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新型コロナ日本感染ルーツとウイルスの種類:中国のゲノム分析から
2020年3月10日
コロナウイルスワクチンの開発
コロナウイルスワクチンの開発(提供:UPI/アフロ)

中国の研究者らが新型コロナウイルスのゲノム配列に関して暫定的な研究結果を発表した。それにより日本で感染しているウイルスのルーツや種類も見えてきた。飛行機搭乗とも関係し日本の対策の是非の参考になる。

◆ウイルス経路マップーー日本人感染者のルーツとウイルスの種類が見える

2月21日、中国科学院シーサンパンナ熱帯植物園(雲南省)に在職する研究者である郁文彬博士(Wen-Bin Yu Ph. D)等が「新型コロナウイルス肺炎の進化(変異)と感染を全てのゲノム学的なデータに基づいて解読する(Decoding evolution and transmissions of novel pneumonia coronavirus (SARS-CoV-2) using the whole genomic data)」という論文(以下、論文)を中国科学院の学術論文プレプリント・サーバーChinaXivに投稿した。

論文受理コードは「chinaXiv:202002.00033v2」だ。 

タイトルにある「SARS-CoV-2」は国際ウイルス分類委員会が、今般の新型コロナウイルスに対して付けた名前で、WHO(世界保健機関)はこのウイルスによって発症した肺炎(新型コロナウイルス肺炎)を「COVID-19」と命名した。

論文は「投稿した(received)」という段階で、まだレフリーによる学術審査を通過した(accepted)という段階まで行っておらず、最終的にレフリーによってどのように修正が要求されるか、あるいは却下されるかは未定だ。この状態(preprint)で公開されているに過ぎないので、それを確実な根拠として分析するわけにはいかないが、しかし日本のメディアで、むしろ決定的な形で(少し歪んで)報道されているので、真正面からデータに当たってみたい。論文は93件のウイルスサンプルの遺伝子情報を調べて比較し、以下のような変異と感染の経路マップを作成している。

では、経路マップの読み方をご紹介しよう。

先ず「H」という文字を用いているのは、Haplotype (ハプロタイプ)という、ウイルスの識別番号のようなものの頭文字を指しているからである。

ウイルスの種類を左上の国・地域と中国のいくつかの代表的な地区名に沿って調査し、その起源と伝染ルートを描いている。

次にウイルスの大きな枠での類似性を、Group AからEに大別している。

日本は青色で区別され、Group AのH53(2例)とH52(1例)、Group CのH51 (1例)とH32(1例)が日本の患者だ。論文の詳細なデータによれば、

  ●Group AのH53とH52:東京(計3例)

  ●Group CのH51(1例):京都

       H32(1例):愛知

となっている。何しろ全世界で93例しかサンプルが取れてないので、まだ研究段階であり、作者自身「どうか皆さん、サンプルを提供して下さい」と論文の中で呼び掛けている。

私たちの関心事は、日本の患者がどこから来た、どのような種類のウイルスで発病したのかを突き止めることだが、先に結論を言えば、Group Aは(武漢滞在歴がある)深セン経由のウイルスなので、先ずは広東省を日本は入国禁止地区に入れなければならなかったことが分かる。

Group Cは湖北省武漢市の海鮮市場由来のウイルスなので、湖北省を入国規制区域にしたのは正しいが、しかし「H51」は、「広東省」で突然変異した亜種なので、やはり広東省を入国禁止地区に指定していなければならなかったことが分かる。

愛知県の「H32」は武漢の海鮮市場由来のものである。

◆グループ別のウイルスの起源と感染経路

では、グループ別にウイルスの起源と感染経路を見てみよう。

Group A

「H13」を中心として広がったウイルスで、これは深セン(広東省、緑色)においてのみ発見された種類だ。深センで家族感染したが、東京と行き来していたらしく、広東省由来の東京の患者が3人もいる(2月12日時点で)。

「H13」はどのようにして生まれたかというと、コウモリから発見されたウイルス「bat-RaTG13」が、何やら確定できない動物を介して「mv1」ウイルスとなった。ここは明確には辿られてないので、細い線で結ばれている。もっと薄い線で結ばれているのが「mv1」と「H13」だ。目を凝らして、可能なら画面を拡大して確認して頂くと見える。おそらくだが、ベトナムから密輸して食べるか、あるいは鱗を漢方薬に使う野生動物(センザンコウ)が中間宿主になっているのではないかとされている(華南農業大学の研究者もコメント)。「H13」はこの「mv1」が進化(変異)したものと考えられている。

