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背後に千億円の対中コロナ支援:中露首脳電話会談
2020年3月23日
BRICS首脳会議 ブラジリアで開催(2019年)(写真:ロイター/アフロ)
BRICS首脳会議 ブラジリアで開催(2019年)(提供:ロイター/アフロ)

19日、習近平はプーチンに電話したが、背後には中国がBRICS銀行からコロナによる経済損失を埋めるための千億円の支援金を得た事実があり、アメリカがIMFや世銀に「一帯一路」参加国への融資を阻止した背景がある。

◆習近平がプーチンに電話

3月19日、習近平国家主席はプーチン大統領に電話をした。表面的には新型コロナのパンデミックを受けて治療や治療薬開発などに関して互いに協力しようということが主たる内容で、中国の報道によれば、プーチンが中国の感染拡大阻止への対応が実に素晴らしいと高く評価したということになっている。

プーチンは新型コロナ肺炎発生が明らかになると、1月の時点で直ちに中国との国境を封鎖しているので、習近平が「気を悪くしているのではないか」と推測されるだろうが、「そんなことはないよ」というシグナルではないかと日本では報道されている。

その側面は否めないし、だとすれば日本の安倍首相が、習近平国賓招聘を4月に控えて、1月の時点で中国からの来日者を遮断しなかったのは、全く無用の忖度であったことが言えよう。

しかしそのようなことで電話をする習近平ではなく、実はそこには、「深~い」事情が潜んでいた。

◆BRICS銀行が中国に千億円のコロナ緊急支援金

習近平がプーチンに電話した同じ日の3月19日、中国政府は財政部の情報として「新開発銀行が中国の新型コロナウイルス肺炎との闘いを支援するため70億人民元の緊急支援融資を承認した」と報道した(報道は3月20日)。

新開発銀行は、2015年7月にBRICS五ヵ国(中国、ブラジル、ロシア、インド、南アフリカ共和国)が共同で立ち上げた銀行で、BRICS銀行とも呼ばれている。

報道によれば3月19日に開催された新開発銀行取締役会で、湖北省、広東省や河南省における疾病との闘いに関する数々の緊急支出(緊急的設備、緊急医療物資購入および病院や病室、実験室建設など)を支援するため、中国に対して70億人民元(1人民元=15.64 円、3月21日現在)(約1,094.8億円)の緊急援助を融資すると承認したとのこと。融資期間は30年で低コスト、迅速な支払いなどが保障されている。これは新開発銀行が加盟国の疫病との戦いを支援する最初の緊急援助融資であり、国際金融機関としても初めての融資で、最大額の国家向け融資(Sovereign loans)だとのことである。

◆ムニューシンがIMFや世銀に一帯一路への融資を阻止

中国政府の報道にわざわざ「国際金融機関としても初めての融資」と書いてあるが、これには訳がある。

というのも、アメリカのムニューシン(Mnuchin)財務長官が3月11日、「一帯一路」参加国への融資について、IMF(国際通貨基金)や世界銀行に対し、「両機関からの資金が中国への返済のために使われないようにせよ」と言ったからだ。アメリカは両機関と緊密な連携を取っているとニューヨークタイムズなどがロイター電として“Mnuchin Says IMF and World Bank Funds Won’t Repay Debts to China”と伝えている。

報道によれば、ムニューシンは”We think this is critically important.”(これは非常に重要なことだ)と米下院歳出委員会の公聴会で述べたとのこと。

実際、「一帯一路」で過剰な債務を負ったパキスタンなどは、IMFに金融支援を要請し、IMFは昨年7月、パキスタンに3年間で60億ドルの融資を実行することを承認している。中国により債務漬けにされ、中国があくどいやり方でぼろ儲けをしているというのに、その尻拭いをIMFがやったのでは、中国に有利になるばかり。こんなことをしてはならないと警鐘を鳴らしているわけだ。

中国外交部の耿爽報道官は3月12日、ムニューシンの発言について、「国際金融機関は政治の道具ではない」と批判し、「国際金融機関は一帯一路構想を高く評価している」と反論した。

この「国際金融機関」という言葉が「フック」のように絡んでいるのである。

それを読み解かないと、中国政治読み解きの醍醐味は出てこない。

◆CCTVに頻繁に顔を出すIMF専務理事クリスタリナ・ゲオルギエバ氏

新型コロナ肺炎発症以降、中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVに頻繁に顔を出すのはIMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事だ。彼女は2019年10月1日からクリスティーヌ・ラガルド元専務理事の後任としてIMF専務理事に就任したが、注目しなければならないのは、彼女がブルガリア人だということである。

