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プーチンが日本のために建設した石油パイプライン港を見捨ててしまった日本 今は中国が独り占め
安倍元総理とプーチン大統領(2019年)(写真:ロイター/アフロ)

4月2日、共同通信が<【独自】政府、戦時下のロシア訪問団計画 大手商社に要請、5月念頭>とスクープしたが、しかし木原官房長官は翌日、<ロシアへ経済訪問団派遣を計画との報道、「事実ではない」>と直ちに否定した。

いずれにせよ、米イスラエルのイラン攻撃がもたらした世界石油危機の波は日本にも大きく押し寄せており、当然のことながら眼前の石油の宝庫であるウラジオストク近郊のコズミノ港を見捨てた日本の選択の是非が問われる。

本稿では日本向けパイプラインの建設過程と中国との競争がもたらした現在の日本の実態を、中国との比較という視点から考察し、高市内閣の取るべき姿勢を問う。

◆日本向け石油パイプライン港はいかにして建設されたのか?

コズミノ港は正確に言えばナホトカにあり、日本が敗戦した後に中国大陸にいた日本軍捕虜が大量に収容されたラーゲリの黒歴史を思い起こさせる。そのとき長春にいた4歳の筆者には「ナホトカ」という音が、略奪に来たソ連兵の姿と重なり、恐怖と共に甦る。そこで、ナホトカの近くにはウラジオストクという誰でもが知っている大きな港町があるので、本稿では主として「ウラジオストク近郊のコズミノ港」という表現を用いることにする。  

まず、コズミノ港がどこにあり、日本や中国などに向けられたパイプライン「東シベリア・太平洋石油パイプライン」=ESPO(Eastern Siberia–Pacific Ocean)oil pipeline(以下ESPOパイプライン)がどこにあるのかを図表1で確認したい。

図表1:ESPO(東シベリア・太平洋石油)パイプラインとコズミノ港

公開されている情報に基づき筆者作成

これは3月25日の論考<ホルムズ危機を予測してか、ロシア石油輸入を40.9%も増やしていた習近平>にある図表3の関連部分を拡大したものである。

では、このコズミノ港はいかにして建設されたのだろうか?

ぞれを時系列的にリスト化し、主たる動向を図表2に示した。但し非常に長いので、図表2をPartⅠからPartⅢに分けて説明をしていきたい。

まず図表2-PartⅠをご覧いただきたい。

ロシアの原油をパイプラインで輸出する事業は、旧ソ連が崩壊して誕生したロシアのエリツィン大統領が1996年4月に訪中したことから始まる。

図表2-PartⅠ:ESPOパイプラインとコズミノ港建設に関する時系列

公開されている情報を基に筆者作成

詳細に説明し始めると文字数が膨大になるので、図表2-PartⅠの主要点を概説する。

エリツインの訪中後、中露双方の首脳間協議が行われるが、1998年、ロシアの民間石油会社「ユコス(ユーコスとも)」が中国側担当になった。2003年の中国欄やロシア欄にあるように、このユコスの会長が詐欺罪で逮捕されたことで中露交渉は停滞した。

一方、ロシアは1998年に「G8に加盟」している。その中には隣国の日本がいる。2000年からプーチン時代が始まると、プーチンの指導下で、2002年2月にロシアの国営石油パイライン企業「トランスネフチ社」が日本海沿岸向けのパイプライン建設案を出したのである。

物語はここから始まる。

同年5月、当時の平沼経産大臣が出張先のデトロイトでロシアの工業・エネルギー大臣と会談。それは2003年1月の当時の小泉首相訪露につながり、話が一気に進み始めた。

筆者は当時、小泉政権で内閣府関係の仕事を任命されていた上に、平沼大臣は1980年代に拙著『卡子(チャーズ) 出口なき大地』を読んでくださって筆者に連絡してきてくださったので、以来、深い親しみを持っている。その意味でも、これは見捨てておけないプロジェクトだ。

同年10月、日本側が70億ドル(約7,700億円)の過去最大の対露資金協力を申し出た。内訳は「パイプラインに50億ドル、油田開発に20億ドル」だが、後にロシア側が「パイプラインの資金協力」に関しては拒否している。

