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個人の人気で裏金議員を復活させ党内派閥を作る解散か? しかし高市政権である限り習近平の日本叩きは続く
1月19日、衆議院解散表明をする高市総理大臣(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

1月19日に発表された衆議院解散に関する高市氏の演説と記者会見は、「さあ、私への支持率に勝てる党首がいますか?」ということを他党に思い知らせる解散であるという印象を受けた。その支持率を利用して旧統一教会との「政治と金」問題を抱える裏金議員を復活させ、党内基盤の弱い立場を補うために「高市派」を作り、「高市個人の党内基盤を強化するための解散」であると言える。その証拠の一つに、1月21日の共同通信報道の<自民、裏金議員37人を擁立>を挙げることができる。

なぜ今なのかは、安倍元総理を殺害した山上被告の裁判が本格化し(1月21日に無期懲役判決)、通常国会で旧統一教会系裏金問題に関して野党から激しい攻撃を受ける可能性があったからだろう。自民党に裏金国会議員が増えれば数で押し切ることができる。高市氏に救ってもらい復活できた裏金議員は、その恩義に報いて徹底して高市氏を援護していくにちがいない。

しかし日本という国の視点から見るならば、高市内閣である限り、習近平による日本叩きは激化することはあっても緩和することはない。なぜなのかを、高市氏と台湾との関係を通して考察したい。なお、23日に衆議院は解散されるので本稿では高市氏で統一する。

◆裏金議員を復活させて自民党内の高市派閥を作るための解散

高市氏は1月19日の衆議院解散の演説冒頭で、「なぜ、今なのか。高市早苗が、内閣総理大臣で良いのかどうか、今、主権者たる国民の皆様に決めていただく」と言った。しかし、日本国憲法の第5章「内閣」にある第67条には「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する」と明確に書いてある。

もちろん高市氏も演説で「日本は、議院内閣制の国ですから、国民の皆様が直接、内閣総理大臣を選ぶことはできません」と言ってはいるが、続けて「自民党と日本維新の会で過半数の議席を賜(たまわ)れましたら、高市総理。そうでなければ、野田総理か、斉藤総理か、別の方か。間接的ですが、国民の皆様に内閣総理大臣を選んでいただくことにもなります」と、具体的な個人名を名指しした。

これは明らかに自分の支持率の高さに自信を持ち、「さあ、国民の皆さん、野田総理とか斉藤総理って、耐えがたいほどイヤでしょ?」と国民に呼びかけているようなもので、「人気の高い私がいる自民党に投票しなさい」と言わんばかりだ。日本国民はそれぞれの国会議員を選ぶのではなく、一人の「総理大臣になる人物を選ぶつもりで、高市早苗に付随している国会議員を選べ」と言われているようで、不適切ではないのか。日本国憲法第67条を愚弄しているとさえ言える。

北国は雪が深い時期であり、若者にとっては受験シーズン。木原官房長官は期日前投票もあるので試験日が重なる受験生は期日前投票を利用するようにと言っていたが、人生を決める最重要な受験期間に心を散らさせて、期日前投票をさせてまで、高市早苗は「今」衆議院を解散しなければならないのだろうか?

そもそも昨年12月17日には「令和8年度の税制改正や当初予算の取りまとめなど、目の前でやらなければいけないことが山ほど控えておりますので、解散については考えている暇がございません」と言ったばかりではなかったのか?

あれは嘘だったのか?

1月14日、週刊文春は<安倍銃撃事件の当日、“高市首相・最側近”佐藤啓副長官は統一教会集会に招かれていた!《自民調査に「支援なし」と虚偽回答》>と「文春砲」を出し、この事実を隠ぺいするための解散だと書いている。当たらずとも遠からず。

キーワードが「旧統一教会」であることは確かで、冒頭に書いた通りだ。

維新との連立を組んだからと言って、それは日本国民が投票で選んだ国会議員同士の組み合わせなので、そのようなことをいちいち国民に問うために700憶円も国民の税金を勝手に無駄遣いし、国民に多大な迷惑をかける理由にはならない。

飲料品消費税減税に関しても高市氏はかねてから消極的であったことは多くのメディア(たとえば日経など)が伝えている通りだ。1月21日の時事通信社も高市総理の「飲食料品は2年間に限り消費税の対象としないこと。これは私自身の悲願でもあった」という19日の発言に疑念を呈している。自民党を除いた他の野党はみな消費税減税に賛成なのだから、まさに国会で議論すべき問題で、維新と自民が賛同しさえすれば1月23日に国会を開催した途端に決議できる内容だ。

なぜ突如「悲願」になったのか、そしてなぜ全ての野党が賛成している事項を、その「悲願」を国民に問うために衆議院を解散しなければならないのか、全く整合性がない。時事通信社も書いている通り、【新党「中道改革連合」が食料品の消費税率ゼロの恒久化を掲げるなど、野党各党が消費税減税を軒並み訴える中、「自民だけ慎重姿勢では野党に競り負けかねない」(党重鎮)との危機感が働いたとみられる】ということのようだ。

それにしても、それは突如「悲願」をでっち上げる理由にはなっても、それ故に衆議院を解散する理由にはなり得ない。

となると、解散の目的は高市人気が高いうちに裏金議員を復活させて、もともと派閥に入っていなかった高市氏が自らの派閥を「復活させてあげた裏金議員」で固め、党内基盤を強化して長期政権を維持したいという個人的野心でしかないということが見えてくる。派閥は解消されたはずとは言え、やはり「元○○派」という形でつながりは残っており、昨年の高市「総裁」および高市「総理」誕生に当たっては、「元安倍派裏金議員」の支えがあったし、隠然たる力を持つ麻生派のトップにいる麻生太郎氏に全面的に頼っていた。

問題は、自民党内での権力基盤強化のための解散選挙に打って出ても、高市政権が再現されれば、習近平の日本叩きが激しさを増すことだ。

◆習近平はなぜ激しく高市政権を叩き続けるのか?

