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トランプ演説の「中国の2020米大統領選介入」対中批判はG2構想を崩壊させるのか?
米大統領、国民向け演説 中国による選挙データ侵害を主張(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

日本時間7月17日(米東部時間7月16日夜)(以後7月16日夜)、トランプは米国民向けの「選挙安全保障演説」をし、不正な選挙制度を改革しなければならないと主張した。その中で特に注目されたのが「2020年時の大統領選挙で中国が史上最大規模の選挙干渉をしてトランプを落選させた」と激しい対中批判を展開したことだ。

これは今年11月の中間選挙で敗北する可能性に対する予防戦で、またトランプの「不正選挙論」というフェイクが始まったとして、アメリカでは生放送の中継をしなかった大手テレビ局もあり、多くの米メディアは、むしろトランプ批判を強めている。

しかし、トランプが提唱した「G2構想」と「その中で進行しているイラン戦争」に焦点を当て『G2構想 勝つのは米国か中国か』を著した者としては、「えっ! じゃあ、G2構想も無くなるって言うの?」と強いショックを受けた。

なぜこのようなことが起きたのか?

実態はどうなっているのか?

少なくとも「G2構想」という言葉が入っている本を出版した者としては責任があり、気が気でならない。

そこで、対中批判が入っているトランプ演説の実態を解明するとともに、これによって米中蜜月のような「トランプが提唱した米中二極化G2構想」は崩壊してしまうのか否かの追及を試みたい。

◆2020年における「中国の選挙干渉」を激しく非難したトランプ

7月16日夜のトランプの「選挙安全保障演説」の中から、中国非難部分だけを拾い上げて以下に列挙する。

  • (トランプが落選した)2020年大統領選では、中国がトランプ再選を阻止するため、米国の選挙に影響を及ぼす大規模な活動を展開した。
  • 中国は米国の有権者約2億2,000万人分のデータを取得した。対象には、氏名、住所、電話番号、支持政党など、選挙戦で利用可能な個人情報が含まれていた。
  • 中国は収集したデータを分析・活用するための専用部門を設け、米国内の政治動向や有権者の傾向を把握しようとしていた。
  • 中国共産党の方針は、トランプに反対する米国内外の勢力を利用し、トランプの得票を減らして再選を阻止することにあった。
  • 有権者情報の大量取得と政治工作を組み合わせたこの活動は、米国の選挙安全保障に対する重大な脅威だった。(概ね以上)

まず筆者の感想として申し上げるなら、中国が米大統領選に介入したか否かは別として、中国にとって「トランプ大統領」ほどありがたい存在はなく、20年10月24日の論考<中国はトランプ再選を願っている>や24年2月9日の論考<中国は米大統領選「トランプかバイデンか」をどう見ているか?>など数多く書いてきたように、中国ではトランプを「川建国」として大歓迎してきた。

「川建国」とは、中国でのトランプの漢字名の一つ「川普(ツワァンプー)」の「川」の字を用いて「中国を再建国してくれたトランプ」を意味する。「トランプのような乱暴でハチャメチャな政策をアメリカが遂行してくれるお陰で、アメリカの信頼が落ち、その結果、中国は何もしなくても相対的に有用さが増すので、トランプは中国を再建国してくれる毛沢東のような大恩人だ」として、中国人民の多くはトランプを讃えていた。

ただ讃えるだけでなく、「トランプ大好き人間」が中国の若者の中に増殖して、トランプグッズが飛ぶように売れ、コスプレでトランプを演じる若者さえ増えたほどだ。

いかなる理由があってトランプを落選させる必要があるだろう!

◆米メディアが一斉にトランプの主張を否定し批判

7月16日夜のトランプ演説は米国民向けの演説なので、大手テレビ局が生放送をすることをトランプとしては前提としていたようだ。ところが実際に生中継で放送したテレビ局はFOX、Fox News、CBS、MS NOWのみで、他の大手テレビ局CNN、ABC、NBCなどは「どうせフェイクだ!」、「また2020年選挙の「不正選挙論を蒸し返している!」として中継を拒絶し、他の番組を報道した。CNNはケーブル局のため、NBCやABCのように放送免許を持つ仕組みがないので、トランプは演説の中でNBCとABCを名指し、放送免許の剥奪を主張したとポリティコが報道した

しかし他の多くのネットやペーパーベースの米メディアへの規制まではできない。言論の自由を奪うからだ。そこでニューヨーク・タイムズなどアメリカの主要メディアは思いきりトランプ演説とトランプの主張を激しく批判した。文書は実在するものの、それはとっくの間に公開されているもので、中国が実際に投票や集計を操作し、2020年大統領選の結果を変えたことを示す証拠ではないとの見解でおおむね一致している。以下にいくつかを列挙する。

