解析だろう。

となると、このアメリカ人の存在がウイルス系統樹においても、また米中の間で争われている「ウイルス起源説」に関しても、非常に大きな役割を果たすことになろう。

突然変異の順番から言えば、コウモリを起源としたウイルスの突然変異の推移は

「BAT(コウモリ)→A型(かなりの割合がアメリカとオーストラリア)→B型(主に東アジア)→C型(主に欧州)」となっているのだから。

4.ピーター論文に特記してあるわけではないのだが、興味のある方は前掲のGISAIのページの右下にあるReset Zoomの文字が見える辺りの「↓」を押し続けて下の方にスクロールしてみて頂きたい。すると世界地図が出て来る。

世界地図が出てきたら、左上にある[play]をクリックしてみて頂きたい。

一瞬の静寂の後、中国のど真ん中にある武漢(Wuhan)を中心に紫色のものが浮かび上がり始める。ここでの色分けは「国」を表しているので、「中国武漢から派生した」ことが明確に見て取れる。B型ウイルスの「肺炎」の系列だ。

赤色はアメリカを中心に感染爆発を起こしている肺炎患者の流れで、東海岸はヨーロッパから来たC型系列、西海岸は中国から来たA型系列の傾向にある。A型は武漢で感染拡大が起きていた時にはあまり見られないものの、もともとは武漢で発症したアメリカ人がアメリカに運んできたものだから、ウイルス伝搬の方向性(ベクトル)はA型といえども武漢からアメリカに向かっている。

アメリカでは東海岸のニューヨークが最も激しいので、これはヨーロッパ(緑色国々)から流れ込んできたC型ウイルスの「肺炎」系列が多いことになる。

C型もこのマップを見れば明らかなように、武漢からヨーロッパ目がけて突然変異しながら感染を拡大させていったことが分かる。

きれいに三種類に分けられるわけではないが、オーストラリアやアフリカなどには別の亜種があったり、またA型が逆流したりしている。

4月13日の論考「中国、コロナ感染第二波を警戒」に書いた通り、ロシアから今頃になってコロナ患者が中国に逆流しているのは、ロシアは早くから中国との国境を完全封鎖して難を逃れてきたのだが、中国がピークを過ぎたために封鎖の緊張が緩んだせいだろう。

マップにある通り、ロシアでは中国からの直接のウイルス移動はなく、むしろ日本やヨーロッパあるいはアメリカからの流入が診られる。

◆狂喜する中国政府

これまでトランプ大統領が「チャイナ・ウイルス」と言ったり、中国外交部の報道官が「ウイルスはアメリカ軍が中国に運んできたものだ」などと反撃したり、「ウイルス起源」に関する激しい米中「口撃」戦が展開されてきた。特に中国の伝染病や免疫学の最高古権威である鍾南山院士が記者会見での回答で「たしかに新型コロナウイルス肺炎の最初の伝染拡大は武漢で起こったので肺炎(COVID2019)は武漢が発祥地だと言うことができるが、しかしウイルス(SARS-Cov-2)の発生源がどこであるかに関しては学術的探求が必要となる」と言ったことから、「中国は自分がコロナ肺炎を世界に拡散させたことを否定した」という非難を西側諸国から受けていた。

現象論的に言えば、武漢がコロナ肺炎の発祥地であることは確かだ。これは否めない事実だろう。

台湾が今般のコロナ肺炎を「武漢肺炎」と呼んでいるのは現象論的に正しい。

ただし、そのウイルスがどこから来たのかを究明するのは、まさに「人類はどこから来たのか」を究明するのに近いくらい困難を極める。

だからこそ、人類起源をたどるのと同じ種類の「系統樹」を作成すべく、コンピュータ・シミュレーションを行ったのだろう。

ピーター論文は前掲のコラム「新型コロナ日本感染ルーツとウイルスの種類:中国のゲノム分析から」と、それほど大きな差異はないが、しかし「中国のゲノム分析」の方は中国人研究者の研究結果であるのに対して、ピーター論文はイギリスやアメリカあるいはドイツの研究者の論文であり、しかもアメリカの権威あるPNASに掲載された論文だ。

それが中国に一見有利と思われるようなことを書いてくれているので、中国が飛びつかないはずがない。

4月13日の中央テレビ局CCTVは、大々的なインタビュー報道を展開している。報道のタイトルには「新型コロナウイルスの起源が武漢にあるという証拠はない」とある。

CCTVはひたすら「ウイルスの発生源は武漢ではない。したがって新型コロナウイルス肺炎の責任も中国にはない」という方向に持って行こうとしている。中国はアメリカ人が最初にコウモリ起源のA型ウイルスを持っていて、それを武漢でB型ウイルスとして感染拡大させたという解釈のみを大きく取り上げ、大喜びしている。

しかしピーター論文を精査すれば、そのアメリカ人も武漢にいなければA型ウイルスに感染しなかったはずで、武漢A型として考察している。

ウイルスの起源がどうであれ、習近平が「武漢肺炎」を全世界に蔓延させてしまった事実に変わりはない。1月31日の論考「習近平とWHO事務局長の「仲」が人類に危機をもたらす」に書いた通り、人類を破滅の危機に追いやっているのは習近平であり、テドロス事務局長だ。その罪は必ず糾弾されるべきで、習近平はその罪から逃れることはできない。

ただ、ピーター論文が救いとなるのは、この突然変異種の遺伝子配列の研究をさらに進めることによって、配列タイプに応じた最適の治療方法を見つけることができるかもしれないし、また感染第二波が来ないようにワクチンなどの開発にも役立つのではないかと思うのである。

専門家の方たちには心から期待している。

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.