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トランプがイラン核施設爆撃 中東に底なしの復讐を招く選択をしたトランプの心理と、爆撃効果への疑問
米軍がイラン核施設3ヵ所を攻撃 トランプ大統領演説(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
米軍がイラン核施設3ヵ所を攻撃 トランプ大統領演説(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

トランプ大統領がイランの核施設を爆撃した。あれだけウクライナ戦争はバイデンが起こしたと断罪して戦争を嫌ったはずのトランプが、なぜ自ら他国を侵略する道を選んだのか?

イランはどのようなことがあっても復讐を強めるだろうし、ホルムズ海峡の封鎖もあり得る。海峡の封鎖は自国の経済をも窮地に追い込むため慎重に実行されるだろうが、石油の高騰など日本に与える影響は避けられないだろう。

トランプにとって最も大きな痛手となり得るのは、IAEA(International Atomic Energy Agency=国際原子力機関)が爆撃されたイランの地下核施設の周りには、「放射線量の変化がない」と公表していることである。すなわち、トランプが「完全に破滅させた」と勝利を祝っているイランの地下核施設は「破壊されてない」ということになる。

かつてイランは毛沢東に会い、頑強な岩盤の地下深くに核施設を建設する「策」を学んだことがある。バンカーバスターだろうと核施設までは、実は届いていなかった可能性があるのだ。

そうなるとトランプは他国に侵略して核施設を爆撃した侵略者としての汚名だけでなく、結局破壊に失敗した「道化者」としての歴史的汚名が人類の歴史に刻まれることになる。

アメリカではトランプを「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプは常にビビッて退く)」と呼ぶだけでなく「2週間男」というあだ名までが付いているようだ。その「2週間」をさえ待ちきれなかったのはなぜか?

国家首脳から降りたら監獄行きになることが決まっているイスラエルのネタニヤフの「捨て身の芝居」に乗っかってしまったのではないのか?

◆トランプ、イランの核施設を爆撃

トランプ大統領は現地時間6月21日夜(日本時間6月22日 02:13)、<6発のバンカーバスター爆弾と30発のトマホーク・ミサイルを使用してイランの核施設を爆撃した>と述べた。これで「完全にイランの核施設を抹殺した」とアメリカ軍の完全勝利を自賛し、「これを可能ならしめるのはアメリカ軍しかない」と強調した。スピーチの動画そのものはこちらにある。22日にはヘグセス国防長官が「6発」を「14発」と訂正しているので、その辺には揺らぎがあるが、ヘグセスは「効果はやがて実証されるだろう」と、トランプの「完全勝利」から、やや後退している。IAEAの「放射線量に異常なし」という結果発表を知ったからだろう。

それにしても、イスラエルが6月13日にイランの核施設を爆激したことに関して、トランプは最初のうちは「アメリカは全く無関係だ!」と激しく関係性を否定しておきながら、なぜ途中から「アメリカがどうするかは、2週間以内に決める」と言い始めたのだろうか?

◆「2週間男」のあだ名

トランプには早くからTACOというあだ名がついていた。しかし途中から「2週間男」という別のあだ名も付き始めた。

たとえば6月21日、アメリカのNBCニュースは<2週間という通告:トランプのイランに関するデッドラインはお馴染みのもの>という見出しで、トランプが1.0の任期以来「2週間以内に決定を下す」という類の言葉をくり返し述べてきたと、その事例を時系列的に拾いあげて説明している。

今回もアメリカがイランの核施設を攻撃するか否かは「2週間以内に決める」と言い続けてきた。そのトランプが、この「2週間」をなぜ縮めたのか?

ネタニヤフ首相が13日の爆撃に関して、「イスラエル一国でもイランの核施設を破壊できるかもしれない」と言ったことに強く関係しているのではないかと思うのである。

すなわち、ネタニヤフとしては、ほんとは何としてもアメリカの力を借りたいのだが、しかしトランプが動きそうにないので、「なんなら、イスラエル一国の力でも、イラン核施設を破壊することができるんですよ」とトランプに見せて、トランプのプライドをくすぐった。

その「芝居」にトランプはすっかり乗っかってしまい、「先にイスラエル一国だけでイラン核施設を破壊できたとしたら、アメリカのメンツは丸潰れだ」という考えに憑(と)りつかれててしまったのではないかと、筆者には思えてならないのだ。

だから、6月20日には、まだ「2週間内に」と言っていたのに、突然「爆撃」の方を選んでしまった、ということなのではないだろうか?

ネタニヤフの芝居に、まんまと引っかかってしまったということだ。

◆実はイランの核施設は破壊されていない?

実は日本の時事通信社の6月22日15時03分配信によると、【速報】IAEAによると、米国のイラン攻撃後、核施設外の放射線量に変化はないとのことのようだ。すなわち、トランプが高らかに「イランの核施設は完全に消滅した」と宣言し、「それができるのは、世界でアメリカ軍だけだ」と誇ったにもかかわらず、なんと、爆撃後の「核施設外の放射線量に変化はない」というのである。

ほかならぬIAEAという原子力に関する国連の最高機関の発表だ。これを否定するのは難しい。となると、「核施設は破壊されていない」ということになる。

また、中東の衛星テレビ局アルジャジーラ(電子版)によると、イラン国会議長の顧問は核開発の重要拠点とされる中部フォルドゥの地下核施設について、「かなり前に(主要機器を)移動させており、修復不能な攻撃は受けていない」と主張したと、日本の産経新聞も報道している。

つまり、地下80メートルにある核施設を破壊することは、本当はできていなかったということだ。

世界最強のバンカーバスター爆弾を以てしても、核施設は実は破壊されていない。ましてやイスラエルの爆弾で破壊するなど、全くできていないのに、ネタニヤフはトランプを誘い込むために「お芝居」をしたということになる。