1949年10月1日に中華人民共和国(現在の中国)が誕生したが、旧ソ連が10月2日に国家として承認すると、10月4日にはブルガリアが同じく中国を国家として承認した。旧ソ連は1991年12月に崩壊しているので、現存の国家として中国を承認した最初の国家はブルガリアということになる。

以来、ブルガリアと中国の関係は緊密で、中国を発展途上国とみなして中国からの投資には「優遇措置」を認めてきた。そのため胡錦涛政権の時代から中国はブルガリアに投資しヨーロッパ市場開拓のための足掛かりとしてきた。

胡錦涛政権に入ってから、欧州市場開発が盛んになってきたが、その拠点となったのがブルガリアである。たとえば2012年2月23日、中国企業の長城汽車(自動車)はブルガリアのロベチに生産工場を設立している

それを一歩進めた具体的な形で2012年4月26日には中国が東欧16カ国をグループとした「16+1」が成立した。主催しているのは胡錦涛政権時代の温家宝国務院総理だ。「16」はソ連崩壊まで共産党圏として存在していた16ヵ国で、「1」は中国のこと。

「一帯一路」は習近平政権の発想だと思っている人が多いかもしれないが、胡錦涛政権時代の2009年に既に「新シルクロード経済ベルト」という概念を提出している。この概念と「16+1」をつなげたのが「一帯一路」の骨組みの一つだ。

今ここで注目したいのは、「ブルガリア」という国で、中国の水面下での働きにより、2009年9月22日にブルガリア人のイリナ・ボコヴァがユネスコの事務局長に選出され、2009年10月に正式に就任。

とてつもなく「えげつないほどに」ボコヴァを利用し始めたのが、習近平とその夫人・彭麗媛である。

女性同士であることなども「誼(よしみ)」として作用していたのだろうか、2014年3月27日、彭麗媛はボコヴァからユネスコから栄誉称号を授与されている。こうして南京事件(中国では「南京大虐殺」)を世界記憶遺産にすることに成功しているのである。

同じブルガリアの女性であるゲオルギエバをIMFの専務理事に就けることに奔走したのは習近平政権だ。

◆「親中派」を国際組織の長に据える中国の戦略

2019年10月1日にめでたくIMF専務理事に就任したゲオルギエバは、11月22日には習近平にご挨拶すべく、北京の人民大会堂に馳せ参じた

それでもなお、アメリカの財務長官・ムニューシンの力の方が大きかったのだろう。何と言ってもIMFに参画しているメンバーの数も多いし、WHOのテドロス事務局長を抱き込むような具合にはいかなかった。だから中国はBRICS銀行に働きかけたわけだ。もちろんプーチンの力を借りたことだろう。プーチンもまたアメリカに対抗するために習近平の力を必要としている。二人は相乗効果を発揮しながら長期政権を実現し、何れは選挙で大統領が変わるアメリカに対抗しようと狙っている。

これまで何度も書いてきたが、マカオの元宗主国ポルトガルの首相であったグテーレスを国連の事務総長に就任させることに奔走したのも習近平政権だ。IMFのゲオルギエバ同様、グテーレスやWHOのテドロス事務局長も、よくCCTVに顔を出す。この3人とも堂々と習近平礼賛を言ってのける国際組織の長なのである。

一方、中国のコロナ発症の感染者数の急激な増加は抑えられ、湖北省などに派遣されていた中国全土の医療支援部隊は既に各地に戻ったし、突貫工事で作った16の野戦病院的コンテナ医院も全て閉鎖された。今となっては肺炎発生地に対する資金的支援は必要となくなっている。

そこで中国はこれから、この支援金を用いてコロナ感染に苦しむ多くの国々をチャイナ・マネーで助けていくことになるわけだ。習近平の「人類運命共同体」理論が、どれほど素晴らしいかを当該国に言わせ、国際社会における地位を確固たるものとしようとしている。

一党支配体制と言論弾圧がなかったら、新型コロナウイルスは、ここまで全世界に拡散し人類を危機に追いやることもなかっただろう。その責任を負わず、全世界に謝罪もせず、むしろ「中国に感謝すべきである」と豪語する習近平。

これはちょうど、日本のODAを用いて発展途上国を支援して国際社会における発言権を強化してきた構図と類似形を成す。

いま日本を含め全世界は習近平が巻き散らしたコロナ対応で精一杯だが、一方ではこういった中国の戦略に留意しておいた方が良いだろう。そうでなければ必ず足をすくわれる。安倍首相は特に肝に銘じておかなければならないのではないだろうか。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.