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中国は米大統領選「トランプかバイデンか」をどう見ているか?
大統領選に熱く燃えるアメリカ選挙民(写真:ロイター/アフロ)
大統領選に熱く燃えるアメリカ選挙民(写真:ロイター/アフロ)

中国のネットではトランプ(中国語表記:川普)を「川建国」(中国を再建国したトランプ)と呼び、バイデン(中国語表記:拝登)を「拝振華」(中華を振興させたバイデン)と呼んで茶化している。何れも「中国を虐めることによって中国人民の愛国心と団結心を強化してくれた人」という意味だ。

中国政府自身は「内政干渉」として米大統領選に関して沈黙しているが、中国政府の思惑をそれとなく示唆するシンガポールの「聯合早報」や大陸の知識層が愛読するウェブサイトなどから、中国にとっての「川建国」と「拝振華」のメリット・デメリットが浮かび上がってくる。

 

◆トランプが当選したら、それは中国にとって良いことか悪いことか?

まず、2月1日のシンガポール「聯合早報」に掲載された<トランプが当選したら、それは中国にとって良いことか悪いことか?>という記事に書いてある分析を見てみよう。

「聯合早報」は中国政府としては口にすることができないが「本当はこう思っている」という内容を第三者に書かせるときがある。中国大陸のネットで削除されずに載っている場合は、そういうケースであることが多い。今般ももちろん、中国大陸のネット空間で、むしろ目立っていた。

だから、これは中国の本心(に近いもの)なのだろうと受け止めたので、ご紹介する。以下、個条書きのように番号を付けて概略を羅列する。

 1.1月25日に発表されたロイターの世論調査では、トランプ前大統領が40%の支持を得て、バイデン現大統領を6%リードしている。中国のネットで「川建国」と「拝振華」と呼ばれている2人の政治家が年末に再び対決する可能性がある。

 2. 感情的でビジネスマン的な性格のトランプが、前政権の時のように北朝鮮に舞い戻ってきたら中国に有利か不利か何とも言えないが、全体としてメリットとデメリットはある。

 3.前回の米大統領選では、中国のネットはトランプ再選に期待する声に満ちていた。トランプは次から次へと西側同盟から抜けて「アメリカ・ファースト」を重んじたので、どんなにトランプが中国に高関税をかけハイテク産業発展を阻止しても、国際社会におけるアメリカの孤立化が進み中国の活躍の場が増えたからだ。しかしトランプを破ったバイデンは、「アメリカ・ファースト」などトランプ時代の外交政策を一気に放棄し、トランプ政権の4年間で分断された同盟体制をいち早く立て直し、インド太平洋地域で中国をより包括的・組織的に包囲するために小規模な仲良しグループを動員し、東シナ海、台湾海峡、南シナ海における「三海連関」の現状を形成した。

 4.もしトランプが当選して自分のやり方に戻せば、バイデンが必死になって再構築した軍事同盟体制や仲間を集めた小さなグループも、指導者不在の砂と化し、中国を封じ込めるためのアメリカとその同盟国の結集力は大幅に低下するだろう。これは北京にとって大きなメリットとなる。

 5.台湾問題では、トランプはビジネスマンの利益追求に基づいて評価し、今年1月20日のFOXニュースのインタビューで、「北京が武力攻撃した場合、台湾を守るかどうか」という質問には答えなかった。トランプは「質問に答えることは交渉で非常に不利な立場に立たされる」と述べ、「台湾がアメリカの半導体事業のすべてを奪った」と付け加えた。

 トランプが同様の回答をしたのは昨年7月以来2回目で、バイデンが大統領在任中に、「アメリカは台湾防衛のために軍隊を派遣する」と4回も公式に発言したのとは強烈な対照を成している。

 6.中国国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官は水曜日(1月31日)、トランプが「台湾防衛」を拒否したことに関し、アメリカは常に「アメリカ第一主義」を追求し、台湾はいつでも「(利用できる)駒」から「捨て駒」に変わり得ると述べた。

 7.ホワイトハウスが来年1月に政権交代した場合、台湾はトランプと取引し、安全保障上の約束と引き換えにアメリカへのハイエンドチップの移転を加速させるために、より高い代償を払わなければならないかもしれない。

台湾海峡で何かが起こったときに米軍は高みの見物を決める可能性があり、第二次世界大戦後にアメリカがひたすら築いてきた軍事力は、トランプにとってはそれほど価値が高いものではないので、台湾はホワイトハウスとの取引を試みる必要が出てくるかもしれない。

 8.昨年から緊張が高まっている南シナ海でも同じことが起きる可能性がある。トランプがホワイトハウスに復帰すれば、フィリピンを堅固に防衛するというバイデン政権のコミットメントが見直され、マルコス・ジュニア政権は中国に対して強硬姿勢をとる自信を失う可能性がある。

 9.トランプは日韓駐留米軍の予算も削減し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との4回目の会談を再開するかもしれないし、「三海連関」戦略も自滅的だ。

 10.米主導の同盟体制が弱体化すれば、中国が国際情勢や地域情勢で影響力を行使する余地が広がる。

 11.しかし、トランプの2度目のホワイトハウス入りは、中国にとって良いことばかりではない。対中タカ派で米中貿易戦争の立案者であるライトハイザーや親台湾派のポンペオなど、国家安全保障と経済の分野でトランプから重要な任務を任される可能性が高い。そうなった場合、中国の最恵国待遇も撤廃され、アメリカに輸出される中国製品に40%以上の関税が課せられ、米中間のデカップリングが加速し、技術戦争と貿易戦争の激しさがさらにエスカレートする可能性がある。

