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中国 米メディアの「ウクライナ武器のハマスへの転売」に注目
イスラエル・ハマス戦で使われる武器(写真:ロイター/アフロ)
イスラエル・ハマス戦で使われる武器(写真:ロイター/アフロ)

中国政府の通信社電子版「新華網」は、盛んに米メディア由来の「アメリカがウクライナに渡した武器の一部がハマスに渡っているのではないか」という報道を分析している。そこにはアメリカから常に「中国が秘かにロシアに武器支援をしているのではないか」という疑いをかけられてきたことに対する皮肉が込められているのかもしれない。

 

◆新華網 「ウクライナは対ウ支援武器をハマスに転売か?」

10月11日の新華網は<「対ウクライナ支援武器をハマスに転売か?」に対するウクライナの回答は、欧米側の懸念を証拠づけている>という見出しで、ウクライナ支援のために欧米から送られた武器が、結局はハマスなどに渡っていることを、皮肉を込めて報道している。

それ以外にも中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」やその他数多くの政府系メディアの報道をまとめると、おおむね以下のような流れになる。

●10月8日、米下院議員(共和党)のMarjorie Taylor Greene氏がX(ツイッター)に投稿した。曰(いわ)く、「私たちはイスラエルと協力して、ハマスがイスラエルに対して使用したすべてのアメリカ製兵器のシリアル番号を追跡する必要がある。それらの武器はアフガニスタンから来たのか?それともウクライナから来たのか?答えは両方である可能性が高い」と。

●ウクライナ支援のために欧米から送られた武器の一部は、ハマスなど世界各地のテロ組織に転売されているのではないかという問題に関して、2022年12月7日にアメリカのThe Hill(ザ・ヒル)(ワシントンにあるアメリカの政治専門紙)が<Preventing US weapons from escaping Ukraine is a challenge(アメリカの武器がウクライナから流出するのを防ぐのが課題だ)>という見出しの報道をした。ウクライナが武器の転売をしていることは早くから知られている。

●Greene氏のX(ツイッター)に対して、ウクライナ国防情報局は公告で10月9日に、この噂を厳しく非難した(中国の報道にはオリジナル情報へのリンクがないので、筆者が別途ウクライナ国防情報局の公告<Russia’s Special Services Carrying Out Campaign to Discredit Ukraine in the Middle East(中東でウクライナの信用を傷つけるキャンペーンを実施するロシアの特別サービス)>を見つけたので、ここに貼り付ける)。しかし残念ながら、ウクライナ側の弁明は、むしろ中東における武器の由来に関して、ウクライナが関与していることを逆に裏付けるような内容になっている(と中国側は解説している)。というのは、「絶対にウクライナからの転売などあり得ない!」と明確に否定せずに、「これはロシアが、ウクライナ戦争においてウクライナから獲得した戦利品を、ハマスに渡した可能性がある」と弁明しているからだ。万一、アメリカがイスラエル攻撃に使われたハマスの武器のシリアル番号を調べて、それが、アメリカがウクライナに提供した武器であることが判明したときに「それはロシアのせいだ」と弁明できる準備をしているからだ(というのが、中国側の解釈である)。

●また、ウクライナ側は「ロシアが、ウクライナが欧米からの支援によって提供された武器を、テロ組織に転売しているというフェイクニュースを流すことによって、欧米がウクライナに武器支援をしなくなるようにするためのロシアの情報戦に過ぎない」と主張してきたが、実は転売の可能性を最初に言い出したのはアメリカだ(と、中国側は主張している)。(中国の報道の概略は、おおむね以上)

 

