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対中包囲網クアッド構成国(日米豪印)巡りを終えた高市総理 G2を重んじるトランプはクアッドに無関心
高市総理がインド訪問(写真:ロイター/アフロ)

7月3日にインドから帰国した高市総理は、これでクアッド(日米豪印戦略対話)構成国を全て訪問したことになる。クアッドは「自由で開かれたインド太平洋」概念同様、対中包囲戦略ではないとして、たとえば「自由で開かれたインド太平洋戦略」から「戦略」を削除した経緯があるが、しかし実際上は両方とも「対中包囲戦略」だ

昨年11月の「高市発言」によって中国から激しい制裁を受けている高市早苗は、中国に対抗すべく、「自由で開かれたインド太平洋とクアッド」を特別に重視し、力を注いできた。

しかし肝心のトランプ大統領は、6月24月の論考<習近平を「賢く強く偉大な指導者」と絶賛しインド太平洋軍からインドを削除したトランプのG2構想の本気度>で書いたように、米軍の「インド太平洋軍」から「インド」を削除して「太平洋軍」に戻しただけでなく、クアッドに関しても無関心だ。今年5月にクアッド外相会議は開催したものの、トランプ2.0になってからクアッド首脳会談さえ開こうとしていない。トランプの心には「米中G2構想」しかないからだと解釈していいだろう。

これ等に関しては、インドメディアの論考が鋭い。

本稿ではイラン戦争後、米中など周辺国と「二つの顔を持つインド」との関係を巡る相関図を作成して、G2構想が与えるファクターとともに考察したい。(敬称は初出以外省略)

 

◆インドのメディアが鋭くえぐる「トランプの、クアッドへの無関心と米中G2構想への強い関心度」

高市訪印を控え、インドの大手メディア(1924年設立)である英字新聞「ヒンドゥスタン・タイムズ」(Hindustan Times)は6月30日、<クアッドはトランプの当面の優先課題ではない>と題して、手堅い論を張っている。非常に長い論考なので、いくつかの要点を拾い上げて以下に列挙する。( )内は筆者加筆。

