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台湾の未来はいかに トランプ復活を受けた新たなレジリエンスと自治
Trump meets with House Republicans on Capitol Hill in Washington
Trump meets with House Republicans on Capitol Hill in Washington

近年、東アジアの地政学的環境が変化し続けている。中でも注目を集めているのが、台湾海峡における緊張の高まりだ。2025年にドナルド・トランプ氏が米国大統領に返り咲くことが決まり、この地域の環境を一段と複雑なものにしている。台湾の未来は不確かで危機をはらんでいる。米国政権の中国に対する姿勢は予測不能であり、しばしば対立的であることで知られており、台湾は他と一線を画す外交・安全保障面の課題に直面している。本記事では、トランプ氏の大統領復帰に対する台湾の戦略的対応について、グローバル政治の大きなシフトがもたらすチャンスとリスクという側面から考察していく。

トランプ新政権は台湾をどう見るか

トランプ政権一期目は、中国に対し強硬なスタンスをとり、従来の米国外交政策からの脱却を鮮明にした。「アメリカファースト(米国第一主義)」を掲げたトランプ政権は、中国の経済的優位性に挑むことを目的として関税を課し、多国間協力ではなく米国の一方的な利益を優先した。台湾問題においてそのスタンスは当初、不透明であったが、武器売却を増加させ、公式な交流を強化し、最終的には積極的な対応となった。ただ、トランプ氏の外交政策が本質的に不安定であったため、台湾は両大国との関係を悪化させることなく米中間の緊張に対処する必要に迫られ、危うい綱渡りを余儀なくされた。

トランプ政権二期目も、中国に対しては引き続き強硬な政策をとる可能性が高いように思われる。米国政府が中国の影響力の拡大阻止を図ることにより、米国からの軍事・経済支援強化というチャンスが台湾に訪れる可能性もある。その一方で、台湾はトランプ氏の予測不能な外交政策の動向と米中間の長年にわたる緊張関係にともなうリスクに注視し続けなければならない。

台湾の外交・経済戦略

こうした力関係の変化に応じて、台湾は外交・経済戦略を調整していかなければならない。複雑な国際関係に巧みに対応し、主要な国・地域と強固な関係を育む―――それが、大国に囲まれた小国家である台湾の生き残りと繁栄を左右する。

CPTPP協定による経済的リスクと外交的メリット

環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)に台湾は加入した。このことにより、ICTセクターは現在の低関税の恩恵を受け、ごくわずかながら直接的なメリットを得られる可能性があるのに対して、農業や食品生産を中心とするその他のセクターが課題に直面することは明らかである。CPTPP締約国の市場は競争が激しいため、台湾の各セクターは外国産農産物とのし烈な競争にさらされるだろう。国内農業は厳しい状況に追い込まれ、伝統的基盤が脅かされかねない。このため、国内ではCPTPPへの加入に反対する声が高まっており、トレードオフの難しさが浮き彫りとなった。

ただ、こうした経済面での懸念があるとはいえ、CPTPPへの加入は、以下の2つの主要領域において、台湾に大きな戦略的メリットをもたらすことは確実である。

外交的承認 CPTPPへの加入で台湾の国際的な地位が向上し、高い水準の貿易と国際協力が可能となる。地域の経済的規範に従い、安全保障と経済同盟のバランスの取れた姿を演出したい台湾にとって無くてはならないパートナーである日本やカナダ、オーストラリアなど主要国との関係を強化できる。

戦略的自治 CPTPPに加入することで、台湾は米国への依存を減らしつつ経済・戦略的パートナーとの強固なネットワークを構築するチャンスを得られる。この多国間協力の枠組みにより、台湾は地域の複雑な力関係により柔軟に対応して、中国からの外圧に対するレジリエンスを高めることができるだろう。

このようにCPTPP加入は、台湾の国際化の進展と、米国との同盟関係に過度に依存することのない経済・外交的地位の向上をもたらしてくれる。国内セクターにリスクが及ぶことは明らかであるが、東アジアで自らの立ち位置を確立し、それを長期的に維持するには、CPTPP加入という経済的メリットが不可欠なのである。

