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イラン停戦合意に漕ぎつけたトランプ、またもや習近平に感謝 トランプの頭にはG2構想しかなくG7では孤立か?
G7エビアン・サミット 米大統領が会見(写真:AP/アフロ)

6月17日、イランとアメリカは、ようやく停戦合意の文書に署名した。それも核問題に関しては次の60日間以内に話し合うという課題延長型の合意でしかなく、賠償金のような復興資金まで支払う。オバマ政権時代に締結されたイラン核合意よりも後退しており、トランプ1.0でトランプ(元大統領)がイラン核合意から脱退しなければ、それで済んだ話ではないのか。脱退しておいて、2025年6月には突然イランを攻撃し、核開発施設を「完全に破壊した」とトランプ大統領は豪語した。完全に破壊したのなら、なぜ今年2月28日になって、オマーンが仲介して平和交渉を行なっている最中に再度イランを奇襲攻撃する必要があったのか?

ようやくたどり着いたこのたびの合意は、イラン攻撃以前の状態よりもアメリカの立場が弱くなりイランの立場が強くなっている。関税では失敗し、イラン戦争では国内外から信頼を失い、トランプは今や満身創痍と言っても過言ではない。

イランの友好国である中国の習近平国家主席は、兄弟国パキスタンに仲介させて停戦合意のきっかけを、今年4月に、そのトランプのために作ってあげた。今回もまたトランプは、その習近平に「感謝の思い」を表明している。

G7サミットに参加はしたものの、イラン戦争参加を拒否した「同盟国」にトランプは恨みを抱いているし、どんなに議長国のマクロン大統領がサービスしてもトランプの疎外感は拭えない。トランプの頭の中には「非同盟国」であり、G7で敵対国と位置付けられている中国とのG2構想しかないのかもしれない。

これは明らかに新時代への転換を示唆している。

 

◆トランプ再度「習近平に感謝」

今年4月9日の論考<トランプ「中国がイランを停戦交渉の場に引き込んだ」 習近平の思惑は?>で書いたように、トランプは「中国がイランを停戦交渉の場に引き込んだ」と、習近平に感謝の意を表していた。

このたびイランと停戦合意の文書に署名するに当たっても、「トランプ大統領は、イランとの最初の停戦合意の成立に尽力してくれた人々への感謝を述べた際、自身が友人と呼ぶ二人の世界の指導者、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領を称賛した」と、6月15日のニューヨーク・タイムズが報道している(有料)。報道では、たとえば以下のようにトランプの言葉を伝えている(概要を示す)。

  • 「彼はまさに紳士だった」と、トランプはニューヨーク・タイムズのインタビューで習近平について語った。「彼はタンカーと、その両側に20隻の駆逐艦を派遣して封鎖を突破しようとはしなかった」。
  • トランプが「習近平とプーチンが米イラン間の最初の合意形成を支援した」と述べた真意についてコメントを求めたが、ホワイトハウスは回答しなかった。
  • ここ数カ月、トランプは中国をパートナーとして受け入れる姿勢を見せている。昨年、中国政府の(トランプ関税に対する)対抗措置を受けて中国との貿易戦争から撤退せざるを得なくなり、その後、習近平を手強い交渉人として称賛した。
  • トランプは先月、世界で最も権力のある独裁者である習近平が主催する首脳会談と晩餐会に出席するため北京を訪れた。両氏は貿易、台湾、イランとの戦争について話し合った。トランプは習近平を絶賛し、両超大国が「G2」パートナーシップを形成すると述べた。「両国は偉大な国だ」とトランプ氏はフォックスニュースに語った。
  • 中国はイランにとって最も強力なパートナーであり、イランからの最大の石油購入国である。中国はイラン戦争中、自国の利益を最優先に考え、慎重な行動をとってきた。仲介による協議が停滞しているように見えた時でさえ、中国はイランに対し、米国との交渉を継続するよう促してきた
  • 一部の中国企業が、携帯式地対空ミサイルを含む武器をイランに送ろうとしていたと米国務省は述べ、国務省と財務省はそういった疑いのある中国関連企業に対する制裁を発表したが、トランプは、中国企業によるこれらの行為を認めていない。(以上、ニューヨーク・タイムズより)

これではまるでトランプは自国の国務省や財務省よりも習近平の言葉を信じているようではないか(習近平はトランプからの電話で否定している)。彼の頭の中には、もはや習近平との信頼関係に基づく「米中G2構想」しかないように見える。

 

◆G2構想を描いているトランプはG7にはなじまない?