◆最初にウクライナの武器転売を言い出したのはアメリカ

たしかに中国が主張する通り、「欧米から提供された武器をウクライナが他の組織あるいは国に転売する危険性がある」という趣旨の警告を発したのはアメリカだ。

ワシントンにあるケイト―研究所(CATO Institute)は、早くも2022年3月1日に、<Sending Weapons to Ukraine Could Have Unintended Consequences(ウクライナに武器を送ることは、意図しない結果をもたらす可能性がある)>という見出しで、「ウクライナに、より多くのアメリカ製武器を提供することは、違法な武器密売の急増を引き起こす可能性がある」を副題とした論考を発表している(作者はジョルダン・コーエン)。論考の中でコーエンは、「ウクライナ戦争が始まる前から、バイデン政権は、あたかもアメリカが関係していないように装う支援行動設計に基づき、ウクライナにさまざまな形での資金調達や武装訓練を提供する以外に、数多くの武器を提供していた。しかしウクライナにはこれまで、武器を闇市(やみいち)に流す習慣があるので、今回のウクライナに対する武器支援も転売されていく可能性が高い」と分析している。

2022年12月になると、世界のいたるところでウクライナの武器横流しへの疑念が報道されるようになり、日本の時事通信も12月20日の記事<国際支援の陰で汚職懸念 武器流用や着服の疑いも―有識者ら「監察機関設置を」・ウクライナ>でウクライナの武器の転売・横流しの可能性を報じている。

事実、ウクライナのレズニコフ国防相が腐敗で9月3日に更迭されており、後任に「国有財産基金」のトップ、ウメロフ氏を就任させることになったようだが、「国有財産基金」って、腐敗のど真ん中ではないかと、ややたじろぐ。

また10月11日には<10億円横領容疑、国防省高官2人拘束 ウクライナ>というニュースが世界のあちこちで報道されているので、ハマスへの武器転売に関するウクライナ国防情報局公告の信用性もガタ落ちではないだろうか。

 

◆ウクライナの「腐敗度」ランキング

前掲の時事通信社の記事<国際支援の陰で汚職懸念 武器流用や着服の疑いも―有識者ら「監察機関設置を」・ウクライナ>では、【2021年の汚職レベル調査で、ウクライナの「清潔度」は180ヵ国中122位。同国政府は14年以降、汚職撲滅に向け専門捜査機関設置などの対策を進めてきたが、「根絶への道のりは長い」(カリテンコ氏)のが現状だ】と書いている。

そこでトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)が公開している腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index, CPI)の2022年版を見てみると、全180ヵ国の中で、ウクライナは116位(100点満点で33点)と、相変わらず「腐敗度」が高い。

ちなみに中国は45点で65位、日本は73点で18位だ。

もし習近平政権に入ってからの反腐敗運動がなかったら、中国もウクライナと大差ない状況だっただろうが、中国の場合は軍部が腐敗の巣窟になっていたので、習近平としては何としても軍事力を高め産業のハイテク化を進めるために反腐敗運動を強行したが、それがいくらか功を奏しているのだろう。

それでもなお、ウクライナ同様、中国人民解放軍ロケット軍の高官2人が腐敗で更迭されたし、国防部長(国防大臣)も、そのあおりを受けた腐敗なのか、消息不明のままだ。香港メディアがロケット軍高官2人の腐敗疑惑に関して報じているが、中国大陸では、更迭された方の高官に関しては全く触れず、その代わりに昇進した別の2人に関して報道したのみである。まだ罪状が確定していないためとは思うが、それにしても何とも中国的なやり方だ。

したがって、このような中国にはウクライナの武器転売を、こんなにまで大きく取り上げて分析する資格はないようにも思われるのだが、しかし、アメリカに対して「ハマスが大規模奇襲を実行できたのは、アメリカのせいだ!」と言いたいものと推測される。

ところで、中国が取り上げたことによって、より鮮明になったウクライナの腐敗問題を、日本はどう受け止め、どう対処するのかということも考えなければなるまい。日本にはまだ貧乏であるがゆえに自殺する人もいれば犯罪に走る人もいる。そのような日本国民の血税が、総額で76億ドル(約1兆400億円)もウクライナ支援に使われているようだ。日本国民には、そのお金がウクライナの特定の人を潤しているのではないか、あるいはテロ組織に流れてはいないかなど追跡する権利があるだろう。それくらいの「真の善意」はあってもいいのではないかと思う。

 

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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