地域パートナーシップの強化

台湾にとって喫緊の課題は米国の安全保障・経済支援への過度な依存からの脱却である。米国が非常に重要な同盟国であることに変わりはないが、台湾の長期的な安全保障と繁栄にはパートナーシップの多様化が欠かせない。例えば以下のようなシナリオが考えられる。

ASEAN諸国やインド太平洋諸国との関係拡大 多様化のためにはまず、台湾の影響力を拡大させなければならない。その鍵を握るのが東南アジアである。2016年に台湾政府が本格始動させた新南向政策は、ASEAN諸国とインド、オーストラリア、ニュージーランドと台湾の関係強化を目的としている。トランプ政権下では、この政策が中国の一帯一路構想の対抗策として勢いを再び取り戻す可能性がある。そのハイテクで民主的なガバナンスモデルにより、台湾は中国の国家主導アプローチに代わる魅力的な選択肢を提供している。

例えばベトナムやフィリピンのような国との貿易環境強化が、技術パートナーシップや再生可能エネルギープロジェクト、教育交流の道を開くかもしれない。台湾の半導体セクターやハイテクセクターが協力の重要な土台となって、台湾と東南アジア国双方のメリットとなるかもしれない。台湾が地域のイノベーションハブとなることができれば、投資を呼び込み、地域における経済的プレゼンスを高めることができる。

地域同盟国との防衛協力強化 台湾は日本や韓国、フィリピンなど地域同盟国との防衛協力の強化も進める必要がある。具体的には共同軍事演習の実施や軍事情報共有、軍事技術の共同開発などが考えられる。ミサイル防衛やサイバーセキュリティ、海軍能力などの共同訓練プログラムを実施することで、連携が向上すると共に台湾自身の自衛力が高まり、米国の軍事支援への依存が減り、台湾の戦略的自治が強化できる。

グローバルサプライチェーンにおける台湾の役割

半導体製造を中心とした技術力は台湾の最も価値のある資産の1つだ。中国が技術力増強を進めているが、台湾はこの領域で依然主導的地位にあり、経済面と安全保障面でこれを生かすことができる。トランプ政権下で、台湾は日本や韓国はもとより、欧州とも関係を深めることで、AIや5Gインフラなど最新技術のグローバルサプライチェーンにおける自らの地位を強化できるかもしれない。これにより他国の中国への依存度は減り、台湾は経済的に強固な地位を得、かつ地政学的影響力を高めることができる。

台湾の戦略上の長期目標

必要なのは短期的な調整だけでない。台湾は長期を見据えた、戦略的な対応を進めなければならない。トランプ氏の復活はチャンスをもたらす反面、台湾に安全保障上のリスクも生じさせる。台湾は防衛、持続可能な経済、国際的承認といった極めて重要な領域にわたるレジリエンス構築を中心に長期戦略を策定する必要がある。

地域同盟を通じた戦略的自治の構築 台湾が目指すべき最大のゴールは、外圧からの防波堤となる地域同盟国ネットワークの構築である。米国は今後も重要な同盟国だが、台湾は志を同じくする他の国々とのパートナーシップを多様化しなければならない。APECや東アジアサミットなどの多国間組織に参加することで、台湾の外交的プレゼンスはさらに強化されるだろう。

グローバルな技術ハブとしての役割の推進 世界経済は技術をより重要視しており、台湾は半導体分野の専門技術や知識で主要なグローバルプレーヤーである。AIやグリーン技術、バイオテクノロジーなどの産業にも投資することで、台湾はこの役割を拡大させられる。また、技術ガバナンスの構築に積極的に関わり、自らの利益にかなう基準を提唱すべきである。

国際的承認の拡大 国際的承認の拡大は、長期的目標としてぜひ挙げたいものだ。たとえ中国の反発があろうとも、台湾は志を同じくする国々に働きかけ、非公式な外交的プレゼンスを拡大させなければならない。世界保健機関(WHO)や国連など国際機関への加盟に向けた取り組みは、責任あるグローバルアクターとしての台湾の評価を高めてくれる。

まとめ

トランプ氏が大統領に返り咲くこととなった今、台湾の自治強化は欠くべからざるものとなった。トランプ二期政権はチャンスもリスクも生む。こうした難しい環境を切り抜けるため、台湾は同盟国を増やし、防衛力と経済力を強化してレジリエンス確保を図らなければならない。

