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中東を抱き込み非米側陣営による多極化を狙う習近平 中国・アラブ諸国閣僚級会議
中国アラブ諸国協力フォーラムで基調演説をする習近平国家主席(新華網)
中国アラブ諸国協力フォーラムで基調演説をする習近平国家主席(新華網)

5月30日、北京で「中国アラブ諸国(中ア)協力フォーラム 第十回閣僚級会議」が開催され、習近平国家主席が開幕式で基調講演をした。フォーラムにはアラブ諸国首脳も一部出席して格上げし、2026年に予定している中ア首脳会議の準備に入っている。米一極支配から脱して、グローバルサウスを巻き込み、世界の多極化体制を加速化させることが狙いだ。

◆習近平「中ア運命共同体」を強調

開幕式の基調講演で、習近平は2022年12月にサウジアラビアで初めて開催した「中ア首脳会議」のときに提唱した「八大共同行動」を基本とした「中ア運命共同体」を強調し、さらに「五大協力構図」を提唱した。

まず、「八大共同行動」とは「共同行動発展を支持、食糧安全共同行動、衛生健康共同行動、グリーン・イノベーション共同行動、エネルギー安全共同行動、文明対話共同行動、青年人材養成共同行動、安全安定共同行動」の八つの領域における協力で、中アが一体となって「中ア運命共同体」を形成するというものだ。

今般はさらに「五大協力構図」として「イノベーション・金融・エネルギー・貿易・文化」の分野における協力を加速化させると表明した。

文化・文明といった概念を軽視してはならない。これは正に意識の共有で、古くはシルクロード時代からの結びつきに始まり、現代版「一帯一路」を通した一体化という価値観の共有化があり、政治の統治制度・形態に関係なく「多極的に結びついていく」という点において共感を呼ぶ軸となる。

中東諸国のほとんどは、NED(全米民主主義基金)の暗躍によるカラー革命(アラブの春)によって、政府転覆を謀られたという苦い経験を持つからだ。

中国もまた、香港や台湾のみならず、中国大陸にまで潜り込んで(白紙運動など)、「民主の衣」を着て、若者に共感を得やすい「民主化」を叫び政府転覆を謀っているNEDへの警戒が強い。

決して「アメリカ式民主主義を押し付けられない」という強い連帯感を非米側陣営は持っている。専制主義的統治体制傾向を持つイスラム諸国と中国は、案外に相性が良いのかもしれない。

「安全」という単語には、ネット安全だけでなく、軍事の安全における協力関係も含まれている。

習近平が基調講演の最後にパレスチナの主権国家としての国連における承認と、「イスラエルとパレスチナ」という「二国家並存」を唱えると、会場からは拍手が沸いた。

2022年12月に初めての「中ア首脳会議」を開催したあと、その3カ月後の2023年3月にイランとサウジアラビアを和解させた習近平に対して、アラブ諸国の友好的姿勢は強くなるばかりだ。

だからこそ、4月8日のコラム<習近平「漁夫の利」 ガザ紛争中の紅海で>に書いたように、フーシ派による紅海を通る船舶に対する襲撃は、中国およびその友好国に対しては「行なってはならない」という掟が中東にはあるくらいだ(この詳細は6月3日に出版される『嗤う習近平の白い牙』の【第六章 ガザ紛争で「漁夫の利」を得る習近平】で述べている)。

◆【「パレスチナ主権を認めない国」&「対露制裁をしている国」】は世界の少数派

日本はパレスチナの国家主権を認めいていないし(=国交を樹立していないし)、対露制裁もしており、完全に米側陣営なので、世界の趨勢は見えない日本人が多いかもしれない。しかし、米側陣営諸国は実は世界の少数派(マイノリティ)で、グローバルサウスを含めた非米側陣営の結束と発展はますます強大化していくばかりだ。

グローバルサウスは、今では必ずしも「サウス(南方)」を指すだけでなく、北半球に集中する「先進国」と区別し、北半球をも含めた「発展途上国」を指す概念となっている。その意味では中国はグローバルサウスの旗手のようなもので、中露が隠然と盟主の役割を果たしていると言っても過言ではないだろう。

そこで、その現状を可視化するため、【「パレスチナと国交を樹立していない国」&「対露制裁をしている国」】と、【「パレスチナと国交を樹立している国」&「対露制裁をしていない国」】のブロックを図表化すべく試みた。以下に示すのが、その図表である。但し国数は、国連加盟国内で計算し、台湾は【「パレスチナと国交を樹立していない国」&「対露制裁をしている国」】の中に「地域」として入るが、国連に加盟していないので、計算の対象としていない。

図表:【「パレスチナと国交を樹立していない国」&「対露制裁をしている国」】と、【「パレスチナと国交を樹立している国」&「対露制裁をしていない国」】

 

筆者作成

筆者作成

 

図表から見えるのは、中国がロシアとともに掌握しているのは「全人類の85%」の人口で、圧倒的多数が「非米側陣営」にいるということだ。国の数もあまりに多いので、国名は省略して「国の数」のみを書いた。

ロシアがウクライナを侵攻したことは、ロシア以外は誰も良いことだとは思ってないだろう。中国もそれを肯定しているわけではない。それでもなお、対露制裁をしないのは、アメリカがウクライナを使ってロシアがウクライナ侵攻する以外にないところにプーチンを追いやったことを知っているからにちがいない。

全人類の85%は、アメリカのNEDが「民主の衣」を着て親米的でない政権を転覆させようと暗躍していることを知っている。そのアメリカでさえ、5月26日のコラム<アメリカがやっと気づいた「中国は戦争をしなくても台湾統一ができる」という脅威>に書いたように、中国に武力を使わせて中国を潰そうとする試みは成功しそうにないことに気が付き始めたようだ。

となると、ますます「イデオロギー」が軸になっていく。現在行われている台湾での反立法院デモは、まさにNEDが本領を発揮している現象だと言える(その証拠は近々別のコラムでお示しするつもりだ)。

真の民主と自由なら、心から歓迎したい。

しかし一極支配のための、そして軍事ビジネスを支えるための「民主の衣」は要らない。全人類の85%がそのことに気づいていることを、まざまざと見せつけられたのが、今般の中ア協力フォーラムだった。

中国崩壊論を喜ぶ前に、世界を俯瞰的に見渡し、もう一つの現実を直視した方が日本国民の利益につながるのではないだろうか。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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