  • ニューヨーク・タイムズ(有料):中国が米有権者データを収集していたこと自体は以前から知られているが、有権者名簿の多くは公開または購入可能だと指摘。トランプは文書の一部を選択的に取り上げ、選挙が「操作された」「盗まれた」とする結論につなげたが、公開資料はその結論を裏付けていない。
  • CNN:中国が大量の米選挙人データを収集していることや、外国勢力が選挙システムを攻撃する能力を持つ可能性は認めつつ、今回の資料は中国が実際に票や集計結果を変更したことを示していないと整理している。2021年の情報評価も、中国は選挙への影響を検討したが、結果を変える工作は実行しなかったとしている。
  • CBS有権者名簿は多くの州で公開・販売されており、中国が情報を入手したことは、有権者登録や票を変更できたことを意味しないと指摘。投票機についても、引用された資料の一部は米国でほとんど使われていないシステムに関するもので、実際に攻撃された証拠はないとしている
  • AP通信:公開資料は黒塗りが多く、以前から知られていた情報や未検証のデータも含まれていると評価。中国が有権者情報を選挙操作に利用した証拠や、外国勢力が実際の票を変更した証拠はないとしている。非市民27万8,000人の登録についても、実際に投票した証拠は示されていない。
  • ロイター中国が取得したとされる有権者データの多くは「非機密」で、政治コンサルタントなども通常入手できる情報と指摘。公開文書自体にも、「選挙結果を左右する規模で集計システムを操作することは困難」との評価が含まれており、中国が票を変更した証拠にはなっていないとしている。
  • ワシントン・ポスト:トランプは選挙インフラの「脆弱性」を強調したものの、実際に票が変更された、または投票機が侵害されたという証拠は提示できなかったと評価。公開資料も、中国が2020年選挙を操作したことや、情報機関が決定的証拠を意図的に隠したことを裏付けていないとしている。(米メディアの報道例は以上)

また米政府の元NSC(国家安全保障会議)高官さえ、は「トランプは中国による選挙介入を強調しているが、虚偽の主張を利用して、投票制限法案(Save American Act)」を強引に通そうとしている」と批判している。

さらに機密解除されたとトランプが言っているリポートには、ロシアゲート問題が大きく取り扱われており、そこには「トランプがロシアを使って、バイデン票を減らそうと工作したのではないか」といった趣旨の疑惑に関するファクトチェックが行われているのだが、トランプは演説で、これに関しては触れなかった。突如、「中国の選挙介入」という新しい情報を持ち出してきて主張したのは、中間選挙で敗北する可能性から国民の目を逸らそうとするトリックに過ぎないと、米メディアや米ネットはトランプへの批判に容赦ない。

◆岩盤支持層の支持率激減に焦るトランプ

それもそのはず、トランプの支持率が激減しているのだ。トランプを絶対に指示すると回答した岩盤支持層が激減したという事実に関する世論調査結果は6月から激しい勢いで大学やメディアが公開してきた。その例のいくつかを以下に列挙する。

全体の支持率としては30%台にはあるようだが、ここまで岩盤支持層の支持率が落ち込んでいるので、トランプとしては何かやらないと中間選挙で敗北するという危機感に見舞われていることだろう。だから手あたり次第、思いつくままのことを喋りまくるのだが、それこそがまたトランプへの信頼を失わせ、逆効果が雪だるまのように増大している。

◆それでも変わらぬトランプの「習近平訪米計画」 むしろ最後の砦?

それでもトランプは9月24日に習近平をアメリカに招聘して米中首脳会談を行うことを変えていないようだ。日本の共同通信社が7月18日、<習近平の9月訪米「予定通り」 ホワイトハウス>と報道している。これは共同通信が独自にホワイトハウス当局者に取材して得た情報のようで、当局者は9月に予定されている習近平の米国訪問に関して「予定通り進んでいる」と回答したとのこと。

米国民のイラン戦争に対する評価は、トランプの岩盤支持層激減よりもさらにひどい

と言っても過言ではないので、トランプとしてはむしろ、「習近平の訪米」を可能ならしめた自分の力は凄いだろう」と自慢し「習近平と直接ディールできるのは、アメリカ大統領の中で、俺一人だ」と米国民にアピールすることによって中間選挙を有利に持って行こうとしているかもしれない。

実際、7月14日、2020年の大統領令13936号に基づく「香港に関する国家非常事態」が更新されずに失効し、7月17日、米財務省が、失効に伴う制裁リストの更新を正式に公表し、同大統領令だけを根拠に制裁されていた一部の人物をSDNリストから削除したりなどしている

となると、見方によっては習近平の訪米はトランプにとって最後の砦で、筆者の懸念とは逆に、「何としてもG2構想を守り抜く」という方向に動く可能性さえあるように思われてきた。

良いか悪いかは別として、「不動の習近平」という意味で、イラン攻撃などをして右往左往しているトランプの「失点」を、習近平が何もせずに自らの「得点」にしてしまっているという皮肉な現実がある。この構造に関しては『G2構想 勝つのは米国か中国か』で詳述した。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
G2構想 勝つのは米国か中国か
『G2構想 勝つのは米国か中国か』

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『台湾機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』

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