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米政府「イラン戦争はすでに終結」と表明 習近平が背後で動いた4月上旬の一時停戦を根拠に
米・イランが2週間の停戦を発表 首都テヘランの様子(写真:ロイター/アフロ)

ヘグセス米国防長官は4月30日の議会証言で、「4月8日に発効した米イラン間の停戦合意により、トランプ大統領がイランに対する軍事行動を起こすための60日間の法的期限が停止または終了した」と述べた。したがって「トランプ政権はイランに対する軍事行動について議会の承認を得る必要がなくなった」ということが言いたいわけだ。

中国はこの事を大きく扱っているが、それはヘグセスが「4月8日に発効した米イラン間の停戦合意により」という言葉を用いたからだろう。なぜなら4月9日の論考<トランプ「中国がイランを停戦交渉の場に引き込んだ」 習近平の思惑は?>に書いたように、4月8日に発効したとされる「2週間停戦」案の背後には習近平国家主席がいたからだ。

◆いち早く報道した中国の中央テレビ局CCTV

ヘグセス発言と、4月8日に発効した「2週間停戦」合意に関する第一報が筆者のスマホに飛び込んできたのは、CCTVのニュースだった。

そこには<米国防長官が「イランへの軍事行動に関する“60日期限”は、すでに停戦しているため“中止する”と述べた>という見出しがあり、それも【2026-05-01 04:59:59】(朝4時59分)という時間だったので飛び起きた。何ごとかと思って読んでみると、以下のようなことが書いてあった。

――ヘグセス米国防長官は4月30日、議会証言で、4月8日に発効した米イラン間の停戦合意により、トランプ大統領がイランに対する軍事行動を起こすための60日間の法的期限が「暫定的停止または中止」したため、トランプ政権はイランに対する軍事行動について議会の承認を得る必要がなくなったと述べた。1973年に議決された「戦争権限法」によれば、大統領は軍事力行使を議会に最初に通知した後、60日以内に軍事行動を停止するか、作戦継続のために議会の承認を求めるかを決定しなければならない。トランプ政権は3月2日にイランに対する軍事行動を開始する意向を正式に議会に通知しており、60日間の法的期限は5月1日に満了する。(朝4時59分のCCTVのニュースは以上)

それからほどなくして、正確には【2026-05-01 09:53:10】だが、今度は<米政府高官:2月28日に始まった“敵対行為は終結した”>という見出しで同様のニュースが入って来た。見れば、現地時間4月30日、匿名を条件に取材に応じた米政府高官は「戦争権限法に基づき“2月28日に始まった敵対行為は終結した”」と述べたとした上で「同高官は、4月7日に米国とイランの間で合意された2週間の停戦が延長され、4月7日以降、米軍とイランの間で交戦は発生していない」と続き、あとは【朝4時59分のCCTVのニュース】と同様のことが書いてある。

最初に匿名の情報が来て、後から具体的なヘグセスの議会での発言に関する情報があるのなら分かるが、それが逆になっているという奇妙な現象もあり、中国のネットには、この件に関するさまざまな情報が溢れていた。

日本では、単にヘグセスの議会での答弁が報道されただけで、むしろ民主党議員の質問にヘグセスが激高したことに焦点が当てられていた。

日中の報道における差異は、とりもなおさず、4月8日(アメリカ東部時間4月7日)の「2週間停戦」合意に対する関心度の違いから来たものだろうと思われ、興味深く観察した。

◆習近平の思惑

くり返しになるが、4月9日の論考<トランプ「中国がイランを停戦交渉の場に引き込んだ」 習近平の思惑は?>で書いたように、習近平としては、この「60日間期限」と「5月14日のトランプ訪中」という日程を睨(にら)みながら、4月8日辺りには一時的にでも停戦に持ち込まなければ、「イラン攻撃が終わらない」し、また「5月14日のトランプ訪中も不可能になってしまう」と計算したものと思う。

そもそも3月末の時点でトランプのイラン攻撃は失敗に終わっていた。

イランを甘く見て、1月3日のベネズエラ襲撃と同じように「きれいに政権転覆と制覇」そして「大統領拘束と連行」のような事態が生まれると思ったのだろう。なぜなら今年2月11日にイスラエルのネタニヤフ首相が訪米してトランプとその側近に会い、「イランの指導層殺害」と「イラン国民の蜂起による政府転覆」が可能だとトランプに囁いたからだ。甘い囁きに弱いトランプは、情報機関の反対を退け、ネタニヤフの甘言を選んだ。