Group B

中心は「H3」。これは武漢でのみ1例発見されている。しかし海鮮市場に行った事はないという。

「H3」は、4つの4分の1の大きさの円から成り立っており、その小さな4色の円の右上(座標軸の第一象限)に注目するとHubei(湖北)の赤色だ。武漢市は湖北省の省都なので、赤になっているが、これは「1点」で、武漢のみである。その斜め右上の方向に線があり、濃いピンクの少し大きな丸がある。これはアメリカのワシントンである。「H38」というウイルスが、ワシントンでのみ発見されている。

ところが「H13」(深セン)も「H38」(ワシントン)も、武漢に滞在した経験があるという。となると、やはり武漢に関係していることになる。

一方、残りの3つの「4分の1の大きさの円」は、「台湾、オーストラリア、ベルギー」なので、逆に、「H3」型ウイルスは、武漢では流行っていなかったことにもなる。

Group C

これこそが爆発的に伝染していった感染源だ。図の下半分にある赤い色などを中心とした円の真ん中に「H1」と書いてある。少々不鮮明だが、「H1」は「武漢市華南海鮮市場」で見つかったウイルスだ。大規模感染を起こし、世界中に広がっていった。「H1」が形成された変異経路には大きく分けて以下の二つの可能性が大きい。

   ●bat-RaTG13→H13→H3→H1

   ●bat-RaTG13→H38→H3→H1

だ。ここからが怖い。

「H1」はGroup Cに所属するが、ここから進化してGroup DやGroup Eなどの、言うならば「亜種」に変異している。

◆変異は飛行機で浴びる放射線が主原因か

論文は変異したウイルス保持者の足跡を調べることによって、変異の多くは飛行機に乗ったことにより上空の放射線を浴び、それによってゲノム配列が異なってしまった可能性が高いと分析している。

ウイルスは二重螺旋型の遺伝子配列であるDNAではなく、一重螺旋型のRNAなので、変異をそのままコピーし易い性質を持っているという。

それも変異は最終的には毒性が弱くなり、宿主となる人間が死なない方向に動いて長く人間と共存していく方向(人間界に定着する方向)に変異してウイルス自身がいつまでも生き延びるようになる傾向にあるだろうが、しかし「H3」から「H1」のように、爆発的に強力化する場合も途中ではあり得る。多くの人間(宿主)が死んでも、それを遥かに上回る数の人間に宿って(感染させて)、そこで生き延びていくという方法だ。これが武漢の大規模感染である。その意味では武漢の海鮮市場の野生動物という宿主は、やはり強力だったということが言える。

特にGroupEは途中で特定されてない(野生動物?)「mv2」に宿って変異している。

「H3」がセンザンコウと推定されている野生動物「mv1」に宿って、ワシントンを経由した上で形成され、強毒化した「H1」に変異したのと同じように、Group Eはまだ弱毒化する前の段階で変異しているのかもしれない。

それが広東省やアメリカで見つかっている。だとすればアメリカでの死者が増える可能性も否定できない。論文ではそこまで追いかけきれてないので、これはあくまでも推測に過ぎない。何しろまだサンプル数が少ないので、現段階では論文もそこまでは分析しきれていない。

この経路マップを見ていると、イタリアの場合を研究したくなってしまう。研究対象にまだイタリアが入ってないが、中にはGroup DやGroup Eなどから派生しているケースもあるだろう。

イタリアで感染が拡大している原因として「一帯一路」協力を締結したことによる中国人観光客の増加や医療従事者の知識不足による初動の失敗などが挙げられているが、ひょっとしたら飛行機搭乗と関係しているかもしれない。

というのも、イタリアは中国からの入国の直行便を禁止したため、ルートが分からなくなってしまうほど乗り換えて中国からイタリアに入国したケースが多かったという話も聞いている。全くの素人の推測ではあるが、もしかしたら飛行機に乗る回数が多くなったために放射線を浴びてウイルスの変異をもたらした可能性も否定できないのではないかと、ふと思ってしまう。痕跡から辿れるならデータ分析をしてみたいという知的好奇心が湧き出て来る。

日本政府の新型コロナウイルス肺炎対策本部や専門家会議から、この種の分析結果や提言を聞いたことがないように思うが(筆者が知らないだけなのかもしれないが)、もしまだ手を付けてないのなら、ウイルス領域の日本の研究者には、ぜひ挑戦して研究し、日本政府に提言してほしいと望む。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.