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中国はトランプ再選を願っている
中国で流行っている「トランプが中国を建国してくれた」画像
中国で流行っている「トランプが中国を建国してくれた」画像

アメリカの対中感情の悪化は不変なので、バイデンが当選すれば国際社会の信用を得て対中包囲網は強化されるが、トランプ再選ならアメリカ国内の分裂が進み国際社会におけるアメリカの信用失墜が加速するので中国に有利だと中国は思っている。

◆トランプ再選が中国に有利という中国人の心情

他国の大統領選挙に関して中国政府や中国共産党組織がものを言える立場にはないが、少なくとも中国大陸のネット空間における「世論」から見ると、「トランプ再選の方が中国には有利に働く」という意見が圧倒的に多い。つまり圧倒的多数が「トランプ再選」を願っているということだ。

その主たる観点を以下に列挙する。

1.トランプは中国人の、アメリカに対する幻想を潰してくれた。

改革開放以来、中国人のアメリカに対する憧れは尋常ではなかった。私は1990年代に「欧米に留学して中国に帰国した中国人元留学生」と「日本に留学して中国に帰国した中国人元留学生」の「留学効果に関する日・欧米比較」という調査を行ったことがある(日本の科研費の研究代表として)。

そのときにアメリカで取得した博士学位が最も高く評価されたが、それは中国社会がアメリカという国家を高く評価していたからである。

しかしトランプ大統領の出現によって、中国人民、特に若者のアメリカに対する憧れと幻想を潰してしまった。

2.トランプの出現は「民主主義への幻滅」を中国人に巻き起こした

一党支配体制の中で経済的繁栄を続けてきた中国だが、それでもなお一部の者は「民主主義」というものへの憧れを心ひそかに抱いていた。しかしトランプの出現によって、「民主は少しも良いものではない」という幻滅を、ほとんど全ての大陸にいる中国人に抱かせた。それは人種差別や暴力、国際社会からの離脱などによる身勝手さから「民主主義大国」の実態を知るに及んだからだが、さらに大統領選挙戦における相手候補への節操がないほどの罵倒、罵詈雑言によって「民主主義は少しも良くない」という印象を中国人民全体に巻き起こしている。

3.トランプは先進国のアメリカに対する信用を失墜させた

アメリカのギャラップが今年の7月27日にU.S. Leadership Remains Unpopular Worldwide(アメリカのリーダーシップは世界的に不人気のまま)という調査結果を発表している。全世界の、アメリカのリーダーシップに関する調査と世界をいくつかのブロックに分けた調査を行っているが、何よりも大きな影響力を持つのはヨーロッパ諸国のアメリカのリーダーシップに対する信頼度であろう。

そのヨーロッパを特に取り上げて示すと下図のようになる。

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原典:ギャラップ

アメリカのリーダーシップに対するヨーロッパ諸国の信頼度推移

薄い緑色が「支持・是認する(approve)」を表し、濃い緑が「支持・是認しない(disapprove)」を表している。

圧倒的に濃い緑が多く、しかも「支持・是認しない」が増加の一途をたどっている。ちょうどトランプが大統領に当選した2016年を境にピッタリと逆転しているところを見ると、アメリカのリーダーシップ失墜はアメリカの大統領がオバマからトランプに移った時期と一致することが分かる。

これは即ち、「トランプ大統領に対するヨーロッパ諸国のジャッジメント」に相当し、ヨーロッパ諸国が日に日にトランプ大統領を信用しなくなり、それがアメリカという国家に対する信用度を無くさせ、結果的にアメリカの国力・威信を失墜させているという現実を表しているのである。

米中覇権争いが進行している中、アメリカの威信がここまで顕著に落ちてくれれば、中国としては歓迎しないはずがない。

4.アメリカの国際社会からの離脱は中国に有利

習近平政権はそうでなくとも「人類運命共同体」を外交的スローガンとして打ち出し、何とかして一国でも多く中国側に引き付けて国際社会における影響力を高めようとしている。そのような中、TPP脱退、パリ協定脱退、イラン核合意脱退、WHO脱退・・・と、アメリカが自ら国際社会の組織から次から次へと脱退していってくれるので、中国にとってはこんなにありがたい大統領はない。トランプは「大統領に再選されるため」という個人的な目先の利益のためにアメリカの国益を自らの手で潰していってくれるので、中国はトランプが再選されることを願っているのである。

5.バイデンは強敵――大統領になってほしくない

一方、バイデンが当選すれば、彼は常識的なのでアメリカは信用を回復するかもしれないし、TPPやパリ協定あるいはWHOなどに戻ってくるかもしれない。それでいてアメリカ国民の対中感情が悪いので、対中強硬策は継続するだろう。これは中国にとって脅威で、最も望ましくない状態である。したがってバイデンが当選することを中国は望んでいない。

トランプの対中制裁やペンス副大統領あるいはポンペオ国務長官の対中非難声明は、中国人民の愛国心と団結を強化し、中国共産党による一党支配体制を正当化することに寄与しているので、中国にとっては、それほど悪いことではない。

◆このまま行けばアメリカ国内の南北戦争再現か

中国のネット空間における、割合に知的なサイトであるzhihu知乎が「2020年アメリカ大統領選においてトランプが再選されると思いますか?それともバイデンが勝つと思いますか?」という見出しで、興味深い分析をしている。

これはアメリカの人種差別に関する分裂があまりに酷いので、奴隷制度の是非を巡って1860年代に起きたアメリカの内戦であった南北戦争に似た内戦が起きる可能性さえあるという分析をしたものである。

したがってトランプ政権がこのまま続けばアメリカの国力は完全に衰退し、世界に対する牽引力も無くなるので、中国には有利に働くだろうという分析である。

こういう分析が出て来るほど、中国はトランプ政権がアメリカに与えるダメージを重要視している。

 

また中国では「トランプはアメリカにはあまり納税していないのに対して、2013年から2015年にかけて中国には188,561ドルの所得税を納税している」と報じた10月20日付けのニューヨーク・タイムズの報道を面白おかしく転載している。

日本では、トランプがあまりに激しい対中制裁を打ち出すので、てっきり中国ではトランプ再選を嫌がっているだろうと勘違いする人が多いかもしれないので、中国の真相の一端をご紹介した。

実は昨日、自民党本部の外交部会で習近平の軍民融合戦略や千人計画の実態などに関してお話ししたが、質問の中に「中国はポンペオ発言に対してどう思っているか」というのがあり、回答時間は10秒ほどしかなかったので、その補足も兼ねて中国の現状をご紹介した。

国会議員との議論は実に痛快で楽しく、私には一番波長が合っている。非常に有意義な議論ができたことを嬉しく思う。

追記:「中国がトランプの再選を願っている」ことを信じられない人のために、以前のコラムでもご紹介したことがあるが、中国には「川建国」という言葉があるのをご紹介しよう。「川」とはトランプ(Trump)の中国音標記名(川普Chuan Pu)の頭文字を取ったものでトランプのことを指す。「川建国」とは「トランプが中国を建国してくれた」という意味である。たとえば絵でご覧いただくと、トランプが中国人民と共に建国している様子が見て取れるだろう。

またこちらをご覧になると英文で書いたものが中ほどにあるので、それをクリックなさると拡大されるから英文を読んで頂きたい。トランプは「建国をした、しかしそれはアメリカという国ではない」という趣旨のことが書いてある。アメリカでも報道されているが、日本は報道が偏っているので、この現実を信じられないかもしれない日本人のために、現実をお知らせした。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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