そのことを含めて図表2-PartⅡを見てみよう。

図表2-PartⅡ:ESPOパイプラインとコズミノ港建設に関する時系列

公開されている情報を基に筆者作成

2005年4月の欄に書いてあるように、石油パイプラインの建設を担当する国営企業 「トランスネフチ」 のヴァインシュトック社長が「日本からの融資は当てにしていない」と、日本のパイプラインの資金協力を拒否した。日本側は、 「パイプライン本体を太平洋岸まで引っ張ってくることが前提である」 ことや 「途中で横の方(中国方面)に行ってしまうというリスクがある」ことを懸念して出資を申し出たのだが、ロシアには日中両国に使わせるのでないとリスク回避ができないという考え方があったものと推測される。

パイプラインは動かすことのできない不動産と同じ「固定インフラ」だ。購入先が「購入をやめた」と言い出したら「お手上げ状態」になるので、多国間協定の方が安全だという考え方なのだろう。

ところが不思議なことに、2006年3月、日本経産副大臣らが訪露、プーチン大統領と会談した際、パイプラインではなく東シベリア「油田開発」の方に日本が投資するようにプーチンは日本側に要請しているのである。その場で、日本側も協力の意向を伝えた。

それを受けて、2007年6月、日本が「極東・東シベリア・イニシアティブ」を提案。2008年10月には、日露政府間委員会第8回会合で、東シベリアにおける日露の探鉱協力拡大を奨励した。さらに2009年5月、JOGMEC(独立行政法人「エネルギー・金属鉱物資源機構」)がロシアのイルクーツク石油会社と共同で新規探鉱調査事業を開始した。そして同年12月には、遂に日本は「EPSO原油の輸入」を開始するに至る。これらは図表2-PartⅡの日本の列に書いた通りである。

つまり日本はかくして、コズミノ港の利用を始めるのだ

一方、中国やロシアの2008年の欄に目をやると、かなり悲惨なことが起きている。9月、ペトロチャイナとロシアとの間で価格交渉がまとまらず、11月、ロシア側は中国からの要求に「ばかげている」と不満を漏らしている。

そこで、図表2-PartⅢに移ろう。

図表2-PartⅢ:日本向けの石油パイプライン終着点コズミノ港を見捨てた日本

公開されている情報を基に筆者作成

日本に遅れて2011年1月になって、ようやくEPSO「中国支線」が正式稼働し始めた。それでもなお、4月になると中国側の「料金過少支払い問題」が生じてロシアとの間でトラブルが生じている。

事態が一変したのは2013年からだ。

習近平が国家主席に就任し、同時に大々的な反腐敗運動を展開して、胡錦涛時代のチャイナ・ナイン(中共中央政治局常務委員9人)の一人であった周永康を中心とした「石油閥」の巨大な腐敗を退治し始めたからである。これによって闇の金を稼ぎ国家崩壊を招来する腐敗閥の一つを除去することができた。

周永康は言うまでもなく江沢民が形成した腐敗ネットワークの中の一人だ。国家の金が個人のポケットに吸い込まれるように入っていくだけでなく、ほとんどが海外に逃げている腐敗ネットワークの親族などの手に流れていく。これを喰い止め始めてから、中露間の石油交易が劇的に成長し始めた。

加えて2014年にプーチンによる「クリミア半島併合」に対して西側諸国が激しく批判し、日本もその隊列の中に加わっていったので、日本は事実上、コズミノ港を見捨て始めたのである。

2016年になると、中国がコズミノ港からのESPO原油の最大輸入国となるに至った。

同年、日本の欄をご覧いただくと、2006年3月のプーチンの要請に応えて日本が「油田開発」に投資したイチョディンスコエ油田が稼働し始めたのだが、日本はすでに対露制裁に入っていたので、購入は著しく縮小している。

決定的なのは2022年2月に始まったウクライナ戦争だ。

その年9月にはG7財務相が合意し、対露原油制裁を決定。12月になると日本の対露原油制裁が発効した。

◆ロシア原油購入量推移の日中印比較

図表3にロシア原油輸入量推移の日中印比較を示した。

データは国連貿易統計データベースなどに基づく。

図表3:ロシア原油輸入量推移の日中印比較

国連貿易統計データベース、中国税関総署、日本財務省貿易統計、インド商工省統計データに基づいて図表は筆者作成

中国の輸入量が増加し始めたのが2013年から2014年にかけてであることが一目瞭然だ。

クリミア半島併合後の増加率とその直前の1年の増加率が変わらないことは、この増加が「習近平の反腐敗運動による石油閥の討伐」にあったことを物語っている。

その後、コロナで一時的な落ち込みはあったが、すぐに回復して順調に成長し続けている。2025年にまた一時的なお落ち込みがあるが、これはバイデン政権のときの2025年1月10日に再発動した対露制裁や、トランプが2025年10月29日にプーチンにお灸をすえるために一時的に発動した対露制裁などが影響している(但し、2026年3月12日から4月11日までは一時解除するとトランプは気まぐれなことを言っている)。