しかし60人から80人とトランプが豪語するイラン指導層の「皆殺し」に遭ってもイラン政府は揺るがず、政府を転覆しようという民衆の動きも皆無だった。おまけにイラン軍は米軍機を撃墜するなど、予想に反して強かったのである。

おまけに歴代大統領が、それ故にイラン攻撃を避けてきた「ホルムズ海峡封鎖」という手にイランは瞬発的に出た。

米軍の武器も在庫の半分は使い果たし、ホルムズ海峡封鎖がもたらしたガソリン代の高騰により支持率も見る見る下がり、トランプとして何とかして「勝利した」という形を取って、この泥沼化しそうなイラン攻撃から抜け出したいともがいていたのを、習近平が見逃さす、ここぞとばなりにイランとパキスタンを説得して「2週間停戦」合意へと持ち込んでいった。

トランプとしては強がりを言いながらも、「救われた」と思ったにちがいない。

それでも「うやむや休戦」の中で、自らの立場を有利にしようと、トランプはホルムズ海峡の逆封鎖に出てはいる。

しかし、このような状況を継続すれば、全世界が原油及びその副産品の欠乏に苦しむだけでなく、それは米国民のガソリン代高騰など生活の困窮を招く。そうなると中間選挙は敗北するだろうことくらい、トランプ自身が最もわかっているはずだ。

だから「4月8日間の2週間停戦」と「60日間期限の制約」により、4月30日までには「イラン戦争の中止」をトランプは「一応」言わざるを得ない状況に追い込まれるであろうことを習近平は計算して、イランとパキスタンを説得したものと推測される。

そこまでしてでも習近平がトランプ訪中を実現させたいのは、その会談で「台湾問題」に関して、トランプから譲歩を引き出したいからだ。

◆トランプのイラン再攻撃には困難がある

もちろん5月1日までに、「一応」、「イラン戦争は終結した」と宣言しておけば、「再攻撃」をしたとしても、それは2月28日のイラン奇襲あるいは3月2日の議会への報告とは関係なく、新たな「イラン攻撃」となるので、その日を起点として、また「60日間期限」を議会の承認なしに始めることは不可能ではない。

事実、トランプはさらなる大打撃をイランに与えるために米軍の配置を万全なものとしていると豪語し、イランを威嚇してはいる。

しかし、現在のトランプの米国における支持率は34%であると、4月28日のロイターが報道している。

また最新の世論調査では、イラン戦争を「強く、あるいは一定程度支持する」人の割合は30%で、「反対」は59%と、大きく支持を上回っている。

この状況でイラン攻撃を再開ししたら、自分の支持率がさらに下がり、中間選挙では敗北を喫するであることくらいは、いくら何でもトランプにはわかっているのではないだろうか。

それでもなおイラン攻撃を再開するとしても、それは「新たな攻撃」で、少なくともトランプが訪中して習近平と米中首脳会談を終わらせたあとのことになるだろう。なぜなら、もしもその前にトランプがイラン攻撃を再開したら、習近平としてはトランプを北京に迎えることはしないからだ。

イランもパキスタンも中国の兄弟国。

その兄弟国が攻撃され、仲介も無駄に終わるような状況で、トランプ訪中を習近平が受け入れることは、とても考えられない。

4月25日の論考<習近平の対米パンダ外交から見えてくるイラン情勢>に書いたように、イラン情勢に関して見通しが明るくなったのでなければ、習近平がアメリカに対して「2頭のパンダ貸与」を認めたりはしない。当該論考に書いた通り、事実、イランのアラグチ外相はパキスタンのイスラマバードやモスクワを歴訪し、モスクワではプーチンに会っている。そしてその後プーチンはトランプに電話をして長い時間にわたる会談をしている。

この辺りの「手配」を習近平が付けた上で、アラグチ外相の歴訪とプーチン・トランプの電話会談があり、そして今般の「対イラン軍事行動の終結」発言があったと解釈すべきだろう。

トランプに残っているカードは、今となっては「習近平とのG2会談」以外にはもうない。そこでディールを成功させ、農作物の輸出とレアアースなどの輸入を確保し、アメリカの選挙民に「ほら、俺って凄いだろ!」と見せる以外に「切り札」が、もうないのである。

そのトランプの足元を見て、習近平は台湾問題に関するトランプの譲歩を取り付ける。

これが5月14日までの、習近平が描くシナリオだ。

トランプとしても、もうそのシナリオに乗るしか道が残されていないのではないかと思う。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』(4月17日出版予定)、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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(遠藤誉著、毎日新聞出版)
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