  • クアッドは表面的には反中国ではないものの、中国の軍事的優位性と海洋進出の強硬姿勢が、南シナ海を含むインド太平洋地域における航行の自由を脅かしていることを特に懸念している(→実際上は対中対抗戦略)。
  • しかし、2025年にホワイトハウスに復帰して以来、トランプはクアッド首脳会議への出席を拒否しており、これはクアッドの現状の進展に対する不満を示唆している。5月最終週に開催されたクアッド外相会議は一定の勢いをもたらしたが、米国がインド太平洋軍から「インド」を削除したことで、クアッドにはさらなる不確実性が漂っている。トランプ大統領にとって、クアッドは当面の優先事項ではなく、中国との協議(→G2構想)が優先されているようだ。
  • シンドゥール作戦(筆者注:2025年5月にインド軍がパキスタンに対して実施した越境空爆および軍事作戦)後のワシントンと(パキスタンの)イスラマバードとの親密な関係、トランプによる広範な関税措置、そしてインドとの外交問題は、(米印)二国間関係およびクアッド内部の緊張をさらに高めた。クアッドが長年にわたり共同で努力してきたにもかかわらず、トランプは中国との直接的な関係改善を模索し、クアッドへの信頼の低下と優先順位の変化を示したトランプはわずか8ヶ月の間に習近平国家主席と2度会談し、世界的な議論を巻き起こし、G2グループに関する議論を過熱させた
  • トランプ・習近平会談ではいずれも、パキスタンの役割が共通の分析ポイントとなっている。10月30日の釜山での米中会談に先立ち、トランプがパキスタン陸軍参謀総長のアシム・ムニール元帥を昼食に招待したことや、米国がここ数十年でかつてないほどパキスタンに傾倒したことは、1972年のリチャード・ニクソン大統領の中国訪問を彷彿とさせ、イスラマバードのホットラインに関する憶測を呼んだ。(筆者注:この経緯に関する詳細は拙著『G2構想 勝つのは米国か中国か』の第一章で刻銘に描いた。)
  • 同様に、5月14日の北京での2回目の会談に先立ち、停戦の仲介やワシントンとテヘラン間の直接交渉の開催におけるパキスタンの役割は、米国と中国双方から広く認められた。トランプ政権2期目において、パキスタンはワシントンの機嫌を損ねないよう最善を尽くしてきた。米中首脳会談はインドを苛立たせただけでなく、日本、欧州、その他の米国の同盟国にも懸念を抱かせた。
  • 過去20年間、特にアフガニスタン、ウクライナ、西アジアにおける米国の関与は、一貫して米国の経済と軍事備蓄に負担をかけ、インド太平洋地域における任務遂行能力を制限してきた。クアッド加盟国である日本も、その影響を免れていない。4月21日、高市早苗首相率いる日本内閣は、数十年にわたる輸出規制を改正し、クアッドの残りの3カ国を含む17カ国への殺傷兵器の移転を認めたこれにより、日本は1967年と1976年の改革で確立された平和主義政策から逸脱した。この規制緩和は日本の防衛産業と軍事準備態勢の強化に役立つだろうが、東京がこの決定を下すよう一貫して米国から圧力を受けていたことを忘れてはならない(筆者注:昨年12月5日に発布されたトランプ政権のNSS「国家安全保障戦略」により「東半球の国々は自国を守りたければ自分で守れ」という方針に従ったもの。NSSは「米国は西半球しか守らない。東半球は習近平に任せる」というニュアンスを含むG2構想に軸を置いている。詳細は拙著『G2構想 勝つのは米国か中国か』の第六章にある【トランプG2構想「西半球はトランプ、東半球は習近平」】で描いた)。
  • 6月16日、米国陸軍省は説明もなく、インド太平洋軍(USINDOPACOM)を2018年以前の名称である太平洋軍(USPACOM)に戻した(筆者注:これに関しては6月24月の論考<習近平を「賢く強く偉大な指導者」と絶賛しインド太平洋軍からインドを削除したトランプのG2構想の本気度>を参照されたい)。国防総省は、この名称変更はクアッド・グループとその海洋協力およびイニシアチブに影響を与えないと述べている。しかし、2018年の名称変更は、インドが米国にとって重要であり、インド太平洋地域における米国の利益を認めることに基づいていたため、軍の名称から突然「インド」が削除されたことは、否定的な注目を集めている。8年前の決定が覆されたことについて、インド国民会議派のシャシ・タルール党首は、「クアッドの棺桶にまた一つ釘が打たれた」と述べた。象徴的な出来事として、これは安全保障と経済の安定を米国に依存しているインド洋地域全体、そしてインドにとって懸念すべき事態である。
  • クアッドは消滅していないものの、中国に対する姿勢は以前のクアッドとは変化している。自由で開かれたインド太平洋という概念も依然として存在はするが、そのアプローチは不明確で混乱している。トランプは、中国が代替案を見つけるまで、二国間協議を優先し、中国に挑戦するのではなく対話に応じる姿勢を示している。(以上、「ヒンドゥスタン・タイムズ」の概要)

引用が長くなって申し訳ないが、非常に客観的で全てを物語っているので、思わず列挙が多くなってしまった。インドがここまで冷静で多角的な視点を展開していることに敬意を表する。日本としては留意しなければならないだろう。

 

◆二つの顔を持つインド:「中露に組み込まれているインド」と「クアッドにいながら米国とギクシャクするインド」  

言葉で表現するとあまりに長くなるので、「二つの顔を持つインド」の周辺国との相関図(特にイラン戦争後の関係)を図表1のように作成してみた。

図表1:二つの顔を持つインド

公開されている情報に基づき筆者作成

図表1を少しだけ説明すると、インドはもともと旧ソ連と非常に仲が良く、旧ソ連が崩壊してロシアになったあともロシアとの友好関係を重んじて、軍事的に結びついていた。ソ連崩壊前、インドの武器は基本的に旧ソ連から輸入していたので、銃弾や補修などソ連製のものでないと使えない状況にあった。しかし何としてもソ連崩壊後のロシアからインドを切り離そうとアメリカが必死になって動いた。その結果、インドの主要兵器に占めるロシアの比率は2011~15年では70%になり、2021~25年になると40%にまで低下したので、インドが「二つの顔」を持つに至る原因の一つを招いた。

