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「世界の真ん中で咲き誇る高市外交」今やいずこ? 世界が震撼する財政悪化震源地「サナエ・ショック」
衆議院解散表明をする高市早苗総理(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

高市早苗氏は、昨年10月24日の総理就任所信表明演説「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」と宣言し、その後の記者会見でもこの言葉をくり返してきた。しかし、11月7日の台湾問題に関する「存立危機事態」発言により日中関係が激しく悪化しただけでなく、1月18日の論考<トランプG2構想「西半球はトランプ、東半球は習近平」に高市政権は耐えられるか? NSSから読み解く>に書いたように、トランプ・習近平によるG2構想が重なり、高市外交の足元が大きく揺らいでいる。

それだけではない。

1月19日の突然の衆議院解散演説で、高市氏は「(責任ある)積極財政」とともに限定的ではあるものの消費税減税を主張したのだ。野党がみな消費税減税を唱える中、取り残されてはならないと思ったのだろうが、世界は直ぐに財政悪化を懸念してSanae Shock(サナエ・ショック)を一斉に警告し始めた。その影響でトランプはグリーンランドを手に入れる勢いを一時的に失うところに追いやられてしまった。サナエ・ショックがアメリカの株式・債券・為替が売られるトリプル安を招いたからだ。日本ではまるでアメリカが日本に対して好意的に協調介入してレートチェックを行ったとする報道が多いように思われるが、実際は逆だ。

高市氏は「(責任ある)積極財政」の「責任」は何処にあり、財源をどうするのかに関して具体的に明示しないまま「国民に信を問う」という暴挙に出ている。国民は「高市人気投票」をする以外に政策判断をする材料がない。国会で議論して否定されたのなら、衆議院を解散して「国民に政策を選ばせる」選択をしてもいいが、財源を明示しないまま「国民に信を問う」のは「私、この人気のある高市早苗に全て白紙委任をしてください」と言っているに等しい。

本稿では、サナエ・ショックがもたらす可能性のある世界金融大恐慌に海外がどれだけ震撼しているかをご紹介し、「高市発言」以降、習近平に靡(なび)いている世界諸国の動向を考察する。それによって高市外交のさらなる孤立化が顕在化してくる。

高市氏は今や「世界の端っこで孤立する高市外交」へと転落しつつある。サナエ・ショックをスルーする日本の危なさを浮き彫りにしたい。

◆サナエ・ショックに震撼する海外の視線

今年1月20日、ダボス会議に参加していたアメリカのベッセント財務長官は、ダボス会議(の司会者)のインタビュー(1月21日報道)において、司会者の「アメリカでは10年国債金利が上昇しており、日本でも金利が急上昇していますが、こうした市場の反応について、どのような見解をお持ちですか?」という問いに対して、「市場の反応と日本で起きている動きを切り離して考えるのは非常に難しいと思います」と率直に日本の波及効果(マイナスの影響)を受けていることを認めている。その結果アメリカでは株式・債券・為替が売られる「トリプル安」が起き、トランプ大統領は突然欧州8ヵ国への新たな関税を取り消したりなどした。

グリーンランドを購入しようとするトランプの動きに対してアメリカ内外の反対が原因だとする欧州からの非難を回避し、そんなことが原因ではなく「日本の現状がいけないんだよ」と日本に責任転嫁をしたようなものだ。

もっとも、実際、日本が震源地となって財政悪化の波が世界に伝播していったとするSanae Shock(サナエ・ショック)というフレーズが欧米を中心に広がっている。

たとえば1月21日の<How far will the Sanae shock go? >(サナエ・ショックはどこまで及ぶのか?)とか、1月23日のThe Sanae Shockなど、枚挙に暇がない。

Sanae Shockという言葉は使っていないが1月21日のロイターもJapan’s PM is entering self-made fiscal trap(日本の首相は自ら招いた財政の罠に陥っている)(有料)も同様の警鐘を鳴らしている。

これは冒頭にも書いたように、1月19日に高市氏が衆議院解散を宣言して記者会見をしたときに、従来の「(責任ある)積極財政」に加えて、野党の向こうを張って「消費税減税」を主張したからだ。そのため「高市政権だと財政悪化を招く」という恐怖が欧米を席巻したのである。

このSanae Shockが「グリーンランドを売らないなら爆撃するぞ」と脅していた勝負師トランプの出鼻を挫いたのだから、トランプは高市氏を恨んでいるにちがいない。

これまで「解決しなければならない問題が多くて、解散など考える暇もない」としていた高市氏が、自らの権力を拡大維持させるために、「勝負師」として突如衆議院解散を宣言したのだから、世界から懸念される政権になってしまうのも不思議ではない。

