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「古~い自民党」を見せつけた総裁選 総理の靖国神社参拝なら自公連立は解消か?
自民党総裁の椅子に座る高市早苗新総裁(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

自民党の総裁選なのに、必死になって国民に呼びかける5人の立候補者たちの姿は、主張がどうであれ、「われこそは」という必死さが美しかった。中国の選挙と違って、民主主義は良いものだと実感させられた。しかし選挙当日の終盤、決選投票に入ったとき、結局のところ麻生派閥がものを言い、昔ながらの「ボス」の一声で議員票が一気に動いた姿に深い失望を覚える。

古い自民党」から「解党的な出直し」をするのではなかったのか。

もちろん、期待されていた小泉氏の決選投票前でのスピーチはお粗末だったことは否めない。「解党的出直し」どころか「党内融和」を強調するばかりで、政策さえ口にしなかった。これではダメだと思ったので、高市氏に票が流れたのは理解できないわけではない。

しかし総裁選の直前になって地方党員票が高市氏に有利だと分かった瞬間、「決戦投票になったら獲得票の多い方に投票しろ」という麻生氏の号令が決定打になったのを否定することはできないだろう。案の定、「麻生氏へのお礼」に、どうやら高市新総裁は、幹事長に麻生派の鈴木俊一総務会長(72)を充て、副総裁には麻生氏(85)を検討しているようだ。

これが本当なら、もう「古~~い自民党」を、そのまんま絵に描いたようではないか。

その一方では、公明党は「高市総裁」が「高市総理」になったときに靖国神社を参拝するならば「連立を組むのは困難」という意思表示をしている。

2021年10月7日の論考<「公明党から国交大臣」に喜ぶ中国――「尖閣問題は安泰」と>に書いたように、中国では海外の政党として最も信頼しているのが公明党だ。中国は公明党を「楔(くさび)」のように使って、日本政府をコントロールしてきた。

◆「解党的出直し」とはほど遠い自民党総裁選

もちろん高市早苗氏が総裁に当選したのは悪いことではない。「鉄の女」サッチャーを目指すというド根性は見上げたものだし、地方党員を重視してきた努力も評価すべきだろう。自民党結党以来の女性総裁の出現で、総理になれば日本で初めて女性総理が生まれることになり、その意義は大きいかもしれない。

しかし、結局のところは麻生氏に頼り、最後は「ボス」の計略通りに議員が動いて当選したという時点で、せっかくのこれまでの努力の「美しさ」は消え去ってしまった。

何のことはない、党内の勢力抗争であり「コップの中の嵐」に過ぎず、勝ち馬に乗るか乗らないかの策略が党内を駆け巡っただけだ。

自民党の中には右も左もいて、左のボスが党内親中派の筆頭格・二階俊博氏だったが、二階氏の引退に伴いその系列は林芳正氏に受け継がれながら、林氏は今のところ「親中」を封印している。その意味では右のボスである麻生太郎氏にとっては、最後の「我が世の春」にちがいない。高市当選で、その手腕を遺憾なく発揮して、さぞご満悦のことだろう。

こんなに右も左もいるのなら、「解党的出直し」などと偽善的なことを言わずに、解党すればいいと思うほどだ。解党しないのは、一塊でいる方が権力維持が容易になるからだろう。「党内で政権交代」することにより「自民党の政権」を維持している。

◆総裁選に入る前に靖国参拝に関してクギを刺していた公明党

前回、2024年9月における自民党総裁選で、9月9日に出馬を表明した高市氏は「首相に就任した場合でも靖国神社を参拝することに変わりはない」という趣旨の発言をしていた。それもあってか、今年9月7日、石破総理の辞任表明を受けて、公明党の斉藤代表は次の総裁について、「私達の理念に合った方でないと連立政権を組むわけにはいかない」と述べている。総理になった場合の想定を考えてのことだろう。

すると今般の総裁選で高市氏は、なんと、「靖国神社参拝」を完全に封印してしまったのだ。当選後の記者会見でも靖国参拝問題を問われ、「適時適切に」と言葉を濁した。それでいて「自公連立は基本」と言っているのだから、「総理になったら靖国参拝はしません」と言っているようなものだ。

ところが、記者会見後に公明党代表にご挨拶に行ったところ、先述したように「理念が合わないと連立は困難」という回答を得たわけだ。中国関係の問題だけで言うなら、「総理になっても靖国神社参拝をするようなら、連立を組むわけにはいきません」と言ったことになる。