 12. 1月27日、ワシントン・ポストは3人の情報筋の話として、トランプが中国からの輸入品すべてに一律60%の関税を課す可能性について顧問と話し合ったと報じた。これは、米中貿易戦争でトランプが科した懲罰的関税より35%も高く、中国製品を米国市場から追い出すに等しい。

 13.予測不可能なことをするトランプは、台湾問題に関する中国本土のレッドラインを無視し、北京の忍耐力と決意を試し、両国が誤って軍事衝突を引き起こす可能性も逆にないわけではない。

 14.昨年11月にサンフランシスコで行われた中米首脳会談以降、米中両国はハイレベルな意思疎通を再開し、あらゆる面で対話を強化し、昨年8月のペロシー米下院議長の台湾訪問後の谷から抜け出すための努力を強めている。バイデンの再選後の米中関係は依然として波乱含みではあるものの、その傾向はより予測可能であるという点においてメリットがある。

それに反してトランプは常識に従ってカードを使わず、予測不可能な道筋は北京に誤算をさせる可能性も否定できない。(以上、聯合早報の概要。)

 

◆知識層向けウェブサイトの見方

中国大陸内のウェブサイトで、比較的に知識層が集まる「観察者網」では2月5日、<トランプは「もし当選すれば対中貿易戦は行わず関税増強は継続する」と言っている>と題する論考を公開した。以下、要点だけをピックアップする。

 ●ブルームバーグと香港の「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」によると、現地時間2月4日、トランプはFOXニュースのインタビューを受け、「選挙に勝てばすべての中国製品に少なくとも60%の関税を課す」と脅した。「しかし、これは貿易戦争ではなく、中国とは平和に暮らしたい」とも述べた。トランプは続けて「私は中国を傷つけたくない。 私は中国と平和に暮らしたい。 米中友好は素晴らしいと思う」と付け加えたが、金融関係者はトランプ再選後に起こりうる市場の混乱に備えている。

 ●注目すべきは、バイデンは大統領就任後、前政権(トランプ政権)時代の政策を否定するために「対中関税の引き下げを検討している」とくり返し主張しているものの実現しておらず、米経済界に不満を抱かせている。

 ●2022年7月、米国国際貿易委員会は公聴会を開催し、輸入に依存する製品の米国の輸入業者と製造業者は、関税が既存の貿易の流れを混乱させると主張し、中国への関税の継続に強く反対した。アメリカの原告6000人以上が、対中関税で支払った数十億ドルの賠償金を米政府に要求し、同政策は適切な手続きを経ずに策定されたものであり、侵害にあたると主張している。

 ●昨年3月、米国国際貿易委員会は報告書を発表し、調査の結果、トランプ政権が3000億ドル以上の中国製品に関税を課し、「中国に支払わせる」と脅したが、実際にはその代償を支払ったのはアメリカの輸入業者と消費者であり、それに応じて米企業の輸入価格と米国内における価格が上昇したと指摘した。ブルームバーグによると、これは米国企業が米国の対中関税のほぼ全額を負担することを意味する。(以上、観察者網の概略。)

 

◆一般ネット民の見方

中国大陸のネット市民は米大統領選に強い関心を持っており、さまざまな意見が見受けられる。いくつかの例を挙げると以下のようなものがある。

 ●そこまで高い関税なら、デカップリングということだな。

 ●川建国も拝振華も、ともかく中国を封じ込めたいことに変わりはない。選挙に有利なように対中強硬競争をしている。理由は簡単。中国が強くなり、アメリカを凌駕するのを阻止しないと、選挙民の支持が得られないから。

 ●川建国も拝振華も中国を抑圧する方法が違うだけだ。トランプの有権者群はアメリカのブルーカラー労働者が大半を占める。このグループは一般的に教育レベルが高くない。だからトランプは誰にでもわかるような単純な言葉を使うし、誰の目にも見えるような短期間で結果を生む政策を好む。

バイデンは熟練された政治家なので「戦略的」で「長期計画」的だ。例えば日本、韓国、インド、フィリピンなどに甘い言葉をかけ対中包囲網を創り上げる。

 ●もし、川建国と拝振華のどちらかを選ばなければならないとしたら、私はむしろトランプを選ぶかな。というのも、拝振華が与える「長期的痛み」は狡猾で目に見えにくいが、川建国が与える「短期間的痛み」は正直で誰の目にも明らかだ。拝振華がエリート層を相手にし、川建国はブルーカラーを相手にしているというのも、何だか奇妙な好感が持てるのだ。

 ●っていうか、民主主義っていいの?前の政権が言ってた政策を全て覆さないと大統領選に勝てないというのをくり返して、国益になるのかね?アメリカ、大統領選のために内戦起きそうじゃない?(ネットの意見はここまで。)

 

最後の意見はおそらく「もっとも、中国のように言論弾圧が強いのもなんだが…」と書きたいところだろうが、書いたら削除されていただろうから、これは暗黙の認識、暗示として誰でも読むのではないかと、興味深く考察した。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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