
11月7日で台湾有事に関する「高市発言」から1年になる。11月18~19日に中国の深圳で開催されるAPEC首脳会議(深圳APEC)で「習近平・高市」会談はあり得るのか?
◆「米中露戦後秩序の構図」まで構成して台湾統一を成し遂げようとしている習近平が、安易な妥協をするはずがない
昨年11月7日の高市首相による台湾有事に関する発言以降、日中関係は悪化したまま改善の兆しは見られていない。
中国側は少なくとも「高市発言」の撤回を求めおり、10月11日の論考<岩屋氏の中国に対する「日中共同声明の再確認提案」は無駄 習近平が何を狙っているのかをわかっていない>に書いた通り、王毅外相は9月末の時点でも、 「日本にとって緊急の課題は、台湾問題に関する指導者たちの誤った言動を迅速に正すことであり、重要なのは歴史的問題に対して正しい姿勢を取ることだ」と厳しく断罪している。
加えて、10月1日の論考<WWⅡの同盟国・米中の敵国は日本 そこに潜む中国の恐るべき「新型軍国主義・日本とG2」構図>の図表2や、10月7日の論考<習近平の「米中露戦後秩序の構図」は、日本を「新型軍国主義」と指摘することによって何を狙っているのか?>の図表1に示した通り、習近平は台湾統一のために「米中露戦後秩序の構図」を持ち出しており、日本が「台湾有事は日本有事」として台湾に武力介入したら、それは国連憲章・敵国条項に抵触し、日本は国連憲章を破って「中国を再び侵略したことになる」として日本の「新型軍国主義」を戒めている。
ここまでの巨大な国際社会におけるフレームを構えながら、高市首相が発言の撤回もせずに習近平と深圳で会談できるなどと思うなよ、というのが中国の姿勢だ。
おまけに実は、「撤回」だけでは済まされず、「言葉だけでなく行動で示せ」というのが、最近の中国の対高市外交姿勢である。
◆言葉上の「撤回」だけでなく「行動で示せ」と、要求を厳しくしてきた中国
約1年前に「高市発言」があったときには、中国は盛んに高市発言を「撤回せよ」と迫っていたが、その後、「撤回だけでなく、実際の行動で示せ」と、要求を一段、格上げしてきた。
日本には、中国外交部の文言から「撤回」という文字が消えたので、まるで「中国が譲歩した」と喜ぶ論評が散見されるが、それはいくら何でも甘い視点だと言わねばならない。
実際は全く逆の方向に動いており、中国は高市早苗が言葉巧みに形式上の「撤回」に相当した言葉を操り、実際の行動は何も変わっていないという状況になることを警戒している。中国外交部が「高市発言」に対して使っている非難の言葉の変遷を図表にまとめてみた。
図表:「高市発言」に対する中国外交部の非難表現に関する推移

公開された情報に基づき筆者作成
図表の「6」番をご覧になると、台湾有事に関して「日本が武力介入する場合があり得る」という類の言葉を「今後は言わない」というのは「撤回」には相当せず、「武力介入しない」という「実際の行動」に関して公約を履行しなければならないと、一段と要求を上げていることがわかる。「25」番には「発言より行動」という言葉さえある。
従って中国側が「撤回」という文字を使わなくなったので「譲歩した」などということはあり得ないのである。
◆深圳APECで「米中露首脳会談」が実現したら日本は気づくのか?
10月20日の論考<中国代表団の日本領土・北方四島訪問と迫りくる「米中露戦後秩序の構図」 トランプが米中露首脳会談提案>に書いたように、トランプ大統領は深圳APECで「米中露首脳会談」を行なう可能性があることを示唆している。
いくらなんでもこの三首脳会談が行われれば、さすがの高市政権も筆者がこれまで繰り返し述べてきた習近平の「米中露戦後秩序の構図」の現実性に気が付くのではないだろうか?
トランプは「米中露首脳会談」だけでなく、どうやら次期国連事務総長にハンガリーのオルバン・ビクトル前首相を候補として推しているようだ。10月26日のウォールストリート・ジャーナルが社説で<ハンガリーのオルバン前首相を国連事務総長に?>(有料)と述べている。それも中露と共同で国連事務総長の候補に推薦する構えのようなので、実現性が低くはない。
となると、いよいよ習近平が狙う「米中露戦後秩序の構図」は濃厚な実現性を帯びてくる。
◆中露の思う壺_「日独」協力に自ら突き進む高市首相
重ねて、思いもよらない事態がやってきた。
10月7日の論考<習近平の「米中露戦後秩序の構図」は、日本を「新型軍国主義」と指摘することによって何を狙っているのか?>で書いたように、習近平はプーチンとともに「日本とドイツ」をペアで「敵国条項」に結び付け、「米中露戦後秩序の構図」を創り上げようとしている。当該コラムの【◆ドイツと対峙するロシアの構図】の図表2で説明したように、プーチンはドイツが「ツァイテンヴェンデ(Zeitenwende、時代の転換点)」戦略を大幅に加速させ、「ドイツの再軍事化」を進めていると激しく非難。これは習近平が日本を「新型軍国主義国家」と呼ぶ姿勢と一致している。
その日本がなんと、中露の主張通りにドイツと接近し、ドイツのメルツ首相に「日独を最も親密な同盟国に」と言わせているのだ。10月28日のNHKニュース<日独首脳会談 サプライチェーン強じん化など協力強化で一致>がそのように報道している。NHKの報道によれば、さらにメルツ首相は、防衛協力の強化について「戦闘機の製造で協力する可能性についても探っていきたい」と述べ、日本とイギリス、イタリアの3か国が共同で開発する次期戦闘機の計画への参加を検討する考えを示したとのことだ。
第二次世界大戦の構図から言えば、今では弱体化したイギリスを除けば、まさに「三国同盟」であった「日独伊」の構図そのものではないか。
日本は自ら選んで、ピッタリと中露が描きトランプも乗っかってきている「米中露戦後秩序の構図」の真っただ中に飛び込んで「敵国条項」を再現しているようなものだ。
中露の思う壺に嵌(はま)っていく高市政治に驚きを禁じ得ない。
日本の外務省の発表を見ると、さすがに「日独を最も親密な同盟国に」という表現は削除している。外務省の中にはこの「危険さ」を理解しているスタッフがいるのかもしれない。
しかし政治家となると問題は別だ。
日本では選挙で自分が当選できるか否かという、「背に腹は代えられない」切羽詰まった状況の中でほとんどの議員が生きているので、日本の周辺がかかる巨大なフレームの中で動こうとしていることに目を向ける心のゆとりもないにちがいない。高市首相に気に入ってもらってないと選挙で振るい落とされる。そのことに戦々恐々としている。
そこに国会議員の関心を追い込んでいったのは高市政治の成せる業だ。
このような狭隘な視野には、世界は見えないにちがいない。
来月の深圳APECにおける「習近平・高市」会談の有無を論議している場合ではないほど、日本は国際社会の動向から乖離し、危険な選択を始めていることを認識した方がいいだろう。警鐘を鳴らし続けたい。
追記:なお、メルツ首相の訪日と並行して、ドイツのシュタインマイヤー大統領は10月27日から31日まで中国を国賓訪問し、30日には習近平国家主席と会談する予定だ。
大統領には首相のような政策決定権はないものの、国家元首として重要な外交的役割を担っている。ドイツは日本との安全保障協力を進める一方、中国との関係も重視し、外交上のバランスを取っていることがうかがえる。そこが日本とは大きく異なる。
この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。
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