日本では「高市人気」に忖度してか、「日本が向かおうとしている恐怖の世界」を絶対に報道してはならないし直視してもならないとばかりに、「世界が高市政権に抱く恐怖」を重視しようとしないが、中には勇気ある憂国の士もおられる。

たとえば1月22日の土田陽介氏の論考<海外投資家の「高市離れ」がはじまった…解散表明で「日本売り」を招いた高市首相の”危ない発言”>がある。土田氏ほど直球ではないが、1月27日の木内登英氏の<【衆院選の焦点①】米当局は高市積極財政への懸念を強めているか>も遠慮がちではあるものの非常に示唆に富んだ警告だ。

新党「中道(中道改革連合)」は財源を明示している分だけ、財源を「(責任ある)積極財政」という漠然たる言葉で逃げていないので、日本が世界の財政悪化の震源地になるといったサナエ・ショックのような警戒感は今のところ見られない。

◆習近平に引き寄せられる諸外国

一方の習近平は、「高市発言」後、主要国との接触を積極的に進めており、相手国もまたトランプ関税やトランプの時々刻々変化するTACOに対する不信感から、次から次へと「習近平詣で」を始めている。電話による首脳会談も含めて「高市発言」後の動向を図表に示した。

図表:「高市発言」後の諸外国首脳&国王の「北京詣で」(電話会談も含む)

中国および相手国政府の公式発表を基に筆者作成

全ての情報は中国政府および相手国政府の公式ウェブサイトから引用しているので、一つ一つにリンク先を加えるのを省略させていただいた。「12」や「13」に関しては、たとえばイギリスは本稿を書いている段階で中国に到着したというギリギリの進行をネット配信しており、ドイツも早くから情報を発信しているので、それに基づいて書いた。

図表の中で注目すべきことが二つある。

一つは「1」~「11」まで、すべての公開された会談内容に共通しているのは、習近平が相手国に「一つの中国」原則の遵守を対面で強調し共有したということだ。これはほかでもない、「高市発言」を受けた結果であると考えていいだろう。

二つ目は「8」にあるカナダのカーニー首相が習近平と会談したあとのインタビューで「中国は今やカナダにとってアメリカよりも予測可能で信頼できるパートナーである」と肯定した(有料)ことである。

習近平との会談後のカナダ首相のウェブサイトにも、「世界第2位の経済大国である中国は、カナダにとって計り知れない機会をもたらす」と書いてある。

今や「世界の真ん中で咲き誇っている」のは「高市外交」ではなくて、「習近平外交」であるかのような印象を拭えない。

◆ベッセント「中国の日本叩きは高市発言のせい。アメリカとは無関係」

先述の1月20日のダボス会議におけるインタビューで、ベッセントは、まず「中国は貿易協定を全て履行しています」と述べた上で、中国が対日制裁をしていることに関しては、「あれは日本の首相の発言に対して、中国と日本の間でもめ事が起きているだけで、アメリカとは関係ないですね」とあっさり切り捨てている。実に冷淡なものだ。

日米同盟を頼りにしている高市氏としては、ここでも梯子を外された形になる。

昨年11月28日の論考<トランプ氏の習近平・高市両氏への電話目的は「対中ビジネス」 高市政権は未だバイデン政権の対中戦略の中>や、前掲の1月18日の論考<トランプG2構想「西半球はトランプ、東半球は習近平」に高市政権は耐えられるか? NSSから読み解く>などに書いた通り、トランプは同盟国をも裏切るので、日本を「捨て駒にしない」という保証はない。

このことを警戒しなければならないのに、高市氏は国内で権力を維持することばかりに執着し、世界を見ようとはしていない。

日本の大手メディアも、高市人気の高さに忖度してネットなどで罵倒されるのを避けるためか、真実を知らせて日本国の将来を本気で思う論調はほとんどない。

是非とも日本国民には日本政府や大手メディアが見せようとしない高市政策の危機に気付いていただきたい。

いま現在はアメリカにとってSanae Shockがあまりに大きなマイナスの影響を与えたのでアメリカが協調介入したため小康状態にあるが、「高市財政」という危険な爆弾のような要因が取り除かれたわけではない。アメリカにとってマイナスの影響がなければアメリカは高市財政の暴発があっても無視する可能性を否定することはできない。アメリカの利害に関係しなければ、ベッセントのこのたびの発言のように「アメリカとは無関係」と切り捨てる可能性も否定できないのではないのか。そのことを懸念しているのが前掲の木内氏の論考だ。

筆者自身は高市早苗という人物が好きだった。大いに期待もした。

しかし、このたびの突然の衆議院解散宣言とその理由を知るに及び、日本の危機から目を逸らすわけにはいかないと痛感した次第だ。

非常に残念なことだが、警鐘を鳴らさずにはいられない。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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