習近平がここまで激しく高市内閣を叩きまくる原因に関しては、昨年11月7日の台湾有事に関する「高市発言」が直接のきっかけになってはいるが、しかし実は総理になる前からの高市氏の台湾との関係が非常に大きく影響している。

その一連の動向を図表1に示す。

図表1:習近平が高市内閣を叩く原因に関する動向

公開されている情報に基づき筆者作成

黄色は高市氏個人の台湾との接触や台湾訪問で、緑色は台湾の頼清徳(総統)の動き、薄い赤色は「頼清徳の言動に対する」中国の動向である。

図表1の「1」にある高市氏と蔡英文(総統)とのオンライン会談は、同年9月29日に投開票されることになっていた自民党総裁に向けての印象操作と位置付けることができる。9月21日には会談の動画も配信している

2024年5月20日には台湾の頼清徳が総統就任演説をしているが、演説の中で「中華民国(台湾)は中華人民共和国(中国)に隷属しない」と表明している。それに対して中国は当日中に激しく批判し、「台湾独立は死の道だ」と抗議している。5月23日、24日には台湾を包囲する形で中国は大規模軍事演習「連合利剣-2024A」を行った

「5」にあるように、頼清徳が双十節の演説で「中国には台湾を代表する権利がない」と表明。それに抗議して中国は再び台湾包囲軍事演習「連合利剣-2024B」を実施した(「6」)。

それでも頼清徳は中国に敵対的姿勢を貫き、バイデン政権でもあったことから、総統になったあとの初の外遊でアメリカを経由(「7」)。外遊が終わった同年12月6日、中国は頼清徳のアメリカ経由に抗議を表明している(「8」)。

にも拘(かか)わらず高市氏は「9」にあるように、12月10日、訪日中の台湾の民進党の林右昌秘書長と会談し「もう台湾が大好きで大好きで…」と発言。さらに同会談で高市氏は、中国の習近平国家主席が台湾統一の野心を隠さないことに強い懸念を示し、「(『一つの中国』原則を認めない)民進党で政権を維持してほしい」とエールを送ったとのことだ。

このような中、中国における全人代(全国人民代表大会)が2025年3月11日に閉幕すると(「10」)、3月13日に頼清徳は国安(国家安全)高層(ハイレベル)会議を開催し、「中国は境外(国外)敵対勢力だ」と宣言して、中国大陸に対する「17項目の対策」を発表した(「11」)。

これに対し中国は激しく頼清徳を批判し、「12」~「15」にある抗議を表明した上で、「16」にあるように台湾包囲軍事演習「海峡雷霆—2025A」を実施した

かかる怒涛のような闘いが中台間で起きていたタイミングを狙ったかのように、「17」にあるように高市氏は4月27日から29日にかけて台湾を訪問し、頼清徳や蔡英文等と会談したのである。このときの高市氏の表情を図表2に示した。

図表2:台湾を訪問し頼清徳と会談している高市氏

台北駐日経済文化代表処のHPより転載(トリミングは筆者)

この豪快な高市流笑顔は、トランプ来日の時に米軍横須賀基地を訪問し、停泊中の米原子力空母の上で飛び上がってはしゃいだ時の笑顔を彷彿とさせる。頼清徳との会談では、中国や中国企業を排除した「ノンレッド・サプライチェーン」の構築も約束された。

何よりも習近平を激怒させたのは、頼清徳が「11」にあるように「中国は境外敵対勢力」と言ったのに対して、中国が「12」~「16」に至る激しい抗議をしている直後に、高市氏が頼清徳側に立ってこのような姿勢で会談をしたということだった。

「18」を含めた高市氏の行動は、おそらく「石破おろし」の次に来る自民党総裁選を睨んでの行動で、このようにすれば戦争を知らない反中的な若者たちに歓迎され、その支持率を見ながら自民党議員が次の総裁を選ぶ判断基準にするだろうという計算だったにちがいない。

その計算はみごとに当たり、高市氏は総裁と総理の座を射止めたのだが、「反中」&「台湾大好き!」で支持率を上げようという姿勢が、総理としての国会答弁にも表れ、いわゆる「高市発言」となって、中国による日本叩きが始まったのが真実の経緯だ。

衆議院解散による国政選挙の結果、どう出るかは分からないが、少なくとも高石政権が再現されれば、中国による日本叩きはなお一層激しさを増すだろう。

習近平としては、何としても在任中に台湾問題を解決しなければならないからだ。

昨年12月23日の論考<中国にとって「台湾はまだ国共内戦」の延長線上>に書いたように、日本軍が中国大陸から去ったあとの1946年から始まった国共内戦はまだ終わっていない。休戦協定も終戦協定も結ばれないままこんにちに至っている。他国の内戦に割って入る権限は、どの国にもない。日本はその立ち位置を冷静に直視し、もっと老獪(ろうかい)な外交戦略を練った方が、日本国民には得策かもしれない。

加えて、1月18日の論考<トランプG2構想「西半球はトランプ、東半球は習近平」に高市政権は耐えられるか? NSSから読み解く>の実態を認識すれば、日本は裏金議員を呼び戻して高市氏の党内基盤を盤石にするための選挙に時間を奪われている場合ではないと思うが、いかがだろうか? 

読者の判断を仰ぎたい。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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