2024年の総裁選では「総理になっても参拝する」と誓っていた高市氏。

それ故のファンも多いはずだ。だというのに、公明党の制限を受けたがゆえにファンとの約束事を破るとなったら、高市政権には、支持者の信頼を持続することができるのか否かというジレンマが待ち受けている。

◆自公連立後の小泉政権と安倍政権における総理の靖国参拝

ウィキペディアで申し訳ないが、<靖国神社問題>の情報に基づけば、小泉氏の場合は総理就任後の「2001年8月13日、2002年4月21日、2003年1月14日、2004年1月1日、2005年10月17日、2006年8月15日」に参拝しており、安倍氏の場合は総理就任後の「2013年12月26日」に参拝している。

もちろん公明党は猛烈に反対した。

しかし小泉氏が最初に参拝したのは2001年。1999年に公明党と連立を組み始めてから日が浅い。連立してようやく政権与党として浮上しているのに、公明党としても政党存亡を秤にかけた場合、「靖国参拝をやめないのなら、連立を解消します!」とは言えなかったものと推測される。その心理を読み取ってか、小泉氏は参拝をし続けた。

すると2005年に中国で「反日デモ」が爆発した。反日デモがすぐには起きなかったのは、2001年9月11日にアメリカで同時多発テロ事件が起きて、それどころではなくなってしまったからだ。小泉氏は同年10月に中韓両国を訪問することさえしている。2002年にはAPEC首脳会議に参加して江沢民と会談したりなどもしている。それでも小泉氏の靖国参拝はやまず、03年も04年も参拝を継続した。その結果、2005年に遂に反日大暴動が起きたのである。

安倍氏の場合は複雑だ。第一次安倍政権発足直後の2006年10月に中韓両国を訪問し、関係修復に努めている。しかし2012年12月の第二次安倍政権発足後、13年12月に靖国神社を参拝している。

これに先立ち、習近平が国家主席になる1ヵ月ほど前の2013年1月25日には、公明党の山口那津男代表が安倍氏の書信を携えて、習近平(中共中央総書記)と会っている。習近平はこのとき「山口氏の訪中を非常に重視しており、公明党が引き続き日中関係の発展を促進する上で建設的な役割を果たすことを期待している」と述べている。

山口氏は「公明党は日本の連立与党の一つとして、日中友好の伝統を継承・継承し(中略)日中関係の改善と発展に積極的に努力する」と述べ、安倍氏の自筆書簡を習近平氏に手渡した。 安倍氏は書簡の中で、「日中関係は最も重要な二国間関係の一つであり、両国はアジア太平洋地域と世界の平和と発展に対する責任を共有している」と述べながら、その年の12月26日には靖国参拝をしているのだ。それでも大きな事件に発展しなかったのは自民党内の「左のボス」二階氏がいたからだ。

これに関しては2019年4月26日のコラム<中国に懐柔された二階幹事長――「一帯一路」に呑みこまれる日本>をご覧いただきたい。特にそのタイトル画像をご覧いただければ、もう何も語る必要はないだろう。

◆石破政権になっても、公明党の北京詣では続いていた

今年4月28日、上海にある「解放日報」系ウェブサイト「上観新聞」は<日本の与党幹部が2週間以内に3回も中国を訪問 なぜ「異例」と言われるのか?>という見出しで、「異様さ」を報道している。「2週間で3回訪中」の内訳は以下のようになっている。

  • 4月22日~24日:斉藤鉄夫・公明党代表訪中団
  • 4月27日〜29日:森山自民党幹事長率いる日中友好議員連盟訪中
  • 4月28日~30日:山口那津男・公明党常任顧問一行訪中

このように公明党の中国への「熱い思い」が、中国から見てさえ「異様」と映るほどなのである。

その公明党が、自民党内「最右端」である高市総裁が、同じく「最右端のボス」である麻生氏のバックアップの下で自民党と連携していくことは困難ではないかと推測される。しかし逆に、高市氏が自公連立を重んじて、これまでの自分の主義主張を「総理になったのだから」という理由で封印するとすれば、右寄りだったファンたちは高市氏に騙されたと思って、高市氏への信頼を失っていくだろう。

高市氏は、どちらの方向への決断を選ぶのか?

公明党がいなくなっても、他の政党と連立を組むから構わないと決断したとしても、その政党が、さすがに総理大臣が靖国神社を参拝することを容認するとは限らない。

トランプ関税の重圧の下、最大貿易相手国である中国との関係を重視しないと日本国民の経済向上を図れないという側面が圧し掛かるとすれば、公明党に妥協するしかなくなる。

いずれにしても、もし総理に選ばれた場合の高市政権には大きなジレンマが待ち受けている。この視点に立ち、今後の高市氏の選択を観察していきたい。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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