そうは言っても、ロシアのプーチン大統領とインドのモディ首相との結びつきは尋常ではなく、プーチン・モディは今でも蜜月関係にある。

一方、中国に習近平国家主席が現れると、プーチンとの蜜月関係を築き、中露を中心として巨大化していく「上海協力機構」や「BRICS」の中で、モディは中露に与(くみ)する形となった。

これはまずいとして、米国がインドへの武器の売り込みにさらに力を入れ、なんとかインドを西側陣営に組み込もうとしたが、なにせモディは全方位外交を展開。明確に西側に付くことを嫌った。

それでも「自由で開かれたインド太平洋」概念により祭り上げられ、クアッドに加盟はしたものの、一応、身をそこに置いているだけで、二つの顔を持ちながら、対中包囲網的要素を含むクアッドにのめり込む気持ちはない。

特にトランプが習近平と「蜜月関係」になりG2構想を提唱し始めてからは、クアッドそのものの存在意義が薄れている。オーストラリアのアルバニージー首相は中国との良好な関係を重視していることで知られており、アルバジーニーが首相である限りクアッドは形骸化した状況に置かれるだろう。

特にイラン戦争後は、中国の兄弟国であるパキスタンがトランプと仲良くなってしまった。印パ戦争で知られる、パキスタンと仲が悪いインドとしては面白いはずがない。しかもパキスタンのムニール陸軍参謀長に「トランプはノーベル平和賞を受賞すべきだ」と言うように入れ知恵したのは習近平だ。イラン戦争停戦のお膳立てをしたのも習近平である(詳細は拙著『G2構想 勝つのは米国か中国か』の第一章参照)。その意味でインドの敵であるパキスタンを「パキスタン‐米国‐中国」という形で、習近平が米国に近づけたことは決定的だ。

モディとしてはクアッドの中でトランプに接近する気はないし、トランプ自身がクアッドに無関心なので、高市早苗がどんなに「兄妹」などとしてモディに近づいても、あまり意義はない。クアッドの中では、一人、中国と激しく対立していて孤立している日本の姿が、図表1から浮かび上がってくるだけである。

 

◆バイデン政権時代の対中包囲網にしがみつく、時代遅れの高市外交感覚

そもそも、10月30日に韓国で行なわれた米中首脳会談をトランプは会談前に「G2会談」と称したのだから、その時点で高市早苗はトランプと習近平の関係に気付くべきだった。加えて会談後には「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言している(詳細は2025年11月5日の論考<トランプが「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言!>)。このことはホワイトハウスも報道しているというのに、それを直視せずに、一週間後の11月7日には、いわゆる「高市発言」を国会答弁で発している。

そうでなくとも高市早苗は2024年12月10日に訪日中の台湾の民進党秘書長と会談し、「もう台湾が大好きで大好きで…」と発言し、「(台湾独立を主張する)民進党で政権を維持してほしい」と言っている。それは日本国民に「反中派」として歓迎され人気を高めて自民党総裁を狙っていたからだ。時代はトランプ2.0になっているというのに、日本国内での支持率を落とさないようにするために反中的なバイデン外交の域を未だに出ていない。

日本国民がイラン戦争や日本の消費税などで生活に苦しんでいるのに、インドに2兆円もの投資をするサービスぶりだ。そんなにしてまでインドに貢いでも、その効果はあるのだろうか?

世界が見渡せるような視点で外交を進めていかないと、損をするのは日本国民ではないかと懸念する次第だ。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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