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高市圧勝、中国の反応とトランプの絶賛に潜む危機
圧勝した高市早苗氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

高石早苗率いる自民党の圧勝が伝えられるにつれて、中国のSNSであるウェイボーでは日本が右傾化することに対する批判が溢れ始め、9日になるとトレンド入りした。

中国外交部は「高市発言」の撤回を再度要求したので、撤回はあり得ないことから、日本叩きは続くことが明確になった。

その一方、習近平と密月のはずのトランプが高市圧勝に賛辞を送るという現象が起きている。トランプは勝者が大好きだ。

米中蜜月、新たな日米蜜月の中で、日中関係はどうなるのか。(敬称略)

 

◆中国のネット界で「日本は徹底的に右傾化」がトレンド入り

2月8日の夜から中国のネットに溢れ始めた高市圧勝に関するコメントのいくつかをご紹介する。膨大な数の中から選び出すのは代表性に欠けるとは思うが、しかしほとんどが類似している上に、何を言っているのかを知るのは、中国の思考や感覚の現状を把握するのに、いくらかは役に立つのではないかと思われるので、代表的なものを列挙する。

コメントの頭には必ず「日本は徹底的に右傾化」が付いているが省略する。

  • リベラルは壊滅した。高市が日本を貧困に追いやるのも時間の問題だ。
  • 日本は二度と平和に戻らないだろう。
  • 日本は立法独裁と財政支配という自殺行為に完全に乗り出した。
  • いま日本の高齢者の多くは左翼で、右翼は若者が中心。時代は逆転した。
  • 日本にも賢明で理性的な人が少数だがいる。しかし彼らは周縁化され、反中が当たり前の日本になっている。現実を直視しなければ日本は昔来た(戦前の)道を歩む。将来的に無罪になる可能性はゼロだ。
  • 遅かれ早かれ、日本はわれわれに再び銃口を向けるだろう。彼らにはそれが見えているのか、その覚悟ができているのだろうか。
  • 国内経済が低迷すると、支持獲得のために外敵を作って支持を集めようとすることがある。日本のGDP世界ランキングは落ちていくばかりだ。その回復のために高市は「反中感情」という手段を使った。
  • 高市は憲法改正に必要な3分の2の議席を初めて突破し、日本を再軍備へと向かわせる基本的条件を獲得した。
  • 日本で驚くべき老人を取材しているのを見た。投票後、「なぜ自民党に投票したのか」と聞かれ、その老人は「自民党は中国と戦争したがっている。自分は歳を取りすぎているし、Z世代に地獄を味わわせたいから自民党を支持する」と答えていた。なんということだ!
  • これで、憲法改正と軍備拡張は不可逆となった。中国の対応は「警戒」あるのみ!(おおむね以上)

その結果、2月9日には「日本は徹底的に右傾化」がウェイボーでトレンド入りした。それを図表に示す。

図表:ウェイボーでトレンド入りした「日本は徹底的に右傾化」

ウェイボーの熱搜時光機(トレンドタイムマシン)を基に筆者が和訳を付加

さらに中国の人気動画投稿サイトbilibili(ビリビリ)でも<高市圧勝の後:憲法改正、軍拡、核保有、中国侵略、靖国神社>など、数多く発信されている。

押しなべて中国の庶民は、高市自民党が圧倒的勝利を収めたことを「日本の右傾化が決定的となった」と受け止めており、それは獲得票数から見て「憲法改正、軍拡」へとつながると考えているのがわかる。それを「中国への再侵略」と捉える人はそう多くはないが、しかし一定数を占めていた。

日本がかつて中国を侵略したことは確かだが、今の日本に中国を再侵略する可能性などゼロだ。ただし、高市早苗が日本の防衛力強化に当たり「台湾有事」を理由にすることは、中国にとってはある意味での「中国侵略」というカテゴリーに入るのかもしれない。

ウェイボーにある老人への取材は、筆者自身は日本の報道で見たことはないが、しかし中国では、「えー、日本ではこんな事も起きているの…」と思い知らされる中央テレビ局CCTVの報道がよくあるので、その現象の一つなのかと思われる。

 

◆中国外交部の記者会見から見える中国政府の見解

2月9日中国外交部は定例記者会見を開いたが、その中で林剣報道官はまず、

  • 中国の対日政策は常に安定と継続性を維持しており、日本の特定の選挙によって変わることはない。われわれは再び日本側に対して高市の台湾に関する誤った発言を撤回し、実質的な行動で中日関係の政治的基盤を守る基本的な誠意を示すよう強く求める。
  • 日本の執政当局に対し、「中国人民の国家の核心的利益を守ることへの断固たる決意は絶対に変わらないことと、第二次世界大戦勝利の成果と戦後の国際秩序を守る決意は絶対に変わらないこと、および各種の反中勢力による挑発と無謀な行動に抵抗し阻止する決意は揺るぎないこと」をここに明確に表明する。

