
※この論考は11月20日の< Japan’s Strategic Turn and Taiwan’s New Centrality in Indo-Pacific Deterrence>の翻訳です。
I. 高市首相下の日本の戦略的メッセージ
「台湾有事は日本有事」という高市早苗首相の発言は、単に常套句を繰り返したものではなく、日本政府の戦略構想におけるパラダイム転換を示している。歴代政権は地域の緊張を強調するためにこの表現を用いてきたが、高市氏は日本の安全保障のアイデンティティをより広範な再構築の中に組み込んでおり、消極的な正常化から積極的な戦略的管理に移行しようとしている。かつて日本を中台間の不安定な情勢から隔てていた冷戦後の緩衝地帯は事実上消滅し、日本政府は今や台湾の防衛と日本の防衛が相互に不可分となりつつあることを認識している。
冷戦後の緩衝地帯とは、日本を台湾紛争の直接的な影響から切り離すことになった物理的かつ心理的な地政学的距離を指す。この緩衝地帯は、中国の軍事力の及ぶ範囲が限定的であることや、米国の地域的優位性、両岸の安定、そして日本自身の戦略的曖昧さに依存していた。中国の軍事現代化が地理的隔たりを消し去り、東シナ海での威圧を強め、核と連動した抑止力学をもたらしたことで、この緩衝地帯は崩壊した。現在、日本は台湾の防衛を自国の国家安全保障、領土防衛、同盟の信頼性から構造的に切り離せなくなったことを認識している。
この緩衝地帯を破壊した要因は何か?
- 中国の急速な軍事現代化(2015年~現在)
- 中国による東シナ海の軍事化と尖閣諸島への圧力
- 米国の抑止分散への転換(直接的防衛の縮小)
- 日本の防衛線における台湾の戦略的重要性
- ウクライナ戦争後の核による威圧
ウクライナ戦争はこの認識の変化を加速させた。ロシアによる核威嚇がNATOの行動範囲を制限する上で効果的に使われ、日本は権威主義的な修正主義の時代において危機管理への理解を改めた。中国の急速な核拡大、加速する海軍現代化、グレーゾーンでの威圧、台湾に対する強硬姿勢の高まりによって、日本がこれまで台湾有事を存立危機事態ではなく周辺的な問題として扱うことができたロジックは一挙に崩壊している。軍事面での積極的関与に歴史的に抵抗してきた日本の世論も認識を改めつつある。今では世論調査でも、10年前には考えられなかった改革案を受け入れる見方が広がっている。
高市氏の枠組みでは、台湾を対外的な問題ではなく、日本の戦略的アイデンティティを構成する要素と位置付けている。とはいえ日本の関与は感情論に基づくものではなく、その大きな原動力は国益だ。ただし、この違いを認識することは台湾にとって非常に重要となる。日本政府の言葉を過度に美化すれば日本の動機を誤解する危険があり、単なる見せかけと片付ければ、歴史的な戦略転換を過小評価する恐れがある。
台湾はむしろ、日本のメッセージを政策連携の深化、危機コミュニケーションの制度化、共通の作戦ロジック構築を呼びかけたものと解釈すべきだ。高市氏の発言は、日台政府間の継続的な戦略対話のきっかけにすべきであり、それは象徴的なものではなく現実主義に基づかなければならない。
II. 進化する日米抑止の枠組み
日米同盟構造の進化は、冷戦初期以来見られなかった戦略的連携の高まりを反映している。日本が反撃能力の整備を加速させ、米国ミサイル防衛網に加わり、南西諸島全域で態勢を強化することで、総合的に日本の役割は守りの「盾」から、台湾有事の展開を受け止めつつ主導権を握ることもできるハイブリッド戦力に変容する。
米国政府が分散抑止モデル(集中配備よりも生存性、分散、冗長性を優先する戦略)を採用することにより、日本の求心性が高まる。琉球列島の地理を考えると、日本は前線の兵站拠点、ミサイル分散プラットフォーム、対潜水艦戦の拠点、および台湾北部戦域とさらに広範なフィリピン海を結ぶ防空結節点としての役割を果たせる。
しかし、この構造的変化には暗黙の条件も伴う。日本がより大きな責任を引き受ける意志を持つかどうかは、日本が台湾のレジリエンス、意思決定の一貫性、危機管理能力を信頼できるかどうかにかかっている。今後の紛争において、抑止力への信頼性は同盟国の兵器だけでなく、政治的シグナルの連動、準備態勢サイクルの連携、リスク評価の共有にも左右される。台湾が日本の改革と同じペースで政治・情報・民間防衛システムを近代化できなければ、抑止力の連鎖は弱まる。
したがって、台湾は日米の枠組みを安全保障の傘ではなく、戦略的エコシステムとして捉えなければならない。これには継続的な連携、コミュニケーションの定例化、共同計画が求められる。抑止力は今後、単に米国や日本の支援を前提とするのではなく、台湾がこのエコシステムに自らを組み込めるかどうかに大きく左右されるだろう。
III. 韓国の海底戦略再編
韓国は、攻撃型原子力潜水艦(SSN)で米国と協力を深めようとしており、この動きは北東アジアの安全保障において特に重大な進化だ。公の議論では韓国が核兵器を保有する可能性に焦点が当てられがちだが、より革新的な変化は、海底での生存能力(すなわち北朝鮮の成熟しつつあるSLBM能力に対抗できる能力)が長期的な抑止力に不可欠である点を韓国政府が認識していることにある。