それでもトランプは、6月15日から17日にかけてフランスのエビアンで開催されたG7首脳会議には出席した。一つにはイラン戦争の停戦合意署名にたどり着いたことをG7諸国に見せて、非協力的だった「同盟国」に成果を見せつけたいという気持ちがあったのかもしれないし、もう一つには、欧州におけるアメリカに対する信頼が崩壊しかけているというデータが出ているからだろうか。

今年6月10日、ECFR(European Council on Foreign Relations=欧州外交評議会)は、欧州における対米信頼度に関する大規模な世論調査結果を発表した。この世論調査は、ECFRが委託し、2026年5月に「オーストリア、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス」の15ヵ国で実施されたものだ。世論調査の結果、以下のようなことが判明した。

 

  • 回答者の内、アメリカを同盟国と考える人の割合は11%で、半年前の16%、2024年11月の22%から減少している(筆者注:「半年前」は「イラン攻撃をする前」を指し、「2024年11月」は「トランプが大統領に当選する前」を指している)。
  • 回答者の25%がアメリカを「ライバルまたは敵対国」とみなしている。
  • トランプ政権下のアメリカは、最も忠実な欧州の同志(ポーランドとハンガリー)を除いて、今やすべての欧州諸国からの信頼を失いつつある。(ECFRの調査結果は以上)

このような状況にあるので、トランプとしては中間選挙のために、自国民に少しでも自分の人気を取り戻そうと、しぶしぶながらG7サミットに参加したものと思われる。

しかし、G7においてはECFRの世論調査の結果通り、トランプは孤立していたようだ。その証拠の一つにAP通信のユーチューブの中にある以下の写真(図表1)をご紹介したい。時間的には32:16あたりからなのだが、長いので、直接そこに飛ぶリンク先を作成してみた。

図表1:一人ポツンと立つトランプ大統領

AP通信のユーチューブの一画面キャプチャー

一応、その前には各国代表と軽く挨拶しているが、そのあと互いに輪になってお喋りをしている中、トランプだけは一人ポツンと立っている瞬間があった。AP通信では時間を短縮して報道しているから、この詳細な前後は分からないかもしれないが、たとえば欧州委員会委員長のフォンデアライエンなどは、トランプ以外の首脳とは頬と頬を触れて挨拶しているのに、トランプに対してだけは握手しかしていない。そのような雰囲気を代表するかのように、世界を図表1にある一枚が駆け巡っている。

この写真と同様に世界が騒いでいるのが、各国の要人が談笑している中、高市総理一人だけが円形テーブルに置いてある椅子に座り、時間を持て余しているように椅子を回転させている姿だ。それを図表2に示す。

図表2:高市総理が一人だけ椅子に座って椅子を回転させている場面

G7中継の一場面の画面キャプチャー

 

この画面もやはり世界を駆け巡っている。パキスタンのDawnNewsの中継を見ると、たしかに椅子をゆらゆらと回転させているのが見て取れる。

これに関してネットでは高市早苗が孤立しているように位置付けて揶揄(やゆ)する情報が日本でも一部見られるが、筆者はまったく異なる解釈をしている。

その一瞬前のAP通信の映像では、トランプが一人ボッチで立っていて、それを見かねたドイツのメルツ首脳が近づいて話しかけている。高市早苗は、トランプが一人立っていたのを見ているので、その状況下で要人たちの「群れ」の中に入ると、高市も含めてトランプを孤立させていることになるので、あえて「群れ」の中に入らず、「私はあなたを仲間はずれさせる側には立ちません」という「メッセージ」をトランプに伝えたかったものと筆者は解釈するのである。この心遣いは優れていると、素直に認める。

ただトランプは居丈高で、たとえばマクロン大統領との二国間会談では、冒頭の顔出しで記者から握手してくれと頼まれると、トランプは不機嫌そうに「差し出したくない手を差し出すかのように」してマクロンと握手した。スペインのメディアDiario ASの動画から、トランプとマクロンが握手する画面キャプチャーを作成して図表3に示す。

図表3:いやいやながらマクロン大統領と握手するトランプ大統領

Diario ASの動画の画面キャプチャー

会談ではマクロンがイランとの停戦合意を称賛し、「できることがあったら支援したい」と述べたのに対してトランプは「支援はありがたいが、必要ない! ホルムズ海峡開放は合意済みだ!」と冷たくあしらった。イラン攻撃を始めたときに同盟国に助けを求めたのに、「その時は拒否したじゃないか!」という恨みがトランプにはあるからだろう。

その恨みは日本に対しても向けられており、「あのとき日本も断ったじゃないか!」という趣旨のことをG7サミット閉幕後の6月17日の記者会見で言っている。

協力しなかった同盟国すべてに不満なので、G7サミットになじむはずがないのである。

トランプは同盟国にではなく、むしろG7では敵対国と位置付けられているはずの中国の習近平にだけは感謝しているという、奇妙な構図が出来上がっている。それを示したのが、今回のG7サミットとイラン戦争停戦合意であったと言えるのではないだろうか。

トランプが喜んだのはG7閉幕後のベルサイユ宮殿にマクロン夫妻がトランプだけを招待した特別の夕食会だけかもしれない。トランプをG7サミットに最後までつなぎとめておこうというマクロンの必死の努力が涙ぐましい。

なお、G2構想とイラン戦争におけるトランプと習近平の関係に関しては『G2構想 勝つのは米国か中国か』で詳述した。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
G2構想 勝つのは米国か中国か
『G2構想 勝つのは米国か中国か』

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台湾機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相
『台湾機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』

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『Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army』

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『米中新産業WAR トランプは習近平に勝てるのか?』

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