と述べている。質問した日本のメディアの中には、共同通信やテレビ朝日およびテレビ東京があったが、中でもテレビ東京は2回も的を射た質問をしていたことが際立った。その中の一つが上述したウェイボーでトレンド入りした「日本の右傾化への懸念」に関する質問で、これに関して外交部報道官はおおむね以下のように回答している。

  • かつて日本の軍国主義者は日本を侵略戦争へと導き、アジアの隣国や世界に対して凶悪な犯罪を犯し、日本国民に深い災厄をもたらした。
  • 歴史の教訓からのみ、未来に立ち向かうことができるはずだ。
  • 日本が、平和発展の道を歩み実務的な行動で隣国や国際社会の信頼を勝ち取るのか、それとも歴史の流れに逆らい戦後の国際秩序に挑戦するのかは、日本の政治家やあらゆる分野の有識者が深く考察するに値する問題だ。

これら一連の回答から、中国は高市政権が続く限り、日本への厳しい姿勢を崩さないだろうことが明確に見えてくる。

特に「高市発言」の撤回を再び求めたという事実は決定的だ。

 

◆その高市にトランプが絶賛の投稿 そこに潜む日本の危機

しかし、「強者」が好きなトランプは、いかなる方法であれ圧勝した高市早苗に惜しみなく賛辞を送った。

2月9日のTruthで、トランプは以下のように投稿している。

――本日の極めて重要な投票において、高市早苗首相と連立政権が圧勝されたことを心よりお祝い申し上げます。彼女は非常に尊敬され、大変人気のあるリーダーです。早苗首相の、選挙実施を求めるという大胆かつ賢明な決断は、大きな成果をもたらしました。彼女の政党は現在、歴史的な3分の2を超える多数で議会を掌握しており、これは第二次世界大戦以来、初めてのことです。

サナエ:あなたとあなたの連立政権を支持できたことを光栄に思います保守派の「力による平和」政策の実現を心よりお祈り申し上げます。熱意を持って投票に臨んでくださった素晴らしい日本の皆さんを、私はこれからも強く支持していきます。ドナルド・J・トランプ大統領(以上、Truthより)

 

実にトランプらしい。

トランプは「強者」が好きだ。

だから、プーチンのことも習近平のことも好きなのである。

これまでは高市に対して、たとえば2025年11月28日の論考<トランプ氏の習近平・高市両氏への電話目的は「対中ビジネス」 高市政権は未だバイデン政権の対中戦略の中>に書いたように、どちらかと言うと「習近平と大事な交渉をしているんだから、邪魔しないでほしい」という姿勢だった。しかし今年2月6日の論考<トランプ「習近平との春節電話会談で蜜月演出」し、高市政権誕生にはエール 日本を対中ディールの材料に?>に書いたように、高市が勝ちそうだというのを見ると、突然、そちらに靡(なび)く。

Truthでの文中、

  • 「あなたとあなたの連立政権を支持できたことを光栄に思います」とあるのは「わかってるな?オレのお陰で当選したんだという事を忘れるなよ!対米投資を遅らせたりするなよ!」という意味である。
  • 3分の2を超える多数で議会を掌握しており」は、「これで憲法改正ができるから軍拡をしろ!自分の力で防衛力を増大させよ!」という意味だ。
  • 保守派の「力による平和」政策の実現を心よりお祈り申し上げます】は、「これで戦争を始めることができたので、オレ様がベネズエラを攻撃して大統領を拘束連行したように、武力によって自分に都合のいい状態の平和を実現できるように、すべてオレの都合のいいように動けよ!」という意味だ。

2月6日の論考<トランプ「習近平との春節電話会談で蜜月演出」し、高市政権誕生にはエール 日本を対中ディールの材料に?>の冒頭に「心配されるのは右傾化した日本の対米従属化がもたらす危険性だ」と書いたのは、これらの事を指す。

なお、トランプのこの投稿に見られる姿勢(習近平にとっては「豹変」)に対して、習近平がどう出るかは、まだ表面化していない。少なくとも習近平はもう二度とこれまでほどにはトランプを信用することはなくなるかもしれない。もっとも、これまでも心底信用していたわけではなかったかもしれないけれど、外交的には非常に親密であった。その「親密度」は消えていく可能性が高い。そのときのトランプの出方も注目に値する。

日本国民とともに警戒を怠ることなく、米中首脳の変化を含めて事態の推移を見守りたい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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