この転換は、米国と日本の戦略的利益と本質的に合致する。米韓SSN協力が実現すれば、海中監視網が拡張され、第一列島線の北部全域も切れ目なく監視できる。核による威圧と敵潜水艦隊の高度化に対する懸念を共有する者同士が脅威を認識することで、公式に同盟を再編しなくても、三者間の相互運用性が深まる機会が生まれる。
台湾にとって、影響は間接的だが戦略的には重大だ。米韓の海底防衛体制が強化されれば北部戦域が安定し、台湾有事の際には米軍の戦力をより柔軟に再配置できる。韓国の港湾・監視システム・海底ネットワークはフィリピン海への米軍展開を支援できるため、日本の運用上の負担が軽減されるとともに、地域的抑止の枠組み全体が強化される。
韓国の転換は、この地域の重要な傾向を示している。つまり、米国の同盟国はもはやコミットメントの表明だけを当てにしてはいないということだ。各国は同盟抑止力を強化する独自の能力を高めている。台湾はこの点を明確に認識しなければならない。韓国政府が(差し迫った存立危機に直面していながらも)海中での持久力と生存性に多額の投資をするならば、台湾も同様の脆弱性を精査すべきとのロジックは説得力を持つ。
IV. 日本の防衛産業の転換
日本が防衛産業における長年にわたる規制を緩和したことは、インド太平洋地域の安全保障をめぐる秩序において大きな転換点となる。日本の産業力は数十年にわたって軍事的役割から切り離されていたが、この隔たりは高市氏の下で縮まりつつある。防衛輸出の規制改革により、日本は国力を強化できるだけでなく、技術の普及やサプライチェーンの安定化を通じて地域的抑止を拡大できる。
東南アジア諸国はロシアや中国に代わる防衛装備品の調達先を求めており、高い信頼性、高度な精密製造、強固なサイバーセキュリティを特徴とする産業エコシステムを備えた日本は重要な供給源になる。センサー、防空部品、巡視船、新型自律システムを輸出することで、日本は分散型安全保障構造に貢献し、パートナー国のレジリエンスを強化するとともに、中国の威圧的拡大の余地を狭められる。
台湾にとって、日本の産業正常化は3つの大きな機会をもたらす。
第一に、電子戦、無人海上システム、安全な通信、強靭化された産業能力といった分野のデュアルユース技術で協力しやすくなる。
第二に、日本の厚みのある産業基盤は長期化した危機において安定化の柱ともなり、修理拠点、予備部品、兵站の冗長性を提供できる。
第三に、日本が東南アジアのパートナー諸国に装備品を供給すればするほど、中国がこの地域で軍事的優位を確立する能力は制限されるため、台湾の戦略的環境が間接的とはいえ実質的に強化される。
台湾は、目立たない形ながらも意図を持って、日本の進化する産業防衛エコシステムへの統合を追求すべきだ。たとえ限定的な協力であっても、相互理解を深め、相互運用性を高め、共同危機対応への信頼を構築できる。このエコシステムに加わることで、正式な同盟に伴う政治リスクを負わずに抑止力を強化できる。
V. 台湾の戦略的重要性の高まり
日本、米国、韓国で同時に見られる戦略調整から、より深い構造的問題が浮かび上がる。それは、再構築されたインド太平洋秩序の中で、台湾は自らをどこに位置付けているのか、という問題だ。台湾が自らを単なる最前線の緩衝地帯と定義するなら、脆弱性と依存の議論から抜け出すことはできない。しかし台湾は、地域の安定に不可欠な結節点として自らを再定義できる経済的、技術的、政治的能力を備えている。
台湾がこの力を発揮するには、重層的なレジリエンスを構築しなければならない。電力網、港湾、海底ケーブル、半導体製造工場といった重要インフラの強靭化は、単なる技術プロジェクトではなく戦略上の必須事項である。脆弱性を低減することは、台湾が厳しい圧力下でも統治と運用の継続性を維持できる持久力のあるパートナーであることを同盟国に示すことである。
第二に、台湾は米日韓の新たな協力の枠組みに、より緊密に歩調を合わせる必要がある。正式な同盟参加は政治的に実現不可能かもしれないが、脅威評価の共有、サイバーセキュリティプロトコルの整合、危機対応メカニズムの連携などで実質的に歩調を合わせれば、集団抑止に向けた現実的な道筋となる。
第三に、台湾は自らの戦略的ナラティブを再定義しなければならない。地域紛争の火種になり得る存在としてのみ認識されるのではなく、グローバルサプライチェーンを安定させる存在、オープンな技術エコシステムの守護者、そして権威主義的拡大に最前線で抵抗する民主主義体制としての役割を明確にすべきだ。このナラティブは日韓米の戦略的思考に深く共鳴し、台湾の外交的影響力を強化する。
結局のところ、台湾がインド太平洋地域で激化する戦略的競争を乗り切れるかどうかは、この地域の地政学に左右される受け身の存在から、安全保障を主体的に生み出し、協力して抑止力を構築し、この地域に不可欠な結節点へといかに効果的に変容できるかにかかっている。
新たな秩序は台湾を待ってはくれない。台湾は自ら前進し、その秩序の中で自らの立場を主張しなければならない。
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