◆1960年代の中国にあった79.6メートル以上の地下核施設 イラン代表は毛沢東に会っている

1960年代、中国には「地下79.6メートル」以上の深さに「816」核プロジェクトと呼ばれ核施設があった。1980年代に閉鎖されたが、内部に足を踏み入れると、「頑強な岩盤による洞窟の中に建物があり、建物の中にさらに洞窟があり、洞窟の中には川まである」という驚くべき構造が広がり、うっかりすると迷子になるほどであるとCCTVは解説している。核施設内で最大の空間は「101反応炉主工場」であり、核反応炉ホールは3階から9階までを貫通しており、高さは79.6メートルに達する。

こういった種類の地下核施設は中国の各地にあった。図表1に示すのは、その核施設の一部だ。

図表1:1960年代、79.6メートルの高さの中国の地下核施設の一部

CCTVの画像を転載の上、日本語は筆者注
CCTVの画像を転載の上、日本語は筆者注

1950年から始まった朝鮮戦争で、アメリカが中国本土に原爆を落とすと脅したため、毛沢東は中国で原子爆弾製造に取り組み、1964年に最初の核実験に成功している(詳細は『「中国製造2025」の衝撃』)。

1960年5月9日には、毛沢東は<イラク、イラン、キプロスから訪中した外国人ゲストと数多くのことに関して語っている>

また毛沢東は1970年10月1日に、<イランから来た左派革命組織代表とも話し合っており>、彼らは1979年にはイラン革命を起こして、イラン・イスラーム共和国を誕生させた。

現在、イランの地下にあるのは「地下80メートル」の核施設だ。毛沢東と話題を共有したであろう地下核施設の高さが「79.6メートル」だったことを考えると、毛沢東から教えられたとおりの施設を製造してきたものと考えられる。

トランプは「バンカーバスター爆弾」ならば、「地下80メートル」まで貫通できると思っているだろうが、実はこれらの核施設は、非常に堅剛な岩盤の下に設営されており、同じ「地下80メートル」でも、そこには届いていない可能性が大きい。

だからこそ、IAEAはアメリカによる爆撃のあと、その付近の地上の放射線量に変化がないというデータを出すに至ったのだ。

すなわち、イランの核施設は破壊されていない可能性が高いのである。

トランプはネタニエフの「芝居」に乗ってしまっただけでなく、「完全に破壊した」と誇った成果は、「無」に帰している可能性があり、これほどピエロとして嗤(わら)われる大統領は人類史上、存在したことがないような「滑稽な可能性」が待っている。

◆ネタニエフは逮捕されないために、イラン戦争をし続けるしかない

「アラブ/ニュース日本語版」は6月21日、クリントン元大統領が 「The Daily Show」に出演して、<ネタニヤフ首相、イラン戦争を利用して「永遠に」権力を維持:クリントン元米国大統領>と言っていると報道している。

クリントン元大統領は、「イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、そうすることによって(イランと戦争を続けることによって)永遠に首相の座に留まることができるため、長い間イランと戦うことを望んでいる。彼は過去 20 年間の大半を首相として過ごしてきたのだ」と述べたとのこと。

ガザにおけるジェノサイドも、それをし続けていれば首相の座に留まることができ、退任したら多くの汚職事件により即座に逮捕されることを知っているからだ。ガザのジェノサイドをトランプに止められたので、今度は首相の座から降りて逮捕されないようにするためにイランに言いがかりをつけながら戦争を仕掛け続けていくつもりだ。

そこに、まんまとトランプが乗っかってくれたので、ネタニエフは逮捕されずに済んだと安堵していることだろう。

こんな事のために、イランの核施設を爆撃して得意がっているトランプもまた、いずれ人類の歴史に裁かれることになるのではないだろうか。

イランのウラン濃縮度は高くはなっているが、しかしイランでは核兵器の製造について最高指導者の見解として宗教上、禁止されているようだ

臨界点に近いというネタニヤフの言葉と行動に操られ焦ってしまったトランプの末路を見極めるのには時間がかかるが、少なくともIAEAの結果発表は重視されなければならないし、またホルムズ海峡封鎖の成り行きもしっかり追いかけていかなければならない。

なお、6月22日時点でニューヨーク・タイムズは<爆撃されたイランの地下核施設は「完全に破壊されたわけではない」と米軍もイスラエル軍も認めている>(有料)という趣旨の報道をしている。イランがウランを含む機器を施設から移動させた可能性と、「バンカーバスター爆弾12発でも施設を破壊できない」という可能性の両方を、米軍が指摘しているというお粗末さだ。イスラエル軍も認めているのは、ネタニヤフとして、これで「あっさり」イラン戦争が終わると困るからだろう。クリントン元大統領が言うように、イラン戦争は泥沼化してくれないとネタニヤフには困る。

加えて、ルビオ国務長官はホルムズ海峡封鎖に関しては「中国がイランを説得すべきだ」と要求しているというのだから、もう「アメリカは終わった」としか言いようがない。

追記:トランプ大統領のタミー・ブルース国務省報道官は、「アメリカはイスラエルに次いで地球上で最も偉大な国」だと述べた。実に見事な表現ではないか。筆者が本稿で言いたかったのも、実はそういうことである。トランプがネタニヤフの「自分が逮捕されないための捨て身の芝居」に引っ掛かったいうことは、「アメリカはイスラエルがリードする国になり下がってしまった」ことを意味する。トランプには、そうなってほしくなかった。そのことが残念でならず、本稿を書いた次第だ。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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