地域同盟国との関係強化と技術的優位性の向上、国際的承認の拡大は、台湾の東アジアにおける不可欠なプレーヤーとしての地位を確立させる。公衆衛生面でのリーダーシップや環境の持続可能性、技術革新の追求で、グローバルな課題へのコミットメントを示せる。こうしたバランスの取れたアプローチを取れば、たとえ力関係が変化しようとも、台湾はアイデンティティと自治を維持できるはずである。

民主的な価値観を守りながら、先を見越してグローバルな変化に適応できるかどうか。結局のところ、それが台湾の将来のレジリエンスを左右する。先行きが不透明なトランプ政権下でこうした対策を講じることで、台湾は東アジアにおける不可欠な自治国家としての役割を確保できるだろう。

陳建甫博士、淡江大学中国大陸研究所所長(2020年~)(副教授)、新南向及び一帯一路研究センター所長(2018年~)。 研究テーマは、中国の一帯一路インフラ建設、中国のシャープパワー、中国社会問題、ASEAN諸国・南アジア研究、新南向政策、アジア選挙・議会研究など。オハイオ州立大学で博士号を取得し、2006年から2008年まで淡江大学未来学研究所所長を務めた。 台湾アジア自由選挙観測協会(TANFREL)の創設者及び名誉会長であり、2010年フィリピン(ANFREL)、2011年タイ(ANFREL)、2012年モンゴル(Women for Social Progress WSP)、2013年マレーシア(Bersih)、2013年カンボジア(COMFREL)、2013年ネパール(ANFREL)、2015年スリランカ、2016年香港、2017年東ティモール、2018年マレーシア(TANFREL)、2019年インドネシア(TANFREL)、2019年フィリピン(TANFREL)など数多くのアジア諸国の選挙観測任務に参加した。 台湾の市民社会問題に積極的に関与し、公民監督国会連盟の常務理事(2007年~2012年)、議会のインターネットビデオ中継チャネルを提唱するグループ(VOD)の招集者(2012年~)、台湾平和草の根連合の理事長(2008年~2013年)、台湾世代教育基金会の理事(2014年~2019年)などを歴任した。現在は、台湾民主化基金会理事(2018年~)、台湾2050教育基金会理事(2020年~)、台湾中国一帯一路研究会理事長(2020年~)、『淡江国際・地域研究季刊』共同発行人などを務めている。 // Chien-Fu Chen(陳建甫) is an associate professor, currently serves as the Chair, Graduate Institute of China Studies, Tamkang University, TAIWAN (2020-). Dr. Chen has worked the Director, the Center of New Southbound Policy and Belt Road Initiative (NSPBRI) since 2018. Dr. Chen focuses on China’s RRI infrastructure construction, sharp power, and social problems, Indo-Pacific strategies, and Asian election and parliamentary studies. Prior to that, Dr. Chen served as the Chair, Graduate Institute of Future Studies, Tamkang University (2006-2008) and earned the Ph.D. from the Ohio State University, USA. Parallel to his academic works, Dr. Chen has been actively involved in many civil society organizations and activities. He has been as the co-founder, president, Honorary president, Taiwan Asian Network for Free Elections(TANFREL) and attended many elections observation mission in Asia countries, including Philippine (2010), Thailand (2011), Mongolian (2012), Malaysia (2013 and 2018), Cambodian (2013), Nepal (2013), Sri Lanka (2015), Hong Kong (2016), Timor-Leste (2017), Indonesia (2019) and Philippine (2019). Prior to election mission, Dr. Chen served as the Standing Director of the Citizen Congress Watch (2007-2012) and the President of Taiwan Grassroots Alliance for Peace (2008-2013) and Taiwan Next Generation Educational Foundation (2014-2019). Dr. Chen works for the co-founders, president of China Belt Road Studies Association(CBRSA) and co-publisher Tamkang Journal of International and Regional Studies Quarterly (Chinese Journal). He also serves as the trustee board of Taiwan Foundation for Democracy(TFD) and Taiwan 2050 Educational Foundation.