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習近平「1月7日に感染対策指示」は虚偽か
1月7日に新型肺炎の警告をしたというのに1月17日にミャンマーを訪問した習近平(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
1月7日に新型肺炎の警告をしたというのに1月17日にミャンマーを訪問した習近平(提供:代表撮影/ロイター/アフロ)

2月15日発行の中共中央機関誌「求是」に習近平は「2月3日の会議で私は新型コロナウイルス肺炎に関して1月7日に警告した」と書いている。しかし2月3日の発表にも1月7日の発表にも、その記録はない。この弁明は後付けで、習近平は嘘を言ったことになる。

◆習近平自らが寄稿して弁明

2月15日15:08:26に、中国共産党中央委員会(中共中央)の機関誌「求是」(2020年4月号)のウェブサイトは「中央政治局常務委員会会議において新型コロナウイルス肺炎疾病に関して研究し対応するための活動時の講話」というタイトルの記事を発表した。

なんと、「作者:習近平」とあるではないか。

執筆者は習近平中共中央総書記・国家主席、本人なのである。

書いたのは2月3日。

つまり2月3日に開催した中共中央政治局常務委員会会議において、以下のような発言をしたという位置づけで習近平は書いている。冒頭部分だけを記す。

――武漢の新型コロナウイルス肺炎の疾病発生以降、私は1月7日に中央政治局常務委員会を開催し、その時に新型コロナウイルス肺炎の疾病予防活動に関して要求を出しました。1月20日には私は専ら疾病に対する防御と抑制活動に関する指示を出しました。そして各レベルの党委員会と政府および関係部門は人民群衆の生命の安全と健康を第一に置き、有効な対策を実行し何としても疾病が蔓延するのを食い止めよと指示しました。

つまり、「私は1月7日に新型コロナウイルス肺炎の疾病に関して警戒せよという要求を既に出しています」と、2月3日に開催した中共中央常務委員会会議で「言いました」と習近平は主張しているわけだ。

本当だろうか――?

◆2月3日の記録と内容が異なる

習近平が「1月7日から新型コロナウイルス肺炎の疾病に関して警告を出している」などという話は聞いたことがない。

そもそも、もし警戒しなければならないという自覚を持っているのなら、なぜ1月17日から18日までミャンマーに行き、スーチンさんと「一帯一路」を発展させましょうなどという「無防備に人的交流を拡大させる約束」などをしたのか。またそれだけでは飽き足らず19日から21日まで雲南巡りをして「めでたく」春節の祝いなどをしていたのか。もちろんマスクなどしてない。

さらに、2月10日付のコラム<新型肺炎以来、なぜ李克強が習近平より目立つのか?>にも書いた通り、1月21日になってもなお、江沢民元国家主席に春節のご挨拶に行ったりしているのではないのか?

警戒態勢を要求した者が、その後のんびりと、このような行動を取っていたとなれば、今までよりも、もっと罪深いことになる。

自覚が足りなかったというのなら、人民はまだその反省に耳を貸す心は持っているかもしれないが、自覚していたのに「めでたく遊んでいた」ということになれば、人民は許さないだろう。

どうもおかしいと思って検証を続けたところ、とんでもない証拠を発見してしまった。

なんと、新華社が2月3日に発表した中共中央政治局常務委員会議プレスリリースと見比べてみると、2月15日の「求是」に習近平の署名で書いてある文章の冒頭にある部分が、存在しないのである。

つまり、「1月7日の会議で武漢新型コロナウイルス肺炎の疾病に関して警告を出した」というのは「後付け」であり、もっとはっきり言うならば「虚偽である」ということが言えよう。

◆会議内容偽造に追い込まれた習近平

2月15日になって、すでに公表してある「2月3日の中共中央政治局常務委員会の会議で述べたこと」にさらなる「補足」をしなければならなくなったのは、一つには、昨年12月30日に新型肺炎の流行を警告したために武漢警察に摘発された李文亮医師が2月7日に死亡したことに対して中国人民が激しく憤り、ネットが炎上したからだろう。

さらに中国全土の患者の数は驚異的なほどの勢いで増加し、死者の数も激増している。それは武漢や湖北省においてだけでなく、全国規模で拡大を続けているので、14億に上る中国人民はみな「明日は我が身か」と不安な日々を過ごし、職場に行くこともままならぬ状態で、いつ怒りが爆発しないとも限らない。

習近平はそれが怖いのではないのか?

2月15日の「求是」に載った習近平の文章は、新華網だけでなく、人民日報の電子版あるいは中央テレビ局CCTVでも大々的に報道しているところを見ると、習近平が自己弁護に必死である姿が浮かんでくる。しかし矛盾だらけで、墓穴を掘ったことになるだろう。

◆さらに決定的な証拠

こうなったら、トコトン追いかけるのが研究者根性というものだ。

いっそのことと思い、1月7日に開催された中共中央政治局常務委員会会議のプレスリリースを探してみた。

すると、あるではないか!

こちらをご覧いただきたい。

仇でも討つようにチェックしてみたところ、出席しているのは「全国人大(人民代表大会)常務委員会、国務院、全国政治協商会議、最高人民法院(最高裁判所)、最高人民検察院党組織、中央書記処書記」で、その活動報告を聞くのが目的だった。

何のことはない。

これは毎年恒例の「3月に全人代と全国政治協商会議を開催する前の意見聴取」だったのである。したがって武漢の文字も新型コロナウイルスの文字も全く存在しない。

明らかに習近平は嘘をついたことになろう。

百歩譲って、議題としてではなく、個人的に武漢の肺炎に関する立ち話くらいはしたかもしれない。しかしテーマから見る限り、1月7日の会議は完全に全人代と政治協商会議の準備作業であって、それ以外の要素が入り込む余地がない。その意味で、2月15日の「求是」の内容は「捏造」に分類して良いだろう。なぜ何ればれてしまうような、このような稚拙な偽装工作をしたのか理解に苦しむが、よほど追い込まれているものと判断される。

こんな人を国賓として招こうとしている安倍政権は、もう尋常ではないと言うほかない。これに関しても、この「2月15日」に、とんでもないことが起きているので、別途考察することにしよう。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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