2026年に入ってからの異常な伸びの原因は、3月25日の論考<ホルムズ危機を予測してか、ロシア石油輸入を40.9%も増やしていた習近平>に書いた通りだ。

一方、日本は図表2-PartⅢで示した通り、ひたすら輸入量を減らしている。

ところで、なぜここで「インド」の推移をプロットしたかと言うと、ウクライナ戦争後、インドが凄まじい勢いでロシア原油を購入し始め、他国に転売しているためである。

2025年におけるロシア原油の輸出先を図表4に示す。

図表4:2025年 ロシアの原油輸出先

ロシアの公式発表、中国税関総署、インド商工省統計データ、Kpler推計などのデータに基づいてグラフは筆者作成

インドの場合はコズミノ港をターミナルとする東シベリア太平洋(ESPO)石油パイプラインを経由せず、バルト海や黒海などを経由するが、いずれにしてもロシア原油を激しく呑み込んでいるのは確かだ。

注目すべきはヨーロッパも11%は占めているということである。

これは即ち、国連制裁ではないので、なぜアメリカが世界を支配しなければならないのかという根本問題でもある。日本は律義にG7側の誓約を守っているが、トランプ2.0になってから、トランプ・プーチンの仲は親密で、特にイラン攻撃をしてからのトランプは、前述したように、むしろ「ロシアから石油を買え!」と奨励しているくらいなので、対露制裁は違ったニュアンスを持ち始めたということを物語っている。

◆プーチンは安倍元首相と仲が良く、実は中国より日本を信頼していた

このような中、高市総理は頑(かたく)なにバイデン政権の思考に留まり、ウクライナを支援すべきでプーチンには懲罰を与えるべきだという方針を頑として変えていない。

しかし高市総理が尊敬しているはずの安倍元総理は、外務省の情報によれば、プーチン大統領との間で通算27回も日露首脳会談を実施している。

安倍元総理は2019年の東方経済フォーラムでのスピーチの最後で、

「ウラジーミル。君と僕は、同じ未来を見ている。行きましょう、プーチン大統領。ロシアの、若人のために。そして、日本の、未来を担う人々のために」

と言ったくらいだ。

感動的ではないか。

どれだけ二人が緊密であったかを図表5に示した。

図表5:安倍元総理とプーチン大統領との会談リスト

外務省の数多くの情報を基に筆者作成

プーチンはロシアのエネルギー源の権益に関しては、滅多に他国に一部を与えたりはしないが、実は日本には図表2-PartⅡにあるように、油田開発に関して49%の投資を許しているのである。

プーチンは、習近平とはあれだけ蜜月状態のように振舞ってはいるが、中国側に一部の権益を渡すことはあまりなく、どこかで「中国」を警戒し、「日本」を信頼していた。

安倍元総理がご健在でおられたら、高市総理の狭量な外交感覚を、さぞ嘆かれることだろう。

トランプが必要でない戦争を始めた。イスラエルのネタニヤフ首相の言いなりになってイラン攻撃を始め、全人類に災いをもたらしている。高市総理には、そのトランプをいさめる勇気がないのなら、せめてトランプが推奨しているロシアからの原油を輸入する勇気を持ってはどうだろうか? 

安倍元総理の思いが、可哀想だとは思わないのか?

安倍元総理の思いを継いであげようとは思わないのか?

訪日後、訪韓したフランスのマクロン大統領は、韓国では激しくトランプのイラン攻撃を非難している。高市総理は「かめはめ波」外交などをしている場合ではないはずだ。

トランプのイラン攻撃によりホルムズ海峡が封鎖され日本国民は生活苦に喘(あえ)いでいる。

高市総理にとって大事なのは「日本国民の生活」なのか、それとも自分自身の「体面」なのか?

コズミノ港に戻るべきだ。

第二第三のコズミノ港をアジアのホルムズ海峡利用国と共に日本が率先して建設していけば、日本は東アジアで大きな力を持つことができるようになるだろう。

図表1の右上にある通り、ロシア極東サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」からの液化天然ガス(LNG)の輸入は、米国の制裁対象ながら、例外的に認められている。そこでは日本の三井物産や三菱商事などが命を懸けて頑張っているからだ。

高市内閣が閣議決定さえすれば、コズミノ港に戻れないことはない。

日本国民の生活を豊かにする国家運営に思考回路を切り替える英断を望む。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』(4月17日出版予定)、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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